閑話 アストレイアの想い
多分本作初のシリアス回だと思われ…
少々短めですが、主人公の秘密の一部と、アストレイアの想いが吐露されます。
「リディルちゃん聞こえる? 私よ。アストレイアよ」
ここは炎竜リディルの意識の中。アストレイアは五年前響介の夢の中に入った時と同じ要領で彼女の意識の中に入った。
(長い間、放ったらかしだったから怒ってるのかな? もう私を主として認めてくれてないのかな? それとももう忘れられちゃったかな……)
リディルからの返事がないことに、徐々に不安になるアストレイア。
(でも、ここで諦めたらリディルちゃんはまた邪神に支配されしまうかもしれない。まさか私のせいでこんなことになるなんて。リディルちゃんが応えてくれるまで呼び続けるしかないのかな……)
「リディルちゃん、いたら返事して!」
見渡す限り何もない、ただ真っ白いだけの空間。ここでアストレイアはリディルを呼び彷徨い続けた。
……どれくらい彷徨ったのか。数日だったかもしれないし、数時間ほどでしかなかったかもしれない。アストレイアは肉体を持たない精神体のため肉体的な疲労はないのだが、精神的な疲労はピークを迎えていた。
「うう……、もう邪神に精神まで壊されてしまったのかな。ごめんねリディルちゃん……」
アストレイアは精も根も尽き果て、ついに両膝を付いてしまった。もう、ダメかと諦めかけた時、アストレイアはそのかすかな声を聞き逃さなかった。
「!? 今たしかに……」
それは精神的な疲労からくる幻聴だったかも知れない。でもその一縷の望みを頼りに、声が聞こえたと思われる方向に向かってアストレイアは駆け出した。
(確かこの辺りから……)
霞む目をこすりながらたどり着いたそこには、小さな幼女の姿をとったリディルが倒れていた。アストレイアはリディルを抱き起こす。
「リディルちゃん! 大丈夫!?」
「ん……、主殿か。ここは……妾の意識の中か?」
リディルが力なく応える。
「うん、そうよ。リディルちゃんは今まで邪神に支配されてたの。ゴメン……私のせいで……」
「なんとなくだが覚えておる。そうか、妾は邪神に支配され、封印され、操られていたのだな。全く不甲斐ない限りだ。主殿、迷惑をかけた」
頭を下げ、謝るリディル。そんなリディルを見てアストレイアは涙をこぼしながら首を横に振る。
「ううん、違うの。私がプライアスの管理を疎かにしていたから、その隙に邪神に支配されてしまったの。リディルちゃんのせいじゃない。すべて私のせいなの」
リディルは泣きじゃくるアストレイアの肩にそっと手を置く。
「そのようなことが……、しかし主殿はこうして妾を助けに来てくれた。それで十分だ」
「リディルちゃん……ありがとう」
やっとアストレイアの表情に笑顔が戻る。
「ところで、妾は邪神から完全に開放されたのだろうか?」
「そうね。リディルちゃんからはもう邪神の邪気は感じられないわね」
「どうやら。あの少年の一撃で完全に祓われた様だ。主殿、あの少年は一体何者なのだ?」
リディルの問いに、しばし思案するアストレイア。
「私が地球からプライアスに転生させた人間……のはずなんだけど、正直私も分からなくなってる」
「どういうことだ? 主殿」
「……リディルちゃんの邪気を祓った響介さんの一撃、【ブリューナク】なんだけど、あれは完全に神気を纏っていたの」
「……? それの何がおかしいのだ? それは主殿の加護の力ではないのか?」
リディルの問いにアストレイアは首を横に振る。
「ううん。これは響介さんには秘密にしているんだけど、どういうわけなのか響介さんに私の神気が通らなくて、加護を与えることが出来なかったの。響介さん本人には私の力が失われているから、加護を与えられないって嘘をついているけど……」
(まあ、それで響介さんから堕女神って言われているんだけどね……)
「む……女神の神気が通らないとは……響介殿は一体何者なのか……。では、その彼の神気は一体どこから来たのだ?」
「……それが分からないの」
「妾が抗うこと敵わなかった邪神の邪気をたやすく祓える神気。その響介殿には一体何の力が宿っておるのか……」
(そうなのよね……最初は強い人を引き当てることができてラッキーくらいに軽く考えてた。だから加護を与えられない事はそんなに気にしていなかったけど……)
ミノタウロスを圧倒し、魔物の群れでさえ歯牙にもかけない響介の姿を見て、アストレイアはなんとも言い知れない恐怖を覚えはじめた。
(私の力を受け付けず、自ら神気を纏い、邪気を祓う響介さん……あなたは一体何者なの? 私は何かとんでもないものをこの世界に呼び込んでしまったのかな?)
アストレイアは冷や汗を流し、その手は小刻みに震えた。
「その少年が我らの希望となれば良いのだが……だが分からぬものをいくら詮索しても埒が明かぬ。ひとまず主殿、今一度妾を眷属に戻してはくれまいか?」
「え? でも私のせいであなたはひどい目にあったのに……」
「何を言うか主殿。妾にとって主殿は創造主。その創造主に仕えるは当然であろう」
「リディルちゃん……ありがとう」
アストレイアは涙をこぼしながらそう答えた。
「まだ妾の他に、嵐竜、水竜、地竜、始祖竜が邪神の手の内にある。それらを開放するのが主殿のなすべきことであろう。そのためならば妾は手を貸すぞ。それにな、妾は響介殿にも興味がある。彼の行く末、正体を共に見極めようぞ」
「うん。またよろしくね。リディルちゃん」
これで一章終了となります。
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