二十一話 邪神の使徒ケルソ
一章のラスボス的な敵との戦闘です。
俺は城壁から飛び降り、目の前の敵と対峙する。
「おのれ、信じられん。我軍がこんなにも簡単に壊滅するなど……、ミノタウロスとオークキングの時もそうだが……貴様は一体何者なのだ!」
邪神の使徒と思しき魔族が吠える。身長は3メートルくらいで獅子のような鬣を持つ見た目は獣人みたいなやつだ。獅子っぽいけど頭から大きな二本の山羊の様な角が生えている。そして武器は巨大な斧のようだ。というか、ミノタウロスとオークキングは俺が殺ったって分かっているみたいだな。
「他人に名を尋ねる時はまず自分から名乗るもんじゃないのか?」
と、俺はヤツを挑発してみる。
「くっ、人間風情が生意気な! 我は邪神エクリプス様の使徒ケルソ。貴様は危険だ。ここで殺す」
ケルソは忌々しげに顔を歪めながら名乗った。使徒ケルソか、やはりミノタウロスが言っていた『魔族の王』とは邪神の使徒の事だったか。それにしても邪神の名前ってエクリプスなんですね? 蝕……力を奪う者、失わせる者か。なんだ、堕女神の力を奪っている邪神にぴったりな名前じゃないか。
「ちゃんと名乗ってくれたんだから、俺も名乗ってあげようかな? 俺の名はフェイト。女神アストレイアの使徒だ!」
しまった。ノリで使徒って言っちゃったよ。
《あ、もう取り消し効きませんよ響介さん。一生私の元で働いてもらいます》
《え? マジで? ちょっと待って》
「なに!? アストレイアにもう力は残されていないはずだ。嘘をつくな!」
「ああ、確かに俺はあいつの加護は一切貰っていない。だからこれは正真正銘俺の実力だな」
《えー、魔法教えてあげたのにー》
《直接的なモノは貰ってないだろ?》
「貴様、何を訳の分からん事を言っている! 我を愚弄するか! 我はエクリプス様の命で貴様を始末せねばならんのだ。このままおとなしく死ね!」
ケルソはそう言って三本の【フレイムランス】を無詠唱で放った。朱く煌く炎の槍が高速でフェイトに飛来する。
「ホイホイホイっと。消化消化消化~」
俺は三本の槍に窒素100%の空気の塊をぶつけてケルソが放った【フレイムランス】の火を消滅させた。火を消しても熱は残るので、それは魔力を使って消失させる。
「な! なに……貴様何をやった? 我の【フレイムランス】がこんな簡単に消されるとは……、ならこれはどうだ【エクスプロージョン】!」
次にケルソは【エクスプロージョン】を放ったが、俺は即座に【マインドアップ】をかけ、思考を加速。ケルソの魔力の流れから【エクスプロージョン】の爆心点を察知し、そこを窒素100%の空気で包んだ。酸素がなければどのような燃焼反応も起きない。やるんなら核反応じゃないとね。
当然ながらケルソの【エクスプロージョン】は不発に終わる。
「なぜだ……なぜ我の魔法がかき消される?」
ケルソは何が起きているのか理解できず混乱しているようだ。それにしてもやはり邪神の使徒は無詠唱できるんだな。普通の冒険者にとっては脅威なんだろうけど、今回は相手が悪かったね。
「あれ? もう終わり? 見掛け倒しなんだなお前」
「くっ、生意気な! これならどうだ」
ケルソの体が薄く赤い光に覆われる。【リーンフォース】をかけたな。そして、斧を手に取り俺に向かって突進してくる。魔法がダメなら直接攻撃か。俺は魔力を全身に巡らせ身体強化を施し、【リーンフォース】、【アクセラレート】、【マインドアップ】、そして【プロテクション】もかける。【プロテクション】は土属性中級の防御力を向上させる魔法だ。
ケルソは俺に斧を振り下ろしてくる。そのスピードはその巨体からは考えられないほどに早いのだが、【マインドアップ】をかけて思考スピードを引き上げた俺にとってはスローモーションに見える。俺は左手を差し出し素手でその斧を受け止めた。
ドガァ! という音と共に衝撃で俺の足がすこし地面にめり込むが、俺の体勢は全く崩れない。手に傷もつかない。
「なにっ!」
ケルソは自分の渾身の一撃があっさりと素手で受け止められたことに、目を見開いて驚き固まっている。そりゃそーだよな。斧を素手で受け止めるとか普通あり得ないし。
でもそんなに戦闘中に呆けちゃっていいのかな? 俺は空いている右手で魔力を練り、ケルソのみぞおちに【エアハンマー】をお見舞する。ケルソの腹がボゴォと音を立てて凹む。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」
俺は左手を斧から手放し、両手で交互に【エアハンマー】を続けざまに放つ。ケルソの体のいたるところがボコボコと凹んでいく。ヒャッハー! このオラオラってやつ一度やってみたかったんだよね。
そして俺はフィニッシュの一撃を放つ。
「ほあたぁ!」
《響介さん。なんかいろいろ混ざってますよ?》
《こまけーことは気にすんな》
だが、俺のフィニッシュの一撃をケルソは腕をクロスすることでガードした。むぅ、さすがは邪神の使徒、この程度では仕留められんか。
《【プロテクション】かけましたね》
【エアハンマー】は魔法とはいえ物理的な衝撃だから【プロテクション】でダメージを軽減できるっぽい。
「ぐはぁ、くそ……おのれ……ハァハァ」
でもダメージは通っているみたいだな。ケルソは足がふらついている。俺はそんなケルソに【ゼロフリクション】をかけてみたが、なにか魔力的な抵抗を感じ、魔力が通らなかった。
《【ゼロフリクション】は相手に魔力を直接作用させる魔法なので、魔力操作が可能な相手には簡単にレジストされちゃいます》
《なるほどな。じゃあ小細工抜きで正攻法で行くか》
俺はケルソに向けて【ソニックブレード】を乱れ撃つ。ケルソは魔力強化した両腕で【ソニックブレード】を弾き反らしていたが、徐々に耐えきれなくなりまともに食らった。
「ぐ……くそっ! なんて重い……」
ケルソの体勢が崩れる。俺はそのスキをついて風の上級魔法【エアロスラスト】を食らわし、ケルソを大きく吹き飛ばす。
さすがにこれは効いただろう。ケルソは血しぶきを上げながら大きく後方へと転がっていく。
《正攻法というか魔力量にモノを言わせた単なるゴリ押しですね……敵とはいえケルソが可哀想になってきました》
《力こそ正義だ。文句あるか?》
アストレイアに念話で返しながらケルソの方を見ると。
「うおぉぉぉぉ!」
血だらけになったケルソが叫び声とともに立ち上がり魔力を練っている。
「ハァハァ……おのれぇぇ、これなら……どうだ!」
するとケルソの頭上に直径5メートル程の巨大な火球が出現し、それを俺に放ってきた。
《これは火属性超級魔法の【バーンフレア】ですか。ケルソも切り札切ってきましたね》
これはまずいな……かわせないことはないと思うが、かわしたら後ろにあるレーニアがどうなるか分からない。しかし窒素は無理だ。火球が大きすぎて覆えないし、火は消せても火球が内封している膨大な熱までは完全に消せない。
俺はとっさに右手に魔力を込める。
「超級には超級だな。いけぇ、【ブリューナク】」
雷撃を伴う光の槍が巨大な火球に突き刺さる。その瞬間、火球ははじけバラバラに四散しあらぬ方向に飛んでいく。ああ……欠片の何個かが城壁に当たっちまった。結構な爆発が起きているが、まともに食らうよりはマシだったと思う。うん。俺は弁償しないぞ?
一方、ケルソの方は……
「ぐは……そんなバカな、【バーンフレア】まで……それにさっきの魔法はなんだ? もしかしてあれがミノタウロスを屠った魔法か……」
とっさに上体をひねって直撃は避けたが、左肩から先を失ったケルソが苦悶の表情で跪いていた。
「おやおや、もう切り札は使い切ったのか? 案外大したことなかったな」
俺は腕を組み、ケルソを見下すような態度をとる。
《ここだけ見ると響介さんの方が悪役っぽいですね》
《うるせーぞ》
ん? ケルソのヤツが何やら覚悟を決めた様な顔をしている。まだ何かあるのか?
「ここで逃げ帰っても我はエクリプス様に処分されるだけだ。……これだけはやりたくなかったが、奥の手を使わせてもらう」
ケルソは残った右手を地面に置くと、直径10メートルほどの魔法陣が現れる。
《おい。あれなんだ? 奴らは魔法発動に魔法陣を必要としないんだろ?》
《あれは魔法発動の陣じゃないです。召喚の魔法陣です》
《召喚? 一体何を召喚する気なんだ?》
《あ、でてきますよ》
「我の全魔力を持っていけ!」
ケルソは苦悶の表情を浮かべながらそう叫ぶと、光の粒となって魔法陣に吸収され消えてしまった。もしかしてこれって自分の命を犠牲にしての召喚なのか? 一体何を呼び出すつもりだ?
そして、その魔法陣からは巨大な生物が姿を現す。
《あ、あれは!》
ボス戦なんだけど全く緊張感のないフェイト…
あと1話と閑話を挟んで一章終了となります。




