十九話 領主様がお呼びです
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「あー暇だ……」
俺は宿屋の自室でぼーっと考え事をしている。あれからギルド……というか、アリスンさんが俺たちの宿を確保してくれたのでテント村暮らしからは開放されている。
あ、ちなみに部屋は一人部屋ですよ? アリスンさんに頼み込んで変えてもらった。ディアナは若干不満そうな顔をしていたが仕方ない。同室はやっぱりヤバイっしょ。
で、今俺はレイモンドからじっとしてろと言われているので、大人しくしているが、いいかげん退屈してきた。でもな、別に何もやっていないわけではない。トリスタンや新しく俺のパーティに加入することになったエレーナに無詠唱のコツを教えてやったりしている。
教えてやっていて分かったのだが、どうもトリスタンは土魔法に適性がある様だ。土魔法は火魔法の様に攻撃特化ではなくて防御系や相手の動きを阻害する妨害系の魔法が多い。よってトリスタンは鍛えればアタッカーというより前衛の硬い盾役、牽制役として機能するかもしれない。
一方でエレーナの適性は風と水。後方から風を乗せた矢を放ち、敵を射抜くなんて芸当もできるようになるかもしれない。そして水魔法で傷を癒やす。完全な後方支援型だ。
そう考えるとうちのパーティって結構バランス良さそうだよな。
あと、ディアナも凄みが増してきた。【アクセラレート】と【リーンフォース】はほとんどノータイムで発動できるようになったし、中級魔法の【フレイムランス】と【ソニックブレード】も無詠唱発動できる。まだ連発はできないが、完全に魔法剣士が板についてきたな。
この間なんか剣を振って【ソニックブレード】を撃っていた。なにそれかっこいいんだけど。
今なら三人で戦えばオークキングといい勝負ができるんじゃないだろうか。
俺? 俺は日課になってる魔力操作訓練をしつつ新しい魔法のアイデアを練っている。魔物の大侵攻の可能性があるからな。それに対抗するための広域殲滅魔法を開発しておきたいんだ。
広域殲滅をイメージして自分の記憶の中から現代の知識を漁っていると、ふと水爆を再現できないかなと考えた。水爆は水素を核融合させヘリウムを発生させる。その際の質量欠損から生まれる大量の熱エネルギーを利用する兵器なわけだが、現代の水爆は起爆するのに核爆弾が必要なのだ。
……質量欠損と言えば、この世界の質量保存の法則ってどうなってるんだろう? この間孤児院を修復した時、魔力で壁の材料を生み出せてしまった。物質の質量が持つエネルギーって途方もないモノだからな。それを代替できる魔力、魔素って一体何なんだろうか? どれ程のエネルギーを秘めているのだろうか? その辺は神のみぞ知るって事なのかもしれない。
……堕女神が知ってるワケないよな?
《うぐ……》
さて、話がちょっと脱線したが、核融合を実現するためには途方もない圧力と熱が必要なので、起爆に核爆弾を使用し、水素を爆縮して核融合させるんだ。正確にいうと使うのは普通の水素じゃなくて重水素、三重水素なんだが。
でもこれだと大量の放射能をばら撒いてしまうため、爆発させた後の放射能汚染がヤバイ。よって今俺が再現しようとしているのは水爆は水爆でも純粋水爆の方だ。
純粋水爆は起爆に核爆弾を利用しない水爆で、爆発後も放射能汚染の心配は殆ど無い。しかし、この純粋水爆は現代の科学技術でも実現できていない。だが、魔法、魔力の力を借りればできると思うんだ。起爆の爆縮部分を魔力で代用するのだ。
うん。理論は完璧。あとは検証だけなのだが、水爆の実験なんておいそれとできるものじゃない。んー、まあこれは最後の切り札かなぁ。他に手頃な広域殲滅魔法を開発しておこう。
……手頃な広域殲滅魔法って一体何なんだよ。自分で言ってて怖くなってきたぞ。
「フェイト。何考えてるの? なんか顔が怖いよ?」
む、しまった顔に出ていたか。すまんなディアナ。今俺はディアナと二人で部屋にいるんだった。
「いや、何でもない。今頭の中で新魔法を開発していただけだ」
「フェイト、それは何でもなくないよ。とんでもないことだよ」
まあ、そうだよな。普通は魔法を開発するやつなんかいないよな。この世界の普通の魔術師は詠唱と魔法陣で魔法の発現パターンが固定化されてしまっているので、新しい魔法を開発するという概念自体が存在しないのだ。
あとは孤児院を立て直す時にやった錬金術紛いの魔力の使い方。これもこの世界にはない概念だ。だからこれを応用すればもっと色んな事ができそうだ。よく考えてみると俺、この世界で何でもできるんじゃね? ぐふふ……夢がふくらみんぐ。
「……フェイト?」
「あ、いや、すまん。とんでもないって言われても、できちゃうんだから仕方ないだろ? 魔物の襲撃もあるかもしれないからな。備えあれば憂いなしだ」
「はぁ、フェイトだから仕方ないのかな」
それで納得されるのもなんか腑に落ちないんですが、まあいいか。
「そう言うディアナの方も最近魔法が上手くなってきたじゃないか」
「うん。そうね。無詠唱の中級魔法はだいぶできるようになってきたけど、まだママが使っている上級の【エクスプロージョン】とかはできないな」
ふむ、ディアナはフェリシアさんの魔法に憧れてるのかな?
「無詠唱じゃなきゃ多分できるんだろうが……」
「私魔法陣覚えられないんだよね……えへへ」
ディアナは脳筋タイプな方なので、詠唱とか魔法陣を覚えるのは大変そうだ。かく言う俺も上級魔法の魔法陣は覚えられる自信ない。なんせ直径二メートルの複雑な幾何学模様を覚えなきゃならないんだぞ? 無理だ絶対無理。この世界の魔術師は大変だよな。
「まあ、今の上達速度を考えればすぐに使えるようになると思うぞ。毎日俺みたいに魔力操作練習してれば大丈夫だろ」
「そうね……うん、分かった。私がんばる」
と、その時、不意にドアがノックされた。
「フェイトさん。起きていますか? ちょっとお話があるのですが……」
ん? アリスンさんの声だな。何があったんだろうか?
「あ、アリスンさんちょっと待って下さい」
俺は魔力操作を中断して、扉を開ける。廊下に居たアリスンさんは一礼した後、部屋の中にいるディアナに気づきハッとした顔をする。
「フェイトさん申し訳ありません! お楽しみ中でしたらまた後で出直してきます!」
「いや、ちょっと待ってアリスンさん。ディアナとは何もしてないからね? 話があるんでしょ? 俺は大丈夫だからどうぞ」
俺の「どうぞ」って言葉に一瞬アリスンさんの表情が固まる。なんで?
「どうぞって、私も一緒にってことですか? それとも……、誰かに見られていた方が興奮するということでしょうか? しかし、それも担当としての勤め……はい、分かりました。ではお邪魔します」
「…………」
またそのパターンかよ! アリスンさん朝っぱらから何考えてるんだよ。というか、担当にそんな仕事ないから。
……でも、もしかしてこれが普通の獣人の価値観なんだろうか。獣人は強い男が複数の女性を囲うのは当たり前らしいからな。というか、見られた方が興奮するって……俺はアリスンさんにどう思われてるんだ?
《変態ロリコン野郎でしょうか?》
《いや、今のロリコン要素ないだろ?》
俺はアリスンさんの誤解を解き、部屋の中でフリーズしていたディアナの再起動を待ってから話を聞くことにする。
「実はレーニア領主のノイマン辺境伯がフェイトさんにお会いしたいということで、ご連絡に来ました」
「ん? なんで俺に?」
「……もしかして自覚されてないのですか? フェイトさんはこのレーニアで最も話題の人物ですよ?」
「え? そうなの? やっぱアレか。オークキングの件だよな?」
「それもありますが、マスターを瞬殺した事も噂になったりしています」
マスターは殺していないんだが……。
「ちなみにその他に噂ってあるの?」
「そうですね……例えば、多数の手下を従えているマフィアのボスだとか、借金を理由に孤児院から女を攫って囲っているとかですね。これについては孤児院のシスターが涙を流しながら伏せていたのを見たという人がいました。さらにその孤児院のシスター見習いの方も顔を真っ赤にして怒っていたという情報もあります」
「…………」
あかん。ヤバイ。完全に誤解されている。あれって傍から見たらそう見えちゃうのか。マーシャさんは俺を拝んでいただけだし、ソフィさんはただパニクっていただけなのに。
だとすると俺ってこの町の人からどう思われてるの? そういえば今朝宿屋の娘さんの態度が妙によそよそしかったけど、つまりはそういうことか?
あと、マフィア云々の話はたぶんトビーとドミニクの仕業だな。あいつら何やってんだ? 後で問い詰める必要があるな。
《さすが響介さん。脅して女性を囲うなんて鬼畜の所業ですね》
《お前は見てたんだから状況分かんだろ!》
「フェイト、私は本当のことを知ってるから。大丈夫だから」
「……ディアナ、ありがとう! 分かってくれるのはお前だけだ」
ああ、ディアナたんええ子や。俺は思わずディアナに抱きついてしまった。
「えっと、私は部屋から出た方がいいでしょうか? それともご一緒しましょうか?」
「いや、アリスンさん違うから。というか待たせるのも悪いんで領主様のところに案内お願いします」
俺達はアリスンさんに案内されて領主の館に向かった。
アリスンさんは結構お気に入りのキャラですw
次回はやっとシリアスな話になるかな?




