十八話 フェイト孤児院を立て直す
「お見苦しいところをお見せしました……」
マーシャさんが頭を下げる。
「いやいや、驚かせてしまった俺も悪かったです」
「いえ、フェイトさんにはなんとお礼を言ったらいいのか……、エレーナを助けていただいただけでなく、こんな大金まで」
マーシャさんは申し訳なさそうにそう言った。
「あくまで形式上は借金ですので。お礼は必要ありません。返すのはいつでも良いので、子供たちに美味しいものでも食べさせてやってください」
先程見た子供達はみんなひどく痩せていた。あれでは不憫で仕方ない。まあ、このお金については使い道ないから返してもらわなくても大丈夫だけどな。
孤児院への寄付みたいなもんだ。
「ありがとうございます。フェイトさん。子供達も育ち盛りなので食費に困っていました」
ソフィさんもそう言って頭を下げる。
「いえ、先程も言いましたがお礼はいいですよ。それにしてもなぜこんなにお金がないんですか? 孤児院だったら国や領主、教会からなんらかの援助や支援を受けられると思うんですけど」
この世界は福利厚生的なものはあまりないのかな?
「それが、昔は問題なかったのですが、ここのところ中央の教会からの送金が途絶えてしまいまして。領主様は支援をしてくださるのですがそれも限界があります」
ん? 王都のゴタゴタに教会も巻き込まれているのだろうか? 全く中央の奴らは何をやっているんだ。
「はー、中央や上の連中は何をやってるんですかね……子供は次代の宝だってのになぁ」
ちょっとオヤジ臭い事を呟いてしまった。でも中身は35のおっさんなのだから仕方ない。
俺は改めて孤児院の中を見回すが、漆喰の壁は至るところが剥がれていてボロボロだ。すきま風も入って来ているので冬場は相当つらいだろう。割れた窓ガラスは布みたいなもので補修している有様だ。これはひどいな。
衛生状態もあまり良いとは言えないし……。これは子供達の健康が心配だ。
俺は椅子から立ち上がり、ぼろぼろになった壁の前に移動した。そして壁に手をかざし、魔力を流して漆喰の壁が補修されるイメージをする。すると、壁に空いていた穴はみるみるうちに塞がり、俺が手をかざしていた付近の壁は新築同様の白く輝く壁に生まれ変わった。
「な!? フェイトさん。壁が……これは一体……」
「できるかなーと思ってやったらできたんだけど」
アストレイアが魔法はイメージ次第って言ってたし。
「え? そんな事で出来ちゃうんですか?」
「まあ、フェイトですからね」
「ん。さすがフェイト」
マーシャとソフィは驚いているが、何度もフェイトの非常識を見ているディアナとエレーナはいつもの調子だ。
「これなら孤児院全体いけちゃうかもですね。ちゃちゃっと補修しようと思いますがいいですか?」
「え、あ、はい。できればよろしくお願いします」
よし、子供達のためだ。オジサン頑張っちゃおうか。ただ、完全に魔力だけでゴリ押して、壁の材料まで生成するのはしんどいので、孤児院の敷地内から壁に使えそうな土を持ってくることにした。
この土で壁を作ればもう少し楽に、効率的に作業ができると思う。というかこれほとんど錬金術だな。応用すればもっと面白いことができるかもしれない。これまで攻撃や補助などの典型的な『魔法』のみを開発していたが、もう少し落ち着いたら魔道具作成や錬金術関係に食指を伸ばすのも良いかもしれない。
さて、作業始めるかと思い、腕まくりをしていると、外で遊んでいた子供達が俺の周りに集まってきた。
「兄ちゃんそこでなにやってんだ?」
「土遊び? それなら僕もやる!」
「まさかお前ドロボウじゃないだろうな」
こいつら元気なのはいいんだが、俺が持ってきた土の山に登ったりして作業ができない。
埋めるぞコラ。
「こらこら、お兄さんの邪魔しちゃだめよ。あっちで遊びましょうね」
ソフィさんが子供たちを叱る。
「もしかして兄ちゃんソフィ姉の知り合い? まさかソフィ姉の男か?」
どこにでもマセたガキは居るもんだな。なに言ってんだよこいつ。
「な、ニコル! フェイトさんはそんなんじゃありませんから」
「あ、ソフィ姉が赤くなった!」
子供達の赤くなった!の大合唱が始まる。ソフィさんは頭から湯気を出しながら子供達を叱る。
「すみませんフェイトさん。しつけが全然なってなくて……」
「いや、いいですよ子供のやることですから」
《あー、これ多分フラグ立っちゃいましたよ。どうするんですか響介さん。なに雰囲気作ってんですか》
《いや、なんでそんなキレ気味なの? 俺はなんもしてねーし》
堕女神は無視して、とりあえず作業開始だな。俺はさっきと同じ要領で壁に手をかざし魔力を込める。先ほどと異なるのは材料の土があることだな。投入する魔力も少なくて楽チンだ。みるみるうちに壁が補修され白い輝きを放ちだす。
「うおー、なんだあれ? すげー。壁がきれいになってく」
「兄ちゃんなにもんだ? 神様か?」
「きゃー、すごーい」
子供達から歓声が上がる。気を良くした俺は、調子に乗って壁だけではなく、窓ガラスも張り替え、雨漏りしていた屋根も補修し、庭の石畳などもキレイに整地した。
程なくして孤児院は完全に新築のように生まれ変わる。ふいーなんとかできたぜ。
というか、この錬金術モドキすごいな。これだけで食っていけそうだ。
「兄ちゃんすげー」
「わー、私達のお家すごい、きれい」
「兄ちゃんはソフィ姉といつ結婚するんだ?」
子供達のボルテージも最高潮だ。というかマセガキ。テメーは黙ってろ。
「えっと、一応作業完了しました。……ってマーシャさんなにやってるんですか?」
マーシャさんは地に伏して俺を拝んでいる。
「ああ、フェイトさんは神の御使いに相違ありません。ありがたやありがたや」
神の御使い……まあ、あながち間違ってないんだよなぁ。ただし堕女神の……だけどな。というかマーシャさん服が汚れるんで立ってください。
「フェイトいくらなんでもこれはやりすぎよ」
「そうは言っても、このままだと子供達が可哀想だしな」
「それはそうなんだけど……(ソフィさんのフェイトを見る目が……ちょっと危険ね)」
すまんディアナ。聞こえないようにつぶやいたつもりなんだろうけど、魔力で身体強化している俺は聴力も強化されている。バッチリ拾っちまった。だがなソフィさんとはさすがにないから安心しろ。俺はそこまで節操のない男じゃない。
《えー、昨日エレーナさんとアリスンさんまで手篭めにしようとしてたのに》
《いや、しようとしてないからな! あれはアリスンさんが暴走しただけだ》
いつもの堕女神の戯言にうんざりしていると、女の子たちを集めているエレーナの姿が目に入った。何をしているんだあいつは?
「今のを見たから分かると思うけど、フェイトはできる男。将来必ずSランク冒険者になる。だから今のうちにツバをつけておくといい」
「うん。分かった。エレーナお姉ちゃん」
「ツバつけてくる~」
「玉の輿~」
「うおーい、こら! エレーナ! 幼気な女の子にそんなこと教えるんじゃありません!」
俺は全力でエレーナに突っ込んだ。
「えーでも、このきびしい世界で身寄りのないボク達が生きていくには必要なこと」
「たくましいのは結構なんだが、いくらなんでもその子らには早すぎんだろ」
「そこはフェイトが甲斐性を見せればいいだけの話」
「そういう問題じゃないだろ! この孤児院の教育方針ってどうなってんの?」
と、チラッとマーシャさんやソフィさんに目をやるが、マーシャさんはまだ拝んでいるし、ソフィさんはまだ赤くなってパニクっている。あーこの孤児院だめかもしれんね。
俺はこの後マーシャさんからお礼がしたいと言われ、夕食にお招きされた。その際に市場で肉を買って持っていき、例のレンジ、過熱水蒸気魔法を披露したらまたもや子供達から大絶賛された。そしてマーシャさんからは拝まれ、ソフィさんはパニクっているのだった。




