十六話 エア朝チュン
エッチな要素は全くございません。
《昨晩はお楽しみでしたねっ。響介さん!》
《……朝っぱらからうるせーぞ堕女神。それに何だよそのセリフは》
《ただ単に言ってみたかっただけですよ》
今の時刻は朝6時くらいか。場所は宿屋の一室だ。昨日のランクアップのお祝いパーティ、もとい狂宴が終わった後、アリスンさんが予約していた部屋に泊まったのだ。
昨日は……今思い出しただけで頭が痛くなる。俺はエレノアさんのおっぱい圧で気を失った後、しばらくして目が覚めたんだが、その時の状況はみんな……死屍累々といった感じだった。
エレノアさんは俺に抱きついたまま寝てるし、オスカーさんとオーランドさんは飲み比べでもしていたのか、完全に潰れてぶっ倒れてた。ハンナとレイモンドはまだアリスンさんの愚痴を言って飲みあっている。それから、ドミニク達なんかはほぼ素っ裸……一体何やってたんだよ。ちなみにエレーナとジェシカはさっさと部屋に戻っていたようだ。
というわけで、まともなのは俺とディアナと母さん、あとアリスンさんくらいだった。フェリシアさんもグラス片手に寝てるし。
俺はエレノアさんをやっとのことで振りほどき。ディアナや母さん達と手分けして、皆をそれぞれの部屋に連れて行った。
あ、当然ドミニク達はその場に放置だ。やだよあんな汚いもん触るの。
でも、その後問題が起こったんだよね。なぜかアリスンさんは俺とディアナの二人を同じ部屋で予約してやがった。こんな年頃の男女を同じ部屋に泊めるとか何考えてるんだアリスンさん。俺は当然アリスンさんに文句を言ったが、アリスンさんは『何処がおかしいの?』みたいな顔をする。
「あ、そうですね。申し訳ありませんフェイトさん。私の配慮が足りませんでした」
ふー、やっと分かってくれましたか。もしかしたら俺の意図がアリスンさんに通じたのって、これが初めてかもしれない。
「エレーナさんも同室じゃないと満足できませんよね。これから呼んできます。あと、僭越ながら私もご一緒させていただければと。ちゃんとみんな可愛がってくださいね」
って。全然分かってなかったー!! 何考えてやがんだアリスンさん。
「あ、いや。大丈夫だから! 俺はディアナと寝るからそういうことは別にいいから」
「!?」
横で話を聞いていたディアナの顔が一瞬で赤く染まる。寝るっつっても普通に寝るって意味だからね。
「そうですか? ……分かりました。ではフェイトさんディアナさんおやすみなさい」
「あ、うんおやすみアリスンさん」
……で、冒頭に戻るわけだ。
《なんであそこでディアナちゃんを押し倒さなかったんですかー》
《いや、無理だって。ディアナもあまりの急展開に完全にフリーズしちゃってたし。そこを襲うってさすがにやばいだろ?》
ディアナはあれから再起動しなかった。顔を真っ赤にしたままベッドに座っていたのだが、気がついたら寝ていた。
長旅の疲れと極度の緊張で、気を失ってそのまま寝たのかもしれない。
まだ横のベッドで寝息をたてている。
《けっ、響介さんはとんだヘタレですね》
《無茶ゆーなよ。というかお前が見てる中、そんな事できるか!》
ったく、この堕女神は俺にナニをさせたいんだ……。
こんな感じで俺がアストレイアと念話でギャーギャーやってると。
「ん……、あれ? お、おはようフェイト」
「お、おう……おはようディアナ」
お? ディアナが目を覚ましたようだ。が、なぜかディアナの表情はどこか晴れ晴れしているというか、妙にツヤツヤしている。
「フェイト、あの……昨日のことよく覚えてないんだけど、私初めてだったから……」
ディアナは頬を染めモジモジしている。え? 覚えてない? 初めて? 何を言っているんだ。
「ど、どうだったかな?」
「…………」
あー、これは完全に勘違いしてらっしゃいますね。もしかしてディアナにとって今は朝チュン状態なわけなのか? でも未遂だったからエア朝チュン? でもな。これどう答えりゃいいのよ?
俺は事態を把握し戦慄した。ヤ、ヤバイ……冷や汗がダラダラと流れる。自分の顔を見ることはできないが、今の俺はさぞかし真っ青で血の気を失った顔をしていることだろう。やべぇ、手も震えてきた。
《響介さん! 女の子に恥をかかせちゃダメですよ?》
《いや、だから無茶言うなよ!?》
ディアナは上目遣いでこちらを見て、俺の答えを待っている。どうする、俺? この回答如何で俺の人生終わるかもしれん。 しかし、迷っている時間はない。ええい! 侭よ!
「いや、その……、結構なお手前でした」
……何言ってんだ俺は。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……どうしてこうなった。
俺は今、ディアナとの嬉し恥ずかしなエア空間から抜け出して、宿屋一階の食堂に来ている。
テーブルの向かいにはエレーナとジェシカが座り、俺の隣にディアナが座るという形でテーブルを囲んでいる。他の連中はまだ死んでいるのだろうか? 姿が見えない。そういえばドミニク達はどうなったのだろう? 宿屋の主人からつまみ出されたのかな?
ディアナはというと、先ほどと同じく、妙にツヤツヤスッキリした表情をして、ほぅとため息をついている。視線は定まっておらず中空をさまよっている。誰がどう見ても、完全に『なにかあったな?』状態だ。
なぜだ? 俺は何もやってないのに! 致してないのに! ディアナは結構思い込みの激しい所があるからな。これが勘違いだとバレた日には……想像しただけでも怖い、恐ろしい、ヤバイ。俺はプチパニック状態になった。
そして案の定、空気を読まない子、エレーナが声をかける。
「ディアナ、何かあった?」
エレーナ、ストレートすぎぃ! 心の中で突っ込む俺。
「え? ううん。何でもないの、何にもなかったわ」
と言いながらもディアナの顔は緩み、時折ニマニマしている。誰がどう見ても何かあったとしか思えない雰囲気だ。俺の冷や汗もピークになる。
「ふーん。あやしい……」
ニマニマするディアナ、顔を青くし冷や汗をかく俺。あまりに対象的な二人の雰囲気に、エレーナとジェシカは何かを察したような顔をし、俺に刺すような視線を向けてくる。
ひぃぃぃ。俺何もしてないのに、やってないのに! この仕打ちはヒドイ。あんまりだ!
《ヘタレな響介さんが悪い!》
《あのな、あの状況でどーしろと?》
しかし俺はディアナのプライドを守ると決めたのだ。この程度の汚名などどうということはない。この場はもう開き直って押し通すのみだ。
「ふっ、ディアナ。昨夜は特に何もなかったよな?」
「そうね。何もなかったわよねフェイト」
ハハハ、フフフと笑い合う二人。怪しさ全開だ。
ジェシカの俺を見る目がヤバイ。まるで汚物やGでも見るかのようだ。くっこの程度で屈するものか!
一方でエレーナは、俺をジト目で睨んだ後、
「……それはもういいから。フェイト達、今日の予定はある?」
予想外の言葉に俺はちょっと面食らった。もうちょっとグイグイ追求してくるかと思った。
「いや、今日は特に予定は無いな。レイモンドからも大人しくしてろって言われてるし」
「そう、良かった。ちょっと付き合って欲しいところがあるけどいい?」
「ん? まあ別にいいけど。どこに行くんだ?」
「孤児院」
というわけで俺達はエレーナが以前世話になっていた孤児院に行くことになった。
果たして俺はこの危機を脱することができたのだろうか?
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