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十五話 ランクアップ


「領主への報告はこれからやるとして、フェイトに言っておかねばならない事がある」


 レイモンドがそんなことを言ってきた。ん? なんだろうか?


「ミノタウロス、オークキングを一撃で倒せるようなやつをいつまでもDランクにしておくわけにはいかん。フェイトお前は特例で2ランクアップさせて、Bランクにするぞ」


 え? マジっすか。二階級特進?


「それ、いいのか? 他の冒険者から何か言われたりしないよな?」

「その様な輩がいれば私が処分します。だからご安心くださいフェイトさん」


 間髪入れずに物騒なことを言ってくるアリスンさん。だから怖いよ。処分って何すんだよ。みんなも引いてるよ?


「いや、オークキング討伐の件はちゃんと周知するから、文句言ってくる奴はいないだろう。安心しろ」


 んー、それはそれで悪目立ちしそうなんですが……。大丈夫だろうか。変なチンピラ冒険者が絡んできそうで嫌だな。


《嫌とか言ってますけど、本当はそんな異世界テンプレイベントを期待してるんでしょ?》

《え? いや。そんな事は……ないよ?》


 はぁ、でもまあ。今でも十分悪目立ちしているから、あんまり変わらないか。


「まあ、別に不利益になるようなことは無いと思うので、ランクアップの件引き受けます」

「そうか、じゃあこれからもよろしく頼む」


 アリスンさんからBランクと書かれたギルドカードを受け取る。と言うかまだ依頼2つしか受けて無いんですが? ホントにいいのかな? これ。


「フェイトさんおめでとうございます。一週間でBランク、これはもちろん歴代最速の記録です。恐らく今後破られることはないでしょうね。私も担当として鼻が高いです」


 最速……そうでしょうね。普通ありえないよね。


「え? 私もCランク?」


 困惑するディアナ。彼女も俺と同じパーティということもあり1ランクアップした。まあ、Cランクに値する実力は十分にあると思うよ。


「くそ、まさかこんなに早く追い抜かれるとは……お前これ反則だろ?」


 悔しがるトリスタン。ああ、でもそれ以上は言わない方がいいぞ。だってアリスンさんの目が鋭く光ってるんだもん。処分されても知らないぞ。

 でもな君もまだ上を目指せると思うよ。腐るなトリスタン。


「やりましたね親分! 親分ならSランク到達もあっという間ですぜ!」


 こいつを忘れていた。たのむからそんなキラキラした目で俺を見ないでくれ。取り巻きのアーヴィンとゴードンもうんうんと頷いている。


「一週間でBランク……すごい。玉の輿……」

 エレーナは何やら不穏なことを呟いている。


「そうね、今日は依頼達成の打ち上げも兼ねて、フェイトくんのランクアップのお祝いもしないとダメよね。私達が泊まっている宿屋『安らぎの泉亭』の酒場で今晩どうかしら?」


 エレノアさんがバチーンとウインクしながらそう言った。祝ってくれるのなら有難いが……今からって準備とか間に合うのか?


「分かりました。今から場所を押さえてきますね。では失礼させていただきます」


 するとアリスンさんはそう言って颯爽と部屋を出ていった。えっと、アリスンさんって俺の担当受付嬢というより、もう専属秘書的なポジションになってないか?

 俺は『いいのかこれ?』的な視線をレイモンドに送るが、レイモンドは諦めた表情をしながら首を横に振るだけだった。お前ギルドマスターだろ? こんな部下の勝手を許していいのかよ。


「まあ、今日くらいは羽目を外してもいいと思うが、事態は深刻だということは忘れるなよ? 王都、中央が動かないから諦めるのではなく、俺たち冒険者、ギルドでできることはやらなければならない。各地に冒険者を派遣し、各都市のギルドとも連携を図る。出来る限り情報収集し、来るべき決戦に備えようと思う」


 皆はレイモンドの言葉に頷いた。


「あと、フェイト。お前は俺達の最後の要だ。あまり動かれていてはいざという時にレーニアがヤバイ。よってフェイトは魔族の王の件が解決するまではレーニアに待機な。依頼は受けてもいいが、長期、遠征モノはやめろ」


 えー、せっかくBランクになったからあれこれやってみようと思ってたのにー。ダンジョン潜るとかさぁ。


《あー、ダンジョン的なものはこの世界にないです。作るのめんどくさかったんで》

《え? ダンジョンないのかよ。お前ちゃんと仕事しろよな》


 なんだよ。ダンジョンのない異世界とかありえねーだろ。


「んー、まあ分かった。ここ数週間で色々あってさすがに疲れたし。しばらくおとなしくしてるよ」

「ああ、そうしてくれると助かる。あ、それと打ち上げには俺も参加するぞ?」


 と言ってニヤリと笑うレイモンド。さすがはドワーフ。酒とどんちゃん騒ぎは好きみたいだな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 というわけで、皆で風神の斧が泊まっている『安らぎの泉亭』に来た。この宿屋は一階が飲食店をやっているのだ。しかし、アリスンさんは押さえるって言ってたはずなんだけど、これ完全に貸し切っちゃってるよな。俺たち以外に客がいないし。それにしても元いた客はどうしたんだろうか……、アリスンさんがどのような手段をとって客を追い出したのか怖くて聞けないや……。


 宴会参加者は、レイモンドとアリシアさんとなぜかハンナさんもいる。ギルドの業務はいいのか? あと、風神の斧と紅蓮の剣の面々。それからエレーナとジェシカ。また、母さんとディアナの両親、オスカーさんとフェリシアさん、それとトビーも呼んでいる。


「さて、オークキングの討伐達成とフェイト、ディアナのランクアップを祝って乾杯!」


 オーランドさんが乾杯の音頭を取り、宴会が始まった。


「それにしても冒険者始めたばかりなのにもうBランクなんてすごいじゃない。やはりフェイトくんはかなりの優良物件ね。ディアナ絶対に逃しちゃだめよ」

「ちょっと、ママ何言ってるの。フェイトとはまだそんなんじゃ……」


 まあ、相変わらずのフェリシアさんだな。戸惑ってあたふたしているディアナ可愛いぞ。


 一方、別の一角では。


「先輩! 一杯どうぞ!」

 と、ドミニクがトビーに酌をしている。


「おまえらも若旦那の親衛隊の一員としてこれからバリバリ働いてもらうからな。覚悟しとけよ?」

「「「はいっ!」」」


 なにやら俺の知らない所で謎の組織が結成されつつあるようだ。んー、そうだ、見なかったことにしよう。


「んがー、なんでアリスンばっかり! なんでアリスンばっかり! 私が最初にフェイトくんに目をつけたのにぃぃぃ。ずるいずるいずるい! 納得いかなーい!」


 別のテーブルでは完全にやさぐれて、やけ酒煽っている猫がいる。


「ハンナではフェイトさんに迷惑をかけるばかりで碌なサポートもできないでしょう。私が適任です。諦めてください」

 アリスンさんの容赦ない言葉がハンナを抉る。


「ムキー、ちくしょー! マスターからもなんか言ってくださいよー。これ横暴ですよ横暴!」

「あのな? 俺からアリスンに何か言ってどうにかなると思うか?」


 そのマスターの言葉を聞きテーブルに突っ伏し泣き出すハンナ。

 マスターもハンナもギルドの影の支配者であるアリスンさんには勝てないようだ。


 はぁ、と俺がため息をついていると

「よう。今日だけはおめでとうって言ってやるぜ」


 と、トリスタンが俺のグラスに酒を注いできた。


「お、おう。まあ俺もとりあえずありがとうと言っておく」

「まー、お前から無詠唱の秘密を盗んですぐに追いついてやるけどな」


「ああ、期待しないで待ってるよ」

「けっ、いい気になるのは今のうちだぜ! その首洗って待ってろよ?」


 と、チンピラが使うような安っぽい捨て台詞を吐いてトリスタンはどっかに行った。


「フェイト、ランクアップおめでとう。もうBランクだなんてすごいわ。さすがはあの人の息子ね」

 隣りに座る母さんがそう言ってきた。


「ありがとう母さん。というか、父さんってどういう人だったの? 今まであまり話聞いたことないんだけど?」


 そうなのだ。母さんからは父さんはイケメンだったとしか聞いてなくて、イメージも何もできないんだよな。


「え? フェイトのお父さんはイケメンよ?」

 いや、だからそれは何回も聞かされているから分かってるんだって。


「それ以外に何か特徴ないの?」

「そうね。相当女の人にモテモテだったわね。フェイトもお父さんに似ているから将来かなりの女殺しになりそうだわ。でもディアナちゃんを泣かせるような事はしちゃダメよ? 火遊びは程々にね?」


 ……いえ、そういうことではなくてですね……。って母さんがこうなったらもう無理だな。これ以上は聞き出せそうにない。というか、15の息子に火遊びとか親が使っていい言葉じゃないと思うんですが?


 俺は諦めて別の一角に目をやる。そこではオスカーさんとオーランドさんが向かい合い酒を飲み交わしている。でも二人ともしゃべらない。そしておもむろにお互い手を前に出し、ガシッと握手をした。


 なんだろう? 強者同士は目で語るってやつだろうか? お互い結構似ているからな。まあ、あの二人なりに楽しめているんなら別にいいんだけど……。


 っと。不意に背後からただならぬ気配を感じる。


「標的捉えた。ボクは狩人。狙ったエモノは逃さない……」


 え? 標的って俺?


「ちょっとエレーナ何言ってるの?」

「玉の輿?」

「……よく分からないけど、エレーナは冒険者続けるのよね」

「うん。お金必要だから」

「孤児院の事ね。エレーナも大変ね。私はもう冒険者なんて懲り懲りよ」


 俺、ロックオンされてるのか? とか考えてると急に大きくて柔らかい物に顔が包れ、視界が塞がれた。


「あらあらフェイトくんちゃんと飲んでるかしら? 主賓なんだから飲まないとだめよー」

「……、ぷはっ。エ、エレノアさん何やってんですか!」


 俺はエレノアさんに抱きつかれていた。おっぱいが、おっぱいが。


「あ、ディアナ! あんたもたもたしてるとあんな風にフェイトくん取られるよ。早く行ってフェイトくん押し倒してきな!」

「ママ!ちょっと! え、でもまだその……心の準備が……」


 俺はエレノアさんにがっちりホールドされ身動きがとれない。ああ……息が、意識が薄れる。


 何なんだよこいつら。まともなやつが一人もいねーじゃないか。


《この中で一番非常識で規格外なのは響介さんですからね?》

《え、いや……そんなはずは……》


 俺の意識はそこで途切れた。その後も夜遅くまで宴、もとい狂宴は続くのだった。



読んで頂きありがとうございました。

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