十四話 レーニア帰還 & アリスンさん無双
ここからしばらくギャグっぽいパートになります。
馬車に荷物を積み込み、出発の準備はほとんど整った。
「よし、準備はできたな皆馬車に乗り込んでくれ」
……ん? そう言えば、馬車に乗るのはいいんだけど、ジェシカとエレーナの割り振りどうすんの?
ドミニク達の馬車に女の子二人を乗せるわけにはいかないからそれは論外として……。
「……そうだな二人はフェイトの馬車に乗るか? フェイトは荷物が少ないから四人でも余裕だろう」
オーランドさんがそのように切り出した。 それを聞いたトリスタンがニヤニヤしながら俺の背中をバシバシ叩いてくる。
「いいなフェイト。ハーレムだな。うらやましーなー」
「いてーよ。トリスタン。そういうお前は母ちゃんのおっぱいでも吸ってろって」
「へいへい、じゃあまた後でな」
と、後ろ手で手を振りながらトリスタンは自分の馬車に乗り込む。
「さすが親分。親分の器だと愛人は一人や二人じゃ収まらないっすね」
やめてドミニク。そんなこと言うとディアナさん睨んでくるから。
「と、とりあえず出発するぞ」
「ん。分かった」
全員馬車に乗り込み出発する。
村長のネロさんが見送りに来て、手を降ってくれた。……途中ネロさん完全に空気だったな。忘れてたわけじゃないよ? あと余談だが、魔物の動きが不穏なので村長には早めに避難するように伝えてある。
道中の馬車内、どうなることかと思ったけど、女性陣三人はすぐに打ち解け合い、話に花を咲かせていた。
俺はなんとなく居心地が悪いんで御者をやりながら聞き耳を立てている。
話を聞いていると、どうもジェシカは冒険者を引退するそうだ。まあ、あんな出来事があったわけだから無理もない。当然の選択だと思う。
一方でエレーナは今後も冒険者を続けていく様だ。話によると彼女は元孤児で、世話になった孤児院に恩返しがしたいのだそうだ。だから冒険者家業を続けてお金を稼ぐ必要があると言っている。見かけによらず逞しいんだなこの子。
だが、エレーナは弓使いなので後衛職だ、ソロでの冒険者活動は難しいと思う。
他にパーティのアテでもあるのかな? 俺達のパーティに誘うってのも、うーん。どうなんだろうな。
《響介さん。ここは『俺の女になってついてこい!』って言うところですよ?》
《お前は俺をどうしたいんだよ》
俺達は行きと同じく二日をかけてレーニアに到着した。ちなみに野営の時、俺は一人外で寝た。さすがに女の子三人が寝る馬車にご一緒するワケにはいかない。
あと、料理魔法を披露した時は二人に相当驚かれた。
ドミニク達にも分けてやったら涙を流して喜んでいたが……。うん、鬱陶しい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
レーニアに到着した後、真っ先にギルドに向かった。オークキングの件を報告しなければならないからだ。懐かしさはあまりないけれども、約一週間ぶりのギルドの扉を開ける。
ところが、俺がギルド内に入った直後、アリスンさんと目が合った。なんで分かんだよ。匂いか?
「ああーー! フェイトさん。こっち、こっちです!」
アリスンさんは手を振りながら大声で叫ぶ。そして、いつものように『受付は終了しました』のボードをカウンターに置き。並んでいる冒険者たちを追い払い、満面の笑みで手招きしている。あーこれ本当にいいのかなぁ。追い払われた冒険者たちに申し訳ないんだが……。
トリスタンは唖然としているし、ディアナは……睨んでますね。
「はい、フェイトさんおかえりなさい。オークの巣の調査どうでしたか?」
「それなんだけど、ギルドマスターに報告しなければならないことがあるので、マスターに取り次いでもらいたい。お願いできるかな?」
「はい、分かりました。ではマスターの部屋に案内しますね。皆さんこちらにどうぞ」
ん? あれ? アリスンさん当たり前のように案内しようとしているけど……
「あ、いや、マスターの都合とか確認しなくていいのか?」
「え? そんなもの必要ありませんよ? マスターの都合よりもフェイトさんの方が優先されますから」
何がおかしいの? みたいな顔で俺を見るアリスンさん。どうもアリスンさんの中ではマスターよりも俺の方がプライオリティが高いらしい。なんで? マスターに勝負で勝ったからか?
と、俺が疑問に思っている間にもアリスンさんはスタスタとマスターの部屋まで行き、ドアをノックする。
「マスター入りますよ?」
ガチャっと返事も待たずに扉を開ける。マスターは、いたいた。でも飯食ってるぞ。
「!?」
口に食べ物を入れたまま声にならない驚きをあげるギルドマスター、レイモンド。
「マスター、フェイトさんが帰還しました。そして報告したいことがあるそうです。はい、ではフェイトさんどうぞ」
……いや、どうぞって言われても。レイモンドはまだモゴモゴ言ってるぞ。
「……ア、アリスン。俺飯食ってるって言ったよな?」
「何言ってるんですか? フェイトさんを待たせるわけにはいかないでしょう」
ア、アリスンさん強えー。後ではなんか「フェイトって何者?」とか「どっちがマスターか分かんねーな」とか「親分流石です!」とか勝手な事言ってる奴らがいる。
「えっと、話していいんですかね?」
「ま、まあいい。話せ」
俺はネバラ村であった事一部始終をレイモンドに話した。
「オークジェネラルくらいはと思っていたが、まさかオークキングまでいたとはな。フェイトを行かせて正解だった」
まあAランクの魔物はAランクの冒険者4〜5人で当たるのが普通らしいからな。俺がいなければ全滅していた可能性がある。
レイモンドは眉間に皺を寄せながら。
「これはちょっと報酬に色を付けないといけないな。金貨10枚くらいで……」
「フェイトさんには50枚ですね」
間髪入れずにアリスンさんがレイモンドの言葉に被せる。
「いや、50枚はいくらなんでも多すぎないか?」
それを聞いたアリスンさんはレイモンドをキッと睨んだ。
「何を言ってるんですかマスター。相手はオークキングだったんですよ? もしかしたらレーニアを襲撃される恐れもあったのですよ。さらにうちのギルドの主力パーティーを失わずに済んだのです。100枚出してもいいくらいですよ」
「お、おう。そうか? ……そうだな」
アリスンさんの迫力にレイモンドは完全にタジタジである。元々小さいドワーフのおっさんがさらに小さく見える。アリスンさんには逆らうまい。そう思う一行だった。
「話はちょっと逸れたが、オークキングの件は一大事だ、領主に連絡し王都にも報告しなければならん」
レイモンドは腕組みをし神妙な顔をする。
「フェイトから魔族の王の話を聞いた。今回のオークキングは魔物が我が国に侵攻するその前兆かもしれんぞ」
オーランドは一歩前に出てレイモンドにそう伝える。
「そうだな、その可能性は高い。報告によると各地で魔物の亜種が確認されているそうだ」
「その王の出現で魔物が活性化しているということか?」
「そう考えるのが妥当だな」
これは、あれだ。間違いなく邪神の仕業だろうな。もしかしてその魔族の王ってのが邪神本人なんだろうか。
《んー、多分邪神の使徒かなと思います》
《そうなのか?》
《邪神も一応神なので、この世界に直接関与する事は難しいです。だからこの地上にいる者に自分の加護を与えて使徒とし、その使徒を使って悪さするって感じかと》
《そっか、お前は俺に加護くれなかったのになー》
《う……仕方ないじゃないですか。でもその邪神の使徒を倒せば私の加護が復活するかもしれませんよ》
《マジか? 俺やる気出てきちゃったよー》
《はぁ、響介さんは現金ですねぇ》
「魔物が攻めてくるとしたら、ここはヤバイんじゃないのか?」
トリスタンが割り込んできた。
まあ、ここレーニアは王国で最も魔の森に近い城塞都市だからな。あの魔物の群れの標的はレーニアなのかもしれん。
「そうだな、ギルドと冒険者だけでは難しいかもしれん。王国が軍隊を出してくれればいいのだが」
ん? そういえば……
「レイモンド、あれから一週間程経つが領主への謁見はまだなのか?」
「ああ、それなんだが、領主には既にオスカーのやつと一緒に会った。それで魔物の群れとミノタウロスについては報告したんだが。残念ながら、王都への協力要請についてはあまり期待できそうにない」
「どういうことだ?」
応援がないって……国の一大事なのにか?
「どうも王都では、次の王太子の座をめぐる跡目争いが激化していて、地方に軍を派遣する余裕が無い……ということだ」
えー、なんだよそれ。国の存亡の危機だってのに王様達は何やってんだよ。
「王都、中央は随分と悠長な事だな」
オーランドさんをはじめ、皆呆れている。そりゃそーだよな。
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