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十三話 新パーティ結成


 オークの砦襲撃から二日後の朝。


「なあ、お前無詠唱でバンバン魔法使っていたけど、あれどうやったらできるんだ?」


 突然トリスタンがこんなことを聞いてくる。さて、どう答えたものか……。


 俺は今、村長宅のリビングのイスに座りお茶を飲みながらトリスタン、オーランドと向かい合っている。ドミニク達紅蓮の剣の三人については、オークの残党がまだ残っているかもしれないので、村の警備をしている。

 俺が見回ろうとしたんだが「親分にそんなことはさせられません!」とか言って、自ら警備を買って出てきた。


  なんというか、あいつらも当初のチンピラキャラだった頃はもちろん嫌なんだだけど、これはこれで調子が狂う。極端から極端に行きやがって……。もうちょっと普通になれないのだろうか。

 

 ちなみに、俺達だけでオークの砦に突撃したことについては、オーランドさんとエレノアさんにこってり絞られてしまった。

 もっとも、オークキング一匹、オークジェネラル3匹を倒して、オークの砦を壊滅させたと言った時はかなり驚かれたけどね。最初は信じてもらえなかったが、潰されたオークの砦とオークキング共の遺体を見せたらやっと納得してもらえた。


 それから、助け出した冒険者二人はオークの砦から戻ってきた後から、死んだ様に眠っており、まだ目が覚めていない。まあ、精神的にも身体的にも疲労が溜まっていただろうから、無理はないのかもしれない。今エレノアさんとディアナが二人の様子を見に行っている。


「んー前にも言ったかもだけど。詠唱邪魔だなー、めんどくせーなーと思ってやったらできた。ただそれだけ」


 俺はテキトーに答える。ディアナには無詠唱のやり方を教えたけど、トリスタンはまだ付き合いが浅いしなぁ。

 信用していないわけじゃないんだけど……それにこの場にはオーランドさんもいる。無詠唱の秘密は、あまり広めない方が良いと思う。悪用する人が現れないとは言い切れない。


《いっそ記憶消しちゃいますか?》

《おいこら、物騒なこと言うな》


「いや、いくらなんでもそれはないだろう。無詠唱がそんな簡単にできたら世話ねーよ」


 トリスタンは呆れ顔だ。まあ、そう思うのも無理はない、無詠唱はこの世界の魔法の常識を根底から覆すものだ。この王国の魔法使いのトップである宮廷魔術師でも無詠唱はできないらしいし。そんな幻とも言える無詠唱をたった15歳の俺が簡単に使いこなしているんだからな。


「んなこと言ってもできたんだからしかたないよ。まあ、俺が天才だったからかもな?」

「自分で自分を天才ってなぁ。じゃあディアナはどうなんだよ。あの子だって無詠唱で【リーンフォース】使っていたぞ?」


 あー、こいつ意外とよく見ているな。どう言い訳しようか……君のような勘の良いガキは嫌いだよ?


「ディアナは俺と付き合いが長いからな。俺が無詠唱やってるのを見て、特訓してできるようになったんだ」


 うーむ。やっぱ苦しいか……トリスタンは俺に疑いの目を向けたままだ。


「んー嘘くさい、お前なんか隠しているよな? それにあの【ブリューナク】っていうオークキングを一撃で倒した魔法。あんな魔法見たこと無いぞ。天才という言葉だけで片付けられるものではないと思うんだがな……」


 ヤバイな。完全に疑っているよな。オーランドさんもさっきからじっと俺のことを見ているし。どうしたもんか……。もう無詠唱のカラクリを言った方がいいのか?


《もう面倒くさいんで(バラ)しちゃいますか、こいつら》

《お前本当に女神様だよね?》


「ならばトリスタン。フェイトについて行ってその目で確かめてきたらどうだ?」


 オーランドさんが唐突にそんなことを言ってきた。え? マジですか? 


「そうよ。父さんと母さんのことは良いから、気になるんなら行ってらっしゃい」


 寝室の方からエレノアさんの声が聞こえた。俺がそちらに目を向けると。目覚めた冒険者二人とディアナ、エレノアさんが立っている。二人はやっと目が覚めたようだ。


 ちなみに冒険者の一人エレーナは小柄の銀髪ショート、武器は弓を扱うようだ。もう一人の冒険者ジェシカの背は160センチくらいで細身。髪は少しウェーブのかかる紫色のロングだ。武器はダガーを扱う。盗賊職って感じだな。


「いや、親父、母さん。俺が抜けたら風神の斧はどうするんだよ?」

「お前がいてもいなくても大して変わらん」

「ぐふ……」


 オーランドさんの容赦ない一言に撃沈するトリスタン。ここで俺もいらねーって言ったら多分泣くなこいつ。


「まあ、フェイトくんについていって色々学んで、強くなったらまた戻ってらっしゃい」

「そうか、一時的というのならまあいいか」


「あのー、なんか俺抜きで話が進んでいるんですが……」


 俺は苦笑しながら話に割り込む。俺の意見は無視ですか?


「あら? フェイトくんは嫌?」


 エレノアさんは腕組みしながら俺に問いかける。その腕に乗っかった大きく丸い2つのものがたゆんと揺れる。いえ、全く嫌ではございませんよ? むしろ大歓迎です。


「いや、俺は別に嫌というわけではないんだが……、それを決める前に一つトリスタンに聞いておきたいことがある」

「なんだ?」

「お前、無詠唱で中級、上級魔法を使う俺が怖くないのか? 俺がその気になればここら一帯を一瞬で蒸発させることもできるんだぞ?」


 俺が気になっている点はここなんだよな。ディアナは幼い頃からの付き合いだし、俺のことを完全に信用しているから恐怖心はないのかもしれない。しかし、普通得体の知れない驚異的な力を持った者は、恐怖の対象となるだろう。魔物と同じだ。


 ところが、トリスタンはため息をひとつついて。


「はぁ、何を言ってくるかと思ったら。そんなことか。確かに全然怖くないと言えば嘘になるが、俺はそれよりもお前に対する好奇心の方が強い。お前について行けば俺も確実に強くなれる。そんな気がする」


 好奇心や向上心の方が勝っているって事か。


「それに、付き合いはまだ長くないが、お前の性格はよく分かっているつもりだ。ディアナもお前を信じ切っている様子だし、お前は悪人じゃない。それだけは確実に言える」


 オーランドさんとエレノアさんも頷く。

 そこまで言われると、なんか断りづらくなってしまうな。


「ディアナは構わないのか?」

「私は……、フェイトがそれで良いのなら」


 んー、じゃあ決まりかな。


「じゃあ……ついてくるか? トリスタン」

「ああ、お前から色々と盗んでやるぜ。改めてよろしくな」


 俺はトリスタンと握手する。すると、


「新パーティ結成、と言ったところか。ところでパーティ名はどうする?」


 と、オーランドさんが聞いてきた。あー、全然考えてないや。俺のネーミングセンスだと中二臭くなる恐れがあるしどうしよう…。


「とりあえず保留ってことで。そのうち考えようか」

「まあ、慌てる必要はないか」

「そうだね」


 パーティ名は別に必須というわけでもないし追々考えることにする。

 さて、この話は終わり。というか、エレーナとジェシカが置いてけぼりになっていてポカーンとしている。


「えっと、とりあえず朝食食べる? お二人もお腹空いているよね?」


 と切り出す。それに対してエレーナとジェシカは


「うん。ボクはお腹ペコペコだよ」

「ぜひお願いする」


 と、同意の意思を示した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 朝食を取りながらそれぞれ自己紹介と身の上話をする。

 二人の所属していたパーティ名は悠久の翼、最近売り出し中の勢いのあるパーティだったらしい。今回の依頼は実入りも良かった事もあり、調査という任務を忘れオークの砦に深入りしすぎてしまったそうだ。それでオークジェネラルたちに見つかりバートとカルロは不覚を取ってしまった。慢心していたところもあったのかもしれない。


「カルロとバートのことは残念だったけど、二人が無事だったのは不幸中の幸いだったんじゃないかな」


 と、俺は二人に声をかける。


「そうね。いつまでもくよくよしても仕方ないわね」

「助けてくれてありがとう。みんなは命の恩人だよ」


 二人も一日休んだことによってだいぶ気持ちが落ち着いてきた感じがする。でも、パーティメンバーの死を意外ににあっさりと受け入れた事については少々驚いた。元々関係は薄かったのかもしれないが、二人は女性とはいえ冒険者だからな、このような事になる覚悟は元よりあったのかもしれない。


「まあ、あれはほとんどフェイト一人でやったって感じがするけどな……」

 トリスタンが悪態をつく。


「うん。あのオークキングを一撃ってすごいよ」

「あの魔法は一体何だったの?」

「俺も分からねーよ。聞いても教えてくれねーし」

「フェイトの必殺技よ。他にもオリジナルの魔法がいくつもあるんだから」


 なぜかドヤ顔で話すディアナさん。ちょっと恥ずかしいんでやめてくれませんかね?

 ちょっと話を変えようか。


「トリスタン、もう魔法の話はいいから、それよりもオーランドさんこれからどうします?」

 俺はオーランドさんに話をふる。


「うむ。オークキングが出没した事をギルドに報告せねばならん。すぐにでもレーニアに移動したい」


「オークジェネラルが一匹湧くだけでも結構な事件だってのに。一度にジェネラル3匹、その上オークキングまで出たんだぞ? 明らかに異常だよな」


 トリスタンがつぶやく、……だよな。下手したら一都市が消されてしまうくらいの戦力だもんな。そこでちょっと気になったことをトリスタンに聞く。


「トリスタンは俺の村……トルカナの事について何か聞いているか?」

「いや、知らんぞ?」


「ギルドには報告したんだけどな……まあいいか。実はレーニアから北に100キロ程離れたところにある俺の村が魔の森から出てきた魔物の群れに襲われたんだ」


「げ……、マジか? それでどうなった?」


「一応俺と、オスカーのおっさん達と一緒に魔物の群れを一掃したんだが、その魔物の群れの中にミノタウロスがいやがった」


 トリスタンの表情が引きつる。


「ミノタウロスって……、ああ確かディアナがそんなこと言ってたな。その時の話だったか」

「そうよ。フェイトが【ブリューナク】の一撃で倒しちゃったけど」

「うへぇ……ミノタウロスも一撃っておまえ……」


 ドヤ顔のディアナ。そして頭を抱えるトリスタン。


「お、親分……ミノタウロスまでやっちまったんですか? すげえ、さすがです! 一生ついていきます!」


 ああ、ドミニクお前帰ってたのか。でも別に付いてこなくていいからな。たのむからそんなキラキラした目で俺を見ないでくれ。


《こいつ鉄砲玉として使い潰しちゃいましょうよ》

《……改めて聞くけど、お前本当に女神か?》


「……まあ、そのミノタウロスが気になることを言っていた。我ら魔族に王が誕生したと。今回のオークキングもそれに関連しているんじゃないか?」


「魔族の王が現れて、魔物共が活性化していると?」


「そういうことになるかもな」


「ならば尚の事、早急にギルドに報告せねばなるまい。なにか大変なことが起きるような気がする」


 オーランドさんはエレーナとジェシカに視線を向ける。


「ボク達もレーニアに帰ります」

「そうか、ならば出発の準備を始めよう」


 俺達は急いでレーニアに帰る支度を始めた。



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