十二話 オークキング
今回前半はディアナ視点です。
「あの小屋かな?」
「恐らくそうだな」
フェイトが正面で暴れてくれたおかげで、トリスタンと私は難なく砦の中に侵入できた。
「見張りが二頭いる。あれはオークロードとオークメイジだな。じゃあ俺が奥のメイジを殺るから、ディアナは手前のロードを頼む」
「分かったわ」
オークロード一頭なら私でも多分大丈夫。今こそフェイトに教えてもらった魔法の成果を見せる時ね。
「いくぞ、いちにのさんっ」
トリスタンの合図と共に私は駆け出した。その気配に気付きオークロードが剣を構えようとするが、身体強化魔法をかけた私のスピードに全く対処することができない。一撃で首を飛ばすことができた。
オークメイジの方も魔法を発動しようとするが、反応が遅すぎた。トリスタンの槍に頭を捉えられ絶命する。
「ディアナお前いくらなんでも早すぎだろう。全然動きを追えなかったぞ。どうなってんだよ?」
「それは、キギョウヒミツよ」
「お前もかよ!」
苦笑いをするしか無いトリスタン。
私も少しはフェイトに近づけたかな?
「無駄口はあと。早く小屋の冒険者を早く助けるよ」
「ああ、そうだな」
私とトリスタンは警戒しながらも小屋に入る。中は灯りもなく薄暗い。注意深く奥に進んでいくと、小屋の隅の方に2つの影が見える。近づいてみるとそこには猿ぐつわをされロープで縛られた二人の女性が転がっていた。
いた! どうか無事でいて。
私は慌てて二人に駆け寄り声をかける。
「大丈夫!? 助けに来たよ」
「う…うぐ……」
私は剣でロープを切り、猿ぐつわを外す。
「ぷはっ! あ、ありがとう。助かったわ……」
「……あなた達は?」
二人の意識ははっきりしている。足などに怪我をしているようだが、命に別状はなさそうだ。それに……まだオークに何かされたような様子はない様に見える。とりあえず良かったのかな……。
「俺達はギルドマスターからの依頼で来た冒険者だ。お前達を助けに来たんだが、外にいるオーク共に見つかるとヤバイ。早く逃げるぞ」
「二人とも立てる? 肩を貸すよ?」
トリスタンが二人に早くこの場を去る事を提案し、私が二人を立たせようとする。だが、ちょうどその時……、
ズシンッ! ズシンッ! ズシンッ!
何か巨大な生き物が歩く様な足音が小屋のすぐ外に響き、小屋が揺れる。
「ま、まさか……」
ドガァァッ! と凄まじい音を立てて小屋の屋根が吹っ飛ぶ。そこには体長四メートルはあろうかという豚の巨人が四人を見下ろしていた。
「く、オークキングか、本当にいやがった。ディアナ! 俺がこいつを引きつけるからその隙に二人を連れて逃げろ!」
「え、でもそれじゃトリスタンは……死ぬ気なの?」
「このままでは全員ヤツに潰されてしまう。早く!」
と、その時オークキングは手に持っていた巨大な棍棒を振るってきた。トリスタンはその攻撃を槍でいなそうとするが、その衝撃をすべて受けきることができず弾き飛ばされる。だが直撃はなんとか避けられたため致命的なダメージは受けずに済んだ。
「トリスタン。大丈夫!?」
「く、なんて力だ。さすがにAランクだけはあるな。いいから早く、ディアナ行け! 俺もそんなに持たん」
これがAランクの魔物の力……Cランクのブルーウルフ、オークロードの比じゃない。怖い。勝てる気がしない。
正直トリスタンを置いて逃げ出したい。でも……。
「でも、でも……見捨てられるわけないじゃない!」
私が一瞬逡巡している間に、トリスタンは槍を構えオークキングに突進する。
「くそがぁ。俺だってやられっぱなしじゃねえぞ。これでも喰らえ!」
トリスタンは渾身の突きを繰り出しオークキングの右足をえぐる。トリスタンもCランクの冒険者。決して弱いわけではない。この槍の一撃も普通のオーク、オークロードならば致命傷となる重い一撃なのだ。しかし相手が悪かった。オークキングの巨体には大したダメージを与えられない。
そして、突きを繰り出し硬直しているトリスタンを、オークキングは棍棒を持っていない方の左の手ではたいた。
「ぐはっ……く、くそっ」
とっさに槍でガードしたものの体勢を完全に崩された。そこにオークキングがトリスタンの上に棍棒を振り降ろす。危ない! 間に合って!
ガキィィィン!
しかし、その振り下ろされた棍棒はトリスタンを押しつぶすことはなく、私が下に滑り込んで剣で受け止めた。
「う……、くぅ」
お、重い……身体強化、【リーンフォース】を全開にしてやっと止めたがそれも限界。少しずつ押し込まれている。
「バ、バカ! なんで逃げなかった」
「私は欲張りだから。全員助けるの! 逃げるのは嫌」
ここで逃げたら私はもう二度とフェイトには追いつけない。それ以前にフェイトの隣に立つ資格なんて無くなってしまう。そんなのは絶対に嫌だ!
私は更に魔力を込め【リーンフォース】のギアを限界まで引き上げる。しかし、現実は厳しい。それでも力はオークキングの方が上だ。このままでは魔力切れで潰される……。
(フェイト、私またダメだったみたい。でも、逃げ出したりはしなかったよ)
万事休すかと思ったその時、一筋の光の閃光がオークキングの頭を貫いた。次の瞬間雷ようなのスパークを放ちながら胸から上が消し飛んだオークキングが立っているのが見える。そして程なくして、ズズンっと音を立てて崩れ落ちた。
「こ、これはもしかして【ブリューナク】? フェイト来てくれたの?」
「な、なんだこれ? フェイトがやったのか?」
突然の出来事に驚く四人。
「あー、どうやら間に合ったみたいだな。オークキングがそっちに行ってしまったみたいだ。悪い悪い」
オークキングの死体を挟んで少し離れたところに、安堵のため息を吐くフェイトがいた。
(まったく、いつもギリギリなんだから……、でもいつか必ずフェイトの隣に立ってやるんだからね)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
やばかった。またギリギリになってしまったな……。まさかオークキングがこちに来ているとは思わなかったよ。派手に暴れたら俺のところにくると思ってたのに。危ない危ない。
「囚えられていた冒険者は無事だったのか?」
俺は駆けながらディアナに問いかける。
「うん。怪我はしているけど、意識はあるし、命に別状は無いみたい」
「怪我か……ちょっと見せてみろ」
俺が近づくと、二人はビクッとして怯えた表情を見せた。まあ、オークキングを一撃で倒した男を前にしたらちょっとビビるよね。それは分かってるんだけど少し傷つくな……。
「安心しろ、回復魔法をかけるだけだ。【エクスヒール】2連」
俺が【エクスヒール】を唱えると、二人を淡い光が包みこみ、みるみる傷が消えていった。
「これは【エクスヒール】? 無詠唱で? しかも連発!?」
二人は驚愕に顔を引きつらせる。
「まあ、初めてこれ見たら誰でもそうなるわな」
トリスタンは呆れ顔でそう言った。
「お前も怪我してるだろ。ほれ【エクスヒール】」
「お、サンキュー。お前の規格外も慣れてしまえばどうってこと無いな」
「俺を人外みたいに言うなよ」
「自覚してなかったのか?」
「うるせー」
俺とトリスタンの気安いやり取りを見て、冒険者二人は顔を見合わせ表情が緩む。うん、もう大丈夫だな。
「とりあえず。このオークの巣…というか砦の中のオーク共は殲滅した。だから安心していい」
俺がそう言うと、三人の顔に安堵の色が浮かぶ。が、女冒険者のうち一人がハッとして、
「バートとカルロはどうなったの?」
と聞いてきた。バートとカルロ、この二人の連れの冒険者のことだが、
「……残念だが、この砦の中で発見できた人間は君たち二人だけだ。その二人は恐らく……」
俺がそう言うと、もう一人の女冒険者が口を開く
「エレーナはすぐ倒れて気絶したから見てなかったと思うけど、バートとカルロはオークジェネラルに斬り殺されたわ……」
「え……、そ、そんな……」
エレーナと呼ばれた女冒険者は絶望に顔を青くし、うつむいた。
「ごめんなさい。私達がもっと早く来れていれば……」
ディアナが申し訳なさそうに言った。
「ううん。あなた達が来てくれなかったらボク達も……多分もっと恐ろしい目に会ってたと思うから……その、ありがとう」
「そう言ってくれると私も嬉しいわ」
ディアナが微笑み返す。
「冒険者やっていたんだから、あの二人もこうなる覚悟はしていたと思う。残念だけど、いつまで悔やんでいても仕方ないわ」
もう片方の女冒険者……、レイモンドの話ではジェシカさんだったか、ジェシカもそう答えた。
うーむ。それにしても、エレーナはボクっ子ですか。フム……俺的になかなかポイント高いですな。
《響介さんってそういうのが好みなんですね……正直キモいです》
《おいこら、冗談だって、キモイ言うな》
「こんなところに長居は無用だ。村に戻ろう」
俺がそう切り出すと、四人は頷いた。




