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八話 指名依頼


「アリスンさん討伐終わったので確認お願いします」


 俺は、ファングウルフの牙十頭分(左右合わせて二十本)をアリスンさんに見せる。


「はい、たしかにファングウルフの牙で間違いないようです。お疲れ様です。でも随分早かったですね」


 時刻は昼をちょっと過ぎたくらいだ。まあ、たしかにちょっと早かったかもしれない。帰りもディアナの修行がてら全力で走ってたからな。

 もう少し道草しても良かったかもしれない。


「んーまあ、ちょっと急いで移動したので」

「そうですか……では一旦ギルドカードを預かります」


 アリスンさんはまだちょっと疑問が拭えていない様な、微妙な表情をしながらも、俺達の前に手を差し出す。


 俺はその手に二枚のギルドカードを渡すと共に、あのことを報告する


「あ、それと森の中で赤と青のファングウルフが居たのですが、アリスンさん何か知ってます?」

「え? 赤と青のファングウルフですか? それってもしかしてブルーウルフとレッドウルフじゃないですか。まさか戦ってないですよね? ちゃんと逃げましたよね?」


 急に焦った表情を見せるアリスンさん。あの青と赤のファングウルフって、そんなにヤバイやつだったのか? あっさり倒せちゃったんで、それほどじゃないのかと思ってた。


「いや~、ちょっと戦って倒しちゃった……みたいな?」

「え? 本当ですか? ブルーウルフとレッドウルフはBランクの魔物ですよ?」


 俺があっさり『倒した』って言っちゃったので、アリスンさんは疑いの眼差しを向けてくる。

 それにしても、あいつらBランクだったの? もしかしたら別の魔物かもしれないな。あ、そうだ一応討伐部位を持ってきてるんだった。それで確かめてもらおう。


「あ、一応そいつらの牙と色がわかる尻尾を切り取って持って帰ってきました。見ますか?」


 尻尾を切ったと言った時、アリスンさんが一瞬ブルッと身震いしたような気がする。ああ、獣人さんにとって尻尾の切り取りって嫌なことなんだな……。俺だってアレを切り落としたって聞いたらブルッと来るし。


 俺はそんなことを考えながら、袋から牙と尻尾を取り出しカウンターに置く。


「確かにこの色は、ブルーウルフとレッドウルフのものに間違いなさそうです。でもこんな街の近くでBランクの魔物が出るなんて……、ギルドマスターに報告してきますので少々お待ちください」


 そう言ってアリスンさんはギルドの奥に駆けていった。


「あ、フェイトくん。なになにどうかしたの? え? これってブルーウルフとレッドウルフの尻尾じゃん! これフェイトくんが倒したの!?」


 そして入れ替わりで登場したのは猫獣人の受付嬢ハンナさん。でも、ちょっと声が大きい。おかげでギルド内がざわつき始めた。


 できれば静かにしていただきたい。


「あの新人のガキ、ブルーウルフとレッドウルフを狩ったのか? 信じられねぇ」

「ギルドマスターに勝ったのはマグレじゃなかったのか……」


 とか、そんな声が聞こえてくる。

 うー、あまり目立ちたくないんだけどなぁ……。しかし当のハンナさんはと言うと。


「これはかなり将来有望よね……。そうだ、フェイトくん、この後時間ある? これから私とデートしない?」


 また新たな爆弾を投下してきた。何言ってやがるんだこの発情猫は。案の定ギルド内は騒然となる……。


「くそー、なんであいつばかり!」

「呪いで人が殺せたら……」


 あちこちで俺に対する非難の声が上がる。頼むから呪詛放つのやめてー。


「フェイト? もちろん行かないよね?」


 不意に後ろから冷たい声が刺さる。行きません。行きませんとも! 俺はディアナさん一筋ですから。


「はぁ、行くわけないだろ? ディアナを置いて」

「そ、そうよね……」


 ディアナの顔が若干赤くなる。ふふん。ちょろいぜ。


「ふーん。フェイトくんはその子が良いのかぁ。まあいいわ。今は譲ってあげる」


 譲るとか譲らないとか俺は一体何なんだよ。モノか? それから今ってどういう意味だよ? まあ、とりあえずこの騒動はこれで終わりそうだし良かった良か――――


「フェイトさんお待たせしまし……って、あああ!! 何してんのハンナ! フェイトさんは私が担当よ。横取りしないで!」


 ――まだこの騒動は終わりではなかった。


 この後もう一悶着あって、周りからの更なる批判と呪詛を浴びながら俺らはやっとギルドマスターの部屋に移動したのだった。


 いやーモテる男は辛いっすね。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ギルドマスターの部屋に入ると、そこにはマスター以外に6人の人が居た。誰だろうか? 身なりを見ると冒険者っぽいけど。


「お、来たかフェイト。西の森でブルーウルフとレッドウルフに遭遇したらしいな。それも含めて話というか依頼したいことがある。ちょっと聞いてくれ」


 と、レイモンドからソファーに座るように促されたので、ディアナと二人で座る。


「まだ冒険者に登録したばかりの二人は知らないかもしれないが、こいつらはAランクパーティの風神の斧と、Cランクパーティの紅蓮の剣のメンバーだ。まずは自己紹介でもするか?」


 レイモンドは大ぶりの斧を脇に置くガタイの良い男を見る。その男はおもむろに立ち上がり、


「俺は風神の斧のリーダー、オーランドだ。横にいるのが妻のエレノアと息子のトリスタンだ」


 と、自己紹介した。家族で冒険者やってるのか、エレノアさんは黒髪ショートの魔法使いな感じの出で立ち。お胸さんが素晴らしいですね。思わず拝んでしまいそうだ。トリスタンは俺と同じ位の年だろうか、金髪をちょっと立たせたやんちゃな感じ。武器は槍っぽい。


《オーランドさん貫禄ありますねー》

《ああ、ベテラン冒険者って感じでカッコイイよな。それと、エレノアさんのも貫禄あるな……》

《もう、どこ見て言ってるんですか!》


「けっ、ガキのお守りは御免なんだがな。俺はCランクパーティ紅蓮の剣リーダーのドミニクだ。で、こっちがアーヴィンで、そっちがゴードンだ」


 うわー、典型的なチンピラ冒険者がでてきたな。ドミニクは剣士、アーヴィンはダガーを扱う寡黙な盗賊風な感じ、もうひとりのゴードンは魔法使いかな? ちょっと気弱な子分タイプだ。あと、紅蓮の剣ってどの辺が紅蓮なのかよく分からん。


《やっとテンプレっぽいの来ましたね》

《ほんとだよ。遅いよ》


 さて、次は俺達の番かな。


「あー、俺はフェイトだ。一応魔法使いをやっている。昨日冒険者登録したばかりの初心者なんだけどよろしく頼む」


 俺がそう言うとレイモンドがチッと舌打ちして嫌そうな顔をする。まあ、魔法使いにワンパンで倒されたんだからそうなるわな。腐るなよレイモンド。


「あと、こっちがディアナ。魔法剣士だ」


 っと、急にディアナに視線が集まる。魔法剣士って珍しいのかな? ドミニクってヤローはいやらしい笑みを浮かべているが……こら、俺のディアナに手を出したらただじゃおかねーぞ。


《俺の?》

《いえ、すみません調子に乗ってしまいました》


「ほう、嬢ちゃん魔法も使えるのか?」


 と、あごひげを撫でながらレイモンドがディアナに問いかける。


「え、はい。少しだけなら」


「詠唱を挟むとどうしても剣が止まる。魔法と剣の両立は難しいと思うのだが……、見たところその剣は普通の剣に見えるしな。俺の様に風の魔法を宿した斧なら問題ないのだがな」


 オーランドさんは自分の斧を掲げながら、そうつぶやく。


 なるほどあの斧は風の魔法を付与したマジックアイテムなのか。だからパーティ名が風神の斧なのね。じゃあ紅蓮の剣はどうなのよ? どこが紅蓮なのか教えてドミニクさん。


「まあ、その辺は工夫次第でなんとかなりますよ」


 と俺はお茶を濁す。


「まあいい。これから共に行動するのだ。その時拝見させてもらおう」


 共に行動? どういうことですかね。話が見えないんですが。と、俺が頭の上にハテナマークを浮かべていると。その様子にレイモンドが気付く。


「ああ、そのことなんだがな。実は昨日別のCランク冒険者パーティに、ネバラ村付近にあるというオークの巣の調査に行ってもらったんだが……最近魔物共が活性化しているし、フェイト達が遭遇したファングウルフの亜種、ブルーウルフとレッドウルフの件もある。

 明確な根拠はないのだが、もしかしたらオークの亜種が発生しているかもしれない。そんな予感、胸騒ぎがするんだ。だから、 お前たちにも応援として現地に向かい、できればそのオークの巣を潰して欲しい」


 オークの巣か、オークはEランクの魔物だ。たとえ群れたとしてもCランクの冒険者パーティが遅れを取るとは思えないのだが、確かに亜種や上位種がいれば返り討ちに合う可能性がある。


「これはギルドからの指名依頼だ。成功報酬は一人につき金貨5枚だ。また前金で2枚を払う」


 なるほどな状況は理解した。それにしても成功報酬と合わせて一人金貨7枚。日本円にして70万円か。太っ腹だな。


「合同? ふざけるな。そっちのガキは先日冒険者登録したばかりだろ? こんなペーペーの初心者に足を引っ張られても困るんだがな」


 俺だって嫌だよ。このドミニクってやつさっきからディアナをジロジロ見てるし。なんだってこんなやつに依頼するんだよレイモンド。


 まあ、これは後で聞いた話なんだが、このドミニクは素行の悪さでCランクにとどまっているが実力的にはBクラスなのだそうだ。腕の立つ冒険者がすぐに集まらなかったため仕方なしに選んだらしい。


「そのフェイトの実力は俺が保障する。俺が手も足も出なかったからな」

「は? おっさん耄碌したんじゃないのか?」


 ふーん。意外にもレイモンドのやつ、自分の負けを認めているんだな。これ、マンガとかの受け売りだけど、真の強者とは相手の強さを素直に認めてそれを糧にできる者らしい。元Aランク冒険者の実力と経験は伊達ではないということか。

 口が悪いから誤解されそうだけど、どうやら信の置けそうな人物みたいだな。


 その当のレイモンドは腕を組み、ため息をつきながら。


「……まあ、そのうち嫌でも分かることになる。そいつの規格外の強さにな。ひとまず今日のところはこれで解散。出発は翌朝だ。各自準備して北の城門前に集合してくれ」


 ということで俺達はギルドを後にし、明日に備える事にした。



いきなり指名依頼。ストーリーはテンポ良く進めていきます。

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