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五話 ようやく謁見できました

「そ、そなたが、まお……ではなかったエミリウス王か」


 ……今こいつ魔王って言いそうになったよな?


「はい、お初にお目にかかります。シュテファン=アステローペ王。突然の訪問誠に申し訳なく思っておりますが、どうしても真偽を確かめる必要が御座いましたので」


 とりあえず俺たちは、中庭での騒動の後、謁見の間に殴り込……いや、通され、こうしてアステローペ王と対峙している。


 それにしてもこの王様、年は60歳手前といった所か。豊かな白い顎髭を蓄え、太って体が大きいというわけではないが、独特の威圧感というか貫禄を感じる。頭はものすごくボリュームのある白髪なんだけど、あれ多分かつらじゃないかなぁ。この年であのボリュームはおかしい。


 あと、この場には見知った顔、例の聖女ちゃんと教皇の姿もある。また、当然ながらこの国の役人、貴族や大臣と思しき人物がズラッと雁首揃え、嫌々しそうな目で俺を睨んでいる。


 アステローペ聖教国は宗教国家ではあるが、他の国のように王族がいて、一応国の権力のトップは国王にある。だが、教会のトップである教皇の政治への影響力は大きく、王族と教会の二つの権力者の意見で(まつりごと)を行う様な体制になっているらしい。


「真偽とな?」

「はい、2日ほど前に貴国の使者がやって来まして、いきなり私を魔王呼ばわりするなど、ひどい言いがかりを述べてきたのです」


「う……それは……」

「私を魔王と認定する。これは貴国の総意なのでしょうか? それを確かめにこうして参った次第でございます」


 アステローペ王の耳にも俺の噂が入っているのだろう。レーニアで魔物の群れとレッドドラゴンを破り、ガルディモアで貴族派の大群を寡兵で蹴散らした俺の実力をな。その証拠に声がうわずっている。先程の城門を焼き溶かした事も威圧するにはちょうど良かったのかもな。


「あ、ちなみに。その使者たちは我が国で丁重に持て成し、ちゃんと帰って頂きましたよ。まあ、城を出た後どこに行ったのかは、私の知るところではございませんが」

「…………」


 一応この件についても釘を刺しておこう。使者たちが亡くなっているのが発見されたのは昨日の事。当然まだ聖都にその報せは届いていないはず。


「確かめるも何も。あれは偽物の女神に間違いないじゃないですか! この魔王!」


 と、王同士の会話に割って入る者が一名。うーん……この声は。


 俺が声がした方に目を向けると、やはり聖女エステルの姿があった。そのエステルは周りのシスターらしき者数人に腕などのを抑え込まれているが、それを振り払わんばかりに身を乗り出し、語気を荒げ、俺に対する罵倒を続ける。


「あれが……あんなぺったんこが女神様なわけがありません!」

「がーん!」


 いや、違った。俺への罵倒じゃなくて、アストレイアに対するものだった。


「そんなこと言われてもな。そんなでもこいつが女神なんだからしかたないだろ。な? アストレイア」

「そうですよ! ぺったんこだなんて失礼しちゃいますねー」


「んー、でもな。ぺったんこなのはその通りなんだけどな」

「うわーん。ひどい! 響介さんのばかー」


 「ムキー」とか言いながら両手で俺の胸をポカポカと殴るアストレイア。


(ねえ、フェイト。もうちょっと緊張感持とうよ……)

(念話でもこんなやり取りしてるのかしら……)


 小声で苦言を漏らすディアナとレティシア。


「ふ……ふざけないでください!」


 俺とアストレイアの緊張感皆無のやり取りに聖女ちゃんが怒りの声を上げる。


(あー、やっぱり怒られちゃったわねぇ)

(主殿も真面目にやってもらいたいものなのだが……)


 ドラゴニュートの二人も小声で愚痴る。が、俺とアストレイアに緊張感を求められても少々困るんだけど……でも、たしかにこれでは話が全然前に進まないなぁ。


「なぁ、エステルちゃん。多分あの女神像と姿が違うから偽物だって言ってるんだと思うけど、あの象はアストレイアがちょっと背伸びして、サバ読んでああなっちゃったわけなんだから、少しくらいは大目に見てやってよ。君も女の子なんだからわかるでしょ?」


「き、気安く話しかけないでください!」


 聖女エステルはもう完全に怒り心頭といった感じで、顔を真赤にしてふーふー言ってる。


「うーむ、しかたない。アストレイア。何かお前が女神だと証明できるものとかないのか?」

「んー、そうですねぇ。なにかあったかなぁ」


 アストレイアは顎に手を当て、頭の中の記憶を探る。


「たとえば、聖女とアストレイアしか知らないものとかない?」

「あ、それならありますよ! 私は聖女ちゃんが幼いころに聖女として見初めたので、聖女ちゃんのことならなんでも知ってますよ」


 ポンっと手打ち、自信満々に薄い胸を張るアストレイア。


「ふむふむ。例えば?」

「そうですねー。聖女ちゃんは家族や、ごく一部の関係者以外には秘密にしているみたいだけど……聖女の証である聖痕が右のおしりにあるとか」


「!?」


 エステルの顔が一瞬で紅潮する。思わず反射的にお尻を押さえているし……これは当たりなのか?

 というか、よりによってなんてところに聖痕付けてんだよこの堕女神が!


「他には……」

「……まだ何かあるのか」


 俺が呆れ顔でアストレイアを見るが、本人はためらうこと無く続ける。


「10歳位までおねしょしてたりとか、あと、初恋は7歳の時、相手は神父の息子さんだったのよねー。結構オマセさんだったり。あ、それと初潮があったのは11歳の――」

「うわああああぁぁぁぁぁ!!!」


 聖女の悲痛な叫び声が謁見の間にこだまする。

 あぁ……聖女と祭り上げられていも所詮は人の子。ちゃんと女の子してたんですねぇ……。


 というかアストレイア。お前容赦ないな。アステローペ王も教皇も、他の者達も言葉を失い、ただボー然と俺たちの様子を眺めている。


「ふん。これぐらいで音を上げるとは。聖女としての修行が足りませんね」

「そういう問題かよ!」

「いたっ!」


 俺はアストレイアの頭にチョップをお見舞いする。

 俺も昔やられたけど、こいつ人の弱みを握って仕掛けるタイプなんだな。……おそらくぺったんこって言われたこと根に持ってやがるな。


「や、やっぱり……。こんな失礼な人が女神様なわけがありません!」

「でもアストレイアが言っていたお前の秘密は本当だったんだろ? 女神しか知り得ない情報っぽいんだけど」


「そ、それは……関係ありません!!」


 もはや聖女にあるまじき鬼の形相でこちらを睨むエステルちゃん。


「むー、取り付く島もないな。どうするよこれ?」

「誰のせいですか誰の!」

「もー二人とも、まともに交渉する気はあるの?」

「さすがにあれは怒ると思うぜ」


 うむ、これはやっぱり俺のせいか。ちょっと調子に乗り過ぎちまったい。


 俺はここでちらりと教皇とアステローペ王に目をやる。ずっと黙って見ているけど、両者ともかなり渋い顔をしている。

 俺とアストレイアは一見アホみたいなやり取りをしている様に見えて、実は色々探りを入れているのだ。だが、今のところ邪気……のようなものは感じられない。油断して尻尾を出してくれればよかったんだけど……。


 この謁見の間にいる人物の中に、使徒はいないように思える。


 でもな、サーチで探ってると、この謁見の間の奥に、先程から殺気をビンビン飛ばしてくるヤツがいるんだよな……。

次回の更新は1/13(土)の予定です。

ただストックが心許なくなってきたため、更新間隔が空いてしまうかもしれません。……ご容赦お願い致します。

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