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四話 聖都モンブロア

すみませんちょっと、更新遅れてしまいました。


「そろそろモンブロアが見えてくるころか……」


 俺は眠い目をこすりながら窓の下に広がる地平線から顔を覗かせる都市を見やる。

 朝日に照らされた聖都に鎮座する神殿がキラキラとその光を反射している。


 しかし、この高速モード。速いのはいいんだが、結構魔力を食う。宝石に蓄えた魔力だけでは推力を維持できないので、俺が魔力を供給していた。


 だから少々眠い。


 定期船は出力を抑えるなどの工夫が必要だな。


「カレナリエン、そろそろ高度を下げよう」

「りょうかーい」

「おー」


 夜の間はカレナリエンとアストレイアと俺で交代で操舵士をしていた。アストレイアはこういうのにある程度の知識はあるからやらせてみた。

 立ってるものは女神でも使えだ。


 まあ、俺は寝ている間も魔力を吸われていたんだけどね。


「まさに社畜の鑑ですねー」

「あのな。アストレイア、お前な……」


 もはやツッコミを入れる気力もない俺が呆れ顔でアストレイアを見ていると……。


「師匠、シャチクってなに?」


 と、社畜というキーワードに反応したカレナリエンが興味深そうにこちらを見ている。


「いや、別に知らなくていいから」

「うう……そう言われると余計気になる」


 というか、カレナリエン。お前は社畜適正十二分にあると思うぞ? この飛行船作るのにも何日徹夜したか分からないし。


「まあ、わかりやすく言えば、研究の虫ってところかな」

「ふーん。研究に没頭して寝食を忘れるみたいなのをシャチクって言うのね」


 うーん。まあ、当たらずとも遠からずって感じだけど……まあ、いいか。

 抜け道がない分だけ社畜の方が過酷だけどな。


「とりあえず特に運行に問題はなかったな」

「そうね。ちょっと燃費が悪いことを除けばね」


「まあな、定期船で使う場合はもう少しバルーン部分を大きくして、浮力を稼いだ方がいいかもな」

「うーん、まあ。それが無難かもね。でも大型になると運用が難しくなるけどね」


「んなこと言っても、定期船が魔力《ガス》欠で墜落なんてシャレにならないだろ」

「まあ、そうなんだけどね」


 やや不満げな表情を見せるカレナリエン。

 さて、まだちょっとダルいけどみんなを起こそうかね。


 ちなみにこの飛行船は試作機ということも有り、寝室のような部屋は用意できていない。というわけで、みんな寝袋で雑魚寝状態である。


 まあ、結構突貫で作ってる部分があるからな……。この居住スペースだってソファーが並べて置かれてあるだけだし、飛行時の快適性も考慮しなければならないな。


「おーい。みんな起きろ。聖都が見えてきたぞ」

「へ? もう着いたのか」


「ああ、もう1時間もすれば着くんじゃないか」

「……本当にたった一日で着くなんて……信じられませんわ」


 寝袋からぞろぞろと出てきたみんなは、窓の外に広がる景色を見てポカーンと口を開けて突っ立っているのだが、


「お前ら、その格好で地上に降りていいの? 顔ぐらい洗えよ」

「「「「!?」」」」


 寝起きのこいつらの格好はというと、まあ……寝癖とか色々すごいことになっているわけで。俺が一声かけると蜘蛛の子を散らすように自分の荷物に向かって移動し、身支度を整えはじめた。


 さて、いよいよ勇者様とのご対面だな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「うーん……どこに着陸しようか……」


 この飛行船、小型化したとはいえ、全長50メートル程あるわけで……。ホイホイとどこにでも着陸できるわけではない。


「魔法ぶっ放して平らにすればいいんじゃない?」

「アホか。そんなことしたら心象最悪じゃないか。俺はあくまで魔王の濡れ衣をかけれられた女神の使徒なんだからな」


「先程までノリノリで魔王やってたではないか」

「だからといって余計な犠牲や被害を出すわけにはいかんだろ」


 なんだよこの物騒なドラゴンコンビは。


 それにしても聖都モンブロア。一国の首都だけあってかなり町に賑わいが感じられる。聖都をぐるっと囲む城壁内には建物がぎっしりと詰まっていてスペースがない。

 こりゃ着陸させるとしたら郊外に行かなきゃダメだな


「カレナリエン、悪いけど……」

「はぁ……師匠。言わなくてもわかるわ。私がお留守番して飛行船を浮かばせてるから、みんなで行ってきて」


 すまんなカレナリエン。でもこれ頼めるのお前しかいないし。


「とりあえず、あの王宮の中庭の上に移動しよう。そこから下に飛び降りる」


 高さにして10メートルくらい? 俺やエレメンタラー、ドラゴニュートの二人は大丈夫だと思うが、アストレイアとレティシアは無理そうだな。


「シグルーン。アストレイアを抱えて飛べるか?」

「ええ、任せてちょうだい」


「じゃあ、というわけで俺は……」


 俺はレティシアの方をちらりと見やる。その意を察したのかレティシアの顔が赤くなる。というか、もう夫婦になって3ヶ月以上は経ったんだからいい加減照れないで欲しい。


「レティシア、行けるか?」

「え、ええ……わかりましたわ」


 照れと緊張が入り交じった複雑な表情を見せるレティシア。普段強気な姿を見ているだけに結構新鮮。これはいわゆるギャップ萌えというやつか。


 その後ろで少々物欲しそうな顔でこちらを見ているディアナの姿も見逃さない。そういや、トルカナ村が魔物の群れに襲われた時、ディアナをお姫様抱っこした事があったなぁ。


 そんなこんなで飛行船は城壁を越え、聖都に侵入する。


 城壁を越える時、兵士たちが騒いでいるのが見えた。中には矢を射掛けてくる者もいたが、飛行船までは届かない。たとえ当たったとしてもプロテクションをかけているから余裕で弾けるだろう。


 エレーナが「あれ、殺っていい?」みたいな視線を向けてくるが、首を横に振って制しておいた。




 程なくして王宮の中庭上空に到着する。


「おお、随分豪華なお出迎えだな」


 王宮に詰めていたと思われる兵士たちがワラワラと出てきて、俺達が降下する地点をぐるっと取り囲むように輪になっていく。


「はぁ……余裕だなフェイト」

「まあな、なんせ俺魔王だから」


「けっ、言ってろ」


「さて、カレナリエン。俺達が降下したら安全な高度まで上昇してそこで待機しててくれ」

「りょーかい。ドア開くね」


「え? もう行くの? ちょっと心の準備が……」


 ディアナよ。ここで怖気づかれてもな。まあ、仕方ない。

 俺はディアナの隣に移動し、その腰に腕を回す。


「キャッ! ちょ……フェイト」


 そんでもって、レティシアも同様に抱え込む。


「えっ? フェイト様、二人同時に!?」

「よっしゃ、行くぞカレナリエン!」


「あいあいさー」


 カレナリエンが開け放ったドアに飛び込む俺。


「「…………!?」」


 声にならない悲鳴を上げる両脇に抱えたお姫様二人。

 そのまま俺は自由落下の末に、地上スレスレで風魔法で上昇気流を起こし、ふわりと王宮の中庭に着地する。


 続いて飛び降りてきたシグルーン、リディル、エレーナが同様にスタスタと着地。その後、豪快にズシンと派手な音を立てて着地するトリスタン。


「トリスタンうるさい。もっと静かに着地して」

「しかたねーだろ。俺は風が苦手なんだ」


 地面にめり込んだ足を引っこ抜きながら、エレーナに抗議するトリスタン。まあ、こいつは【プロテクション】かけてるからこの程度で怪我をすることはないだろうけど、もっとスマートにできんのかね。


「あの……ちょっと、フェイト?」

「おっと、失礼」


 いけないいけない。両脇にお姫様を抱えてたの忘れてたぜ。


「…………」


 レティシアはまだ放心状態。まあ、20メートルの高さからのダイブだから仕方ないのかもしれない。気を失ってないだけでも大したもんだ。

 アストレイアの方も大丈夫みたいだ。まあ、曲がりなりにも女神様だからな。


「さてっと……これどうするかな」


 中庭に着地した俺たちに槍を構えた状態でぐるっと取り囲み、警戒の眼差しを向けてくる王宮の兵士たち。

 しばらく時が凍りついたかのような静かな、緊迫した間が経過したのち……


「あ、怪しい奴らめ。貴様らは何者だ!?」


 やっと、この兵士たちの上官と思しき者が、俺に問いかけてくる。


「何者だって? お前らもよく知っているハズなんだけどなぁ」

「と、とぼけるな!? ええい、構わん。者共こいつらを取り押さえろ!」


「「「おお!」」」


 上官の号令に応じ、兵士たちが槍を向けて突進してくる。トリスタンとエレーナがそれを迎え撃つべく武器を構えようとしたが、俺はそれを手で制して……


「下がれ、下郎が!」


 風魔法の応用で、俺達を中心に突風を発生させ、迫り来る兵士たちを弾き飛ばす。俺の風魔法を受けた木っ端兵士どもは、中庭の端ほどまで吹き飛ばされて、うめき声をあげて転がっている。


「うう……これはなんだ」

「がはっ、まさか魔法?」

「詠唱する素振りなどまったくなかったぞ……」

「足が……足がぁ」


 先程の魔法は吹き飛ばすことが目的であったため、殺傷能力は押さえている。多少打撲や骨折なんかはあるかもしれないが、皆命に別状はないはずだ。ここで全員切り刻んじゃったら完全に悪魔だもんね。


「おい」

「え? ひ……ひぃぃぃ」


 俺はわざと吹き飛ばさなかった上官の下に近づき声をかける。


「俺はエミリウス王国の王、フェイト。お前たちが勝手に魔王と呼んでいる者だ。早速だが、お前たちの王にお目通り願えないだろうか?」


 ん? あれ? 返事がない。


「おい、フェイト。そいつもう失神してるぞ?」


 え? マジで? ったくだらしねーなぁ。

 

 しかしそれから待てど暮せど、城から誰か出てくる様子はない。ただ兵士たちが遠巻きに俺たちを取り囲んでいるだけだ。

 さっさと王様にお目通り願いたいんだけどな。


 俺が兵士に視線を向けると、ビクッとして後退る。声をかけると逃げてしまう……。

 そんなに俺が怖いのか? 誰か案内して欲しいんだけど……。


「このままでは埒が明かないな」


 痺れを切らした俺は城門に向かって歩を進める。その俺の急な行動に驚いた兵士たちは、ささっと左右に分かれて道を開ける。


 まるでモーゼだな……。


 俺はそのまま城門まで歩いていき、閉まった鉄製の門に手をつき、魔力をこめる。イメージするのは原子、分子の熱振動。

 すると鉄の門は赤く赤熱し、あっという間に溶けて崩れ落ちてしまった。まあ、俺の魔力を持ってすればこれくらい容易いものだ。


「さて、門が開いたな。行こうか」


 俺はトリスタン、ディアナたちに目配せ、合図する。


「お、おう!」


 俺の強大な魔力に恐れおののき、腰を抜かす兵士達を尻目に、皆を連れだって城に向かって堂々と歩いていく。

 もしかしなくても今の俺って魔王っぽいのだろうか……。



次回の更新は1/10(水)を予定しています。

よろしくお願いします。

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