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二話 恐怖の大王

「で、でけぇ!」

「こ、これは……すごいですわね」

「地下でこんなものを作っていたなんて……」

「さすがフェイト、いい仕事してる」

「これが本当に飛ぶのぉ?」

「うむ。だが翼が見当たらんのだが……」

「城を魔改造しすぎだ……」


 とりあえず皆に地下の研究施設で作っていた飛行船のお披露目をしてみたのだが……みな三者三様の感嘆の声をあげている。


 ……若干一名呆れているのがいるが……まあ、それはひとまず置いといて。


 地球にあった飛行船は、全長が200m前後とかなり巨大なものだったと記憶している。まあ、それはヘリウムガスのみで浮力を得るために巨大にならざるを得なかったわけなのだが、ここは異世界だ。

 科学だけではなくて、魔法の力を借りることができるので、風の魔法によって浮力を得て、大型の推進装置も風魔法で代用し、徹底的に軽量化を図ったのだ。


 それで今回開発した飛行船は50mにも満たない小型のものに収めることができた。小型だけど15人くらいは搭乗可能だと思う。


 風魔法で飛べるなら普通に飛行機でいいじゃないかと思われるかもしれないが、風魔法オンリーだと機体を安定させる事が非常に難しく、かなりの危険を伴う。


 また、離着陸にそれなりの滑走、着陸距離が必要となってしまうのであまり実用的ではない。それに、燃費が非常に悪く、魔力をかなり消費してしまう……などなど課題があまりに多すぎたために断念した。

 要は機体の安定性を得るのと、垂直の離着陸を容易にするための飛行船形状というわけだ。


 ゆくゆくは王都と各辺境伯領を結ぶ、定期船を就航させたいと考えている。

 定期船の製造はまだこれからだとして、栄えあるこの一号機は俺専用の機体というわけで、さしずめ大統領専用機、エアフォースワンといったところだろうか。


「どうだカレナリエン。飛べそうか?」

「うん。調整はバッチリよ。いつでも行ける」


 魔導研究者というよりは完全にメカニックっぽくなってしまったカレナリエン。でも、飛行船に機構部分はほとんど無いので、白衣がオイルなどに汚れたりはしていない。

 調整というのは風魔法の出力の調整のことだ。


 ちなみにローミオンはギルドマスターとしての仕事があるので、たまにしか顔を出せてない。相変わらずカレナリエンばっかりずるいとか、文句ばかりで鬱陶しい。


「そうか、じゃあ。明日にでも出発するか」

「別に出れなくはないけど、なんでそんなに急いでるの?」


「帝国の動きがなにやらきな臭いし、のんびりしていたら勇者様と入れ違いになってしまうからな」

「ふーん。いまいちよく分からないけど、師匠にも色々と事情があるのね」


 まあな。他にも国内に不穏な動きがあるし。


「というわけで出発は明日だ。みんな準備よろしく」


 と、『明日ピクニックに行くぞ』とでも言わんばかりの軽さで皆に声をかける俺。


「相変わらず唐突ね……」

「まったくですわね」


 当然呆れる嫁二人。


「でも、準備っていっても何をするんだ? この飛行船に兵士は乗れないよな? もしかして俺達だけで乗り込むのか?」

「ああ、我が王国最強の冒険者パーティ『エレメンタラー』が聖都モンブロアに乗り込んで、直接勇者とその背後に居る邪神の使徒を叩く。どうだ? 効率的だろ?」


 これ以上にシンプルで効率的な作戦はないと思うんだけどな。


「あ、いや。確かに効率的かもしれないけど……王自らが乗り込んでいいのか?」

「なにか問題ある?」


 あくまで真顔で平然と答える俺に、トリスタンはタジタジになる。


「まあ、そうだな……お前がやられる姿とか想像できねーや」


 相手が事を起こす前に、こちらの持ちうる最大の武器で圧倒し、潰す。近代戦闘の基本だよな。


「お前も戦うんだよ。しっかり護衛頼むぞ」


 俺はトリスタンの胸を右手の甲で軽くトントンと叩く。


「お、おう。わかってるって」


 にわかにトリスタンの表情に緊張の色が見え始める。ちょっと最近実戦から離れてるけどしっかりしてくれよ。


「乗り込むのは『エレメンタラー』のメンバーだけですの?」

「ああ、それと先方との交渉を優位に運ぶために、アストレイアとドラゴンたちを連れて行く。悪いけどレティシアは王都に残っていてくれ。敵地に乗り込むわけだから、危険すぎる」


 まあ、ドラゴンたちは交渉要員というか、脅し要員とも言えるが……。まあ、これは最後の手段だ。


 でもこれでレティシアが大人しく引き下がってくれればいいんだけど……そんなわけないよな。わかり易いくらいに「わたくしも行きますわ」って顔に書いてある。


「それはお断りしますわ」

「……理由を聞いてもいいか?」


「ええ……前回の使徒との戦いで、わたくしはフェイト様の足を引っぱってしまいました。あの時の汚名を返上する機会を与えてくれませんか?」


 前回のって……レティシアがダンテにさらわれた事か。でもあれは俺の落ち度だったのだが。


「あれは俺の油断が招いたことだ。レティシアが責任を感じる必要なんてどこにもないんじゃないのか」

「いえ、あれはわたくしの失態ですわ。あの日不用意に屋敷の外にでさえしなければ、あんなことには……」


 それでも引き下がるつもりはないといった様子で俺をまっすぐ見つめてくるレティシア。


「はぁ……わかったよ。でもどうやって汚名を返上するつもりなんだ?」

「フェイト様は勇者を倒し、邪神の使徒を退けた後、聖教国とどのように和平の交渉を進めるつもりですか? まさか聖教国まで潰そうとはお考えになってませんよね?」


「聖教国は帝国に迫られ、邪神の使徒の口車に乗ってしまっただけだ。まあ、たとえ仕方がなかったとはいえ、俺の国に弓を引いた事実は消えはしないんだけど、俺の目的はあくまで邪神を倒すこと。この世界の覇者になろうってわけじゃないから、別に聖教国を潰そうとは考えていない」


 共に邪神と戦うというのなら許すつもりだ。まあ、一部腐った部分は取り除く必要があるかもしれないけどな。


「その時の交渉をわたくしにおまかせ頂けませんか?」

「うーん。なるほど、そういうことか……」


 物理的な力ではなく、言論で戦うということか。確かにその部分は、俺より政治的な駆け引きを知っているレティシアに分があるかもしれないな。

 レティシアの事は今度こそ俺が守ってやればいいだけか。


「でもな。それはある意味、剣で戦うよりも苦しい戦いになるかもしれないぞ?」

「覚悟はできていますわ」


「まあ、そんなに気負う必要もない。レティシア一人を矢面に立たせようなんてことは考えてない。その時は俺も一緒だ」


 とりあえず事前にアリスンさんやドミニクに頼んで、あちらさんの弱みを探らせておこう。誰にでも手が後ろに回ってしまうような事の一つや二つくらいあるよね?


《後ろに手が回っちゃう事、響介さんなら両手の指だけじゃ足りないかもですね》

《いや、俺にそんなやましいことなんてあるはずが……》


 相変わらず俺の思考にツッコミを入れてくるアストレイア。


「じゃあ、あと私も行くー」

「って、カレナリエンも?」


「こいつを調整した私が行かなくて誰が行くのよ? これは運行テストも兼ねてるんだからね」

「そうだな……。こいつのメンテナンスとか任せっきりにしちゃったからな」


「うん。じゃあ決まりね。って、もうそろそろ『こいつ』とか『飛行船』って呼ぶのもなんだし、これに名前つけて欲しいんだけど」

「名前……名前か……そうだな」


 そういや名前全然考えてなかった。ここは一発、かっこいい名前をつけてやりたいところなんだが……。


「名前って俺がつけるのか?」

「師匠が付けなくて誰がつけるのよ」


 やっぱそうなりますよね~。でも、いきなり言われてもなぁ。


「うーん。なんかいい名前はないものか……」


 みなの目が俺に注がれる。そんなに注目されると名付けのハードル上がっちゃうんですが……。

 そうだな……今の俺は魔王って呼ばれてるわけだし、そんな俺が空から聖教国にやって来るんだから。


「アンゴルモア号でどうだ?」


「アンゴルモア? なんかおどろおどろしい感じがするけど悪くはないわね」

「でもちょっとかっこいいかもな」

「フェイトが決めたんなら、まあそれでいいかな」

「なんか強そうでいい」


 うーむ。とりあえず言ってみただけだったんだが、みんなには意外に好評だった。だが……。


「響介さ~ん! ちょっとそれは縁起悪くないですか?」


 このメンツの中で唯一ネタを知っているアストレイアが俺に抗議の声をあげる。チッ、鬱陶しいやつめ。


「アストレイア様? この名前、何か意味があるんですの?」

「まあ、響介さんの悪ふざけですね」


「俺は皮肉が効いてて良いと思うんだけどな。どうせ聖教国のやつらは意味わからないと思うし」


 せっかくだから魔王やってやろうじゃねーの。

 それと勇者様に対する当てつけだよ。地球人ならこのネタくらい知っているだろう。皮肉られて怒りに震えるその面を拝んでやろうじゃないか。

次回の更新は1/6(土)を予定しています。

よろしくお願いします。

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