六話 冒険者登録
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ありがとうございます。
「はいっ! これがギルドカードです。紛失すると再発行に金貨1枚が必要なるので、なくさないように気をつけてください」
アリスンさんはそう言って、Dランクと書かれたカードを俺とディアナに渡す。
「わ、私もDランクでいいの?」
「はい、ギルドマスターからそう聞いています」
まあ、ディアナはオーガと一対一で戦って圧倒できるからな。Dランク以上の実力は確実にある。俺としてもディアナと同じランクの依頼を受けられるから都合がいい。
ちなみにギルドランクはFからSまでの7段階ある。目安としては、Cがベテラン、Bが一流、Aがその国を代表する冒険者、Sは英雄クラスだ。Dランクはいっぱしの冒険者として実力が認められるくらいのランクなので、ディアナの戸惑いも分からないでもない。
また、魔物のランクはギルドランクとは全く別物の基準なので、Aランクの冒険者がAランクの魔物と同等というわけではない。
あと、ここにきてやっと通貨の話が出てきたが、この世界の通貨は白金貨、金貨、銀貨、大銅貨、銅貨、銭貨があり、1白金貨=10金貨、1金貨=10銀貨、1銀貨=10大銅貨、1大銅貨=10銅貨、1銅貨=10銭貨となる。だいたい日本円の価値にして1銅貨=100円くらいだ。したがって、銀貨は1万円、金貨は10万円、白金貨は一枚で100万円の価値ということになる。
「あ、そうだ、ところでギルドマスターってあの後、大丈夫でしたか?」
「はい、回復魔法で怪我は治療しましたので身体的には問題ありません。でも精神的なダメージが大きいみたいです」
苦笑いするアリスンさん。すまんなレイモンド。でもお前から売ってきた喧嘩だったんだからな。文句言われても知らんぞ。
「それにしてもフェイトさんすごいですね。あのギルドマスターを一撃で倒しちゃんですから。期待の大型新人ですよ。担当の私も鼻が高いです」
えへん、と胸を張るアリスンさん。
え? 担当とか付いちゃうの? なにそれ、聞いてないよ? これもギルドマスターの計らいだとしたらグッジョブと言わざるを得ない。
ちなみにアリスンさんは犬耳サイドポニーの可愛らしい獣人さんだ。後ろでフサフサしたしっぽが揺れている。これは是非ともふもふさせて頂かねば。
「あ、アリスンずるい。最初に受付したからって私のフェイトくんを取らないで」
え? 私のってどゆこと?
「何を言っているのハンナ。あなたは関係ないでしょう。ちゃんと自分の仕事して下さいね」
ハンナと呼ばれたもう一人の獣人受付嬢さんは、猫耳ショートカットの活発そうな子だ。服装もへそ出しホットパンツで結構きわどい。さらにお胸も結構なものをお持ちでございます。というか、ギルドの受付嬢って服装自由なんですかね?
ああ……それよりも後ろにいるディアナさんの視線が痛い。ゴゴゴとか効果音をたてながら黒いオーラでも出てそうだ。完全に怒ってらっしゃる。
俺は怖くて後ろを振り向けない。でもね、これ俺全然悪くないよね?
《強いて言えば日頃の行いですかね?》
《あー、うん。それはちょっと否定できないかもな》
もうやめてくれないかな? という俺の願いも虚しく、二人のバトルはヒートアップしていく。
「私はちゃんとギルドマスターからフェイトさんの面倒をみてくれと頼まれたんですからね?」
「それは無効よ。私が先に目をつけてたんだから」
バチバチと火花を散らす受付嬢の二人。このただならぬ雰囲気を察知し、ギルド内がにわかにざわつき始めた。
「な、なんだあの新人のガキ。あんなかわいい彼女が居るのに、俺らのアイドル、アリスンちゃんとハンナちゃんにまで手を出そうってのか」
「なんたる悪魔の如き所業! たとえ天が許してもこの俺が許さん!」
「ちょっと強いからって調子に乗りやがって」
一部の冒険者が血の涙を流しながら俺に呪詛を投げかけてくる。いや、だから俺は何もしてねーって。
「フェイト?」
不意に後ろから生気のない声で呼ばれた。
「は、はい。なんでございましょうディアナさん」
俺は油の切れたロボットの如くギギギと音を立てる様に後ろを振り向く。
「すごいね。モテモテだね。今どんな気持ち? 嬉しい?」
ヤバイ。顔は笑ってるが目が全然笑ってない。ディアナってもしかしてヤンデレさん?
というかなんで冒険者登録するだけでこんなことになるんだよ?
今日さっそく依頼を見ようかと思ったけどそれどころじゃないな。疲れた。今日はもう帰ろう。
《このままハーレムルートに突入ですか?》
《いや、それだとディアナに殺される未来しか見えない》
俺はディアナの機嫌を取りながら仮設テントに帰るのだった……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、俺はディアナと二人でギルドに向かう。領主への報告の件はオスカーさんとトビーが対応してくれるそうなので、遠慮なく冒険者させてもらおうと思う。
ふわ……。あくびが出る。実は昨日あまり眠れなかった。明日は冒険者としての初仕事ということで、恥ずかしながら少し興奮してなかなか寝付けなかったのだ。ディアナはどうだろうか? チラっとディアナを見る。ディアナはその視線に気づき微笑み返してきた。
「ディアナ。昨日は眠れた? 俺あんま眠れなかった」
「ふふ……、そうね。小さい頃からの夢だった冒険者にやっとなれたから、嬉しくて私もあまり眠れなかったわ。(……フェイトと一緒だしね)」
「そうだな。遅くなったけどおめでとうディアナ」
ディアナの最後のつぶやきは聞こえていないフリをした。俺はちゃんと空気が読める紳士なのだ。
「ありがとうフェイト。フェイトもすごいよね。いきなりギルドマスターを倒しちゃうんだもの。しかも一撃で、あれどうやったの?」
「んーあれな。無詠唱マスターすれば、ディアナでもできると思うぞ」
力を強化する【リーンフォース】と速さを引き上げる【アクセラレート】は、詠唱ありだと実戦では使いにくい。それに詠唱と魔法陣の影響で強化の上限にキャップができてしまう。だから、魔法の真の効果が発揮できないのだ。
「え? ほんとに?」
「ああ、実際俺がそうだから間違いない。ところで魔力操作の練習はやってる?」
「うん。毎日やってるよ」
「それなら大丈夫だな。冒険者の依頼をこなしながら特訓していこうか」
「うん。フェイト先生お願いします!」
二人で話しながら歩いているとギルドの前に着いた。……しかし昨日のあんなことがあったせいでちょっと入るのが躊躇われる。意を決して中に入ると、ギルド内は冒険者でごった返していた。ちょうど朝のピークなのかな?
で、やはりというか、やたらと俺達に視線が集中している様な気がする。はぁ、ちょっと悪目立ちしすぎたか。さて、どうしたものかと思案していると。アリスンさんがこちらに気づいて手を振ってきた。
「フェイトさ~ん。こっちですこっち」
と言いながら、アリスンさんはカウンターの上に『このカウンターの受け付けは終了しました。他の受付にお回りください』と書かれたボードを置いた。
「すみませ~ん。今ここは受付できないので他のところに回って下さ~い」
そう言ってアリスンさんは目の前に並んでいた3~4人の冒険者を別の受付の列に誘導しようとする。
その冒険者たちは当然文句を言っていたのだが、最後はアリスンさんに睨まれて渋々別の受付の列に並んだ。
「はい、フェイトさんこちらにどうぞ」
え? いいのこれ? 他の冒険者たちがめっちゃ睨んできてるんですけど? 気持ちは嬉しんだけどもうこれ以上悪目立ちさせないでくれませんかね? ディアナの視線も痛いし。
「えっと、アリスンさん。さっき他の冒険者も並んでたよね? 待つのは問題ないから普通に対応してくれませんか?」
「ダメですよ。フェイトさんは期待の新人さんなんですから。担当の私がしっかりと対応しなければならないんです」
「いや、でもさすがに一部の冒険者を優遇するのはマズイんじゃないですか? ギルドに苦情が来ますよ?」
「文句があるのならそれなりの実力を示せばいいだけの話です。力のある者が優遇されるのは当然のことですよね」
何がおかしいの? って顔であっけらかんと話すアリスンさん。
完全な実力主義。この世界に地球の常識を当てはめる方が間違っているのだろうか。他の冒険者も不満そうな顔をしているがこちらに文句は言ってこない。まあ、ここは腹を括ろうか。郷に入れば郷に従えだ。
「はぁ。まあいいか。さっそくですが依頼を受けようと思っているんですけど。何か適当なものはないですか? できれば討伐系をお願いしたいんですが」
「わかりました。あ、これなんか手頃かもしれませんよ? ここから馬で二時間ほど行ったところにある森でのファングウルフ十匹の討伐です。成功報酬は銀貨2枚です。ファングウルフの討伐証明部位は牙ですのでちゃんと持ち帰ってくださいね。あ、牙は左右両方必要ですよ」
ファングウルフはEランクの魔物だ。群れるとDランク扱いとなるが、まあ俺とディアナなら問題ないな。
「じゃあ、それでお願いします。ディアナもそれでいい?」
「うん。大丈夫。フェイトに任せるよ」
決まりかな。
「はい、受理手続き完了しました。あ、ゴブリンとかコボルト、オークは常時討伐対象の魔物ですので、もし見かけたら殺っちゃってください。討伐部位をお持ちいただければギルドから討伐報酬をお支払いします」
殺っちゃってって……見かけによらず結構言葉使いが物騒だよなアリスンさん。
「ありがとう。アリスンさん。ではさっそく行ってきます」
「はい、フェイトさんディアナさんお気をつけて」
俺たちはギルドを出て、ファングウルフがいる森に向かうことにした。
アリスンさん強し…




