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堕女神の願い 叶えなきゃダメですか?  作者: 基山 和裕
七章 聖教国からの使者
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九話 ここほれワンワン

「おおー、これは風が気持ちいいな」


 今俺達はドラゴン形態のリディルの背に乗り、金鉱脈があると思しき場所に向けて飛行している。しかしこうして空から見ると王都周辺の様子がよく分かるな。


 王都アクスレイは城壁が無いため無防備ではあるんだけど、城壁による縛りが無いため、開発の自由度が高いのが利点だ。


 まだまだ、発展の余地はありそうに見える。


 それにしても街道を行く人、畑で農作業をしている農家の人が、その足、手を止め、俺達の方を指差して何やら騒いでいる様子が見える。まずったかな?


 もう少し高高度を飛べば良かったのかもしれないが、この図体だから、どっちみち見えてしまうと思う。あまりに高くなりすぎると寒いし。


「響介さん。随分地上が騒がしいですよ。大丈夫ですかね」

「王都にドラゴンが居ることはもう周知の事実なんだから、もう堂々と見せればいいんじゃね? ドラゴンの住まう都市、みたいな感じで観光客呼べるかもしれないよ」


《響介殿、開き直りおったな》

「私達を見世物にはしないで欲しいわねぇ」


 二人のドラゴンからツッコミを受けてしまう。


「う……そうだな。ドラゴン饅頭みたいなお土産品を販売するくらいに留めておくよ」

「それでも何かやるんですね……」


 アストレイアは呆れ顔だが、こういうのは目聡くやっておくべきじゃないかな。ドラゴンに対する親密度も増すだろうし。


「ところでフェイトくん。集めるのは金だけでいいの?」

「ん? 金だけってどういうこと?」


 他にもなにかあるのか?


「私は金よりもこっちの方が好きだから、暇な時探してたのよねぇ」


 と、シグルーンは手に持っていた緑がかった石を俺に見せる。


「これってもしかして、エメラルドの原石か?」

「そうそう。これきれいよねぇ」


 ふむ、宝石も希少価値のあるものは金よりも高値で取引されるし、今回大量の金を発掘し、流通量が増えればそれだけ金自体の価値が落ちてしまう。だから、宝石で蓄財しておくのは悪い事ではない。それに……


「もしかしてエメラルドみたいな宝石が大量にある所知ってる?」

「うん。知ってるわよぉ。私のとっておきの場所があるわ」


 俺は心の中でガッツポーズをする。宝石は地球でもその希少性と美しさから、高い価値を持っているが、この異世界での宝石は、ただ着飾る装飾以外でも利用価値があるのだ。


 カレナリエンの研究室の文献を読んでいて知ったのだが、宝石はどういうわけか他の鉱石と比べて魔力、魔素との親和性が高く、周囲の魔素を集めて、内部に大量の魔力を蓄えることが可能なのだ。


 だが、宝石は高価なので、魔道具に組み込むのはもったいない。だから、これまで魔力回路で代用していたのだが、それだといまいち効率が上がらず、出力を上げるとすぐに魔力が枯渇してしまうのだ。


 もし、宝石をふんだんに使うことができれば、ゴーレムの活動時間を大幅に拡大することができるし、魔力操作ができない者も、トリスタン達に渡した魔法武器に近いモノが扱えるようになるかもしれない。


 ふむ。これは我軍の戦力を大幅に強化できるチャンスではないか?


「シグルーン、でかした! 後でいいからそのとっておきの場所に案内してくれないか?」

「それはいいんだけどぉ。その代わり後で美味しい物奢ってよね」


「ああ、それくらいならお安い御用だ」

《響介殿、妾もうまい酒を所望する》


 ぐ……リディルもちゃっかり便乗してきやがった。


「分かったよ。じゃあ二人まとめて面倒見てやるよ。……それとアストレイアもな」

「え? ほんと? やったぁ。さすが響介さん。私の事分かってますねー」


 ……あれだけすぐ隣で『私も! 私も!』みたいな目で訴えてきたら誰でも気付くって。まあ、アストレイアはともかく、二人のドラゴンにはこれから世話になると思うので、友好の印としてこういうのも良いかもしれない。


「うう……前言撤回! 私はともかくってどういうことですか!」

「いや、冗談だ。だからいちいち心読むなって」


《主殿。そろそろ降下するから暴れると危険だぞ》

「ん? もう着いたのか」


《ああ、妾の翼を持ってすればこのくらい容易いものだ》


 事前に場所は地図で確認していたが、目的の場所は王都の北北西、王国の中央を南北に走るポリメラス山脈にある。王都から馬車で一週間ほどの距離だが、リディルにかかれば一瞬だったな。


 リディルは山の中腹あたりにある岩肌に着地。俺達もリディルの背から降りる。


「この当たりに金脈があるのか?」

「ああ、そうだな。なんとなく匂う」


 匂うって金に匂いなんかあるのか? それとも守護竜独自の感覚なのだろうか? ちなみにリディルは着地後、いつものドラゴニュートの姿に戻っている。


「では、早速始めようか」


 俺は地面に手を置き、地中の金の原子だけを移動、収集するイメージを描きながら魔力を送る。すると、手を置いた地面からバキバキと音を立てながら、黄金に輝く金の塊がじわりじわりと成長していくのが見えた。


「ほえー、いつ見てもすごいですね」

「うーん。ここはリディルの見立て通り、金の含有率が高いのかな? 塊がどんどん大きくなるぞ」


 金塊はあっという間に大きくなる。もううん十トンくらいの重さになったと思う。


「とりあえずこれくらいで良いか。次は白金だな」


 俺は再び地面に手を置き、白金を集める。金の時と同様に白金の塊が成長していくのだが、先程の金ほどの勢いはない。やっぱり白金の方がレアなのだろうな。


 白金の塊もそこそこの大きさになったので、魔力操作を止める。さて……。


「これ……運べる?」

「……さすがにこれは、大きすぎないか響介殿」


 ですよねー。これ一体、何十、いや何百トンあるんだろうか。ちょっと張り切りすぎてしまったかもしれない。


 確か王国の金貨は一枚20gなので、1トンで5万枚になる計算だ。白金も十トン以上採れているいるので、合わせれば王国の財政問題はほぼ解消してしまうかもしれない。それに、集めようとすればまだまだ金を回収できそうだ。


「調子に乗りすぎですよ」

「いや、すまんすまん。ザクザク出てくるもんでつい……な」


「それよりも、どうやって運ぶつもりなのだ? 響介殿」

「うーん。どうするって言っても、小分けにして運ぶしかないよね」


 ホバークラフトの積載力ならなんとかなるかもしれないが、いかんせん、リディル達に比べると足が遅い。それに山を登るのはしんどい。


「えー、そんなに何回も往復するのは嫌よぉ」

「そんなこと言われてもな。どうすんだよこれ」


 俺はチラリとリディルの方を見る。


「う……妾もこれ程とは思わなかったぞ」


 ゲンナリした表情で後ずさるリディル。……こいつら、仕方ないな。


「とりあえず持てる分だけ運んで、後はゴーレムに回収させよう」


「え? そんなことできるんですか?」

「ああ、さっきシグルーンが見せてくれた宝石をゴーレムに組み込めば、ゴーレムのパワーを上げられるし、駆動時間も増やせるはずだ。それで少しずつ人海戦術で運べば良いんじゃないかな? とりあえずこれで資金の目処はついたから、そんなに急ぐ必要も無いし」


 人海戦術と言っても、人は全く介在せず、完全オートでやるつもりだけど。


「それなら、助かるわぁ」


 このドラゴン達、長いこと地脈を守護し、封印もされていたから、肉体労働は苦手なのだろうか。だったらリハビリも兼ねてやってくれてもいいのに。


「とりあえず、これくらいだったらいけそう?」


 俺は20トン程の金塊と、白金の塊を切り分ける。それを見た二人は何か抗議めいた視線を向けてくるが。


「これができなきゃ、さっきの話は無しだな」


「わ、分かったわよぉ。やればいいんでしょー」


「うむ、仕方ないな」


 渋々といった感じで二人はようやく観念した。


 その後、俺はゴーレムが持ち運びできる大きさに金塊を小分けにし、他のやつに見つからないように土砂を被せカモフラージュする。


「さてと、これでいいかな。じゃあ、行くぞ」


 と、声をかけるものの……


《ああ……》

《ふぁ~い》


 既にドラゴンに変身済みのリディルとシグルーンからは、力ない返事が返ってくるのみである。


 ……おいお前ら、守護竜として、女神の眷族としての誇りとかそんなもの無いんかい!


 俺は適当にリディルとシグルーンに発破をかけながら、金塊と白金の塊をなんとか王城にまで運ぶことに成功した。まあ、また王城が大騒ぎになったのは言うまでもない。ちなみにリディルとシグルーンはドラゴニュートの姿に戻ってぐったりしている。20トンを運ぶのはさすがにきつかったか。


「なあ、レティシア。この塊があと10個くらいあるんだけど、これでなんとかなりそうか?」


「え、ええ……これだけあれば十分ですわ。それにしても、フェイト様は無茶苦茶やりますわね」


「今更だろ? この俺が真面目に正攻法で問題に取り組むとでも思ったか?」


「自信満々にそんなこと言われても困りますわね……」



 いつの間にか中庭は、王城の使用人たちが集まり、人垣ができていた。その人々は今まで見たことも無い大きさの金塊に目を奪われ、言葉を失っている。


 ……うーむ。そうだな。


「ハイハイ、皆ちゅうもーく! この数日間王城の復旧作業に従事してくれてご苦労。そんなお前達の労に、俺も王として報いたいと思う」


 俺は一旦ここで言葉を区切り、側に置いている巨大な金塊に目をやり、手を添える。


「皆に特別ボーナスを出そう! 額は追って伝えるが、お前達のより一層の働きに期待するぞ!」


 次の瞬間、中庭は歓声に包まれた。まあ、これまでマイアの抑圧された政治に辟易していた者がほとんどだろうからな。ここで一発、気前の良いところを見せてやれば俺の支持も上がれば、今後の王政にも弾みがつくというものだ。


「はぁ……また勝手なことを……」


「まあ、そう言うなってレティシア。これまで不景気な事ばっかりだったからさ。これくらいはいいだろ」


「全く、仕方ない方ですわね」


 がっくりと項垂れるレティシア。そんなんじゃ俺の女房は務まらないぞ。

次回の更新は12/6(水)を予定しています。

よろしくお願いします。

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