一話 王様のおしごと
新章スタートです!
七章は主に内政パートになります。
「お前らやってくれたな」
「な、なんのことでしょう……」
「随分な物言いだな響介殿」
「ふーん。なかなかいい部屋ねここ」
俺とアストレイア、リディル、シグルーンは今、王城のにあるアストレイア達用に用意した部屋にいる。え? 王城は崩壊したんじゃないかって?
うん。確かにダンテとの戦いでいったん崩壊し瓦礫の山になってしまったんだが、あれから俺が根性ですべて修復した。
いや、本当に大変だったんだぞ? シグルーンに神気、魔力……果てには精力まで吸い取られた後の魔力土木作業は……マジで死ぬかと思った。でも、荒野と化した王城を前に、皆からの『お前がやったんだろ?』的な突き刺さる視線に耐えかね、ほぼ二日かけてやり遂げました。俺がんばったんだからね。
まあ、そのおかげで王都の住民からは神の御業と讃えられ、アストレイアと俺への支持が急上昇するという思わぬ副作用もあったりしたわけだが。
ちなみにアストレイアは完全に顕現して、今も目の前にその姿を晒している。どうもリディルとシグルーンを解放したことで力がある程度戻り、俺の神気も使ってなんとか顕現が可能になったそうだ。
……というか、俺の神気を勝手に使うなよ。
ただ、顕現ができるようになったというだけで、女神としての力を地上で発揮できるというわけではないらしい。つまり、神とはいっても、普通の12歳位の女の子と大した違いはなく、戦闘能力もない。
……ついでに言うと威厳も胸もない。
「胸は余計ですよ響介さん!」
「って、やっぱりまだ心の中は読めるのか」
「当たり前です。その指輪がある限り私からは逃げられません」
ふくれっ面で怒るアストレイア。でも、今までは声だけだったから、表情が見えるのはなんか新鮮だな。というか、威厳が無いことは認めるんですね。
「いーなーそれ。婚約指輪みたい。おねーさんも欲しいな」
「いや、そんな良いもんじゃないぞシグルーン」
「うむ、我が主と響介殿。仲が良くて微笑ましい限りだな」
「いやいや、リディルさんや。これのどこが仲良く見えるんですかね?」
いかん。こいつらのペースに巻き込まれたらいつまでたっても話が進まん。
「というか、なんで俺が国王なんだよ? レティシアとか、ハルベルトとかちゃんと王様できそうなヤツが他にもいるじゃないか」
自分で王になるって腹括ってたわけなんだが、一応聞いておく。
「いやー、今回の戦いの教訓として、今後は響介さんにある程度権限があった方がいいかなぁと思いまして」
まあ、確かに今回王国の権力のせいで何もできなかったしな。
挙句の果てにその権力を邪神に利用されてしまったし。
「うん。まあ、それは一理あるかもな。もう国家の権力に振り回されるのはゴメンだわ」
「そうですよ。これで響介さんにもできることが増えたでしょう。というわけで、国民を駒として使ってババーンと邪神やっつけちゃいましょう」
「うんまあ、それは間違っていないのかもしれないけど、女神としてもうちょっと言葉を選ぼうね」
国民と力を合わせてとかね。
それでも、私がんばったよ~みたいな感じで胸を張るアストレイア。こいつには権力与えちゃダメなような気がする。
「でも、いいのか? あんなに大々的にやっちゃって。主神にバレやしないか?」
「うーん。その心配はあるんですが、もう既にかなりドンパチやっちゃってるのに、まだ気づかれてないみたいですし、この程度なら大丈夫なんじゃないかなーと」
ギリギリを攻めてみるって感じか…‥うまくいきゃいいんだけど。
俺はもう見つかっても知らん。アストレイアに無理やり従わされてましたで押し切る。
「さて、邪神のことも大事なんだけど、まずは足元の混乱しきった王国の立て直しを図らなきゃならんわな」
「うむ、そうだな。この一ヶ月の王都の荒廃は目に余るものがある」
……アストレイアはできることが増えたって言ってるけど、どっちかというと、やらなきゃいけないことが増えただけのような気もする。これもしかしたら失敗だったんじゃないのかな?
「どうするつもりなのぉ? 響ちゃん」
「え? 響ちゃん?」
いきなりシグルーンに妙なあだ名(?)で呼ばれて思わず面食らう俺。
「あ、照れちゃってかわいい」
「はぁ、からかうのは止めてくれって……」
気を取り直して……立て直すとしても、まずは経済からだよな。国家の基盤は当然国民なのだが、その国民の生活を豊かにするためには強い経済が必要不可欠。それが無ければ話にならない。
「で、どうするのだ響介殿」
「そうだな。まずは地球の経済知識を駆使して、国内経済の立て直しを図る。具体的には税率を思いっきり下げる」
「ふむ、税を下げたら景気が上向くのは道理だが、国家を運営するための財源はどうするのだ?」
腕組みをして、神妙な面持ちで俺を見つめるリディル。しかし、その姿は幼女なので違和感が半端ない。
「財源についてはアテがあるから大丈夫だ」
「アテだと? どこから捻出するのだ」
リディルの問いに俺は不敵な笑みを浮かべる。
「ま、普通だったら別のところから税金を取ったり、借金して捻出するんだろうが、俺がそんな当たり前の手段を採ると思うか?」
「ですねー。響介さんは非常識な男ですからねぇ」
「おいこらアストレイア。それ褒め言葉になってないから」
「ふーん。どんなゲスい方法でお金を捻出するのかしら。おねーさん興味あるわ」
「あ、いや。全然ゲスくないので、皆がハッピーになれる素晴らしい方法ですよ」
ったく、こいつら言いたい放題だな。
「経済についてはとりあえずそんな方針で、詳細は後で詰める。あとやるとすれば獣人たち、奴隷の解放とか、教育、治安対策についてもテコ入れしたい」
奴隷制度については解放は簡単だと思う。王国は最近奴隷が流通しだしただけで、まだ制度が根付いているわけではないからだ。これが長年続いてすっかり定着してしまい、生まれながらにして奴隷の者がいたりすると、少々厄介なことになる。
生まれながらの奴隷は、奴隷としてしか生きていく術を知らない。この場合、下手に解放すると奴隷が生きていく事ができず、返って問題になってしまう場合がある。解放したはずの奴隷が反乱を起こすみたいな話をどっかで聞いたことがある様な無い様な……。
「ふむ、そうだな。奴隷はアストレイア教でも禁忌としている。すぐにでも解放すべきだな」
「でもまあ、解放するのは良いとして、ちゃんとその元奴隷に仕事を提供してやらないとダメだけどな」
とりあえず元奴隷の獣人たちには公共工事をお願いしよう。今の王都はいたるところが荒廃しているし、教会の建て直しも必要だ。パワフルな獣人たちにはうってつけだろう。戦闘の心得がある者は軍にスカウトかな。
もちろん給料は弾むつもりだ。
職を得た獣人たちが王都にお金を落とす。これで経済が回ってくれれば王国としても万々歳だし。
ただ、アストレイア像は現実に忠実に、ちんちくりんな姿に直さなければならないな。
「響介さん。酷いですよ。ちゃんと私の像は以前のままにしてください!」
「いや、でもな。皆アストレイアの真の姿を見てるんだぞ? 今更取り繕っても意味ないだろう」
「でも、それでも! 胸だけはお願いします!」
なんでこいつこんなに必死なんだよ。でもまあ、身長とかは無理でも、胸なら詰めればごまかせるか。不自然にならないくらいに。
「ふむ。経済の立て直しについてはある程度目処がつきそうだが、人事の方はどうするのだ」
「んー、人事なぁ。人事についてはレティシアと相談しながら進める事にする。俺は良くわからないし」
王国にどのような役職があるのか、その辺りはレティシアの方が詳しいと思う。それにしても今回のゴタゴタでかなり人が減っているため、人材がスカスカになってしまいそうだ。貴族どもはあてにならないし。しばらくは俺がいろいろな役職を兼任して回さなきゃならないのかな?
この三人は……アテにならないよな。
「とりあえずレティシアと相談して……その後会議だな」
「うむ、そうだな」
「はぁ、話し合いばかりでつまらないわねぇ……」
「はぁー、やっと生レティシアちゃんを至近距離で拝めますねぇ」
俺が部屋から出ていこうとすると、その後ろから三人がぞろぞろとついてくる。
「……なあ、お前らついてくる気なの?」
「ん? なにかまずいことでもあるのか?」
俺は額に手を当て、ため息をつく。
「お前らが一緒にいると皆が畏まり過ぎて全然話し合いになんねーんだよ」
この世界の創造神と一緒に会議とか普通ありえないでしょ? それにSSランクのドラゴンが二人もいたら、みんなおびえて失禁するって。
「えーそんなー。折角顕現したんだから、レティシアちゃんとか、ディアナちゃんとお友達になって女子トークとかしたいのにー」
こいつはガキか。まあ、見た目はそうなんだけど。
「お前には女神としての自覚は無いのか。会議には他の官僚や貴族共も出席するかもしれないし、そんな一般人の前に、女神が軽々しく出るわけにはいかないだろ。レティシア達とは後で個別に引き合わせるからちょっと待ってろって」
「むー。そういうことなら……分かりました。早く終わらせてくださいねー」
「ふむ。仕方ないな」
「えー。この部屋から出れないの? つまんなーい」
こいつら、頼むから大人しくしてくれよな。
なんというか……躾のなってない三匹の犬の面倒を任されたような気分だ。
これは……先が思いやられるな。
次回の更新は11/18(土)を予定しています。
よろしくお願いします。




