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五話 ギルドマスター

初めての感想、評価頂きました。

ありがとうございます。



「おお、オスカー久しぶりだな。急にフェリシアと結婚すると言って、冒険者やめちまってからそれっきりじゃないか、連絡くらいよこせ」


 部屋に居たのは、ちっさいおっさんだ。筋肉隆々で長い顎髭。んーこれはドワーフかな? 異世界初ドワーフだ。


「ああ、そうだな。レイモンドも元気そうでなによりだ。連絡はすまん。忘れていた」

「けっ。お前がマメな性格じゃないことはわかっているよ。ところで、そこにいる坊主と嬢ちゃんがお前の子供か?」


 ちっさいおっさんは俺とディアナを見てそう言った。


「いや、ディアナは俺の娘だが、フェイトは違う」

「そうか? んー確かに、嬢ちゃんの方は昔のフェリシアに似ているな」


 あー、やっぱりディアナはお母さん似なんですね? ということはディアナは将来ああなるのか……。うむ、悪くないな。


《あ、やっぱり響介さんはそっちの気があるんですね。踏まれたり叩かれたりしたいんですね》

《いや、俺はMっ気は無いからな》


「そっちの坊主は……もしかして嬢ちゃんのいい人か?」

「え?! いや、ちがう……ことはないけど」


 明らかに動揺するディアナ。顔が赤くなる。


「わっはっは。若いってのはいいねぇ」


 豪快に笑うちっさいおっさん。セクハラオヤジだこの人。


《中身おっさんの響介さんがそれを言いますか》

《いや、俺の心は少年のままだぜ》


「オスカーも娘が取られちまうんじゃ、気が気じゃないだろ?」

「む、まあ……、しかしいずれは嫁にやらなければな、それにフェイトなら問題ないだろう」


 およ? もう俺たち親父さん公認の仲なんですかね? ちらっとディアナの方を見る。あ、目を逸らされた。照れてるんだよな。そうだよな?

 するとちっさいおっさんは値踏みする様に俺をジロジロと見る。


「ほう……、お前さんが認めるとはな。この坊主結構できるのか?」

「ああ、そうだな。俺よりも強い」


 ちっさいおっさん……もといレイモンドは驚き目を剥く。


「なに! 剛剣と言われたお前よりも強いってのか、この坊主が? ウソだろ?」

「その事なんだがな……」


 オスカーはトルカナ村での顛末をレイモンドに話した。


「千を超える魔物の群れ、しかもそれをこの坊主がほとんど一人で蹴散らしただと? しかもSランクのミノタウロスも瞬殺? こんな与太話、普通は誰も信じないぞ。お前が言うんだから信じてやるが……」


「ああ、それもしかたない。俺もまだあれは夢だったんじゃないかと思う時がある」


 はぁ、とため息をつきあう二人。


「本当にこんな坊主が……まあいい、それよりも魔族の王というのが気になる。これは領主や王都にも報告が必要だ」

「ああ、だからお前に領主への取り次ぎを頼みたい」


 二人は表情を引き締める。


「分かった。できるかどうか分からんが手を尽くそう」

「感謝する」


 ギルマスへの話は終わったが、領主への謁見は手続きを考えると何日かかかるだろうな。その間どうするか。暇だなー。というか、テント暮らしはもう嫌だな。


「そうだ、坊主」

「ん? なんだ?」


 唐突にレイモンドが話しかけてきた。


「お前、冒険者やる気はないか?」

「……そうだな、滞在中暇だからやってもいい」


「いや、冒険者は暇つぶしにやるもんじゃないんだが……まあいい。それから特別サービスで冒険者ランクをDから始めさせてやる」


 なにか思惑があるのか?


「なんだ? やけに気前がいいんだな?」


「ああ、ただし条件がある。一度俺と戦え。それで勝てたらDランクだ」


 ニヤリと笑うレイモンド。おや? こいつはいわゆる戦闘狂ってやつか。ちょっとテンプレっぽくて嬉しい。Dランクは俺を戦う気にさせるエサってところか。それとも絶対に負けない自信があるのか?


「それは願ったり叶ったりだな。F、Eランクは討伐依頼が少ないから暇つぶしにならないんじゃないかと思っていたところだ」


 俺もニヤリと笑い返す。


「フンッ。俺に負ける気はサラサラないってわけか。生意気な坊主だな。まあ、ギルドとしても強い冒険者は喉から手が出る程欲しい。お互い持ちつ持たれつってワケだ」


 腕組みをして不機嫌な態度を取るレイモンド。


「ちょっと、フェイト大丈夫?」


 心配そうな顔でディアナが話しかけてきたが。


「問題ない。Dランクは正直美味しい。逃す手はないよ」


 それに対人戦闘でいろいろと試したいことがある。


「レイモンドのおやっさんは元Aランクなんですが、若旦那なら問題ありませんぜ」


 トビーの俺への口調がなんだか下っ端ヤクザみたいになってきてるのが非常に気になる……。長いものには巻かれるタイプなんですかね?


《そのうち親分とかお館様とか言い出しそうですね》

《俺は何者だよ!》


「Aランクはもっとこう、皆が恐れるくらいのもんだと思ってたんだがな……、俺の認識が間違ってるのか?」


 呆れ顔でうなだれるレイモンドだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 場所はギルドの裏にある訓練場施設。円形状の開けた場所だ。周囲に一メートル程の高さの塀がぐるっと囲み。その外に簡易なベンチなどがある。見学者が見れるようにしているのだろうか。その訓練場の中央にギルドマスターレイモンドとフェイトが対峙する。


 レイモンドの獲物は槍斧、ハルバードと呼ばれるやつだ。リーチが長く、その一撃も重い。ただし相当な怪力がなければ振り回すこともままならない。屈強なドワーフのレイモンドならではの武器と言える。


「お前は武器はいらないのか?」

「ああ、要らない。武器で戦ったことは無いしな」

「ふむ、ならば魔法で戦うということか」


 魔法か……うーんどうしようか。一応手加減はできるようになったとはいえ、周りへの被害がな。ギルドマスターが模擬戦をするということで、かなりの人数の観戦者が集まってきている。あれを気にしながら戦うのは骨が折れるというか、めんどくさい。……ならば。


 俺は右手をフリフリしながら


「いや、素手の打撃で戦うよ」


 それを聞いたレイモンドの目つきが変わる。


「坊主、もう取り消しは効かんぞ。覚悟はいいな?」


「ああ、問題ない。さっさと始めよう」


 身体強化の魔法は使うが、無詠唱で魔法を発動させるのでレイモンドにはバレないだろう。


「けっ、本当に生意気な坊主だ。勝敗はどちらかが戦闘不能になるか、降参するかだ。アリスン、審判と開始の合図を頼む」

「はい、分かりました」


 あの犬耳受付嬢の名前はアリスンさんか、なるほど……メモメモっと。


「では……準備はいいですか? 試合始め!」


 開始の合図と共にレイモンドは勢い良く駆けてきた。ん? 鈍重なパワータイプかと思っていたが、結構早い。一瞬で俺との間合いを詰め、ハルバードを振るう。


「フンッ」


 俺はそれをバックステップで躱す。と、同時にオリジナル魔法【マインドアップ】をかける。これは脳の視覚情報処理のうち色彩の処理を省略し、脳の処理スピードを引き上げる魔法だ。音も最低限しか拾わない。よく事故に見舞われた時に一瞬だけ視界がスローモーションになったという話を聞いたことがあると思う。原理的にはあれと同じ……なのかな? まあ、視界はモノクロになってしまうが、戦いにおいて色彩はそれほど重要じゃない。


 レイモンドの動きがスローモーションになり、重心の移動、筋肉の緊張が手に取るように分かる。次のヤツの攻撃は右上段からの振り下ろしの一撃か。俺は最小限の動きで振り下ろされるハルバードを掻い潜り、レイモンドの懐に飛び込む。あらかじめパワーを強化する【リーンフォース】と、速さを引き上げる風系中級魔法【アクセラレート】をかけることを忘れない。驚愕に顔を歪めこちらを睨むレイモンドをあざ笑いつつ、胸のあたりに渾身の掌底を叩き込む。そして、【マインドアップ】を解除。


 そこには突き飛ばされ壁に激突した状態で白目をむくレイモンドの姿があった。


「しょ、勝者フェイトさん!」


 アリスンが俺の勝利を宣言する。

 あまりに一瞬の出来事にしんと静まり返る訓練場。しばらく間を置いてざわつきが起こり、それがじわじわと伝播していく。


「お、おい、あのガキ、ギルドマスターを一撃で倒したぞ」

「何者だあいつ……動きが見えなかった」

「あの坊や、私とパーティ組んでくれないかしら?」


《あー、もう少し自重しましょうよ》

《すまん、どうしても【マインドアップ】を試してみたくて、次からは気をつける》


「フェイト、大丈夫? 怪我はない?」


 ディアナが駆けてきて俺の手を取る。


「いや、全然攻撃受けてないから大丈夫」

「良かった、もう~。素手で戦うだなんて言うから、私心配したのよ」

「ディアナごめん。次からは無茶しないから許してくれ」


「な、なんだあの可愛い子は」

「まさかあいつの彼女か? くそぅ、爆発しろ、もげろ!」

「私もあの坊やのハーレムに入れてくれないかしら?」


 今度はなんか別の意味でざわついてきた。というかリア充爆発しろの話はこっちにもあるんですかね?

 あと、若干一名不穏なことを言っている人がいるが気にしないことにしよう。


トビーさんは当初こんなキャラにする予定はなかったんですが…

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