十五話 女神の神託
「はぁ、なによあの禿げ散らかした汚いオッサンは。さっきから家柄家柄、貴族が貴族がばかりで全くつまらないわねぇ」
と、しばらく俺達のやりとりを傍観していたシグルーンが、突然苦言を呈した。
「む、なんだ、貴様は! 貴族に対するその口の利き方。万死に値するぞ!」
するとすかさずロリコン伯爵様が食いつく。煽り耐性低すぎだろこいつ。
「私? 私はここを守護する守護龍の一人の嵐竜シグルーンよ。最もあなた達からすれば、嵐竜テンペストと言った方が分かりやすいかしら」
「ら、嵐竜テンペストだと? ふざけるのも大概にしろ。ドラゴンがそんな女の姿をしているわけがないだろう」
ブチギレ伯爵様に少々困惑顔のシグルーン。
「まあ、信じられぬのも仕方なかろう。誰も我らのドラゴニュートとしての姿を見た者はおらぬのだからな」
と、シグルーンの後ろからリディルがひょっこりと姿を現す。この子はいつも唐突に出てくるな。
リディルは激おこ伯爵様に視線を移し、
「妾は炎竜リディルだ。よろしくな茹でダコ伯爵殿」
と、名乗る。リディルも冗談を言うことがあるんだな。
「な!? 嵐竜に炎竜だと。どこまでワシを愚弄すれば気が済むのだ!」
リディルの言葉に、さらに激昂し、頭を真っ赤に染め上げるエロ伯爵様。おーい、これ以上血圧上がると血管切れるぞ。
「ねえ、リディル。この頭の堅いオッサンを黙らせるには、私達の真の姿を見せるしか無いんじゃない?」
「うむ。まあ、仕方あるまい。そうでなければ納得せぬだろう。さあ、貴様達。我らの真の姿をその目に焼き付けるが良い!」
「いくわよ~」
リディルとシグルーンがそう言い放つと、二人は直視出来ない程の眩しい光に包まれる。そしてその光が消え去ったその後には、二頭の巨大なドラゴンが王城の跡地に堂々とした佇まいで鎮座していた。
それにしても、シグルーンの竜の姿は初めて見るが、レッドドラゴンと違ってやや細めのフォルムで、鱗が刺々しく、全体的に角ばった印象がある。それから風を司る守護竜だけあって、全体的に緑っぽい色合いだ。
その二頭のドラゴンが天に向け、揃って咆哮をあげる。
「「グオオオオオオオォォォォン!!!」」
巨大な二頭のドラゴンの姿を間近で見て、その腹の底にズシリと響くような咆哮を浴びた人々は、皆おどろき竦み上がるか、尻もちを着き口をパクパクさせて、声にならない悲鳴をあげている。
まあ、SSランクの怪物が二頭同時に現れたのだ。無理もない。
《さて、貴族殿。これで我らが守護竜である事を信じてもらえたかな?》
うーん。リディルよ。そいつもう泡吹いて気絶しているから聞いても意味ないぞ。
《あらあら。私達のこの美しい肢体を見て、興奮して倒れちゃったのね》
いや、それは無理があると思いますシグルーンさん。
《まあ、あのような小物は放っておくが良かろう。……さて、心して聞け王国の臣民、アストレイア教の信徒達よ!》
リディルが再び咆哮をあげる。ただでさえ二頭のドラゴンの出現に驚いていた国民達は、完全に硬直してしまった。小さい子供達も泣くことすら忘れてただドラゴンに見入っている。
それにしても、この頭に直接響く声は……アストレイアと同じ念話か……。確かにドラゴンの口だと人間の言葉を話すには向いていない。だから念話で王都の人々に言葉を届けているのだと思うが、アストレイアの念話と違う点は、指輪をしていない者にも一度に多数の人に届くということか。
これは、守護竜独自の能力なのかな。
《この国の次代の王を決めるのは、貴様ら人間ではない! 話が主、女神アストレイア様が今ここで直々に神託を下される!》
《さあ、アストレイア様のご降臨よ! 皆静粛に! 静粛に!》
二人がそう宣言すると、二人の間にある空間に、天から光が差しこんでくる。そしてその中空に5年前夢の中で見た姿そのままのアストレイアが姿を現した。
うーん。これって神の顕現? それにしても一体どうやって? 今まで姿を現すことは愚か、声すら俺以外の者に届ける事ができなかったのに。シグルーンが開放されたからなのだろうか……。
女神アストレイアの顕現という歴史的瞬間を目の当たりにする事になった貴族、官僚を始めとした王国国民は慌てて頭を垂れ、地にひれ伏す。まあ、この世界の創造神だからな、あのちんちくりんなナリでもその影響力は絶大なのだろう。
「王国の皆様。私が女神アストレイアです。此度は私の力が及ばず、邪神による王国の支配を許してしまった事をお詫びします」
アストレイアの言葉は静かなのだが、何故か頭の中に響いてくる。何か魔法的な力が働いているのかもしれない。それともその神秘性、神々しさがそう感じさせているだけなのかもしれないが。
そのアストレイアの声を直に聞いた国民達は、感動に打ち震えて、涙を流している者もちらほらと見受けられる。
……一応突っ込んでおくけど、今回の件は堕女神がきちんと仕事をしてなかった事が原因だからね。決して不可抗力だったわけじゃないからね。
一瞬アストレイアがこちらを睨んだ様な気がしたけど、無視だ無視。
「ですが、その王国を覆っていた闇、邪神の手先は私が遣わせた使徒フェイトの力により祓われました。どうかご安心下さい。また、この二頭のドラゴンは私の眷族です。皆様に危害は加えません」
その言葉に、今度は歓喜の声が湧き上がる。抱き合って喜びを分かち合う者。ドラゴンの恐怖から開放されてホッと胸をなでおろす者もいる。
「しかし、邪神の脅威が完全に無くなったわけではありません。これからも邪神との戦いは続くことが予想されます……ですが、今の王国に皆様をお守りする力は、残念ながら無いと言わざるを得ません」
先程まで歓喜に湧いていた国民達は一転、しんと静まり返る。
「従って、私は今ここに神託を下します。今のエレクトラ王国を廃し、この地に新しくエミリウス王国を興します。そして、その初代国王に我が使徒、フェイトを任命します。
皆さん。新しき王を中心に国をまとめ、邪神をこの世界から追い払うのです」
……って、な、なにぃぃぃ! エレクトラ王国を廃止して、エミリウス王国を立てる?
というかエミリウスって俺の家名じゃねーか。アストレイアのやつ、何か企んでると思ったら、新たに国を作るってさすがにそこまでは予想できなかったぞ……。さっき言ってた任せろってそういうこと?
「うおおぉぉぉ!」という地鳴りのような歓声が俺達を包み込む。貴族どもは顔を青ざめて何か喚いているが、歓声にかき消されて何も聞こえない。
というか、これは女神の神託だ。創造神の決定なのだから、今更貴族どもがいくら反対しようが取り消すことなど出来はしない。女神の発言力は絶大だ。
……こうなったらもう仕方ない。俺も腹を括るか。
「さて、新しく王となった使徒フェイトよ。一言王都の人々に所信表明をお願いします」
え? ここでいきなり振ってきますかアストレイアさん。
でも、俺は念話みたいなのを使えないから、風魔法で自分の声を王都中の人々に拡散する。
「えー、皆さん。私が女神アストレイアの神託を受け、エミリウス王国の初代国王に任ぜられたフェイトだ。まだ、若輩の身だが、王国の発展、国民の幸福のために全力を尽くしたいと思う。特に奴隷や、身分の違いに依る不遇な扱いなどは女神アストレイアの最も嫌うところだ。そういったものはこの国から排除し、誰もが平等に平和に豊かに暮らせる国を実現したいと思う。だから皆、俺についてきてくれるか?」
俺が所信表明を終えると。王都の人々の歓声はより一層高まり、あちこちでアストレイア、フェイトコールが巻き起こる。
こうしてアストレイアの鶴の一声で、三百年以上にも及ぶエレクトラ王国の歴史に幕が下りることになった。
さて、一応腹は括ったものの、俺は王としてちゃんとやっていけるのだろうか……不安は尽きないが、もうこうなったらやるしか無い。アストレイアやリディル達もバリバリ働いてもらうから覚悟しておけよ。
これで六章終了です。次章は内政&次の展開へのつなぎの話になります。
ここまで読んで頂き本当にありがとうございました。
次回の更新は11/15(水)を予定していますが、間に4~6章の登場人物紹介を挟むと思います。
よろしくお願いします。




