十四話 フェイトの決断
……さて、どうしたものか。俺が荒野と化した王城の跡地を眺め、途方にくれていると、先程まで王城から避難してこちらの様子を伺っていた王国関係者らしき者が、ポツポツと戻ってくるのが見えた。
その中には見覚えのある者。内務大臣のフェルナンドと、すっかり憔悴して怯えきっているマイア。そのマイアに付き添っているシルヴィアの姿が見える。
それとおまけにジークフリート君もいた。取り巻きの者達は官僚か、メイド、使用人かな?
「フェイト殿。いや……使徒様なのですかな?」
「ああ、まあ、女神の使徒であることはそうなんだけど、あなたは確かフェルナンド殿でしたか」
最初に俺に声をかけてきたのはフェルナンドだった。ここは一応宰相であるジーク君がリーダシップを発揮する場なんじゃないかと思うが、やつはビクビクして官僚たちの後ろに隠れてしまっている。しっかりしろよ。
「はい。内務大臣を努めておりますフェルナンドと申します。此度は王都に潜む悪魔を討伐して頂き誠にありがとうございます。また、フェイト様が使徒様とは露知らず……今まで我々が働いた数々のご無礼、誠に申し訳ありません」
「いや、俺は別に気にしてないから、謝罪は必要ない。とりあえず邪神の使徒を倒すことができて良かった」
「なんと、寛大なお言葉。痛み入ります。ですが、一つ困ったことがありまして……それは今後の王国の運営についてでございます」
う……。まあそう来るでしょうね。こんなに王城をめちゃくちゃにしてどうしてくれるんだって文句言われるんだろうか?
「次代の王をどうするか……それが問題です」
「王を?」
王城じゃなくて?
「はい。見ての通り、マイア様はすっかり憔悴しきってしまい。政権を運営する力も気力も残されていないでしょう。それに何より、マイア様の国民からの信用、支持は地に落ちております。今のままマイア様を女王に頂いて、王政を維持することはもはや不可能と存じます」
確かにマイアの目からは生気が全く感じられない。自分が悪魔の甘言に騙され、操られていたショックは余程大きかったのだろう。
でもな……俺はそれよりも、このフェルナンドが信用できないのだが……。
暴走するマイアを諌めることなく、のほほんと大臣に居座り続け、事が終わったらマイアのせいにするのか……。
《マイアちゃんにも同情の余地あり……ですかね》
《それで兄殺しと、暴政の罪が消えて無くなるわけではないけどな。でも、ちょっと可哀想なやつだとは思うが》
俺は頭から一旦フェルナンドへの疑念を振り払い、向き直る。
「では、新しい別の王を立てるというのか?」
「はい。できればそうしたいところなのですが、王国の規範により、王位に就けるのは王族の血を引く者だけということになっております。それも伝統的に直系の者だけです。ですが、マイア様が王族最後の王位継承権を持ったお方でありましたため、他に王位を継げる者がおりません」
直系? 日本の皇室と同じなのだろうか。でもそれだとマイアの子は直系ではなくなるのだが……そこは多少目を瞑るつもりだったのか。
「王族の血が必要なら、そこのレティシアが引いているじゃないか。レティシアの母君は先代国王の妹君であったのだから、王族直系ではないにしても、この非常時、多少の融通は効かせてもいいんじゃないか?」
「うむ。そ、そうですな……」
ここで一旦フェルナンドは後ろで控えていた官僚達と、なにやら相談を始めた。まあでも会議室の中ではない荒野で行われる相談。その声は筒抜けだ。「一旦王室を離れた家系からの王位選出は前例がない」とか「女王ではダメだ」とか、周りを気にせず喧々諤々の議論が展開されている。
前例とか、女がとか気にしている状況ではないと思うんですけどね。
「あのですね。本人を無視して、勝手に話を振らないで頂きたいですわね……」
レティシアの棘のある言葉が俺の背中に突き刺さる。
「あ、いや。すまんレティシア。王族の血を引く者って言われたから真っ先にレティシアが思いついちゃって、それで、つい。でも、レティシアだったら、うまく国をまとめられるんじゃないか?」
「私は女王なんて嫌ですわよ。王妃なら構いませんが」
「ん? 王妃? それはどういう意味だ?」
「ですから、フェイト様が王――」
「王妃! そうだその手があるではないか!」
ん? なんだあいつ。レティシアの言葉を遮っていきなり大声出しやがって。身につけている装飾品や服装からかなり身分の高い御仁だとは思うんだけど。どこかの貴族かな?
(なあ、誰だあいつ)
(あれは、カルロ = ガストール伯爵ですわ。王国建国当初からある古い伯爵家で、領地を持たない法衣貴族ですわね)
(ふーん。それでこいつは王族派だったのか?)
(いえ、どっち付かず……といいますか、どちらの陣営からもお呼びがかからなかったと言った方が正しいですわね)
(え? なんで? 高名な貴族様なんだろ?)
(……名前だけは立派なのですが、その……当主にちょっと問題ありでして……)
(なるほどな。無能でただ声がでかいだけのやつは味方にしても邪魔になるだけだな)
(そういうことですわね)
ジークフリートも似たようなもんだけど、あいつは領地持ちで軍隊も所持していた。だから味方に引き入れるだけの価値があったというわけだな。
それにしてもさっきレティシアが言おうとしていたのは……確認をしたいのだが、それを先程の伯爵様が許してくれない。
「ワシは妙案を思いついたぞフェルナンドよ!」
「なんでございましょうガストール伯爵殿」
本当に声がでかいなこの伯爵様。
「ワシが王になれば良いのだ。わしの家系は古くは王族の親戚でもある。直系ではないがこの際、多少規範を曲げる事も致し方あるまい。それにな。マイア殿とレティシア殿を王妃に迎えれば、王族の血は絶えることはないぞ!」
な? どうだ? と、言わんばかりにドヤ顔を披露する伯爵様。呆れ返る周囲の官僚達。
何考えてんだこのロリコンエロオヤジ。
頭が既に禿げ上がっている50オーバーのおっさんが、マイアはともかくレティシアを妻に迎えるだと?
そんな事が許されるわけ無いだろ。
「あのなぁオッサン。自分の年考えろや。それに、俺のレティシアに手を出そうとするとは、いい度胸してんな」
「フェ、フェイト様……」
とたんに顔を真っ赤に染めるレティシア。レティシアのこういう恥じらう姿は初めて見た。なんか珍しいものが見れて得した気分だ。
思わず『俺の』って言ってしまったが後悔はしてない。レティシアが取られるかもしれないと思った時に感じたこの怒りの感情……。俺のレティシアに対する気持ちはおそらくそういうことなのだろう。もう自分の気持ちに嘘をつくのはやめようと思う。
「な、貴様! いくら使徒とはいえ、由緒正しい家柄のこのワシを侮辱する事は許されん!」
俺にオッサン呼ばわりされ激おこの伯爵様。ハゲた頭を真っ赤にして今にも湯気が出そうだ。
「ガストール伯爵殿。そのようなことを仰ってますが、フェイト様はあの悪魔に支配されたこの王国を救った英雄ですわよ。もし、フェイト様がいなければあなた方はどうなっていたか分かりませんよ」
(王城は壊しましたけど……)とぼそっと呟くレティシア。余計なことは言わんでよろしい。
「うぐ……しかしな、それとこれとは話が別だ! 愚かな民は高貴な家柄である我々貴族が導いてやらなければならないのだ。使徒様といえど、国の政に口出ししないで貰おう!」
このエロハゲロリコンオヤジの剣幕にフェルナンドを初め、他の官僚達もタジタジである。ふーん、なるほど。家柄ってのはそんなに重いんものなんですかね。貴族派の連中もそうだったが、この国の政治、貴族はかなり腐っている様だ。
……俺はさっきまで使徒を倒し、シグルーンさえ開放できればそれで良いと思っていた。王国のことは王国の奴らに任せておけばいいと。
でも、これは……そういうわけにはいかなくなったような気がする。事情を知った以上、放って置くわけにもいかない。
さっきレティシアが言い掛けた言葉。
あのオッサンに遮られたけど、何を言いたかったのかは分かる。
俺はそこまで鈍感じゃない。
そうだ……俺はもう自重しないと決めたのだ。
ならば、レティシアの望み通りなってやろうじゃないか。
……この国の王に。
もうこいつらには任せてられねぇ。自惚れているわけじゃないが、少なくともこいつらよりはマシな王様やってやるぜ。使徒としての影響力、発言力でなんとかうまくやればなんとか王にはなれると思う。
そのために、まずはこのエロ伯爵様をなんとかしなければ……だな。
《ふふ……ようやく決心しましたか。響介さん》
《え? アストレイア?》
《後は私に任せてください!》
《任せるってどゆこと?》
……堕女神のやつ、一体何を企んでいるんだ?
次回の更新は11/13を予定しています。
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