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十三話 嵐竜シグルーン


「オラオラァ! 今まで散々おちょくってくれたが、表に引きずり出しちまえばこっちのもんよ。往生せいやぁゴルァ!」


《ああ……王都の人々が使徒様コールを送って歓喜に沸いてるっていうのに……。その当の本人がこんなんですからねぇ……。ちょっとこの姿は国民に見せられないです。ちびっ子の夢、ぶち壊しですよ》


 ……アストレイアがなんか言ってるが、無視だ無視。こいつには返さなきゃならねえ礼がたっぷりあるんだからな!


「うぐ……がはっ。こ、こんなはずじゃ……」


 とは言っても、こいつもそろそろ限界っぽいし。仕方ないから最後に一発でかいの食らわせてフィニッシュといくか。


 俺は殴るのをやめ、ダンテの上空から【エアハンマー】を起動、ヤツを地面……というか、崩壊した王城の跡地に叩きつける。


 ちなみに俺は今、宙に浮いている様に見えるが、これは周りの空気や風を必死に操作して浮いているだけだ。水鳥は水面を優雅に泳いでいるが、一方で水面下では絶え間なく足を動かしている……そんなのと同じだと思う。


「さてっと、俺の新魔法披露しちゃおうっかなぁ」


 そう呟きながら俺は右手に神気と魔力を集中させる。俺の十八番の【ブリューナク】は威力抜群で申し分ないんだが、いかんせん貫通力があり過ぎて後ろを気にしないといけないし、敵と接触する面積、時間が少ないので、神気で邪気を散らすのには向いてない。


 だから今回開発した新魔法は、貫くんじゃなくて、叩き潰す事に特化させた。


「これで最後だ。くらえ【トールハンマー】!」


 すると、俺の右手の上に直径三メートル程の巨大な雷球が出現。この雷球を瓦礫の中でのびているダンテに向けて放つ。強力な神気に曝されて、不浄なダンテ君も昇天される事だろう。イケメン(変身前)には死を!


 雷球はそのままダンテを直撃。王城の瓦礫もろとも焼き、浄化し、破壊し尽くした。ダンテの断末魔の叫びすら【トールハンマー】が炸裂する音にかき消され聞こえない。


 そして、後には巨大なクレーターが残り、その中心ではダンテの残骸と思しき黒い塊が存在していた。


 ちなみに、アリスンさん達が脱出済みなのは【サーチ】で確認しました。はい。実はオラオラァはそのための時間稼ぎだったんですよね。


《本当にそうだったんですか? なんか、後でとって付けたような理由にしか見えませんが?》


《うるさいなぁ。うまくいったんだからいいじゃねーか》


 俺は地上に降り、その黒い残骸に近づく。


「……ぐ……そんな、バカな。……この俺が、こんなガキに……」


「まだ生きてやがるのか、しぶといなこいつ。まあいいか、こいつには聞きたいことがあったし。なあ、ダンテ。邪神はどこに居る? それと使徒はあと何人居て、何を企んでいるんだ?」


「……バカかお前は……。俺が……そんなことを口にすると思ったか。仲間を売るほど俺は落ちぶれてはいない……」


 もう邪気の一切を失い、抗う術が残されていないダンテは「いいから、さっさと殺せ!」と叫ぶ。これ以上粘っても情報を引き出すことはできそうにない……。拷問をしようにも……周囲の目があるしなぁ。


 俺とダンテの様子を固唾を呑んで見守る国民達。こんな中で女神の使徒が拷問なんかしたら、女神のイメージダウンにも程が有るよね。


 かといって、捕らえて幽閉しても、こいつの能力は得体のしれないところがある。正直何をしでかすか分からない。ここはきっちりとトドメを刺した方がいいな。


「仕方ないな。じゃあお望みどおり殺してやる」

「ああ、さっさとやれ! ……しかし、これでいい気になるなよ。今回のお前との戦闘データはエクリプス様に送信済みだ。クックック……俺の死は無駄ではない! せいぜい束の間の――」


「はい、ズドン」

「がっ、ガハッ!」


 俺はダンテの口上が終わる前に、神気マシマシの【サンダージャベリン】をダンテに撃ち込む。


《ひ、ひどい……》

《だって、早くやれって言われたから》


 殺せって言ってからが長いんだよ。さすがの俺もイラッとしちゃったよ。


「お、終わったのか? フェイト」


「そうだな。今ので邪気も感じられなくなったから、もうダンテは死んだと思う」


 俺は後ろを振り返り、トリスタンの方を見る。残り二体の魔物、オークキングとグリフォンの死体が視界の奥に転がっている。俺がダンテと戦っている間に始末したようだ。


 見たところトリスタン達が怪我をしている様子は無い。ダンテが強化した準Sランクの魔物相手に大したもんだな。


 ここで視界の隅に、いつもの見慣れた赤毛のポニーテールが揺れながらゆっくり近づいてくるのが見えた。


「フェイト! 大丈夫だった?」


「ああ、俺はなんともない。ディアナもお疲れさん。レティシアは無事だった?」


「わたくしは大丈夫ですわ。それよりもアリスンさんが……」


 アリスンさんはスーツにも血が滲んでおり、ディアナの肩を借りてなんとか立っている様な状態だ。


「フェイト様。申し訳ありません。なんとか地下の魔物は撃破しましたが、不覚にも傷を負ってしまいました」


「いやそれはいいから。とにかくアリスンさんが無事で良かった。とりあえず傷を治すよ【エクスヒール】」


 俺が【エクスヒール】を唱えると淡い光がアリスンさんを包み、体中に刻まれた傷が即座に塞がっていく。


「フェイト様。ありがとうございます。お陰で助かりました」

「お礼ならディアナに言ってね。ここまで連れてきたのはディアナだから」


「そうですね。ディアナ様ありがとうございます」


 すっかり傷が治ったアリスンさんは、ディアナに丁寧にお礼をする。


「いや、そんな。私は大したことしてないよ。それよりもアークデーモンを倒したアリスンさんがすごいよ」


 【サーチ】でそれとなく探っていたのだが、やっぱりアークデーモンはアリスンさんが倒したのか。超振動グルカナイフを託していたとはいえ、すごいなアリスンさん。強さはディアナ達と同クラスなんじゃないだろうか。


「それにしても……派手にやりましたわね」


 完全に跡形もなくなった王城跡を見てため息混じりにそうつぶやくレティシア。


「いや、だって。相手は邪神の使徒なんだからさぁ。手加減できないでしょ? それにちゃんと皆の避難を待ってからやったから、多分犠牲者は最小限に抑えられているはずだ」


「それもそうですわね。この国難を王城の破壊一つで解決できたのですから、上々と言えるのかもしれませんわね」


「王城一つって簡単にいうけどな。これから王国はどうなるんだよ?」


「そんなこと言われてもな。トリスタン。まずは使徒をどうにかしないことには、何も始まらないだろう?」


「うん。その通りよ。フェイトくん」


 不意に聞き覚えの無い声が聞こえたので、俺を含めた全員がその声の主の方を向く。そこにいたのは……細身のボイン。スレンダーなボディを持つけしからんおねーさんだった。肌色は褐色とまでは行かないがちょい濃い目。へそが堂々と出ているような布面積の少ないきわどい服装。胸の谷間完全に見えてますね。腰まで届く長いストレートの緑髪が妖艶さを引き立てている。これは、正直目のやり場に困るな。


 というか、俺の名前を知ってるみたいだけど、一体誰だろう……。


「あの? どちら様でしょうか?」


「え? おねーさんが誰だか分からないの? フェイトくんが助けに来てくれることを今か今かと待ってたのに。あんなキモイ男に捕まっておねーさん大変だったのよ?」


 助けに来てくれる? 待っていた? ……それで、ダンテを倒したこのタイミングでご登場……って事は。


「もしかしてお前、シグルーン?」

「そうそう。大正解! ほらほら、ここに竜の角あるでしょ? あの指輪に閉じ込められちゃってて、やっと外に出られたのよ」


 そう言ってシグルーンは、額に生えている角を指差す。確かに、言われて初めて気付いたがドラゴニュートであることは間違いないな。さっきは見事なお胸様に視線が行って、角が目に入らなかった。


《まったく、響介さんは……》

《いや、仕方ないだろう。あの胸の吸引力には何人たりとも逆らえん》


「うん。そうか、とりあえず封印が解けたみたいだから良かった……のかな?」


「そうね。私の封印を解いてくれてありがとう。でもダンテのヤツにだいぶ力を持っていかれたからもうフラフラよ。だから、ちょっとだけね? 失礼して……いただきまーす」


 シグルーンがフラフラとしたおぼつかない足取りで俺の方に近づいてきたかと思うと、いきなりガバッと俺に抱きついて、唇を重ねてきた。


「んぐ!?」

「「「ああああああ!!!!!」」」

「むう……」


 シグルーンのあまりにも予想外の行動に俺は対応することができず。なすがままの状態で唇を奪われ続ける。うひー、舌入りましたぁ。やばい、意識が、意識が遠のく……。


「ん……む……ぷはぁ……はぁ、思った通りとっても濃厚ね。おいしかったわ」

「い、いきなり何するんですか? それに濃厚って何が?」


「ん? 何って魔力と神気の事よ。ごちそうさまでした。おかげでシグルーンちゃん完全復活よ!」


 腕を曲げ、力こぶを見せて復活アピールをするシグルーン。一方で魔力と神気を吸い取られ、更にはディープキスによって意識が朦朧となる俺……。


 ああ……なんか一緒に精力も吸われてしまったのかもしれない。こいつ実は嵐竜じゃなくて、サキュバスなんじゃないか?


「ちょっと、フェイト。これはどういう事なのか説明して貰えないかしら?」


「そうですわね。たっぷりと話し合う必要がありそうですわ」


「……フェイトお仕置きが必要」


「師匠、今作ってる魔道具の被験体になってくれませんか?」


 そんな完全グロッキー状態の俺に追い打ちをかける女性陣。というかなんでカレナリエンも混ざってるの?


「あ、いや。お前ら話せば分かる。こいつはダンテに封印されいてた嵐竜シグルーンで、さっきのはダンテに奪われた力を俺が補充してやった……つまり、人工呼吸みたいなもんだ。だから不可抗力、緊急避難だ。仕方なかったんだって……」


「ふーん。その割には随分気持ちよさそうな顔してたわよね」

「いや、そんなことは……」


 あったかもしれない……。というか、あんなイケイケナイスバディなおねーさんにあんなことされて、俺の中の男の子の部分が反応しないわけがない。生物学上ありえない。生きとし生けるもの、皆全てそのDNAに刻まれた本能には逆らえないのだ。


《なんか、崇高そうな事のように語ってますけど、要はきれいなおねーさんにデレデレしただけでしょ》

《そんな身も蓋もない事言うなよ……》


「はぁ……見たところ無理やりあちらからやられたみたいですから、ギリギリ不可抗力だったと認めてあげてもいいですわね」


 ……それでもギリギリなんすね。レティシアさんキビシー。


「うう……すまん。いきなりやられて避けようがなかったんだ」


「……まあ、いいですわ。でも、これで一件落着なのかしら?」


「一応使徒は倒して、嵐竜は開放できたけど、なんかこう、後始末が大変そうだなこれ……」


 俺は完全に荒野と化してしまった、王城跡地を見回してそうつぶやく。


「そうだぜフェイト。王城ぶっ潰して、これからどうするんだよ」


 ですよねー。戦ってる時は頭に血が上っていて、あまり後のことを気にする余裕はなかったけど、いざこうして終わってみると……。


 本当にどうしようか、これ。


次回の更新は11/11(土)の予定です。

よろしくお願いします。

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