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十一話 ダンテの誤算(2/2)

「女神を過大評価? それはどういうことだ?」


《ほんとですよ。どういうことなんですかー》


《お前も一緒になって何言ってんだよ》


《だって、いきなりそんなこと言われたら、普通怒るじゃないですか》


《あのなー、俺はお前の加護を一切受けてない。だからダンテがお前をいくら弱らせても、俺には関係ない。ただそれだけのことだって》


《ああ、なんだ。そういうことですか~。ダンテざまーみろって……ああ! なんか私要らなくないですか!?》


《はぁ……今頃気がついたのか? おせーよ》


「……なんだ? 急に黙りおって、貴様は何が言いたいのだ?」


 ダンテのやつ、俺とアストレイアの念話のやり取りを待っていられなかったらしい。イライラしてやがる。口調もなんか登場した時の様な余裕がなくなっている気がするし。もしかして、こっちが地なのかな?


「……そうだな。口で説明するより実際にその身をもってご体験頂いた方が分かり易いんじゃないかな? というわけで、ほらよ【ブリューナク】!」


 俺は右手に雷の魔力と神気を集中。雷撃の槍を形成すると、ダンテに向かって素早く投げる。全力ではないクイックモーションの【ブリューナク】だ。


《器用な事しますねぇ》


 俺が放った【ブリューナク】はダンテの左腕を一閃。肘から先が引きちぎられ、後方にあった王城に穴を空けて空に消える。


「そ、そんなバカな。これは紛れもなく神気。しかも俺の邪気の防御を易々と突き破るほどの……。なぜだ! 人々の信仰の心を折り、アストレイアの力は間違いなく失われているはず。多少残っていたとしても私の邪気を破ることなど不可能のはずだ。なぜだ……なぜこいつに神気が残っているんだ?」


 ダンテはしばらく片膝をつき、何やらつぶやきながら蹲っていたが、すぐに左腕を再生し、再び立ち上がる。しかし、ダメージというか、邪気はだいぶ散らされたようだ。その証拠に肩で息をしている。


《どうして一撃で仕留めなかったんですか?》

《えっと、空気読んでみた……みたいな?》


《もうー、こんな時にふざけてる場合ですか》

《まあ、あいつにはまだ全然礼を返せてないしな。それにさすがにあれ一撃じゃ無理だと思う》


 俺は弱体化されてはいないが、あいつ自身は王都に渦巻く負の感情を受けて、強化されているはずだからな。


「この俺が、こんな計算間違いをするなどあってはならないのだ。この完璧な俺が……そうだ、あいつが、あいつが何かズルを、卑怯なことをしたに違いない。そうに決まっている!」


 うわぁ……なんか一人でぶつぶつ言ってるよ。それに一人称が『俺』に変わってるけど、こいつもだいぶ化けの皮が剥がれてきたな。それに俺はズルなんかしてないぞ。


「うへー、こいつなんかキモー」


 カレナリエンにもキモいって言われちゃってるよ。


「くそがぁ、これだけは……これだけはやりたくなかったのだが。仕方あるまい……ぐ……ク……グオォォ!!」


 ダンテは唸り声を上げると、服が背中から破れ、そこから4枚の鳥のような翼が生え、足は鷲の脚の様に変形する。顔は口が鳥の嘴の様に伸び、表情は悪魔のごとく醜い。目は邪気を湛えて真っ赤に染まっている。


「うわ、変身しやがった。これが使徒の正体か」


「さっきのイケメンの原型全然留めてねーな」


「まったくよ。一瞬でもカッコイイって思ってしまった私のバカバカバカ……」


「こいつボクが殺っていい?」


《相変わらずあなた達は緊張感ってものが無いですねぇ》


 念話で悪態をつくアストレイア。俺らに緊張感とか無理な話じゃないの?


「ぐ、コケにしおって。いでよ我が下僕ども。こいつらを八つ裂きにしろ」


 すると、ダンテの周りに三つの魔法陣が現れ、そこからケルベロス、オークキング、グリフォンのAランクの魔物が出現した。少し前のトリスタン達だと歯が立たない相手だったのかもしれないが、今ではもう十分に対処できるだろう。


「トリスタン、エレーナ、カレナリエン。当初の手筈通り、露払いを頼む。俺はあのいけ好かない勘違いキモメン野郎をぶっ潰す」

「おう! 分かった。任せとけ」

「殺る」

「Aランクの魔物との実戦……貴重なデータが取れそうね」


「貴様ら! 舐めるなぁぁぁ! 行けぇ! 我が下僕ども!」


 ダンテの号令に応じ、一斉に駆け出す三体の魔物。その中でも群を抜いて足が早いケルベロスがこちらに迫ってくる。


「足を止める」


 そう呟いたエレーナが、パルティアを構え、二本の魔法矢を放つ。その放たれた二本の矢は狙いを寸分違わず、ケルベロスの前足二本を貫き、その動きを止める。


「よっしゃぁ、くらいやがれ」


 前足を潰され、勢いを削がれてしまったケルベロスに、グラディウスによる渾身のチャージ攻撃をお見舞するトリスタン。強化魔法で威力を極限まで引き上げられたその一撃は、ケルベロスの頭ひとつを吹き飛ばすのに十分な威力を備えていた。


「トリスタン、ちょっと下がって」


「え? ちょ、ちょっと待て」


 トリスタンがケルベロスの三つある頭の一つを弾き飛ばした後、カレナリエンは両腕に持った二本の小型レールガンを構え、その引き金を引く。二条の光の軌跡が、先程までトリスタンがいたところを通過し、ケルベロスの残りの二つの頭を貫いた。


「おい! カレナリエン。もうちょっとで俺に当たるところだったじゃないか」


「ちゃんと計算してるから大丈夫よ。それにあんた堅いから少しくらい当たっても大丈夫でしょ」


「いや、いくらなんでもあんなもん食らって無事で済むかよ」


「トリスタン無駄口禁止。次が来る」


「そうそう。壁役はあんたなんだからちゃんと働いてよね」


「ぐ……お前ら俺の扱い酷すぎね?」


 ふむ、まあまあ連携はとれているな。この様子なら残りの二体を任せても大丈夫だろう。


《あれって連携とれているって言うんでしょうか?》


《トリスタンの扱いはあれでいいじゃね?》


「なに……ケルベロスがあんなにもあっさりと……あれは俺の邪気で多少なりとも強化されているというのに……。なぜだ、なぜここまで計算が狂った?」


 下僕の一匹が簡単に撃破されたことに忌々しげな顔を晒すダンテ。今まで自分のシナリオ通りにいってたと思い込んでいたわけだからな。その気持ちは分からんでもないけど、俺への注意を怠るのは良くないんじゃないかなぁ。


「はいはい、よそ見はだめでちゅよ~」

「!?」


 俺は身体魔法を施し、高速でダンテの横に移動。ゼロ距離からの神気【エアハンマー】をダンテの脇腹にキメる。


《それ、気に入っちゃったんですね》


《ああ、なんかカッコイイし》


「ぐはぁ!」


 ダンテは強烈な脇腹への一撃に堪えられず、吹き飛ばされて王城の壁に激突。その壁にも大穴を空け、ダンテの姿は瓦礫の向こうに消えてしまった。もうもうと立ち上がる砂煙と、バラバラと瓦礫の崩れ落ちる音だけが残る。


 しばしの静寂。トリスタン達も思わず動きを止めて見入ってしまっている。


「まさか、今の一撃で……やったのか?」


「いや、それはない。まだ邪気が漏れているから生きているはずだ。おーい、ダンテ君。いつまでも死んだふりしてないで出てきなよ」


 まあ、その邪気もだいぶ弱ってきている感があるんだけどな。【ブリューナク】とさっきの一撃でだいぶ効いてるみたいだ。


 その刹那、ダンテが瓦礫を弾き飛ばして壁に空いた穴から飛び出してきて俺の前に着地する。


「そんなはずは……俺は邪神エクリプス様の使徒。こんなガキの一撃でこれほどのダメージを受けるはずが……」


「お前なぁ。ちゃんと現実を受け止めろよ。お前が偉そうに言ってた計算とかシナリオなんてモノはな。所詮は絵に描いた餅、単なる机上の空論だったんだよ」


 俺のとどめのセリフに、醜くなった顔を更に歪めて激昂するダンテ。


「うるさい! お前は……お前は一体何なのだ!」


「ああー、そのセリフ、ケルソのやつも言ってたわ。それで奥の手出して死んだけど、お前もまだなんかあるの?」


「くそぉ! 舐めるなぁぁぁ!」


 ダンテは右手を天にかざすと、その中指に嵌められていた指輪がどす黒く、不気味な輝きを見せる。


「こうなったら嵐竜の力のすべてを俺に!」


 なに? 嵐竜だと?



次回の更新は11/6(月)の予定です。

よろしくお願いします。

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