十話 ダンテの誤算(1/2)
「よし、アリスンさんが頑張っている間に俺達もやるぞ」
「おお、やってやるぜ!」
「あの、ちょっと……フェイト」
「ディアナ、言いたいことは分かる。アリスンさんは大丈夫だと言ってたが、ディアナは行ってあげたいんだろ? 俺たちはいいから行ってくれ」
「え? 良いの? それって、アリスンさんの信頼を裏切ることにならないかな?」
「そんなこと言っても、お前はアリスンさんの事が気になって目の前の事に集中できないんだろ? それだとこっちの戦力ダウンになる。全体の戦況を見て総合的に判断したと後でアリスンさんに説明するからさ。いいから行ってこい」
「ありがとうフェイト。エヘ……ちゃんと私の事考えてくれてるのね」
う……ディアナから頬に不意打ちキスされてしまった。ちょっと大胆になってきたのは良いのですが、なんかフェリシアさんに似てきてないですかね? ちょっと将来が不安になってきちゃったよ。
「あのなぁ、お前ら。こんな所で甘ったるい空気作んなよ」
「む……ディアナ。なかなかやる」
こいつは全然進歩ないなぁ。相変わらず無粋なこと言ってやがるぜ。エレーナもライバル心燃やすなよ。
「こういう時だからこそだよ。お前も彼女の一人ぐらい作れってみろよ。そしたら分かるって」
「ぐ……このリア充が! 爆発しろぉ!」
というか、前から疑問に思ってたけど、このリア充爆発しろのくだり、なんでこの世界にあるんだろうな……。
《もしかしてお前が犯人か?》
《ギクッ……いえ、そんな事ないですよ。毎年12月24日に彼女のいない寂しい男共が集まって『リア充爆発しろ』と唱え、お互いの傷を舐めあい、団結力を高めることで明日への希望を見出す行事。まさかそれを教会主体でやってるわけないじゃないですか》
《ギクってお前……バッチリやってんじゃねーか》
これで謎が一つ解けた。しかし、なんて悲しいイベントを作りやがったんだこいつは……。
「フェイト?」
「ああ、ディアナすまん。行ってくれるか?」
「任せて」
さて、気を取り直して……いっちょ派手に暴れるかね。
ディアナと別れ、俺とトリスタン、エレーナ、カレナリエンの4人は王城の門の前に立つ。
「貴様ら! 何者だ! そんな武装した格好で王城に近づくとは怪しいやつめ。……おい、お前、他の者も呼んでこい」
「は、了解しました」
警護兵の隊長みたいなやつが怒鳴り、部下に応援を呼ぶように指示を飛ばしている。
「あれ? 俺って王都では有名人だと思ってたけどそうでもないのかな」
「まあ、師匠の場合は有名って言うより、悪名の方が高いからねー」
「ぐ……うるさいな。でもそのほとんどは勘違いか、根も葉もない噂なんだからな。俺は悪くない」
「そんなこと言っても、あの兵士達、師匠のこと分かってないっぽいよ」
「じゃあ、嫌でも思い出させてやる。カレナリエン……やれ」
「うん。分かった。じゃあ、派手にいくよー」
「角度つけて王城には当たらないようにな。まだ中の人避難できてないから。城門だけ壊せよ」
「了解! 発射-!」
カレナリエンは新しく開発した小型レールガンをぶっ放す。ガルティモアの戦いで使ったものよりかなり威力が抑えられているので、放った弾丸は城門だけを破壊、空に向かって光の筋だけを残す。
「使用感はどうだ?」
「うん。前のやつに比べて全然魔力が持ってかれない。これなら連射もいけるよ」
改良の出来は上々ってところか。ちなみにアリスンさん達に渡しているのは、カレナリエンの物より更に小型化して、取り回しの良さを重要視している。その分威力は格段に落ちるが、隠密工作にはその方が良いだろう。
「こ、この閃光は……ガルティモアで貴族派軍を壊滅させたあの……」
「じゃあ、あれがレーニアの英雄のフェイトなのか? お、おい。あんなバケモノ相手に、俺達が束になっても勝てるわけないぞ」
あの戦いに従軍していた奴が何人かいたようだ。完全に怯えて戦意を喪失している。
「じゃあ、とっとと逃げるんだな。俺は歯向かってくるやつには容赦しないが、戦意のないやつには興味がない。死にたくなければ、あと10数える間に視界から消えろ」
「わ、分かった。頼むから命だけは助けてくれ」
と、言いながら一目散に逃げ出す門番兵達……。まあ、俺から逃げろって言っておいてなんだが、大丈夫かねこの国。なんか、忠誠心の欠片も感じられないんだけど。
「けっ。情けねぇ奴らだぜ」
「いやー。相手が相手なんだから、仕方ないんじゃない?」
「さて、そんなことはどうでもいいから、さっさと使徒の顔を拝みに行くぞ」
「おう」
俺達は破壊された城門を通り、王城へ続く通路を歩く。途中、何事かと兵士や城に勤めている者が集まってきたが、俺の姿を認めると皆恐怖に顔を青ざめ、逃げていった。俺は一体王城でどう思われていたのだろうか。
んー。結構時間は稼げたかな? カガリを始めとした獣人さん達に『レーニアの英雄フェイトが王城に攻めてきたぞー』って声掛けして、王城の人間を逃がすようにお願いしてたから、もうボチボチ人が捌けた頃だと思う。もうそろそろ使徒さん出てきてくれないかな?
俺は【サーチ】で人が居ないことを確認し、王城の一角に【サンダージャベリン】を複数発放ち、破壊する。激しい爆音と共に、破片が地上にバラバラと降り注ぎ、逃げ出そうとしている王城の関係者から悲鳴のような声が聞こえる。……直接当たってないから大丈夫だよね?
「邪神の使徒ダンテ! 約束通り来てやったぞ。そろそろ姿を見せたらどうなんだ! 出てこないならこのまま王城を更地にするぞ!」
俺は風魔法で声を拡散し、ダンテを挑発する。すると……
「城門を破壊し、正面から突っ込んでくるとは……まったく、女神の使徒は礼儀がなっていませんね」
目の前に黒い靄が現れたかと思うと、その靄からスカした若い男の声が聞こえてきた。あれが、ダンテか。やがてその靄は人の形をとったのだが……なんだありゃ。結構イケメンじゃないか。なんかムカつくな。
「女を人質にとるような性根の腐ったヤツに言われたくはないね」
「そうだそうだ! 姿を見せずに裏でコソコソとしやがって。この臆病者が!」
「フェイト、あれ殺っていい?」
「な、なかなかカッコイイじゃない」
カレナリエンってああいうのが好みなのかな? それはともかく、恐らくあの甘いマスクでマイアに言い寄ったのかもしれない。マイアも結構面食いっぽかったし。
「今までコソコソと逃げ回っていたお前が、こうやって出てきたということは、何か勝算でもあるのか?」
「勝算だって? ククク……フハハハハ! ……ハーッハッハッハ!」
「何がおかしいんだ!」
うーむ。あんな芝居がかった三段笑い、リアルで初めて見たわ。漫画やアニメだと不自然じゃないけど、リアルだとキツいものがあるな。カレナリエンの顔も引き攣っている。
「いや失礼。君は本当に私の思い通りに動いてくれてね。それを思い出したらあまりにおかしくなってな。マイアを使ってレーニアからおびき出し、貴族派と戦わせて王都を混乱させ、王族を根絶やしにし、御しやすいマイアを王位に就けた。国民は疲弊し、絶望のどん底に叩き落されたことだろう。まさに私の描いたシナリオ通りに事が進んだよ」
「それで?」
「ふん。ようやく己の浅はかさを思い知った様だな。君は私の手の上で踊っていただけに過ぎないのだよ? しかも最後の最後にわざわざ自ら殺されに来るなんて、君は本当にバカだな。君の困惑する姿を見るのは実に愉快だったよ」
振り回されていたのは確かだが、殺されに来たつもりはさらさらねーよ。
「それはどーも。要するに王都を混乱させて、国民を絶望のどん底に叩き込む。その国民の負の感情で邪神の力を強化する。それがお前の狙いってわけか」
人差し指を顔の前に立て、チッチッチとキザったく口を鳴らすダンテ。正直ウザい。もう殴っていいかな?
「それだけではないぞ。封印している嵐竜テンペストからも力を奪った。更にアストレイア教を排し、女神への信仰も消失させた。つまり、今の貴様は女神の加護を失っている状態だ」
ん? 女神の加護だと?
「クヴァンとデュークを使い、実戦データも取らせて貰った。君の手の内などもうお見通しだ。物理攻撃さえ気をつけていれば神気のない君など敵ではない!」
ああ、やっぱりクヴァンとデュークは単なる捨て駒だったのか。でもな、ダンテよ。お前は一つ勘違いをしているぞ。
「おい、フェイト。あいつあんなこと言ってるけど大丈夫か?」
「いや、全然問題ない。あいつすべてが自分の思い通りいったと思っているみたいだが、大きな誤算がある」
「何? この私が誤算だと? それは聞き捨てならんな」
不機嫌そうに顔を歪めるダンテ。その様子に気を良くした俺は、更に言葉を続ける。
「ああ、はっきり言ってやるよ。お前の誤算はな」
俺は一旦ここで言葉を区切り、ダンテを睨む。そんな俺を下卑た目で睨み返すダンテ。場が静寂と緊張に支配され、そこにいる全員が俺の一挙手一投足に注目する。
俺はひと呼吸おき、こう叫んだ。
「それは、うちの堕女神を過大評価しすぎたことだ!」
《な!? それはあんまりですよぉ響介さん!》
次回は11/4(土)更新予定です。
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