099 分岐点 里美1
― 099 分岐点 里美1 ―
東の森の中。
僕は蜘貴王サビアンさんと里美に挟まれ、お茶をしている。
明日には康子と僕の魔族がダンジョンから出てこれそうだから、それまで休憩中だ。
「明日には康子達と一緒にダンジョンから出れると思う。たくさん眷属作ったし、すごい勢力になったよ。」
サビアンさんは大人の落ち着きで僕を見つめる。
「魔族化出来そうな魔物は居まして?強い魔物程嫌々従いますので、縄張りから出したら立ち去られてしまうことも多いので気を付けたほうがよろしいですよ。ですので縄張りから出すのは魔族化させないと不安でしてよ。」
「ええ、1000体ほど魔族化させました。」
サビアンさんの笑顔が凍った。
「え?よく聞き取れませんでしたわ。」
あれ、聞こえなかったのかな。
「1000体ほど魔族化させました。明日になったらもう少し増えるかもです。」
「ふ、ふふ、何かの勘違いでは?魔族化させるのはかなり大変でしてよ。スパルタなビレーヌさんやデルリカさんでも2年で4体ほどしか魔族化できておりませんのに。」
「そうなんですよ、ですから僕も驚きました。まさかあんな簡単に魔族化させる裏技があるなんて思わなかったです。」
そこまでいうと、サビアンさんは凄く目を血走らせて僕の両肩を掴んできた。
こ、こわい。目が怖い。
「そのお話、詳しく!さすがは賢者大魔導士のナガミーチさんにそっくりなだけありますわ。是非、、、是非その裏技をご教授くださいませ。わたくしに出来る事でしたら、どんな要求も飲みますので、ぜひご教授ください!」
鼻息荒い美女怖い。
僕は出来るだけ落ち着いてサビアンさんをなだめる。
「お、教えますから落ち着てください。タブン簡単すぎて拍子抜けするくらいの内容ですから。」
サビアンさんは僕から手を離すと深呼吸して姿勢を正す。
「こほん、取り乱してしまい失礼いたしました。お恥ずかしい限りですわ。ですが魔王にとって魔族の数は財産です。その財産をポコポコ生み出せるとなれば大問題ですので。」
まあ、人間でいったらお金を生み出せるくらいの価値があるだろうから、なんとなく気持ちは分かる。
「じつはN魔法で初期ステータスを与えてあげるだけなんです。その時に称号に<魔族>って入れると魔族化します。それだけです。なんで今まで誰も試さなかったんでしょうね。」
「・・・N魔法?賢者大魔導士であるナガミーチさんが作り出した『ナガミーチ式魔法』ですわね。それでしたら誰も試すことはできなかったのも納得ですわ。そもそも魔王はN式魔法を知りませんし、人間は天敵である魔物を強化するために、魔法の初期ステータスを与えたり致しませんから。」
言われてみればその通りだ。
人間にとって魔物は敵として倒すもの。魔法を与えるわけがない。
しかもN式魔法は、人間でさえ一部のエリートしか習えない希少価値のある魔法だから、魔王がN式魔法を使う事は全くないのも当然か。
「でもサビアンさんにはこの2年でN式魔法をかなり教えましたので、もう出来ると思いますよ。」
「まあ!ではわたくしは、すでに金の卵を産む鶏を手に入れていましたのね!ちょ、ちょっと失礼させていただきますわね。早速試してこようかと思いますので。」
ソワソワと席を立つビレーヌさんを見送った。
どの魔物を魔族化させるんだろう?可愛い魔族が増えてほしいかも。
里美がじっとこっちを見ている。
そして悪戯っぽく微笑んだ。
「お兄ちゃん、今いいこと考えちゃった。私は勇者だから魔族は持てないけど、魔物に初期ステータスを与えて<里美の従魔>って称号与えたら、私の忠実なペットに出来ないかな。」
「里美!天才か!」
早速応用を考え付くとは、里美は機転が利く。
流石僕の妹、天才すぎでしょ。
「ちょっと試しに行ってくるね。」
里美も森の中に走り出していってしまった。
サビアンさんと里美が居なくなったので、僕は一人でゆっくりとお茶を飲む。
ふう、明日から本格的な戦いになりそうなのに、ここは暢気だな。
数分、静かに過ごしていると嬉しそうにサビアンさんが嬉しそうに帰ってきた。
下半身が蜘蛛なので、こっちにまっすぐ進んでくる姿はちょっと怖い。
サビアンさんの後ろには、半分人間の姿をした魔族が4人ついてきている。
黒い鎧を着たような軍人にみえる。
鎧と武器の形状から推理すると、カブトムシ2人とクワガタ2人かな?
強そう。
「長道さん!本当に簡単に魔族化しましたわ。魔王とN魔法の組み合わせは無限の可能性がありますわね。」
「うまくいって何よりです。ですが、魔族を沢山持つことのデメリットがあるかもしれないので、魔族化は慎重にした方が良いですよ。1000体以上魔族化させた僕の言えることではないですが・・・。」
すると、里美も大きな白い狼に乗って帰ってきた。
天狼と呼ばれる大型の魔物だ。
「お兄ちゃん、思った通り魔族化の応用で簡単に従魔にできたよー。この子はフェンリルって名付けたんだー。日本で飼っていた天狼と同じ名前にしちゃった。」
サビアンさんと里美を見て何ともいえない気持ちになった。
「N式魔法にはまだまだ可能性があるんだね。マニュアルには出ていない応用はもっと研究する必要があるのが分かったよ。N式魔法は小さいころから持っていたから、全然凄い実感が無かったけど、やっぱりこの魔法は凄いんだね。」
そこでサビアンさんが目を吊り上げる。
「何を言っているんですか!世界で、人や魔族が習得可能な32の魔法体形の中でもN式魔法は圧倒的に最強ですよ!N式魔法よりも上位の魔法は世界のコントロールをつかさどる天界用言語くらいなものですから。」
凄いんだな、N式魔法。
「そうだったんですか。でもさすがの賢者大魔導士も天界用言語には勝てなかったんですね。」
すると里美が嬉しそうに抱き着いてきた。
「それは違うよお兄ちゃん。マリユカ様や大天使様が楽できるように天界用言語を作ったのも賢者大魔導士だよ。」
「マジか!じゃあ結局賢者大魔導士が最強じゃん!」
僕のパパンの可能性のある人凄すぎ。
天才っていうか神だな。
そのあと、サビアンさんは「まずは100体ほど魔族化させて様子を見ますわ」とかいって、嬉しそうに森に消えて行った。
蜘蛛の体でスキップするように森に消えていく後姿は、ふしぎと可愛らしく感じた。
お読みいただきありがとうございます。
次回、理不尽な一撃が長道を襲う。




