095 分岐点 康子3
― 095 分岐点 康子3 ―
個の階層の地面がマグマで埋め尽くされて進めなくなったので、死霊大神官が地面に<アイスブリザード>とかいう上級魔法を撃ちまくってくれた。
だが、マグマの流れには、十分に対抗できなかった。
ちょっとくらい冷やしても無駄か。
僕は足場ギリギリまでマグマに近づいて手をかざした。
それだけで暑さで視界がゆがむ。
それでも手をかざした。
冷気を与えてもだめなら、逆に考えてみよう。
熱を奪うんだ。
<純化魔法>を発動させてマグマの熱に集中する。
この<純化魔法>というのは純粋なエネルギーを扱う魔法だ。
エネルギーの中で最も代表的な存在といえば熱。
だから僕は<純化魔法>で「熱」というエネルギーをマグマから奪うのだ。
熱を奪うのは、冷やすのと同義だが、インテリ風の死霊大神官ですら僕が言っている意味を理解してくれなかった。
どうやら、これに関しては日本の教育を受けた僕の知識チートっぽい。
マグマから熱を奪い、奪った熱は<空間収納>に格納する。
<スキル>や<ステータス>みたいな「概念」すら収納できる<空間収納>だ。
エネルギーなら、当然格納できるはず。
集中して熱を奪い続けると、徐々に地面が冷えて黒くなってくる。
「す、、、ごい。私達、、、の王は、、、すご、、、い。」
七人岬が呪いのような視線で僕を見つめてブツブツつぶやいている。
でも怖いから無視。
10分で5メートルほど地面が冷えて黒くなった。
とはいえ、これは思ったよりも効率が悪いかな?
よし、いったん休憩。
「地面を冷やせるのは分かったから、これから他の人にも手伝ってもらおうかな。今日は一日かけてそのための道具を作るよ、それをつかって明日からは一気に地面を冷やすから手伝ってね。」
死霊大神官は僕に膝をつく。
「我が王よ、それは我らに力を与えてくださるという事でしょうか?」
骸骨のくせにイケメンボイスなのが、どうしても脳が受け付けない。
早くなれなくちゃ。
でももう少し考えた。
「そうだ、そういえば地下5階層のエリアボスは倒しちゃったけど、6階層と4階層のボスには力を与えてもいいかな。魔族化するかもしれないし。」
「グラララララァ↓」
すると、僕を乗せていた竜が不服そうに唸た。
死霊大神官が(たぶん)苦笑いしながら補足してくれる。
「我が王よ、第5階層のボスはベヒモスではなく、この地竜変異種・オニキス竜ですぞ。ベヒモスのようなバカより下に見られてご機嫌が斜めになってしまいましたぞ。」
あっおー
てっきり最大巨体が階層ボスだと思っていたけど、こっちの方がボスだったのか。
「勘違いしてごめんね。優しいから階層ボスだとは思わなかったんだ。」
「ぐるるる↑」
うん、唸り方がテンション高い気がする。機嫌が直ったと思っていいだろうか。
魔物はチョロイ。最近本当にそう思う。
人間よりもよほど心を開いてしまうよ。
康子が僕の隣に来た。
「お兄様、もしかすると眷属を作る良い機会かもしれません。力を与えてみてはいかがでしょうか?ここで力を与えれば、マグマの階層突破にも役立つとおもいますが。」
康子の言葉に返事をしようとした。
そしたら魔物たちが一斉に僕の前にひれ伏したのだ。
な、なんだ?
階層ボスだけでなく、スケルトンやレイスのようなザコ魔物まで、一糸乱れずひれ伏してきた。
代表するように死霊大神官が頭を避けながら声を上げる。
「おおおおお!我ら階層ボスを魔物から魔族に進化させていただけただけでなく、さらなる力を授けて頂けるのですか!あなたは神か。。出来ましたらこの卑しい我れにもさらなる御奇跡をお与えください。必ずや忠義でお応えいたします。」
え?この骸骨、いま大事なこと言ったぞ?
『魔族に進化させていただいた』って言ったか?
「でっかい骸骨君、君は僕と会うまでは魔物だったってこと?で、僕の配下に入って魔族化したの?」
「はい、数時間前までは死霊司祭という魔物でした。ですが我が王、、、いや我が神に忠誠を誓った瞬間に死霊大神官へとクラスアップし、魔族へと進化したのです。オニキス竜も七人岬も、忠誠を誓った直後に魔族化しておりますよ。もしや無意識の御業でしたか?さすが我が神、奇跡があふれ出しておりますな。」
ま、ま、まじか!
なんで?
いや、原因究明は後にしよう。
そういえば・・・
サビアンさんの説明では、自分で魔物から育てた魔族は絶対忠誠を尽くしてれる存在らしい。
なるほど、やっと死霊大神官やオニキス竜や七人岬の献身の意味を理解した。
あ、そういえば…
僕は急激に悟った。
もしかして…
このダンジョンそのものに<鑑定>をかける。
出てきた名称が
<黒竜王窟>
うが!やっぱり!
土竜王が僕に敗北を認めたことで、このダンジョンは僕の縄張りになっていたのか!
そいえば南に作った『長道の森』も、僕がマリーさんに譲渡を認めたら、速攻で『食楽王の森』になったっけ。
そっか、ここが僕の縄張りだから魔物は僕に従ったんだな。
よ、よかったー
モテ期とかじゃなかったんだ。ハーレムって訳ではないんだね。
今思うと、僕は魔物に全く襲われていないや。
そっか、そういうことか。
納得。
でだ。
そうわかったら、なんかこの魔物達が急にかわいく見えて来たな。
だって、全員僕の配下なわけだし。
そうだお小遣い上げちゃおうかなー。
ステータスというお小遣いを。
僕はこの6年で、数万の魔物からステータスとかを奪ってきた。
だから異常に沢山<スキル><魔法><能力>を持っている。
持っているだけで、全然使っていないから大放出してもいいか。
「わかった。でも槍で貫かれるような痛みがあるからそれは覚悟してね。それでもいいなら、今このダンジョンに居る全ての魔物にチャンスをあげる。望むなら与えよう、求めるなら応えよう。痛みと僕の命令を受け入れるならば新たな力を授ける。」
「おおおおおおおおおおお!」
何あげようかな。
そのあと
6時間ほどかけて、目の前の魔物全てにN魔法で名前と初期ステータスを与えたり、<原始魔法>でスキルや魔法を強制的に与えたりした。。
そのさいの、魔物への名づけは辛かった・・・。
名前を付けないと、ステータス画面が与えられないから名付けたけど、気が付いたら数百の魔物が僕の後ろに並んでたんだもの。
さらにマグマの中から火の魔物が200くらい飛び出してきて忠誠のポーズしてくるし。
名づけなんて30くらいが限界だよ。
途中からいい加減になって「スケ三太」「スケ四太」「スケ五太」みたいになっていったのは当然の流れだった。
大変だった・・・
でもその労力には十分な価値があったかも。
だってN魔法の初期ステータスと、僕が貯めていた大量の能力を<原始魔法>で次々に突き刺したことにより、僕に従っていた魔物は全て魔族になったのだから。
ザコ魔物にはN魔法の初期設定だけしか与えなかったのに、、、まさか名前と初期ステータスを与えるだけで魔族化するとは思わなかった。
サビアンさんからは苦労して魔物から魔族化させるって聞いてたけど、意外にチョロイな。
疲れて僕がぐったりすると康子が<空間収納>から冷たい水を出してくれた。
「お疲れ様ですお兄様。まさか末端のレイスやスケルトンでさえ魔族化するとは思いませんでした。さすがはお兄様です。やはりお兄様やデルリカお姉さまは私にとっては理想を超えた存在です。」
康子は大げさだな。
「康子の方がよっぽど凄いよ。僕は助けてもらってばっかりだし。」
すると康子はユックリ首を横に振る。
「いいえ、前世の私はゴリラのような自分の姿に絶望していましたし、何をやってもダメな人でした。ですがデルリカお姉さまやお兄様が、私を可愛いとか優秀だって根気よく言ってくださったからこそ自信を得られたのです。私から見れば、お兄さまやお姉さまの方がよっぽど完璧超人ですよ。私の目標です。人を超えた高みに手を届かせても自然体なお二人は本当に憧れでした。」
「康子が語る前世の僕は凄いね。今の僕はその1%にも届きそうにないけどね。はっはっは。」
そこに、オニキス竜のオニキスが僕に頭を下げる。
「我が神よ、そのような過ぎた謙遜は美徳ではありませんよ。我が神の素晴らしさは我らが証拠となりましょう。」
オニキス、能力を与えたらすげえ流暢に話すようになってビックリ。しかも知的な女性秘書みたいな声だし。
与えた能力の中の<万能翻訳>や<知力:+2000>がかなり効いたのかな。
さっきまでは「グルルルゥ」とかしか言えなかったのに。
スケルトン達も「我が神よ、そうでやんすよ。」「俺らが魔族化したのが証拠っす」「我が神は胸張って下せえ」とかワラワラよってきた。
魔族化して話せるようになっても、どこか下っ端感が漂うスケルトンに親近感がわくわ。
レイスたちも、邪精霊に進化して、ちょっと神々しい。
『そうですよ我が神、我が神は我らの神。ご自分を卑下してはいけません。』
周りを見渡す。
するとみなが僕をキラキラした目で見ている、、、、気がする。スケルトンの目とか分からないけど、きっとそんな感じだ。
そっか、だったら僕も情けない姿はさらせないな。
「ありがとう、みんな。」
康子は僕の前に膝をつく。
「良い機会ですので、、、お兄様、あらためてお礼もうしあげます。覚えて居ないでしょうが、90才を過ぎて死の直前だった私をこの世界に呼び寄せてくださったこと、本当に感謝しております。尊敬するお兄様と、大好きなデルリカお姉さまの妹として新しい人生をくださったお兄様は、私から見ても神にも等しいお方。自信を持ってください。今のお兄様は前世のお兄様に負けない程尊敬に値するお人です。それはこの康子が保証いたします。」
僕は慌てて康子の顔を上げさせた。
スーパー超人の康子にそんなこと言われると、こっちが困ってしまうよ。
「康子、そんな頭を下げないでよ。康子の気持ちは分かったから。ね、普通にしよう。」
とても柔らかく魅力的な笑顔が僕に向く。
「お兄様は相変わらずですね。」
「まあ、身に覚えのない感謝はむず痒いけど、それで康子が納得できるなら認めるよ。でも普通にしてね。なんせ兄妹なんだからさ。」
「はい、お兄様。」
このあと、大量の能力移植核をつくり、そこに<純化魔法>の熱吸収術式を封入した。
次の日、その魔道具を魔族達に渡すことで、一日で第三階層のマグマの熱をすべて吸収。第二階層に向かった。
第2階層でも高レベル魔物が次々に頭を垂れてくるので、次々にステータスの初期設定を与えて魔族化する。
それでまた一日潰れた。
結局僕は3日使ってダンジョンから出てきた。
この時僕の率いた魔族の総数は、1200にのぼる。
地上に出てから気づいた。
「あ、ダンジョンで凄い働いた気になっていたけど、康子しか戦ってないじゃん。僕、お兄ちゃんなのに。」
うん、気づかなかったことにしよう。
うぐぐ、他の妹達にダンジョンの出来事を聞かれたらなんて言い訳しようかな。
僕だって、帰りの途中で魔物のテイムを頑張ったって言おう。
あと、僕がテイムした魔物っていうか魔族が頑張ったっていう事は、僕が頑張ったって言うのと同意だと主張するぞ。
だから2人で頑張たといえる。そういうことにしようと思う。




