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094 分岐点 康子2

あらすじ

康子とダンジョンに入った長道は、軽々と土竜王を撃破した。

だが帰り道は遠い。

― 094 分岐点 康子2 ―


さて、分身がダンジョンの外に居るから死んで戻るというのもアリなんだけど、ついでだから攻略したいかなー。


いや本音を言いましょう。

途中で見た魔物の素材が欲しい。


だから、外の事は外の自分に任せて、ダンジョンに降りた僕はじっくり地上に戻ろうと思った。

何気にダンジョン初めてだし。


地下6階

アンデットゾーン。

ぶっちゃけ臭い。腐臭。生ごみのバージョンアップした匂いが凄い。

ココは早めに終わらせて地下5階に急ごう。


この階層に上がるとすぐ、少し離れたところから「あー」とか「うー」とかうめく集団が近づいてくるのが見えた。

あれだね、ゾンビだね。

アメリカ人が大好きなゾンビだよ。

50メートルは離れているのに、もう臭いよ。


おいゾンビ好きさんたち、これが好きなのか?

この腐った連中が本当に好きなのか?

臭いぞ!すっごい臭いぞ!

やばい、吐きそッゲロゲロゲロ。


「お兄様!大丈夫ですか!」


「ごめん、、、、康子はくさいの大丈夫なの?」


康子はそっとハンカチで僕の口元を拭いてくれる。

「大丈夫なようです。<状態異常耐性>の値が高いからかもしれませんね」


また<状態異常耐性>か。

あの耐性は万能だな。


そう思いながらフラフラしていると康子の体が光り出す。

「少々お待ちを。いま清めますので。」


そういうなりゾンビに向けて手を突き出した。

「ハッ!」


衝撃波のような光が撃ちだされ、30メートルほどまで近づいていたゾンビたちを一瞬で消し去った。

砕いたのではない、本当に消し去ったのだ。

あの臭いにおいも、一瞬で消し飛んだ。ファブリーズ機能付きとか凄い魔法だ。

「すげー!康子さん凄いっす!さすが勇者だ!天才!」


心なしか康子は、はにかんでいるようだった。

「いいえ、これは衝撃波魔法と勇者の神聖魔法を同時に撃ち込んだだけなんですよ。衝撃波で砕き、神聖魔法で破片を消滅させただけでして。」


「謙遜しなくていいよ、すごいじゃん。さすが康子は天才だな。」


するとクスっと笑われてしまった。

「前世で私に魔法を教えてくださったのはお兄様なのに、そんなに褒められるとなんだか不思議な感じです。衝撃波魔法と他の魔法を組み合わせる方法を考えて私に伝授してくださったのもお兄様なんですよ。」


「マジか!前世の僕すごすぎ!」


意外なところで前世の自分の事を知ってしまった。

てっきり僕の前世は、ただの敏腕プロデューサーだと思っていたのに意外な話を聞いてしまった。


もっと詳しく聞こうと思ったけど康子が「さあ、先を急ぎましょう」と手を引いてくれたので一旦雑談はストップだ。

たしかに、早めにアンデットゾーンは通過しないと大変な事になりそうだ。胃液のリバース的な意味で。


そのあと、よく考えたら僕はネクロマンサーの職業を持っていることを思い出した。

物は試し


次はスケルトンの軍団が現れた。


「お前たち、僕に従え!武器を納めろ。」


するとスケルトンたちは、素直に武器をしまって僕を警護するような配置に動いてきた。


なんと、、、ネクロマンサーすげー。

じつはこのフロアーは僕が無双するためのフロアーだったのか。

よし、なら強気に進むぞ!



で、2時間程度で軽々地下5階に上がれた。

ただ・・・

その僕らの後ろをレイスとかスケルトンが沢山ついてきている。

なぜかフロアーボスと思われる死霊大神官とかいう巨大骸骨まで一緒だ。


めっちゃ懐かれた…

これがネクロマンサーの力なのか。

うん、こんなペットたちはいらない。

骨とか幽霊とかに懐かれてもうれしくないよ。


そう思ったけど康子は「懐いてきたなら邪険にしては可哀想ですよ」とかいって「プッ」と笑ってた。

可笑しいか!骨とかに懐かれてオロオロする兄が可笑しいか!


うぐぐ、まあ懐いたやつを破壊するほど鬼ではないので黙認するけど。

だがゾンビ!お前はダメだ!

ゾンビにだけは「スケルトンになってから出直してこい!」といいつつ成仏させてやった。だって臭いんだもの。


ぞろぞろと地下5階を歩いていると、すぐになんかでっかいのがコッチに向かって来る。

マンモスみたいな奴。

とにかくデカい。ビルのようにでかい。

50mはあるんじゃないだろうか?山が歩いているみたいだ。

なんだろうあれ?


「康子、なんかでかいのが来るけど、あれって何だろう?」

「おそらくベヒモスだと思いますが、私も初めて見るので断言できかねます。」


すると後ろから死霊大神官がヒョコリと骸骨顔をのぞかせてくる。

死霊大神官は5メートルはある骸骨で、豪華な神官服を着ている。

「あれはベヒモスで間違いないですよ。何でも喰らう奴なので魔物たちにも嫌がられております。」


うわ!驚いた。

なんだよ、骸骨のくせにビックリするほど知的なイケメン声だった。


「え?あ、うん。ありがとう。」

「どういたしまして、我が王よ。」


しかも優しい語り口だった。

確かに神官って感じ。

ビックリした。


動揺したけど気を取り直そう。

「康子、やれる?僕が先行して奴のステータスを奪おうか?」


すると康子にしては珍しい獰猛な笑顔が帰ってきた。

「いいえ、私一人でやれると思います。前世でお兄様と大炎姫様に鍛えられた私の成長をぜひ見てください。」


背中から背丈ほどある大剣を抜くと、颯爽とベヒモスに駆けて行った。

康子は180cm以上ある筋肉少女だとしても、ベヒモスの前では蟻んこ並み。

不安だから手伝いに行こうかな。

一緒に進もうとしたら、後ろから骨の手が僕の肩をおさえる。


「なりませんぞ我が王よ。戦士があなたを守るために走り出したです。ならば、黙って守られるのも王の勤めというものです。」

死霊大神官は、優しい骸骨の目のくぼみで僕を諭してきた。


「いや、僕は王ではなくてお兄ちゃんだから。」


「ですが魔王です。魔王は王ですぞ、我が王。そして彼女は勇者です。我が王がすべき事は、勇者を手伝う事ではなく、勝利した勇者をたたえる事です。それが王というものです。」


いや、僕は王じゃないんだけど…

そんな話をしている間に、でっかいベヒモスが縦に斬り裂かれて崩れ落ちた。


「うわ、ベヒモスが真っ二つになったよ!康子すげー!。」


「さあ、急いで勇者の傍に参りましょう。そして称えて差し上げましょう。」


「そうだね!よーし、康子まで走るぞ!」


僕は急いで走る。

でもなかなかたどり着かなかった。

ベヒモスが大きすぎて遠近感がおかしくなっていたみたいだ。

1kmくらい離れていたっぽい。


「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ。や、康子、ナイスファイトだったっぞ。お、お兄ちゃんは康子を誇りに思うよ。」


息が苦しい。

走らなければよかった。。。。


康子は優しく僕の背中をさすってくれた。

「ありがとうございますお兄様。そして無理はなさいませんように。」

「あ、あざっす。」


戦った康子は息一つ乱してなくて、僕が疲れ果てているとか恥ずかしいす。お兄ちゃんなのに。


僕が休憩している間に康子はベヒモスの死体を<空間収納>にしまう。

そのあと、康子が次々にあらわれる巨体の魔物を易々と倒しつつ前進していると。。。。



二時間後には地下四階に上がる階段に着いた。

でだ、

振り返ってみる。


なぜか僕の後ろにはでっかいトカゲがたくさんついてきているの。

10メートル以上ある二足歩行の巨大な恐竜みたいな連中で「地竜」や「暴竜」とよばれる魔物だ。

羽根が無いから飛べなさそうだけど、顔はめっちゃ怖い。


こいつらは僕をみつけると、頭を地面にこすりつけながら近寄ってきたのだ。

それを見て死霊大神官は嬉しそうに教えてくれた。

「さすが我が王です。竜どもが自ら配下になりにやってまいりましたぞ。さあ、忠誠を受け入れてあげてください。」


そして沢山の竜を従えて地下4階にあがった。

康子はあきらかに笑いをこらえている。

「お兄さま、モテモテですね。」

「面白がってるでしょ。」

「くくく、モテ期ですよ。」


いらねー!こんなモテ期いらねー!

なんで康子がモテ期とかいう表現をしているのかというと、アレだ。

忠誠を誓いに来た竜の9割がメスだったから。

ううう、ほんと、、、、勘弁してください。


で気づいた。

もしかして・・・

僕の魔王名が「黒竜王」なのが関係しているのか?

竜の魔王だから竜のハーレムを作る感じなのか?

いらないよ・・・こんなハーレムいらない・・・。


僕の精神がガリガリ削られながらさらに進む。

地下4階は水エリア。

浅くても腰までは水につからないと進めない。

場所によってはかなり深い場所もある。


本来なら体力を消耗する、かなりきつい階層だ。

でも・・・

僕は今、巨大な竜の背中に乗っている。

竜はデカいからね。

腰程度の深さの水なら気にならないようだ。


さっそくハーレムの恩恵にあずかる自分が微妙だ。

竜達は水中に隠れる魔物をバクバク食べながら進んでいる。


そして時々、大物を噛み殺したら僕にくれる。

そう、素材が欲しいと言ったら気を利かしてくれているのね。


しばらく進むと、水中から巨大でグロテスクな魔物が水の中ら浮き上がり宙に浮いた。


まるで触手が絡み合ったような不思議な浮遊体。

気配から察するにあれは階層ボス級だな。

見ただけで背筋が寒くなるような敵。


「康子、あれが何かわかる?」

康子は首を横に振る。

「申し訳あありません。まったく知らない魔物です。」


本当は嫌だけど、斜め後ろから竜についてきている死霊大神官の方を向いた。

「知っている?」

心なしかうれしそうな声が帰ってきた。


「我が王にお声をかけていただき、喜びに耐えません。あれは7人の悪霊が絡み合った魔物で七人岬といいます。水系の魔物の中でも倒すのが最も困難と言われる魔物です。アレを倒すとその代償として、倒した者が七人岬の仲間に引き入れられるという特徴があり、決して消滅させられません。ある意味リバイアサンよりも質が悪い魔物といえます。」


その説明を聞き、目を凝らすと背筋が寒くなった。

触手かと思ったものは内臓だ。

人の死体が絡み合っている。


竜達が戦闘態勢になる。

でも戦闘は悪手っぽいから避けたいものだ。


そして幸いに僕はネクロマンサー。

友好的に行けないだろうか。


僕は竜をなだめて七人岬に叫んだ。

「君たち!何か希望があるなら言ってみて。もしかすると叶えてあげられるかもしれないから!」


一時間後。

僕は七人岬を配下に加えて地下3階に上がる階段まで来た。

なんでやねん。

なんでこいつら僕の配下に入りたがったんだ?

僕がネクロマンサーだから?ネクロマンサー無敵だな!


こんなに配下を作ったらネクロマンサーのレベルはかなり上がったんじゃないだろうか。

右目を瞑り、ステータスを確認した。

職業欄を見ると


職業:村人、魔法技工士、万能練成士、ゴーレムマイスター、魔道具職人、神楽師、冥府王、魔王


え?

ネクロマンサーが無くなってる。

そして見たこともない職業が・・・

冥府王?なにそれ?ネクロマンサーの上位職?


まさかのクラスチェンジか。

知らないうちにネクロマンサーはカンストして、上位職になってたのか!

どうりで死霊系の魔物が簡単に従うわけだ。


唖然としている僕に、死霊大神官が興奮気味に声をかけてくる。

「我が王よ!七人岬はさすがに美人ぞろいですね。近くにいると我もドキドキしてしまいますぞ。」


え、マジ?


僕は宙に浮遊している七人岬を見た。


あ、、、イケボ骸骨の言葉を信じた僕がバカだった。


なんていうかな、

乗用車に人を7人乗せて崖から転げ落として、潰した後にシェイクして絡み合わせたグロイ死体って感じだ。

しかも、心霊写真みたいな怖い顔でじっとこっちを見ている。

あかん、目を合わしたらあかんタイプの死霊だ。


慌てて目をそらすと、頭蓋骨をピンクに染めた死霊大神官は肘で僕を突く。

「照れてるのですか我が王よ。あれほどの美形死霊はそういませんからお気持ちはわかりますぞ。あれほど熱い視線を受ける我が王に嫉妬してしまいますな。」


砕きたい、この頭蓋骨。


康子に頭蓋骨破壊を命令するかどうか悩んでいるうちに地下3階にあがった。

マグマ地帯。

いきなり熱いでござる。


そう思った次の瞬間、ヒンヤリ涼しくなる。

あれ?康子が魔法で冷風でも出してくれたのかな?


そう思って横を見たら・・・

七人岬の一人と目があった。

そこで気づいた。

ああ、なるほどね。そうかそうか、そう来たか。


僕を囲むように七人岬のグチョゲロな7人がグチャリと居た。

球体からUの字に変形して僕を囲んでいる。

そう、グチャリと。

電車にひかれたような女性が僕を囲んでいる。


なんだろう、足元にマグマが流れる極熱地獄なのに、背筋まで寒い。

さらにレイス(幽霊)も沢山周りを囲むように浮いている。


あれ?寒気を通り越してブルブル手が震えてきた。

これは恐怖?


流石に康子は哀れみの目になっていた。

「お兄様、モテるというのは時に苦行ですよ。」


メスドラゴンの背で、ゾクゾクするほどの超絶美女の七人岬(死霊基準)や、お淑やかなレイスを侍らせるハーレム王。

それが僕。



ちくしょおおおおおおおおおおおお!

こんなハーレム、いらねえええええええええ!

助けてお母様!

助けてデルリカ、里美!

ビレーヌをウザイとか思ってたけど、僕が間違いだった!

このハーレム状態に比べればビレーヌ最高!


はやく脱出しなければ。

僕、ここから出たらビレーヌにプロポーズするんだ。

気持ちばかりが焦った。



だが、残酷な現実がすぐに現れる。


竜に乗ったまま進んでいると、唐突にみなの足が止まった。

隣に座る康子も遠い目になっている。


「お兄様、足場が無くなっていますね。」


そう、マグマ地帯にあったアトラクションを彷彿させる脆い足場がなくなているのだ。

目の前は全てマグマ。


うわ、これは前進できないや。

なるほど、これは予想するべきだった。


おそらくこのダンジョンは、グロガゾウの魔王連の戦力を分断するのが目的だったのだろうとは思っていた。

ならば中に入った魔王を足止めする方法は当然あるよな。


地下3階を完全にマグマで沈めるというのは良いアイディアだ。

僕らは地上に上がれない。

だからこそ僕は口角を釣り上げてしまった。


「思った通りだね。ここにウチの魔王達を突入させずに最小メンバーで来て正解だったって事だ。」


内心で、今回の戦いの勝利を確信した瞬間だった。


お読みくださりありがとうございます。


次回:康子の服がボロボロになりセクシーショットがさく裂(注:嘘です)

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