093 分岐点 康子1
あらすじ
長道たちが住んでいるグロガゾウの街に急にダンジョンができた。
それは魔王達からの攻撃ではと考えた長道は、味方の魔王を集めて迎撃態勢をとる。
その先方として、康子と共にダンジョンに潜った。
― 093 分岐点 康子1 ―
それぞれの魔王に本来の場所に戻ってもらい、それぞ仲間魔王に僕は分身で着いていった。
そしてダンジョンに潜る康子にも当然分身で着いていく。
まるでターミネーターみたいな体格の康子に付き添いはいらないかもしれないけど、一応僕はお兄ちゃんだから妹の事が心配なのさ。
2人で西の亀裂に向かう。
するとダンジョンの入り口には早速警備の冒険者が構えていた。
「君たち、ここかからは立ち入り禁止だ。」
ユカエルさん、仕事が速いな。感心感心。
「ではあとで、長道の指示で康子が下の魔王を倒しに向かったと伝えておいてください。」
「何を言ってるんだ?」
彼に返事をする気はない。
僕は康子の手を握り<時間魔法>を発動した。
ピシッ!
時間が止まることで世界が灰色になり、全てのものが停止する。
「監視員には悪いけど、問答は面倒だから進ませてもらおう。康子と二人だけなら時間停止は1時間くらい続くから、ついでにこのまま進んでしまおう。」
「はいお兄様。相変わらず時間魔法は凄いものですね。」
動かない監視用の冒険者の横を通りダンジョンに入る。
ついでなので小走りで進む。
時間が止まっているうちに距離を稼ぎたい。
小走りで魔物とかを無視して進むと、スグに下の階層に行く階段が見つかった。
ここまで5分。
下の階層に行くと地下2階。
急に強そうな魔物が増えている。
いきなり敵のレベルが上がっているから、これ初見殺しでしょ。
油断して階下に降りた冒険者は、かなりヤバいんじゃないだろうかという程、急に敵がレベルアップしていた。
ま、時間が止まってるから僕らはそれも全部無視。
さらに下の階に行く。地下3階。
マグマが流れる階層だった。
小さい足場が沢山ある。
足場が脆いので、油断するとマグマに落ちてしまうのだろう。
今は時間停止しているから、足場が崩れることはないから良いけど、普通に来たら難所っぽい。
<探査>で調べると地下やマグマの中に沢山魔物が居るし。
これ絶対通過させる気が無いのがわかる。
更に下に行く。地下4階。
腰まで水が溜まっている階層。
迷路で薄暗いので進むのが大変だろう。
しかも水の中に魔物が居るから、ひどく難易度が高い場所なのは間違いない。
水をかき分けて進むので疲労も大きいだろう。
もっとも僕と康子は、時間停止を利用して水面を歩いたので関係ないけど。
そして地下5階。
天井が高い階層だった。
理由はすぐに分かった。
ここは巨大魔物のフロアーだ。
あのデカい敵たちを倒しつつ進むのは苦労がありそうだ。
つか、巨大魔物のオンパレードとか難攻不落過ぎるでしょ。
さらに地下6階。
アンデットゾーンだった。
不死系と言われるモンスターたちはやっかいだ。
致命傷を与えるのが難しい。
ゾンビは頭があれば、どれほど傷を負っても動くし、レイスみたいに実体のない連中には魔法か聖属性の武器以外では倒せない。
スケルトンみたいなのは、いくら砕いてもジリジリ直っていってキリがない。
でも時間停止しながら進む僕らには関係ない話だ。
時間停止しているせいか、アンデットゾーン特有の腐臭がしないのは助かる。
そして地下7階。
そこで奇妙なものを見つけた。
モグラみたいなやつが、今まさに穴を掘っていた。
お尻しか見えないけど、そのお尻は高さ5メートルくらいある。
まさかと思い<鑑定>をしてみると、
魔王・土竜王
そう表示された。
ダンジョンに突入してまだ40分ほどしかたっていない。
うわー、あっけなくダンジョンボスに到着しちゃった…。
「康子、これ魔王みたい。」
「そのようですね。お兄様が居てくださったお陰で楽ができそうです。」
急いで僕は<原始魔法>で土竜王のステータスを引っこ抜く。
僕の必殺パターン<時間魔法>+<原始魔法>によるステータス略奪。
芋を畑ら引き抜く要領で、能力ひっこ抜いてやる!どっせい!
ズルズルと大量にスキルや魔法が引っこ抜ける。
ふー、僕も慣れたものだな。
なんか一回ですっごく沢山引っこ抜けたぞ。
さて、この調子でさらに一気に行きますか。
どっせい!
たった二回でビックリするほど全部抜けた。
これで、この魔王はスキルが一個もない状態になったぞ。
土竜王という名のただのモグラになったのだ。
まだ10分くらい時間停止の余力があるな。
「康子、これで土竜王のステータスやスキルは全部抜いたから余裕だと思う。でだ、一つ気になっていることがあるんだけど・・・」
「なんでしょうかお兄様。」
「ここに来るまでに、人が1人もいなかったよね。朝からかなりの数の冒険者がダンジョンに入ったらしいけど、どこに行ったんだろう?クラスメートのジョニーらしき人物もいなかったし。どう思う?」
少し考えて康子は軽く肩をすくめた。
「考えても時間の無駄かもしれません。そこに知っていそうな人が居ますので聞いてみましょうか?」
でっかいモグラの土竜王を指さす康子。
「それもそうだね。じゃあ時間を動かすから尋問は任せていいかな?」
「はい、お任せくださいお兄様。」
そして時間を動かした。
すると急に騒がしい音が耳をつんざく。
工事現場の『ガガガガガガ』という音をイメージすればいいだろう。
土竜王は、凄まじい音を立てて掘りすすめていたのだ。
僕は全力で叫ぶ。
「おい、そこの魔王!話がある!」
『ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ』
騒音にかき消されて僕の声が僕にすら聞こえない。
隣で康子が何か叫んでる。
一応口パクは見えるけど『ガガガガガ』がうるさくて全く聞こえない。
康子はあきらめたのか、僕に話しかけるのをやめて土竜王の尻尾に大きな剣を突き刺して地面に縫い付けた。
「いっだあああああ!だれやねん、ワイのプリチーな尻尾ちゃんに攻撃したどアホは!」
土竜王が慌てて振り返ってくる。
やっと『ガガガガ』という音が止まった。
「ナイス康子!」
「お粗末様です。ではこれよりモグラさんに尋問をいたします。」
「うん、よろしく頼むよ。」
土竜王は尻尾に刺さった巨大な康子の剣を抜こうと四苦八苦していたので、康子は近づき巨大な剣を引き抜いた。
「モグラさん、少しお話しませんか?」
冷静に話しかける康子とは対照的に、土竜王は激昂していた。
「なんやワレ!魔王様の尻尾ちゃんに剣刺しておいてお話しましょうとは何様やゴリラ!どこの魔王のモンや!」
康子の顔から微笑が消える。
「文句があるから呼び止めたのです。ここは淑女王の縄張りです。勝手に縄張りを荒らしてどういうつもりですか?」
土竜王の爪がシャキンと伸びる。
「なんや淑女王の手のもんかい。だったら話が速いわ。話がしたい言うならここに魔王様を連れてこんかい。」
康子は無言で剣を振り、土竜王の両前足を切り落とした。」
ドサ
「うぎゃあああ、お話しするんじゃないんかボケ!なに行き成りワイの手を切り落としとんねん。」
さらに無言で髭を魔法で燃やす。
「う熱ちちち、あほんだら!おっちゃにとって髭はめっちゃ大事な器官なんやぞ。これで地中生活できんようになったら、どないするつもりやねん。」
騒ぐ土竜王に康子は剣を突き付け、静かに口を開いた。
「お姉さまの敵は私の敵です。文句があるのでしたら淑女王の縄張りを荒らした自分を恨むことです。」
「ざけんなボケ!ワイのブレスでキャン言わしたるわい!<腐食ブレス>!」
シーン
何も起きない。
数秒静まり返ったので僕が康子の後ろからヒョコリと顔を出した。
「ごめーん、君のスキルや魔法は全部奪ったから。嘘だと思うならステータス確認してみなよ。」
「何っ言とるんやガキが。ワイが弱くなってるわけ・・・あったわ。マジか。冗談やろ。何が起きたんや!」
「僕がやったんだよ。ちなみに僕は魔王・黒竜王。敵の能力を奪うのが得意なんだ。っという訳で、、、、康子、やっちゃって。」
土竜王は必死な形相で空間の隅っこの方まで行くと丸まって防護体勢に入る。
「まてまてまて、なあ、お互い大人なんやから話あおうやないか。暴力はアカン。暴力はアカンよー。坊っちゃん男前やなー、飴ちゃんあげるよって、おっちゃんの話を聞いてくれへんか?な、な、後生やから。」
康子は土竜王に剣を突き付ける。
「死にたくなければお兄様の質問に答えろ。私は嘘を見抜くスキルを持っている。一つ噓をつくたびにその体を切り刻むからな。」
「こわいわー。姉ちゃん怖すぎやで。姉ちゃんも魔王か?もう逆らわんからワイだけでも逃がしてくれへんかな?」
僕は一歩前に出た。
「なるほど、『ワイだけでも』っていうことは、やっぱり他の魔王と連携して攻めてきたんだね。どこの魔王なの?ダンジョン内に探索に入った冒険者が居ないのと関係あるのかい?」
「かなわんわー。坊っちゃん流石やわ。えっと、嘘は通じへんのやったけ。だったら本当のこと言うさかい、見逃してえな。」
僕は数秒考えた。
「わかった、本当のことを素直に言えば見逃すよ。それが嫌ならここで死んでね。で、さっきの質問に答えてほしいんだけど。」
土竜王は苦虫を噛んだような顔になりつつ数秒黙る。
モグラ顔でも表情があるのに驚くな。
そして意を決したように口を開いた。
「よっしゃ、死ぬよりましや、話たる。ワイらは南から来たんや。魔王のてっぺん取ったろうってな。そんで北上してここを潰したら次はグルニエール王国の魔王のタマとったるつもりやったんや。」
言われてみて気づいた。
ここは北の魔王連と南の魔王連の真ん中。
どっちが動いても、間違いなく狙われる場所だったんだ。
「なるほどね。で、ここに入った人間たちはどうしたの?」
「あー、あの人間達な。連中は捕まえた後に生きたまんま、ワイの仲間の美蛾王はんの元に送られたはずや。このダンジョンにおる魔物は、ワイラ四人の魔王が配下を出しあって配置しとるんや。1~2階層はほとんど美蛾王はんの配下やな。連中はそこで人を捕まえて美蛾王はんに運んどるで。」
僕は思わず声が低くなる。
「で、美蛾王はどこに居るんだ?」
「そないな怖い顔で睨まんといてや坊っちゃん、男前が台無しやで。美蛾王はんやったら、街の東の森を獲りにいったで。あの森を獲ってから、そこで人間たちに卵を産み付けて眷属増やすつもりや言うとった。」
なるほど。
つまりまだジョニー達は生きているのか。
僕は康子の方を向く。
「康子、聞くことは聞いたから帰ろうか。」
「お兄様、こいつはどういたしますか?」
康子が睨むと土竜王はビクりと体をすくめる。
だが僕はぽんと康子の肩を叩く。
「約束は守るさ。僕らはもう手を出さないよ。帰ろう。能力を大量に奪ったから土竜王はもう何もできないさ。」
康子は苦笑いをした。
「お兄様はあい変わらず甘いですね。私としては殺しておきたいのですが、お兄様のご希望でしたら致し方ありません。」
康子は剣を背中の鞘に仕舞った。
後ろで土竜王が安堵している。
「坊っちゃん偉いで、惚れてまうがな。そうや、約束は守るもんや。坊っちゃんはきっと大物になるで。おおきにい。」
その言葉に僕は振り返って土竜王に近づいた。
「な、なんや。やっぱり殺すとかは堪忍やで。」
土竜王の腕をうんしょと持ち上げ、そこにハイポーションを振りかけた。
「腕くっつけるよ。ないと不便でしょ。」
「ぼ、坊っちゃん。。。おおきに!おおきに!」
腕をくっつけた後、尻尾も治してあげた。
なんか憎めないんだよな、この魔王。
「これでよし。もうすぐこのあたりは戦場になるから、早く逃げてね。」
そういいながら土竜王に背を向けた。
僕らの背中に土竜王は叫ぶ。
「坊っちゃん、あんた素晴らしいですわ。惚れてまうがな。ワイ、地元に帰ったら結婚するんや。」
頑張れよ。
僕は後ろ手に手を振ってその場を離れた。
でだ。
さて、そこで困った。
よく考えたら、<時間魔法>がクールタイム中だから時間停止をしばらく使えない。
どうやって外に出ようかな。
地下6階に上がる階段で足を止めて悩んでいると、康子は朗らかに微笑んだ。
「お兄様、お任せください。この程度の敵でしたら私がすべて薙ぎ払います。魔物たちが襲ってきてもお兄様には指一本触れさせません。」
きゃあ、康子さん素敵。
うちの妹、イケメン過ぎやろ。
お読みくださり、ありがとうごじあます。
次回、触手が長道を襲う、薄い本のように。(注;嘘です)




