089 バカの集団
― 089 バカの集団 ―
そうして会議が終わる。
会議が終わったので、マリアお母様に甘えに行こうとしたらヘルリユ皇女に呼び止められた。
「長道、みなにはああ言っていたが本当はどうなんだ?魔王たちは抗争をする気なのではないのか?」
さすが皇女、平民とは違うな。
「人間の軍で他の魔王を倒せなければ、こっちの魔王が参戦するのは時間の問題だと思う。けど、その前に他の魔王を倒せれば問題ないよ。」
僕の手を固く握て来た。
「北と南で魔王連合が出来たのは私も聞いている。長道、またお前の力が必要そうだ。私に力を貸してくれ。恥ずかしい話だが私は魔王が怖い。万が一の場合はお前だけが頼りだ。本当に頼むぞ。」
「おっけーまいフレンド。そのかわり、お代はたっぷりもらうからね。」
お互い微笑みあった。
でもゴメンねヘルリユ。僕も魔王なんだ…
そんな会議の次の日。
学校に行ったら、玄関でクラスの男子の声を掛けられた。
「長道、ちょっと話があるんだがいいかな?」
「僕に?何の用?」
返事をしたら数人の男子に囲まれた。
おぉぉ?
もしかしてイジメ?
有無を言わさず、僕は校舎裏に連れていかれる。
ヤバイな、大声で妹達を呼ぼうかな。
校舎裏に行くと、さらに沢山の男子が待っていた。
おう、なんだ50人は居るぞ。
そして僕はかこまれる。
何?イジメ?やめようよ、考え直すんだ。
平和なはずの僕の学園生活が謎のピンチになりそうです。
動揺していたら、群衆の中から知った奴が現れる。
えっと、名前思い出せない。
クラスメートの土下座君。
土下座君は僕のまえに来ると、やっぱり土下座した。
「長道、俺たちにモテ方を教えてくれ!お前は街でよく美人と歩いているよな。どうしたらそんなにモテるんだ。頼む、教えてくれ!」
50人ほどの男子たちも一斉に土下座をした。
なにこの土下座の花?
一瞬白目をむいて意識が飛んだよ。
思春期男子、お前たちはそんなことで土下座するのか?
安いな、お前たちの土下座。
しかしその姿には、借金取りに利子を待ってもらう人並みに必死な気配を感じる。
あのさ、モテる方法があるなら僕が知りたいよ。
しかし、絶対この状況でそんなこと言っても信じてもらえないだろうというのは理解している。
僕はゆっくり考え、そして数少ない僕の成功体験を語ることにした。
「餌付けや」
「へ?」
不思議そうな顔で僕を見上げる土下座君。
だが、僕が今までやってきたを思い出すとそれしかない。
ビレーヌ、ヘルリユ皇女、マリーさん、サビアンさん、カマキリメイド。
みんな最初は、食べ物を与えて仲良くなった。
ユカエルさんやヒーリアさんには能力を上げたけど、それはプレゼントっていう事でいいかな。
「彼女たちが欲しがる甘味を与えるか、コンプレックスになるほどの悩みを解決するプレセントを上げたよ。それで大体絶対服従してくれるね。」
「「「「「おおおおおぉぉ」」」」」
土下座少年隊がどよめく。
そんなに、感心するほど特殊な事を言ってないよね。
当たり前な事の範囲の事しか言ってないよね。
でも土下座少年達の心には突き刺さったらしい。
気が済んだろうから全員を立たせて、教室に戻ろうとした。
50人の男子を率いて歩く僕。
これ、知らない人が見たら番長っぽいよな。
玄関まで来たら、おかっぱ少女が2人抱き着いてきた。
「長道殿、おはよう!」「長道殿、なんかちょうだい!」
カマキリメイドのボリーヌとダレージュ。
無邪気でとっても可愛い。
しかも何故かメイド服で登校してきているのが目立つ。
そしてまた二人は僕をよじ登ろうとする。
なんなのこの行動?
なにこの虫たち?
まあいいか、可愛いから。
ふたりをいつものように引きはがし、<空間収納>からクレープを出して与えた。
「ほら二人とも、これあげるから早く教室に行きなさいね。」
「ありがと長道殿、好き!」「長道殿!大好きだ!」
2人は再び僕に抱き着く。
やめろ!手にクレープもって抱きつくな!
必死に二人のクレープのクリームからわが身を守る。
そして二人が元気よく走り去ると。
背後から拍手が聞こえてきた。
ふりかえると、50人の少年達が感動の目で拍手している。
「ど、どうしたの?」
土下座君が直角にお辞儀をしてきた。
「見事なおてまえです!弟子にしてください!」
他の少年達も一斉に頭を下げてくる。
えっと…
「何の弟子?」
「モテテクニックの弟子に!」
こいつらバカか?
だから僕はモテていないって。
「僕は女性の気を惹く方法はよくしらないよ。誠実に命がけで向き合っていたら仲良くなっただけで、べつに気を惹くために姑息なことをしたわけじゃないから」
「「「「「おおお、名言!」」」」」
数人がメモしだした。
もうわかった、お前たち馬鹿だよね?もうバカ確定で良いよね?
なんでモテないって言葉を信じないんだよ。モテてないだろ。
魔王とか魔族とかと仲良くても、モテたうちにはいらないの!わからないかな。
呆れたので無視して進もうとした。
すると、向こうから可愛い子が走ってきた。
ヘルリユ皇女だ。
あの人いつも僕に走ってくるな。
「長道!学校に居るところ悪いが話がある!ちょっと二人で話せないか?」
ヘルリユが僕の手をつかんで引っ張る。
ヘルリユ皇女は男子の手を掴むことに抵抗が無いようで、いつも僕の手を掴んでくるんだよね。
それを見て背後の男子がまたどよめいた。
『さすが師匠だ』
誰が師匠だ!
お前たちも命を落としそうなほど危機的な戦いを一緒に潜り抜ければ、このくらい仲良くなるよ。
しかしそれは教えない。たぶん言っても嘘っぽいから。
馬鹿どもがキラキラした目で僕を見送る。
バカだろ、お前らほんとバカだろ。バーカ、バーカ。
これヘルリユ皇女だぞ?この街の領主だぞ?
そのヘルリユが走ってくるって事は、絶対良い話じゃないからな。やばい話の可能性しかないの。しかも緊急でヤバイの。
同情されることこそアレ、羨ましがられる話じゃないからね絶対。
そしてヘルリユに手を引かれながら人目のない場所にくる。
ヘルリユは僕の手を両手でつかんで涙目になっていた。
「長道、どうしよう。デスケント第1皇子が南部国家群連合の魔物を討伐に行くとか言い出したんだ。私も副官として一緒に行くことになる。だが一緒に行ったら絶対全滅に巻き込まれる。どうにかしてくれ長道!。」
「無理。」
「諦め早いだろ!デスケントお兄さまは魔王の恐ろしさを知らない。お前の言葉ならデスケントお兄様も聞くはずだ。頼む、諦めるように説得してくれ。」
「無理無理。」
「頼むよ!」
ヘルリユは完全にしがみついてきた。
やめて、服が伸びるから。
困ったな。
しょうがないので、そっとハグをした。
「わかったよ。でも説得できなくても心配しなくていい。その時は僕の方で魔王と戦える戦力をそろえよう。」
ヘルリユはもう半分泣いていた。
「さすが長道だ!そういってくれると信じていたよ!」
抱き着いて泣き出した。
どんだけ追い詰められてたんだろ、この人。
よっぽど魔王が怖いんだな。昔魔王に食べられそうになったことがよほどトラウマなんだろう。
よしよし。
なだめていたら視線を感じた。
振り返る。
そしたら花壇の陰に隠れる50人の少年たちが居た。
隠れているつもりか?
怖いよ。
こいつらホントバカでしょ。
ほらモテるチャンスだよ。
皇女の為に魔王と戦えばモテモテだよ。
志願していいのよ。
お読みくださりありがとうございます。




