087 魔王連合
― 087 魔王連合 ―
はい、本日はクラスの中がパニック状態となっております。
美人冒険者四天王の一人、デルリカが編入したきたのですから当然ですね。
そして抱かれたい冒険者ランキング1位の康子も一緒にやってきました。
康子は女の子なのに抱かれたいランキングに入っているとか意味が分かりませんよね。
そしてその従者としてついてきたのが、美人冒険者四天王の一人にしてAクラス冒険者として人気急上昇中のヒーリアさんが来ました。ダークエルフのスレンダーな美しさが光ります。
ちなみに美人冒険者四天王の最期の一人は、ギルドマスターのユカエルさん。
60才を超えてなお美しい事からエルフの血が混じっているのではと憶測を生んでいます。
もちろん彼女は生粋の人族です。僕が若返らせただけなのですがそれは秘密。
まあユカエルさんの事は今は忘れるとして…
デルリカ、康子、里美、ヒーリアさんが僕の机を囲んでお弁当を出している。
そしてしきりに僕の口元に食事をねじ込んでくる。
う
ううう
ううううう
うぜーーーーー!
たのむ!僕にラノベを読ませてくれ!
うおおおお、妹じゃなかったら転移魔法でどっかに放り出しているところだ!
そんな僕の気も知らずにデルリカが楽しそうにハンバーグを箸でつまんで口元に持ってくる。
「お兄ちゃん、これも美味しいですよ。さあ、あーんってしてください。」
パク
モグモグ
不本意ながらデルリカを悲しませるわけにはいかないので口に入れたが、すごく邪魔。
対抗するように里美も僕に蒸したニンジンを食べさせようとする。
「お兄ちゃん、野菜も食べないとね。あーんして。」
パク
モグモグ
デルリカの物を食べて里美のを拒絶するわけにはいかないから食べたけど。
そろそろ解放してほしい。
僕の後ろについてるヒーリアさんがお茶を構える。
「長道坊っちゃん、お茶が必要なら行っておくれよ。私がここで待機しているからさ。」
ヒーリアさんは妹じゃないから適当な扱いで良いや。
「いらないから!僕はラノベが読みたいの。あっち行っててほしいな。」
「え、、、それはゴメンよ坊っちゃん、、、、。」
ヒーリアさんおエルフ耳がシュンと垂れる。
それを見ていたジョニーが我慢できないといった顔で立ち上がった。
「長道!いまのはひどいんじゃないのか?ヒーリアさんの親切にその言い方は許されないぞ。」
ジョニーの後ろからクラス中の連中が僕を睨んでいる。
う、
僕はそんなに悪いのかな。学校で構われすぎてイラっとくるのってそんなに悪いことなの?
僕は思春期男子だよ?お前たちだって親が教室で過保護にして来たらキレるだろ。
今の僕はそういう状態なんだけど!
でも、なんか敵意が刺さってくるんでなんか言い訳しなくちゃ。
まずは落ち着くために深呼吸をした。
よし言い訳しよう。
「ジョニー、確かにそうかもしれない。ヒーリアさんは開拓村に居た頃からずっと一緒にいたから姉みたいな感じなんだよ。だからつい甘えてわがままを言ってしまうんだ。ヒーリアさん、言いすぎてごめん。」
ヒーリアんさんは耳をぴんと立てて機嫌よ良く微笑んだ。
「気にしないで良いよ。長道ぼちゃんが私に我侭を言うのは親しい証拠だからね。」
あたまをグリグリなでられてしまった。
なんというか、、、恥ずかしい、、、、
明日は学校を休もうと決めた。
そして放課後。
僕がそっと帰ろうとしたら、デルリカが僕の腕に抱き着いてくる。
それと同時に、周りの男子から「あぁぁぁ」と謎のうめき声が出ていた。
羨ましがるな。デルリカは僕にとっては妹だから。
それに、デルリカは地味なタケシ君一筋なので、どのみち彼らにチャンスはないしね。
あ、そいえばタケシ君は一緒じゃないんだろうか?
周りを見回したら、そっとデルリカの後ろに立っていた。
さすがタケシ君、僕ですら今までその存在に気づかなかった。
一緒に編入してきてたんだね。
少し離れたところで、康子は女子生徒に囲まれて身動きができないのが見えた。
解せぬ、兄より女性にもてる妹とか居ていいのであろうか?
康子の一割でもいいからモテたい。
そうだ、康子の周りの女子を追い払おう。
いや、この行動に私怨これなく、康子が困っていそうだから助けようという兄心である。
ほんと、やっかみではないので。
「デルリカ、僕よりも康子の方に行ってあげなよ。康子が助けを求める目でこっちを見てるよ。」
「まあ本当ですわね。さすがワタクシの康子です、モテモテですわ。」
デルリカは僕から離れて康子の方に行く。
しかし、康子にたどり着く前に男子生徒に囲まれて身動きが出来なくなった。
デ、デルリカ!
おのれ、うちの妹にまとわりつくダニどもめ。
払いのけに行こうとしたら、デルリカにまとわりついていた男子が勝手に争いだした。
おまえら…そこまでデルリカと話したいか…
ちょっと哀れになったから、許してやろう。
僕は騒ぎの中、デルリカと康子の手をとって、この隙に教室から飛び出す。
里美は抜け目なく、言葉巧みに囲みを抜け出し僕らについてきた。
流石里美、あざといだけでなく要領も良い。
妹達が僕の周りに来たので時間結界で数秒時間を止めて教室の外に出た。
ふう、やはり妹達が来ると騒がしくなるな。
そこからユックリ歩き出すと、僕の後ろからヒーリアさんがついてきた。
「長道坊っちゃん、私を置いていくとかひどくないかい?」
てへ、忘れてました。でもそれを言うと泣きだすから誤魔化すか。
「ヒーリアさんなら大丈夫。うん、僕は信じていたから。それに今日は大事な用事もあるから遅くなれませんし。」
ヒーリアさんは思い出したように「あっ」という顔をした。
「そういえば今日は魔王集会の日だったね。」
「そうそう、ヒーリアさんも遅れないように急ごう。」
「そうだね、マリーさんより先に行かないと何されるか分からないからね。」
「そうそう、そういうこと。」
僕は足早に学校を後にした。
帰る途中で冒険者ギルドに寄る。
最近、僕がギルドに顔を出すとギルド内が静かになるけど気にしない。
受付に行くと、受付嬢が直立不動になって僕を出向かる。
「本日はどのようなご用件でしょうか!」
緊張しなくていいのにガチガチだ。
「ギルドマスターのユカエルさんを呼んでもらえますか?ちょっと連れ出したいんで。」
「はい!ただ今すぐに!」
返事と共に走って行ってしまった。
なんか僕は怖がられているんだろうか?
すぐにユカエルさんがニヤニヤしながら走ってきた。
「長道ぼちゃーん、あたしに用事って何だーい。」
いきなり頬ずりしてこようとしたので、全力で抵抗した。
「ユ、ユカエルさん。これから例の集会に行くんですけど着いてきます?」
「あ、今日は例の集会の日だったんのかい。うっかり忘れていたよ。」
ユカエルさんは、ギルドの職員にいくつか指示を出して僕と一緒に建物を出る。
そして三人ですぐに工房に向かった。
魔王集会の場所は持ち回りで、今月は僕の縄張り(工房)が集会場だ。
急いで帰ったのに、すでにサビアンさんが工房の中で優雅にお茶を飲んでいた。
サビアンさんとカマキリメイド達は、三人とも今は人の姿をしている。
こちらに気づくとサビアンさんは優雅に一礼する。
「あら長道さん、勝手に失礼させていただきましたわ。」
サビアンさんの後ろには、カマキリメイドのおかっぱ少女、ボリーヌとダレージュが控えている。双子のようにそっくりな二人だから、実は今だに見分けがつかない。
「長道殿、かってにお邪魔してるよ」「長道殿もお茶飲むか?」
「いらっしゃ。殺風景な場所でスイマセン。」
綺麗な金髪縦ロールを揺らしてサビアンさんが微笑む。
「いいえ、いつきても面白いものが見れますので楽しみにしておりますのよ。」
さすがサビアンさんは元貴族だけあって、フォローの言葉も優雅だ。
勉強になります。
僕がテーブルを出して場所を作っているとビレーヌが帰ってきた。
「遅くなってしまい申し訳ありません。」
入ってきたビレーヌの後ろには、執事とメイドが着いてきている。
この二人は元火竜。
経験を積んで魔族化したので、ビレーヌの眷属として今日は一緒に来たのだ。
僕らが座ると、デルリカも人形を二つ抱えて座る。
この二つの人形がデルリカの眷属の魔族。
時々「ヒヒヒヒ」とか笑いだすんで怖い。
そこに転移魔法で長い黒髪の大柄な女性が現れた。
我らのバカ魔王、マリーさんだ。
マリーさんの後ろには天使みたいな女性が2人いる。
マリーさんの魔族は全員天使型。
よし、魔王は全員そろったな。
康子、里美、ヒーリアさん、タケシ君の四人も適当に座る。
この4人は勇者なので、魔王と同格という意味で同じテーブルに座るのだ。
各魔王が席に着くと、眷属は主人の後ろに立った。
魔王の中で僕だけ眷属が居ないけど、ユカエルさんが後ろに立つ。
そう、ユカエルさんを呼んだのは僕だけ眷属が居なくて寂しいからというだけの理由なのだ。
北の紅竜王・ビレーヌ
東の蜘貴王・サビアンさん
南の食楽王・マリーさん
西の淑女王・デルリカ
中央の黒竜王・僕。
そして勇者の4人
毎月、このメンバーで集まって懇親会をしているのだ。
人工精霊の高麗や、メイドゴーレムのスマ子がお茶や食べ物を出してくれた。
そこからただの雑談会が始まった。
しかし雑談会と言ってもバカにすることなかれ。
この魔王集会こそ、この街の裏の最高権力会議なのだ。
いつもなら馬鹿な雑談が始まるところだけど、珍しくユカエルさんが真っ先に口を開く。
「そうだ魔王様たち、実はギルドにヤバそうな情報があがってきたんだ。」
魔王の中で、唯一の知性派サビアンさんが目を細める。
「ワザワザ教えて下さるという事は、魔王にかかわるお話なのですね。討伐以来でも出そうでして?」
「グルニエール王国と、南方国家群連合から同時に魔王討伐依頼が出たんだよ。」
サビアンさんの表情が少し陰る。
蜘貴王サビアンさんは、元グルニエール王国王妃だから当然だろう。
「それはギルドも大変そうですわね…。」
平静を装いながらお茶を飲むサビアンさん。しかし目は揺れている。
「だけど、その両方の依頼が同じ内容でさ、嫌な予感がするんだよ。」
「続けてください。」
「両方『魔王達が手を組んだので、人類のために早急に戦力を集めて欲しい』って内容なんだ。」
それを聞いて、マリーさん以外の全員が目を見開く。
何か、大きなことが起きようようとしている予感がした。
お読みくださりありがとうございます。




