082 最強戦力とは何だったのか
― 082 最強戦力とは何だったのか ―
人工精霊がのりうつった、ただ高速で飛び回るだけの頑丈な板。
その板に作られた扇状のエリアにインテリジェンス・アーツ(意思を持つ装具)のゴーレムが駆け込んでいく。
インテリジェンス・アーツのゴーレムと呼ばれるゴーレム達は、人と見分けがつかないくらい完璧に女の子。
しかし、この世界の三大最強兵器の一角だ。
三大最強戦力とは
インテリジェンス・アーツのゴーレム
N式の大型ゴーレム
召喚された魔族使い魔
これらが戦場に出てきたときは、全ての戦力は逃げる以外に生き残る手段はないと言われている。
その三大最強戦力の一角であるインテリジェンス・アーツのゴーレムが妹達に向かって走りこむ。
遠くから見ていると、足が速い女子高生にしか見ないが、この50年のあいだ、まさしく戦場の死神として活躍してきた戦力だ。
その女子高生みたいな姿のゴーレムたちは、びっくりするほど戦術が無いように見える。
いままで無敵過ぎた弊害なのだろう。
部隊として運用する必要がないほど強いのだ。
ちなみに彼女たちの事を、僕は通称女子高生ゴーレムと呼んでいる。
何故ならどっから見ても人間の女の子にしか見えない外見で、高校の制服のような装備を付けているから。
これらを作った賢者大魔導士のナガミーチさんは、ほんと良い趣味していると思う。
その女子高生ゴーレムを落ち着いて待ち構えるデルリカ、康子、里美、ビレーヌ。
最初に動いたのはビレーヌだった。
「長道様の為に砕けなさい!紅竜王ブレス!」
かめ○め波としか思えない動作で、真っ赤な熱線を撃ちだした。
直径は2メートルはありそうな極太の光線。
たったの一撃。
その一撃で、射線上に居た女子高生ゴーレムが50体近く吹き飛んだ。
さらにデルリカが両手を突き出す。
「超音波ブレス!」
空気が振動し、白く濁った射線が女子高生ゴーレムを数十体吹き飛ばした。
真正面から密集して襲って来る女子高生ゴーレムは、どれほど強力な兵器であろうと、ブレスの良い的でしかない。
人間が魔王のブレスを撃つとは思っていなかったので、防御もできていない。
そう、この大出力の火力を効率よく使うために、女子高生ゴーレムの団体さんを正面に集めるのが僕の作戦だった。
慌てて女子高生ゴーレムたちは散開しようとする。
その隙をついて、里美が扇子を横薙ぎに振った。
「逃がさないんだから。勇者名物、光の剣だよ!吹き飛んじゃえ!」
里美の扇子からレーザーのように数十メートル伸びた光の剣は、数十体の女子高生ゴーレムの首を飛ばす。
一振りであそこまで威力あるとか、勇者ってヤバイな。
いや、本来の勇者は魔王を亡ぼすための存在だから、魔王のブレス並みの攻撃力を持っているのは当然か。
残りの女子高生ゴーレムたちは、あわてて遠距離攻撃の砲撃を撃ってきた。
ドドドドドド
大口径砲特有の低い振動が聞こえてきた。
一斉に撃ち込まれる砲撃。
それを康子が巨大な剣を驚くほど素早くふるって、全て跳ね返した。
魔王のブレスすら防ぐ勇者の力をもってすれば、ゴーレムからの砲撃程度防ぐのはたやすいか。
さすが勇者康子。カッコいい。
「お姉さま、里美、ビレーヌ、怪我はありませんか?」
デルリカは嬉しそうにスコップを取り出して康子に微笑む。
「助かりましたわ、さすがワタクシの康子です。さあ、ドンドン破壊してしまいましょう。」
「はい、お姉さま。」
康子も剣から光を放ち、ゴーレム達を薙ぎ払った。
なす術もなく、女子高生ゴーレムはまとめて斬り捨てられる。
そこからはゴーレム達が哀れとしか言えない状態になった。
高速飛行の板が女子高生ゴーレムたちの動きを邪魔して足を止める。
すると妹達は、味方である飛行する板ごと女子高生ゴーレムにブレスや光の攻撃をぶち込むのだ。
女子高生ゴーレムたちにとっては、たまったものではない。
なす術もなく次々に破壊されていく。
女子高生ゴーレムが壊れても、この飛行する板はミスリルで頑丈に作ってあるため、2~3発のブレスや光の剣が当たっても大丈夫だ。
だから、敵は減っても味方の数はあまり減っていない。
飛行する板は、構造を単純にして、ただただ頑丈にしたのはこのためでもあるのさ。
うーん、僕が<時間魔法>で援護に行く必要はなさそうだな。
妹達の大火力により、女子高生ゴーレムはあっというまに数十体ほどに減らされた。
そのころになって、やっと女子高生ゴーレム達は逃げようとする。
だが、200枚以上の高速飛行する板が女子高生ゴーレムたちを囲み逃がさないように素早く飛び回る。
その囲みの中に、デルリカ、康子、里美、ビレーヌは入っていった。
強制的なコロシアムのようにも見える光景だ。
逃げられないと観念した女子高生型ゴーレム達は、最後の突撃を試みた。
武器を構えて妹達に向ける。
しかし
その火を噴くほどの暇はなかった。
デルリカはスコップを取り出し、残像も見えないほど素早く飛び出す。
康子は大剣を構え、光の剣の爆風だけで女子高生ゴーレムを威嚇。
里美は扇子を広げて、踊るようん確実に一体ずつ仕留めて行った。
混戦の中、少し離れた場所からビレーヌは魔法で闇を作る。
ゴーレム達の周りを闇が飲み込み、デルリカ、康子、里美は闇の中に飛び込む。
闇の中からは連続して悲鳴が響いてきた。
「きゃあああ」「なんでセンサーが反応しないのさ!」「た、助けて!」
数十秒、そんな叫び声が聞こえた。
そして静まり返る。
ユックリ闇が消えていくと…
そこにはもう、4人だけしか立っていなかった。
「終わったのか?」
言ってから、ヤベ、復活フラグたてちゃったかな?と思ったけど杞憂だったぽい。
それほど完全な勝利だった。
僕は急いで浮遊バイクで四人の傍に居行く。
「デルリカ!康子!里美!ビレーヌ!怪我はない?」
いつものようにデルリカが微笑んで飛びついてきた。
「大丈夫ですわ。お兄ちゃんが作戦を考えてくれましたので楽勝でしたわ。」
「そっか、よかった。」
返事しつつ『いやいや、作戦成功以前に圧倒的過ぎるだろ』と思ったがぐっと飲み込んだ。
それを言ってしまうと、僕の存在はあってもなくても同じだったという事がばれてしまう。
僕は、いかにも『作戦通り』という雰囲気で腕を組んで頷いた。
周りを見渡すと、惨殺死体のようなゴーレムの残骸が地面に敷き詰められたように転がっている。
「しかしみんな凄いね。ゴーレムの残骸を回収して朝ごはんにしようか。」
「はい、お兄ちゃん。」
ほんと、何度も言うけど、うちの妹達凄すぎるでしょ。あっけなさすぎるよな。
そう思いながら、両軍が呆然としている中で妹達と残骸を回収して陣地に戻った。
陣に戻るとヘルリユが、涙目で放心しながら何かブツブツ言ってる。
「お、驚かないぞ、これくらいはあるさ。うん、長道のやることに驚いてたまるか。こ、このくらいは有りえるさ。そうだ、な、長道ならこのくらい有りえるだろう。妹にブレスを撃てるようにするくらい長道なら…ありえるのか?いや、ある!そうだ長道ならありえるさ、うん。」
僕は、必死に自分の常識と戦っているヘルリユに軽くハグしてから、デスケント第1皇子の所に行った。
デスケント皇子はすでに立ち直っているようだ。
この人、案外大物かもしれない。
「な、長道!凄いものだな、感動したぞ。長年我らを苦しめてきたインテリジェンス・アーツのゴーレムがほとんど滅んだ。なんと目出度い事か。この機に乗じって一気に攻め込んでやろうぞ。あとは我らに任せよ!」
「はい、あとは皇子の腕の見せ所ですね。あの空飛ぶ板も戦争の間はお貸ししますので使ってください。」
「おお、あの頑丈な板は便利そうだ。ありがたく借りさせてもらう。」
デスケント皇子は馬で陣の前まで行くと、整列した軍に向かって叫ぶ。
「機動力を駆使して、まずは奴らの背後に回るぞ。そのあとはこの谷まで押し込め。殲滅だ!」
「「「「「「「おおお!」」」」」」」
怒号と共に、魔物騎兵と浮遊バイク軍が回り込むように敵の背後に走りこんでいった。
圧倒的な機動力があるからこその、力技な背後攻撃。
歩兵中心のフレンツ公国軍では、捌ききれずにジリジリ谷に押し込まれるんだろうな。
無敵だと思っていたゴーレム部隊が壊滅して動揺するフレンツ公国軍と、
魔物騎兵を率いてテンションが上がったデスシール騎馬帝国軍。
勝敗は見えた気がする。
なので僕はここで戦場を後にすることにした。
働きすぎたよ。
ふあーーー。眠い。
かえって早く寝よっと。
人が死ぬのを見るのも嫌だし。




