081 みて、あれ僕の妹だから
前回のおさらい
人工精霊が大量に味方になった。
だから勝利できると思った長道だった。
― 081 みて、あれ僕の妹だから ―
また徹夜した。
最後の準備に少し苦労してしまったが、良い準備ができたと思う。
そして今日は早朝から騒がしい。
見張りに出ていた兵が、敵軍の進行を確認したから。
フレンツ軍兵力、およそ50000人。
それを聞いた瞬間聞き返してしまったね。
5万人?こっちの17倍くらいの兵力かー。
アホみたいな大軍だ。
しかも、400体以上のインテリジェンス・アーツのゴーレムも来ているという。
ちょっとした小国なら攻め落とせる兵力だ。
この大軍が、マリーさんの予想通り今日グロガゾウの街に到着する。
これほどの軍が抵抗もされずにグロガゾウに来るからと言って、グロガゾウの街は決して国境から近いわけじゃない。
むしろ、国の中央付近に近い。
なのにフレンツ公国軍が優々ココまで来れるのには訳がある。
理由は簡単で、国境からグロガゾウの街までの間に、村や町が無いのだ。
ここから西の方向は遊牧民族の生活地で、砦も軍備もない。
50年以上前に初めてインテリジェンス・アーツ(意思を持つ道具)のゴーレムがフレンツ公国に配備されたとき、デスシール騎馬帝国は惨敗してしまった。
その時に、ここから国境までの間の街や砦はすべて更地にされてしまったそうだ。
で、なぜ圧倒的に優位のフレンツ公国はデスシールを滅ぼさなかったかと疑問がわいた。
元王族であるサビアンさんなら詳しいだろうと聞いたら、フレンツ公国という国家の都合だと教えてくれた。
フレンツ公国は、4つある公爵家から貴族による選挙で大公を選び、国の代表とする。
そのため、大公は選挙に勝つために定期的に戦争を仕掛けて『勝つ』事でイメージ戦略を行っているそうだ。
だから、わかりやすい外敵であるデスシール騎馬帝国は滅ぼすのではなく、選挙直前に敗北させて国境を少しずらすという功績を得る方が大公に都合がいいのだ。
アホらしい。
これだから貴族は嫌いだ。
戦争すれば人が死ぬ。それを大公選挙に勝つための手段にするなど、バカらしすぎる。
いっそ滅ぼしてもいいのではとさえ思った。
ま、それはさておき。
僕は隠していた大きな魔法陣を5つ展開して地面に焼き付ける。
魔法陣はそれぞれ15メートルほど。
これは転移門。
谷の向こうとこっちを行き来するために作ったのね。
よく考えたら橋がどうしても必要なわけではない。
谷の向こうとコッチの行き来が出来ればいいんだから、転移門でもいいんだと気づいたのさ。
1つの転移門に、人工精霊が30人ほど担当してくれている。
普通だったら150人もの人工精霊をかき集めるなんて不可能に近いが、昨日の夜に沢山人口精霊の協力が得られたのでできた贅沢な移動法だ。
これなら橋を使うよりも軍の移動も早いだろう。
転移門を5つ配置し終わったところに、ヘルリユ第4皇女が血相変えて走ってきた。
あの人、最近いつも僕の所に来るとき走ってくるな。
「長道!こんな大きな転移門が本当に稼働できるのか?!」
「おはようヘルリユ。このために人工精霊を150人ほど配置したから問題ないよ。」
ヘルリユはまた何かに耐えるようにプルプルしだす。
「人工精霊を150人もだと!…ふふふ、もう驚かんぞ長道。お、お前ならそういう事もあるだろうな。そうだ、もう驚かんぞ。」
瞳孔を揺らしながら、震える手を握り締めている。
ヘルリユは自分の常識と戦っているようだ。
がんばれヘルリユ。
すぐに、軍を転移門で次々に谷の向こう側に送る。
送り出された部隊は、デスケント第1皇子の指示により、スムーズに谷の向こう側に配備された。
恐竜型魔物500頭。
カマドウマ型魔物200匹。
ワイバーンの竜騎兵300頭。
浮遊バイク兵1000人。
歩兵1000人。
敵50000の兵力に対してこちらは3000。
一桁少ない戦力は圧倒的に不利に見えるが、こちらには1000騎もの魔物騎兵がいるし、浮遊バイクも1000人。うまく混乱させれば、歩兵の集団では手も足も出ないはずだ。
なによりこちらは航空戦力が充実しているのが圧倒的に有利。
敵の陣形を無視して中央を攻めることができるので、すぐに混乱させることができるだろう。
配備が終わると、デスケント第1皇子が僕のもとに歩いてくる。
「長道、インテリジェンス・アーツのゴーレムは本当にすべて任せて良いのか?」
「任せてください。敵ゴーレムの排除しか手伝いませんが、そこは確実におこないますよ。」
「うむ、いまさら長道を疑うわけではないが心配でな。よろしく頼むぞ。」
「まかせてください。タブンあっという間です。」
いきなり後方で物見の兵が叫ぶ。
「敵軍が見えました!距離は約1kmゴーレムが先行して走ってきているようです!。」
来たか。
ここは草原なので1km先でも見える。
遮蔽物が無いから、砦に近づくまでの進軍は危険が伴うのが普通だ。
だからまずは機動力のある女子高生ゴーレムで突撃というのは正攻法といえる。
走ってくる女子高生ゴーレムを見て、隣のヘルリユが小首をかしげる。
「おかしくないか?なんで飛んでこないんだ?」
いままで僕らは飛行するゴーレムに苦戦を強いられた。
だから走ってくる女子高生ゴーレムに違和感を感じたんだろう。
だがその理由は簡単だ。
「僕が入手した情報によると、飛行できる女子高生ゴーレムはあと3体しかいないそうだよ。全部の女子高生ゴーレムが飛べるわけでは無かったんだね。今残っているのはほとんどが地上型らしい」
「おい、どうしてそんな事を知っているんだ?その情報はどこから手に入れたんだ?」
そういえばヘルリユに言ってなかったっけ。
「この一週間で、フレンツ公国の女子高生ゴーレムを388体倒したでしょ。倒したゴーレムに入っていた人工精霊が全員味方になってくれたんだ。だから向こうの内部情報もわかったって訳だよ。」
ヘルリユの顔がまた引き攣る。
「ちょっとまて!じゃああと238人の人工精霊が居るって事か?もしかして残りの人工精霊も何かやるのか?」
「やるよ。そのために僕は昨日徹夜して準備したんだから。」
そこで僕は草原を指さす。
300メートルほど先。早朝の草原で、朝日に照らされて四つの影が立っている。
デルリカ、康子、里美、ビレーヌ。
朝日の低い太陽により、濃い影を地面に長く映し出す姿はクール。横に並んでこちらに背を見せていた。
「うちの妹達…、かっこよすぎ!」
思わず撮影魔法でカッコイイ後姿を映像として残す。
ヘルリユは気の抜けた顔になった。
「長道、、、兄としてそれでいいのか?カッコいいのは男の役目じゃないのか?」
しかし僕はヘルリユの言う事の方がわからない。
「うちの妹よりもカッコいいとか無理でしょ。あのシルエットとか芸術的でしょ!素晴らしいよ、マジ天使マイシスター達。」
「…、そっか、お前がそれでいいなら良いが…。」
441体のゴーレム vs 4人
普通なら絶望的な光景かもしれない。
でも僕には策があった。
それがこれだ!
「じゃあみんな!作戦通り妹達の補助を頼むよ!」
僕の叫びと同時に、谷底から大量に畳くらいの大きさの板が飛び出す。
238枚。
高速に飛び出した板は、妹達の傍まで飛ぶと、高速回転しながら四人の周りを囲う。
「長道!あれはなんだ?」
僕はヘルリユにニヤリと微笑んだ。
「板だよ。ただ高速に飛ぶだけの頑丈な板。でもあの板こそゴレームたちを死に誘う秘密兵器さ。」
「ただの板がか?」
「そう、ただの板が秘密兵器なんだ。あの板には人工精霊が入っている。でも防御と体当たりくらいしかできない板だ。それだけの存在だけど、だからこそ恐ろしいんだ。構造が単純で機能も少ないから頑丈だ。それが意志をもって動けば恐ろしんだ、意志を持つ板が238枚あれば場を作れる。それで充分なのさ。」
少数対多数で怖いのは乱戦で囲まれることだ。
でもあの板が回転しながら妹達の背後と側面を守れば、妹達は全面だけを向いて戦える。
それで絶対勝てるんだ。
何故ならあの四人は、
2人は勇者で、2人は魔王だ。
だから、側面と背後さえ守られれば負けない。
宙に舞った大量の板は高速で回転しながら、4人の回りを飛び回る。
4人を囲んでいるのは100枚ほどだろうか。
残りの板は広く配置して、女子高生ゴーレムを挟み込むように動く。
逃がさないって事だ。
僕はライフルを出した。
乱戦になったら、妹達から離れた相手を狙撃して数を減らしちゃうぞ。
万が一に備えて、タケシ君とヒーリアさんは僕の後ろで控えているので、もしも女子高生ゴーレムが妹達を無視してこっちにつっこんできても対処できるはず。
宙を飛ぶ板は、広く連携して逆ハの字に展開しながらゴーレム達を迎え入れた。
そして戦いが始まる。
僕はライフルを構えて、望遠スコープ越しに戦いを見た。
板の妨害にあい、妹達のほぼ正面からなだれ込むように走りこむ441体の女子高生型ゴーレム。
妹達は悠然と横に並んで、四人ともまだカッコよく立っている。落ち着ているようだ。
ここで急に不安になってきた。
そう、僕の方が不安になってしまった。
あの子達、本当に大丈夫だろうか?
こうやって直に見ると、400体って数はすごく多い。
今更だけどヤバイかも。
どんなことでも直前になると不安になるのって普通だよね。
あかん、一回不安になったらすごく落ち着かない。
不安だから、淑女王ゴーレムと紅竜王ゴーレムも送り込もうかな…
いや、僕も急いで傍に行って<時間魔法>使うべきかも!
そう思たとき、戦闘は唐突に始まった。
お読みくださりありがとうございます。




