008 なんか魔法のイメージがおかしい
登場人物
長道:主人公。11歳。元日本人だが記憶を奪われている。チート能力を持つ。
デルリカ:9歳。ブロンドの美少女。しかし妄想癖があり、ヤンデレで、好戦的。
康子:8歳。170cmはある体に隆々の筋肉。しかし中身はイケメンであり乙女。
里美:7歳。日本の記憶を持って居る。チート能力も持っているはずだが見せていない。
マリア:28歳。長道と里美を買ってくれた女性。ままん。
ヒーリア:ダークエルフの美人さん。道中で知り合って村に来た。
― 008 なんか魔法のイメージがおかしい ―
朝起きて朝ごはんを食べたところまでは良い。
そのあと、妹のデルリカと些細なことで喧嘩になった。
引き取ってもらって4日目にして喧嘩とか、我ながらちょっと恥ずかしい。
すくなくても僕は大人メンタルなんだから。
でも不思議と、相手が子供だってことを忘れて怒り出してしまった。
子供は小さな大人ではない。そのことを忘れると対等に扱って喧嘩になる。
親が子供を殴るときって、こういう状態なんだろうな。
喧嘩の理由は些細な事だ。
デルリカが、お菓子をくれないマリアお母様に『大嫌い』と叫んで暴れたからだ。
最初はなだめるつもりだったけど、あまりに理屈が通じないので喧嘩になってしまった。
喉元まで『親殺しのデルリカを養ってくれている人になんてことを言うんだ』と出かかる。
さすがにそれは言わなかったけど、だからこそ謝るまで退けなかった。
デルリカは僕の事も『大嫌い』と叫んでどっか行ってしまう。
康子が追いかけたから、どうにかしてくれるだろう。
僕は体が子供になってしまったせいで、メンタルが幼くなってしまったのだろうか。
悔しくて涙が流れる。
デルリカはもっと言葉が通じると思っていた。
でもそれは勝手な思い込みだ。あの子は9歳だ。
それでも、、、それでもマリアお母様への感謝や礼節を忘れてほしくはない。
悔しくてポロポロ泣いていると、フワリと抱きしめられた。
マリアお母様が僕を抱きしめていた。
「そんなに泣くことではありませんよ。子供が親にわがままを言うのは当然です。でも、あなたの優しが見れてうれしかった。ありがとう、長道。」
抱きしめられながらさらに涙が出た。
こんな人に大嫌いなんて言うなんて。そんな言葉を軽々しく口にしていいわけがない。
しばらく泣くと、なんか次は心地よくなってきた。
僕が前世で何歳だったかは分からないけど、きっと子供のように抱きしめてもらう事なんて何十年もなかっただろうと思う。
とても懐かしくて、甘える気持ちがわいてくる。
ハ!いけない!
この抱きしめは、人を駄目にする抱きしめだ!
なんか、もうこのままダダ甘えしてしまいそうな気がする。
そっと身を起こすと、マリアお母様は静かに離してくれた。
「長道、もう大丈夫なのですか?」
「すいません、甘えすぎました。」
抱きしめられてボサボサになった僕の髪の毛を、マリアお母様は優しくなおしてくれる。
「甘えていいのですよ。本当の親子になれてわたくしも嬉しいく思います。」
ふうぇええええん
ママーーン
そうだ!
僕は急いで傍で待っていた里美を抱き上げる。
「え?お兄ちゃん、急に何?」
そしてマリアお母様の膝に乗せた。
「マリアお母様のギューっは人を赤ん坊に変えるレベルの癒しだから、里美にも体験させてあげようと思って。ヤバイよ、ダメになりそうなくらい。」
そのご、抱きしめられて里美は20分ほど意識が帰ってこなかった。
無理やり引きはがすと、里美が恥ずかしそうに「うん、たしかにヤバイね」と正気に戻る。
な、ヤバイだろ。
そんなことをしていたら康子に手を引かれてデルリカが食堂に来た。
丁度いい。
何か言おうとしたデルリカをヒョイと持ち上げて、マリアお母様の膝にのせる。
「マリアお母様、やっちゃってください。」
困惑しつつもマリアお母様はデルリカを抱きしめた。
数分後、小声でデルリカは「ごめんなさい」とつぶやく。
はい解決。
愛だね、愛。
デルリカは僕にもなんか言おうとした。
でも言えずに黙った。
あれ、僕への怒りは消えていない?
ちょっと寂しいな。
まあ、長引きそうだったら今夜にでも僕から歩み寄るか。
マリアお母様がパンパンと手を叩いた。
「そういえば長道、魔法の授業をしてくれませんか?」
あ、そういえばそんなこと言ってたっけ。
まあ養ってもらってるので、このくらいの恩返しはしますよ。
「わかりました。では準備が出来次第始めます。」
仮面メイドが手際よくノートとペンを持ってきてくれる。
先行して僕は左手のメニュー画面に書かれた魔法講座を読みだした。
レベル19までだと、思ったよりも面白い内容が読める。
目次はすでにすべて見えるけど、読める項目は1割くらいだ。
レベルを上げると、人工精霊作成や、巨大ゴーレム作成の方法もわかるらしい。
おお、もっと早く読んでおけばよかったな、これテンション上がるかも。
ちょうど朝一に狩りを終えたヒーリアさんも来た。
運がいい人だ。いや、マリアお母様はこのタイミングも読んでいたのかな?
で、授業を始めた。
デルリカがテンション低いけど、しょうがあるまい。
「では魔法授業を始めます。」
パチパチパチ
康子と里美とデルリカが当然のように拍手してきたので、ヒーリアさんも慌てて手を叩く。
すいません、日本人の行動パターンを押し付けてしまって。
驚いたのは、自然のようにそれについてきたデルリカ。
さすがデルリカだ。
おほん。
話を再開するか。
「まず大事なのは、通常魔法とN魔法の決定的な違いだね。これを理解したら普通の魔法使いに同情しかわかないレベルで違う。」
周りを見渡す。思ったよりもみんな真剣に聞いている。
話を続けよう。
「たとえば普通の魔法では、正しいく細かな魔力操作とイメージ操作が必要です。そのための細かい魔力の動かし方はどれも複雑で、手順の暗記だけでも大変。まして魔力を操作して実際に行うとなると、火玉を撃ちだすだけでも数年の修業がいります。実戦で実用できる人はさらに一握り。」
ヒーリアさんは頷いている。思い当たることがあるようだ、苦労したのだろう。
「対してN魔法は、そういう細かなパターンを自動化する魔法を世界にかけてありますので、そこから呼び出すだけです。なのでN魔法では『命令』が基本となります。」
なんか全員、凄い見てくる。
耳だけ向けてくれればいいのに。
「面倒なので、ここに居る全員にN魔法の命令権限を与えます。そんで少しづつ実験していきましょう。」
ヒーリアさんがガタリと半立ちになる。
「そんなことが簡単にできるの?」
まあ落ち着け、手で制して再度座らせる。
「本当は空間接続魔法というのを習得しないといけないのだけれど、僕には人工精霊がいるので代理でやってもらえます。人工精霊に接続魔法とN魔法のID登録をしてもらえれば、N魔法が使用可能になるから楽ちんね。」
「「「「おおー」」」」
すぐに5人の登録をしようとしたら、マリアお母様の登録だけ失敗してしまった。
すでに登録済らしい。まあ司教だから、そういうのもあるか。
『全員の登録を完了いたしました。』
「えっと高麗から完了だって来たから、これで全員初期インストール完了です。これだけで、<探査><鑑定><空間収納>が使えるはず。あとスキルか魔法もランダムに一個ついてるらしいから調べてみて。目を閉じて手を見ればステータスが表示されるから。」
ヒーリアさんは半泣きになっている。
「あはは、こんな簡単にこれだけできるのか。本当に通常魔法がバカらしくなるね。」
きっと苦労したんだろう。すいません、簡単すぎて。
そのあと、各種魔法のコマンド事例を説明した。
空間へのコマンド入力で魔法が発動すると、ヒーリアさんが半分壊れた。
「あははは、なんでこんなに簡単なんだ。確かにこれなら何でもできるよ。あはははは。」
そう言いながら、外へ向けてポンポン火の玉や水の玉を打つヒーリアさんを誰も止めなかった。
ほんとスイマセン。僕が悪いわけじゃないけど、簡単すぎてスイマセン。
N魔法というのは、プログラミングだから、命令すればすぐに使える。
世界法則にログイン
右掌に火玉用意
直径10cm、時速200km
スタバイン
発射
たったこれだけ空間に打ち込めば、こちらの魔力を使用して10cmの火の玉が時速200kmで手から発射される。
ほんと、普通の魔法がバカらしくなる。
魔力のロスも少ないので、疲労も少ない。
ほんとスイマセン。世界中の通常魔法の魔導士さん、ほんとスイマセン。
悪いのは賢者大魔導士です。ヤツが世界にこういう新しい魔法法則を書き足したせいです。
文句は賢者大魔導士へ。
授業が終わると、里美の人工精霊スマ子が現れた。
『里美ちゃん、閲覧権限がいらないライブラリーに<スマホ念話>や<タブレット念話>があるけどどうする?』
ライブラリー?
僕の魔法講座にはまだそのあたりの説明は出ていないけど、スマ子は気にしていない様子。
恐る恐る、僕の精霊の高麗に聞いてみる。
「<スマホ念話>とか<タブレット念話>ってなに?」
『はい、日本のスマホやタブレットを魔法で行うと思っていただければよろしいかと。
簡単に使えるように術式がパッケージ化されていて、インストールするだけで使える魔法がたくさん置いてあるライブラリーが亜空間にあります。
ライブラリーには閲覧権が必要なデータも多いのですが、閲覧権限がフリーにされたアプリもたくさんあるんですよ。特に普及した方が良いアプリ魔法には閲覧権限が無いので、N魔法を使える人でしたら誰でも利用できます。
<ノートPC><動画撮影><ワープロ>とか、面白いものが他にも結構あります。長道様の魔法講座ではレベル20くらいで解放される情報です。』
そうだったのか。
「だが知ってしまえば使うしかないよね。ここの全員に<スマホ念話><タブレット念話><ノートPC>はつけてあげよう。」
『かしこまりました』
そのあと、この日は狩りに行かずに、みんなで<スマホ念話>とかを使って遊んだ。
<スマホ念話>は普通にスマホと同じ。
ヒーリアさんは何度も僕に質問にきたけど、デルリカは軽々使いこなしている。
日本でもオジサンはスマホを使いこなすのに時間かかったよな。なにか年齢的なモノを感じて切なくなるねえ。
そうやって遊んでいたら
ピロリーン
<スマホ念話>にメールが来た。
見るとデルリカからだった。
『お兄ちゃん、朝はごめんなさい。大嫌いというのは嘘です。お母様もお兄ちゃんも大好きです。』
デルリカがチラチラこっちをみている。
可愛いな、こんちくしょう。
返事をしてあげなくちゃね。
『わかってくれたならもう良いよ。嫌われたら悲しくて村を出るかもしれないから、嘘でも言わないようにね。』
はい送信。
そしたらデルリカが物理法則を無視したようなジャンプをしてこっちに来た。
「お兄ちゃん!もう絶対大嫌いなって言わないからどっかに行っちゃ駄目です!」
うおおお、びっくりした。
座った姿勢から、腰の力だけでそのままジャンプしたぞこの子。
ホラーかと思った。
「わ、わかったよ。デルリカが良い子ならどこにもいかないよ。」
「絶対ですからね!ほんとうに絶対ですよ!」
「うん、絶対だよ。」
なにせデルリカは僕と里美の恩人だもの。
大事にさせてもらうよ。
頭を撫でてあげたら、安心したように微笑んでくれた。
デルリカ可愛いよ、デルリカ。
禿げるんじゃないかと思うくらい、グリグリとデルリカの頭を撫でていたら、高速に撫ですぎて焦げた匂いがしてきた。
ヤベ、あわてて撫でるのをやめる。
小声で高麗を呼ぶ。
「高麗さんや、少し焦げたりして傷んだ髪の毛は元に戻せる?」
すると横から里美の人工精霊、スマ子がやってきた。
『ウチの方が得意だからまかせて。っていうか女の子の髪の毛焦がすとかマジ信じられないっしょ。』
「す、すいません」
スマ子は手際よくデルリカのブロンドの輝きを取り戻してくれた。
そいえば里美も人工精霊持ちだって狩りの時に唐突に知ったけど。。。。
里美の細かいステータスはまだ知らないんだよね。
<鑑定>で無理やり見ればわかるかもしれないけど、見ていいのかな?
こういう事って聞いていいのかも悩む。
冒険者同士や魔導士同士だと、お互いに詮索するのはルール違反らしいし。
ちょっと気になったけど、いまは素通りすることにした。
狩りの時の扇子技や衝撃波を見る限り、かなり強いというのは間違いない。それだけわかっていれば良いかなって思った。
お読みくださりありがとうございます。




