078 キラキラ淑女王
― 078 キラキラ淑女王 ―
徹夜で準備をして、僕は1人で10時ころに街の西にある谷に向かった。
谷は街から2kmほど離れた場所にあるため、浮遊バイクで草原を5分ほど走る。
1人でバイクで走っているのに、なぜか視線を感じる。
周りを見渡しても草原なので誰かが隠れることはできないはず。
なんだろう?
一旦バイクを止めて周りをよく見る。
すると、僕の周りを沢山のキラキラしたものがたくさん飛んでいることに気づいた。
虫かな?
手を伸ばして触ろうとしたら、パッと消えた。
何だ?何だったんだ?
少し悩んだけど、すぐに忘れることにした。
世界には不思議なことはあるもんだ。うん、それで良いや。
さて気を取り直して、再度浮遊バイク出発。
しばらく走って谷の前まで着く。
すると谷の手前に、100名ほどの兵士が居て何かを調査していた。
ま、普通に考えれば急に谷ができたら調査よね。
その中にヘルリユ第4皇女を見つけたので、僕はそのままっ浮遊バイクで近づいた。
普通なら兵士が止めるところだろうが、親衛隊は僕の顔を知ってるのですんなりヘルリユ皇女の所まで着く。
「はろーヘルリユ。そっちの準備は順調?」
気軽に声を掛けたら、血相を変えたヘルリユがいきなり走りこんできて僕の胸倉をつかむ。
「長道!これはお前がやったのか?なあ、お前がやったんだよな!そうだと言ってくれ!2~3日で大地が裂けて魔王の支配地になってるんだが、これはお前の仕業だよな!なあ、魔王が勝手にやったわけじゃないよな!」
「落ち着きなよヘルリユ。僕以外に誰がやるのさ。大体、普通の魔王なら既にある魔物生息地を支配地にしようとするものだよ。こんな人の街の傍に苦労して支配地を作るなんて、普通はないから。」
それを聞いてヘルリユはへたりこんだ。
「そうだよな…、よかった。フレンツ公国以外にも新しい魔王に対処しなくちゃいけないかと思ったら、生きた心地がしなかったぞ。」
「ごめんごめん、東の森の蜘貴王さんと話していたら盛り上がっちゃってさ、ノリで急に決まったから言い忘れてた。」
「お前…、魔王と話が盛り上がるって、どんだけ馴染んでるだよ。しかもノリで大地を割かないだろ普通。さらに新しい魔王を召還するとかありえないぞ。はあ、、、長道といるとこっちの常識がおかしくなりそうだよ。」
「ちなみに、南に食楽王が住む森を作ったから。あと北の山脈は2代目の紅竜王が支配したよ。ってことで、この街は東西南北で魔王が支配しているか、フレンツ公国は絶対攻めきれいないと思う。」
ヘルリユの顔が真っ白になる。
一瞬で血の気が引くって、こういう事なんだ。珍しいもの見たな。
「長道、、、、それ、大丈夫なのか?普通に考えたらフレンツ公国に攻められるよりも危機的状況なんだが、、、」
「大丈夫だよ。蜘貴王さんは今の縄張りで満足しているみたいだし、北の紅竜王はこの戦争にワイバーンを貸し出してくれるくらい仲いいよ。この大地の裂け目に居る淑女王や、東の森の蜘貴王からは、騎乗できる魔物を借りれるから、魔物に騎乗して戦えるよ。あっそうだ、魔物に騎乗して戦いたい兵士が居たら13時にここに集めてくれるかな。明日に向けて騎乗訓練するから。何人でもいいよ。」
すると、傍に居た兵士が目を輝かせて詰め寄ってきた。
「それは本当ですか!竜騎兵とか伝説の中にしかない存在じゃないですか。是非やらせてください。」
「良いけど、空中からの攻撃手段はあります?僕は魔法が使える人だけでいいかなと思っているんですが…。」
すると兵士は更に一歩詰め寄ってくる。
あう、暑苦しい。
「大丈夫です。長道殿に作っていただいた自在棒と魔力砲がありますのでどうとでもなります。さらに空間収納バッグに良く燃える油や、爆裂矢を入れて行けば効果的に戦えるはずです!」
なるほど。
僕よりも良い戦い方を思いつくのは、流石本職の兵士ってことかな。
あ、そうするとかなりの数の志願者が出そうだな。
慌ててまだへたりこんで呆けているヘルリユに向き直る。
「ヘルリユ、何人でも良いっていったけど、ワイバーンライダーは200人までにしてもらえるかな。冒険者にも募集掛けているから、合計250人で考えてるから。地上型の魔物に騎乗するのは500人まででお願い。それより多かったら適性のっ低い人には諦めてもらうから。」
「ははは、本当にこっちの常識が壊れるな。わかった、急いで募集を掛けよう。これなら戦力差はひっくり返せそうだ。残る問題はフレンツ公国が所有するインテリジェンスアーツのゴーレムだけか。」
「あ、そっちは僕に任せて。あの女子高生ゴーレムは全部僕の研究材料にする気だから、来た分は全部僕がゲットするんで。」
「そ、そうか。もう驚かんぞ。お前ならそういう事も可能なんだろう。よし、そちは頼んだぞ。」
プルプル震えながら、必死に何かを納得しようとしているヘルリユ。
ガンバレ。明日はもっと凄い光景を目にするから楽しみにしていてね。
すると空から、いきなり禍々しい鎧が降ってきた。
見るだけで邪悪なものしか感じない、恐ろしい形をした鎧を着た存在が。
まったく予兆もなくいきなり降ってきたため、兵士たちはスグに戦闘態勢に入る。
その兵士たちを無視するように禍々しい鎧は僕に歩き寄ってきた。
「長道、約束通り来てあげましたよー。お昼はハンバーグをよこすのですよー。」
その禍々しい鎧は食楽王マリーさんだ。
この人は人前に出る時は禍々しい鎧を着ることにしているらしい。
僕が特別に作ってあげた、禍々しいデザインの鎧は気に入ってくれたようだ。
ちなみにヘルリユ皇女は食楽王の登場にまったく慌てていなかった。
本当に、すこし常識がおかしくなっているようだ。
僕はヘルリユの肩を軽くたたいた。
「じゃあ、僕は亀裂の下に居る淑女王に挨拶してきます。ではまた後でー。」
いうなり食楽王マリーさんにお姫様抱っこされて、亀裂の下に飛び込んだ。
ひー。
この落下感が怖いー。
トン
マリーさんは静かに着地する。
さすがマリーさん、100m落下もなんのそのですね。
ちなみに、今この裂け目は地上20mあたりから深い霧が立ち込めていて、裂け目の底の方が上から見えないようになっている。
デルリカの拘りなのだろう。
下に降りると薄暗いけど、なんとか周りは見えた。
マリーさんに降ろしてもらうと、浮遊バイクを出して亀裂の下を疾走する。
目指すは、魔物を産む泉の場所。
まだほとんど魔物が居ないので楽々進めた。
数分進むと、康子とタケシ君を従えたデルリカを見つける。
「おーいデルリカ、準備はどうだい?」
「お兄ちゃん、よこそいらっしゃいました。どうですかワタクシの城は。」
来る途中、たしかにかなりカスタマイズされいた。
魔物が戦いやすいようになっている。
「驚くほどカッコよくなってたよ。デルリカはセンス有るね。」
「ふふふ、お兄ちゃん程でありませんわ。」
「そうそう、デルリカにプレゼントだよ。淑女王がデルリカだってバレると面倒なことになるから、身代わりを作たんだ。これを使って。」
<空間収納>から、徹夜で作った巨大ゴ-レムを出した。
フランス人形のような顔立ちだけど、まるで死体をつぎはぎしたような姿のゴーレムを。
ドレスは白ロリだけど血だらけで、茶色い染みがたくさんついている。
身長は12メートル。
印象としては、白いドレスを着た血みどろゾンビのような感じの姿だ。
両手には斧を持ち、背中には2本のスコップを背負っている。
我作品ながら、実に怖い。
自分で作っておいてなんだけど、ヤバイ、夢に出そうなくらい怖いです。
でもデルリカは目を輝かせて見上げていた。
「まあ素敵!淑女としての体裁を保ちつつ、血みどろの魔王を見事に表現していますわね。可愛らしいですわ。」
可愛らしいか?
デルリカのセンスが壊滅的すぎて不安になる。いつか教育してあげよう。
ちなみにこれ、見た目は完全に生物にしか見えない。
フレンツ公国のインテリジェンス・アーツゴーレムを拾って研究出来たおかげで、人間そっくりの姿に作ることができたから。
「じゃあ、人工精霊か何かを入れて動くようにするからちょっとまっててね。」
僕は人工精霊の高麗を呼び出そうとした…
でも呼び出す前に、いきなり空間から少女のような声が聞こえた。
『長道様、このお体をいただいてもよろしいのですか?』
誰だ?
周りを見渡しても声の主と思える人はいない。
声の感じは人工精霊が声をかけてくるときの感じに似ているんだけど、でも僕の知っている人工精霊の声ではなかった。
聞き覚えのない声だったけど、不思議と親しみを感じるな。
「デルリカに忠誠を尽くしてくれるなら良いよ。」
『ふふふ、そうしうことでした望むところです。デルリカ様の身代わりとして魔王を演じてご覧にいれましょう。長道様とデルリカ様に、わたくしの忠誠をささげます。』
その声の主が少しキラッと光って巨大ゴーレムに入っていくのを感じる。
すると巨大ゴレームはスカートのすそをつまみ、片足を軽く引いて挨拶をした。
デルリカは、その姿に大興奮。
「まあ素敵!所作も立派な淑女ですわ。淑女子と名付けましょう!」
デルリカ、ネーミングセンスも壊滅的か。
しかし、魔法も契約もなしに精霊的な何かが自主的に言うことを聞いてくれるなんて驚いた。
ここに来る前から感じた気配の正体はこの精霊だったのかな?
僕の知らないところで、何か起きているんだろうか?
少し不安になるが、その解明は戦争準備が終わってからにするか。
お読みくださりありがとうございます。




