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075 淑女王の縄張り

あらすじ

森が完成したが、食楽王マリーにとられてしまった。

ガンバレ長道。

― 075 淑女王の縄張り ―


マリーさんは散々迷ったあげくに森の支配を選ぶ。

その後、何度も振り返りつつ「長道ケチだなー」とつぶやきながら森に入っていった。


縄張り譲ったのに、ケチはないだろ。バカ魔王め。


でもあの人、バカっぽいけど大事なところは見事な判断をするんだよな。ほんと油断できない。

森を選んだ理由は、美味しい魔物が出る森をおさえる方が、長い目で見たときに僕との交換条件に有利になると考えたかららしい。


さっきまで『長道の森』だった場所を<鑑定>で見ると、すでに『食楽王の森』となっている。ちょっと寂しいかも。


いいもん、もっといい縄張り作るもん。


すこし不貞腐れたら、カマキリメイドがそっと慰めてくれた。

「相手が悪かったよ。また手伝うから元気だしてー。」

「そうだよ長道殿、魔物を産む泉を作れる長道殿なら、もっと良い環境で魔王になれるよ。がんばろう。」


思わず胸が熱くなった。フィリアの街や、グロガゾウの商業ギルド長みたいな人間の悪い部分ばかりに触れてきたから、人間よりも魔族の方がよっぽど温かく感じる。

「ボレちゃん、ダレちゃんありがとう。君ら最高だ!」


思わず二人を抱きしめてしまった。

少し離れたところでサソリ軍人二人は苦笑いしているが気にしない。


すると突然、10メートルほど離れた場所の地面が裂けた。


ズガガガガガ


サソリ軍人の二人は臨戦態勢に入る。

「な、なんだ?敵襲か?」


えぐれた地面が、時間差で爆発した。

土を巻き上げ、さらに地面をえぐる。

それを見てサソリ軍人魔族の二人は冷静になった。


「これは…蜘貴王様の蜘糸ブレス?」


続けざまに、その溝に巨大な白い攻撃が追い打ちをかけて、さらに深くえぐった。

「あ、あれはデルリカの突猿王ブレス。」


さらに光の攻撃が連続で溝をえぐる。

たぶん、あの光の攻撃は勇者のだれかだろう。


怯えたカマキリメイドは僕の体にしがみついた。

未知のブレスや勇者の光の剣が目の前で土を割くのが恐ろしい様だ。


そんな地面を割く攻撃を呆然と眺めていたら、蜘蛛の下半身をしたサビアンさんの姿が見えたので全力で手を振ってみた。

「サビアンさーん!」


むこうもこっち来気づいたようで、僕らの目の前に転移してきた。


シュン!

「まあ長道さん、うちの子達とは仲良くやれているようですわね。安心いたしましたわ。」


たしかに。。

カマキリメイド二人は僕にしがみつき、サソリ軍人美女の二人は僕の前にたって警戒してくれている。

うん、言われてみると凄い仲良くなったかも。


「人間よりも、よっぽど信頼できる人たちでした。良くしてもらっています。」


サビアンさんは上品な微笑で優雅にうなずく。

「それは何よりです。」


僕らを見つけて、デルリカと康子も駆け寄ってきた。

疲労はなさそうに見える。タフだな。


「デルリカも康子もありがとう。谷はあの森に100mくらい突き刺してしまって。」


康子は森を見て微笑む。

凄くたくましい立ち姿がカッコいい。

「さすがお兄様。もう森が出来ているとは思いませんでした。もう魔物も出るのですか?」


「魔物もでてるよ。でも…作った直後に食楽王マリーさんに盗られちゃったよ。ま、マリーさんが支配するなら鉄壁の防御壁になるから願ったりかなったりなんだけど。」


「流石のお兄様でも、マリーさんがお相手では譲るしかありませんね。でしたらあの森に谷を突っ込ませるのはまずいのでは?」


「気にしないでいいよ。あの人はあとでハンバーグでもあげておけば機嫌直るから。」


僕の指示で、デルリカと康子は谷の作成の仕上げにとりかかる。

ズガガガと凄い轟音をあげながら谷がさらに伸びた。


今思うと、谷なんか作らなくてもあの威力を敵に打ち込むだけで、この街を防衛できたかもしれない。


…いやいや、慌てて自分の思考を取り消す。

この街の防衛はデスシール帝国の軍が行うべきだ。

僕らは手助けまででやめておかないと、後々面倒になる。

これで正解なんだ。


谷が完成したっぽいので、改めてサビアンさんに頭を下げる。

「サビアンさん、協力してくださりありがとうございます。お陰で予定通り完成できそうです。」


「いいえ、お互い様ですわ。食楽王の侵略を防いでくださったのですもの。感謝しております。」


これで最低限の備えはできたかな。

一息ついて周りを見渡してふと疑問がでた。


「サビアンさん、そういえば里美やビレーヌはまだ北側に谷を伸ばしているんですか?」


「いいえ、北側の作業は完了しております。そこでビレーヌさんと里美様が『北の山脈を縄張りにしよう』と言い出しまして、飛び出して行ってしまわれましたの。ダークエルフのヒーリアさんが付き添っていかれましたので、そろそろ支配も終わるころかもしれませんわね。」


…何やってるんだ、あの子たちは。


すると、谷作りの作業が終わったデルリカが、可愛く僕の手を両手でつかんで揺らしてくる。

「お兄ちゃん、ワタクシも縄張りが欲しいですわ。」


もうー、デルリカは子供だなー。

可愛いなーデルリカ。

人が持ってるものをすぐ欲しがるんだから。

よーし、お兄ちゃんがプレゼントしちゃうぞ。


「そうだな…、じゃあこの谷に魔物を産む泉をつけてデルリカの縄張りにしよう。」


デルリカは、軽くウェーブのかかったブロンドを揺らしながら飛び跳ねて喜んでくれた。

「わたくしたちが作った谷をワタクシの縄張りにするのですね。とても素敵ですわ!」


僕の手をぶんぶん振って喜ぶデルリカ可愛いなー。


「康子、ここでみんなの分も夕食を用意しておいてくれるかな。谷に魔物の泉を設置したら戻ってくるから。」

「はいお兄様、お気をつけて。」


谷にデルリカと一緒に行って下を見下ろす。

「うわー、深いな。下まで降りるの大変そうだ。」


でもデルリカは躊躇なくぴょんと飛び降りると、壁を器用に蹴りながら下に降りて行く。

すげー、怖くないのかな。


はぁ、諦めて僕も降りるか。


恐る恐る壁に張り付くように降下を試してみた。


ハッキリ言おう、100mの谷を降りるのは怖い。

プランと体がぶら下がった時の怖さは口では言えない。

無理かも、怖くて降りれない。

街に分身が居るから落ちても死なないけど、そういう問題じゃない。

怖いものは怖いのだ。


デルリカは、なんであんなに軽々ピョンピョン降りれるのだろうか?

人間は高所から落ちたら死ぬんだぞ。

今度から最低でも<浮遊>スキルくらいはポイント振っておこうと心に誓った。


怯えながら降りていたら、

見かねたサビアンさんが蜘蛛の糸を垂らしてくれた。


「長道さん、その糸に掴まっていただいけますか?掴まて下さればゆっくり降ろしますわ。」

「あ、あリがとうございますサビアンさん!大感謝です!」


糸といっても3cmくらいの太さがあり、掴まるとかなり頑丈だ。

スルスル降ろしてもらって、どうにか谷の底に着く。


「ありがとうございますサビアンさん!谷底に着きました! 怖かった…。」


底に着くとデルリカは行儀よくニコニコ待っている。

「お兄ちゃん、遅いですわ。」


「ごめんね。じゃあさっさと仕事しますか。横穴を掘ってそこに隠すように魔物を産む泉を作ろう。デルリカ、適当に横穴を作って。」


「はい、お兄ちゃん。」


まるでお人形のような笑顔の後、デルリカは無造作に自慢のスコップを連打する。

デルリカのスコップは衝撃波だけでいくつも横穴をあけた。


貴族っぽいドレスを着たままで、よくもあそこまで動き回れるものだ。

そしてスコップの威力がさらにヤバくなってるな。いつか兄妹喧嘩になったら絶対先に謝って許してもらおうと心に誓った。


いくつもあいた横穴から適当に良さげな穴を選んで、そこに魔物を産む泉を設置する。


「よし、これで魔物も生まれるようになったから、この谷をデルリカの支配地として宣言していいよ。今はだれも敵がいないから宣言するだけでいいはずだから。」


デルリカは目を瞑り地に手を突く。

「この大地の亀裂に『淑女王亀裂』と名付けます。我が支配地として宣言いたしますわ。異議ある者は名乗り出よ。名乗り出ないものはすべて支配されよ!」


すると一瞬亀裂内に魔力が揺れ、スグに落ち着いた。

僕は<鑑定>スキルで谷を見ると『淑女王亀裂:魔王淑女王の支配地』となっている。


へー、魔王の縄張り宣言ってこうやるのか。


「よし、ここは淑女王の支配地になったよ。これでここの魔物は全部デルルリカのものだね。」


「はい、お兄ちゃんのお陰で一人前の魔王になれましたわ。これからはお兄ちゃんのために頑張りますわ。」


「デルリカ―、優しいなデルリカ―。可愛いぞマイラブリーシスター!」


もうお姫様抱っこして称えちゃうぞ。

可愛いなデルリカー。


「ふふふ、お兄ちゃん喜びすぎですわー。」


そう言いながらも嬉しそうに僕の首に抱き着いてきた。

しばらくるくる回って、デルリカを堪能した。


さて地面に降ろすかな。

腰を曲げてデルリカを地面に降ろそうとしたけど、デルリカは僕の首にしがみついたまま離さない。

えっと…


「デルリカ、じゃあ上に戻るために手を離してくれるかな。」


しかし妹は無情な死刑宣告を下す。

「このままお姫様抱っこで上に連れて行って欲しいですわ。」


ええええ、無理無理。

この貧弱坊やに何無理言ってるの?

君の兄は常人だよ。


「デルリカ、僕は貧弱坊やだから無理だと思うよ。」


「でもお兄ちゃんに連れて行ってほしいのです。お願いしますわお兄ちゃん。」


ニコニコして離す気はないようだ。

まいった。

この子、時々変な甘え方してくるんだよな。


デルリカの笑顔で僕に脂汗が流れる。

デルリカは意地でも僕につれて上がって欲しいようだ。

くそー、テンション上がってお姫様抱っこなんてしなければよかった。


バカバカバカ、一分前の僕のバカ。


やるしかないのか?

できるのか?


…やるか。やってやるよ。


「うおおおおおお!」

地面を駆け上がろうとした。


2メートルほど駆け上がり、あえなく落下。

「ぐっふうううう。デルリカ、ちょっと無理かも。」


「しょうがありませんわね。ではワタクシがお兄ちゃんを地上にお連れいたしますわ。」


僕から離れたデルリカは、小さい体でいきなり僕をお姫様抱っこした。

「きゃ、デルリカ。」


「お兄ちゃん、ワタクシにしっかり掴まってくださいませ。ちょっと怖いですがワタクシにお任せくださいね。」


そのまま飛び上がったデルリカは、器用に壁を蹴りながら僕を地上まで運んでくれた。


「うわああ、怖い」


「目を瞑ってしっかり掴まってください。すぐ着きますわ。」


30秒ほどでデルリカは地上まで上がり着地。


僕は恐る恐る目を開ける。

「地上着いた?」

「はい、もう大丈夫ですよ」


そのとき、地上で夕飯の支度をしていた他のみんなと目があった。


あ、


お姫様抱っこされているところを見られた。

見られたくなかったかも。小さいデルリカにお姫様抱っこされて谷から飛び出してきたとか恥ずかしい。


みんな、気まずそうに目をそらしてくれる。

う、その気遣いが、むしろすっごく恥ずかしい。

お読みくださりありがとうございます。

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