072 兄は静かに森を作ってます
あらすじ
魔王と協力して妹達が谷をつくりだした。
超人的な作業風景にビビる長道。
力仕事は苦手なので、長道は森を作りに向かうのであった。
― 072 兄は静かに森を作ってます ―
我が思考がマリーさんに影響を受けたかもしれないという自分の考えに怯えていたら、街の方から浮遊バイクで疾走してくるダグラス団が見えた。
「おーい、ダグラスさーん。こっちですよー。」
僕の目の前でバイクを止めるダグラスさんはへとへと顔である。
「長道坊っちゃん、呼び出しが急過ぎだぜ。5分とか無理だろうに。」
律儀に5分で来ようとしたのか。
「ごめん、5分ていうのは様式美みいなものですから。でも急いで来てもらいたかったのは事実なんですよ。じつは地面に棒で線を描いてほしんです。」
困惑顔された。
「え?線を描くのか?それが重要な仕事なのか?」
「重要ですよ。ただ線を描く長さが大変なんです。横10km。縦5kmの四角を書いてほしんです。これ、戦争用の備えに重要な仕事ですから急いでほしんですよ。今日中に確実に書いてください。」
「ゲッ、冗談だろ。」
「まじです。四人いるんだから1時間で書いてね。」
「坊っちゃん、そんな・・・」
嫌な顔をする四人に線を引く場所を指示すると、僕はさっさとその場を離れた。
ガンバレ、ダグラス団。
さて、次は森を作る材料をデリバリしなくちゃな。
また携帯念話機をだす。
プルルル
プルルル
カマキリメイドのボレーヌに掛けてみた。
『あ、あ、えっと、、、』
初めての電話に出た子供みたいな反応が可愛い。
慣れない電話にどう話していいかわからないよね。うん可愛い。
「もしもし、長道だけどボレーヌでいいのか?」
『はい、ボレーヌだよ。長道殿、なにか用?』
「仕事を頼みたいけどいいかな。大丈夫?」
『サビアン様からは長道殿に頼まれたら手伝うように言われているから大丈夫だよ。』
「よかった。いまから明日のお昼までに魔物の森にある植物や鉱物を、可能な限り全種類集めてほしんだ。大変だから可能な限りでいいよ。それぞれ100個以上あると嬉しいな。集めたら南の湖まで持ってきてほしいんだけど大丈夫?」
『大丈夫!ダレージュと一緒に集めて持っていくよ。タリューシャとサチューシャも戻ってきたから四人でやるから、大丈夫。』
タリューシャとサチューシャ?誰だ?
サビアンさんの配下には、あと2人魔族がいるって言ってからその二人かな。
まあ、手伝ってくれるなら良いか。
「わかったお願いするよ。とても重要なお仕事だからお願いね。」
『わかった!ボレーヌ頑張る!』
ブチ
通信が勢いよく切れた。
やる気満々だな。元気があって助かります。
そこからボーっと待っていたら一時間ほどでダグラスさん達が戻ってきた。
「線で長方形を描いてきたぞ。これでいいのか。」
「はい、ありがとうございます。じゃあ魔法をかけるんでさがっていてください。」
僕は地面に書かれた巨大な長方形の線に触れる。
この長方形のなかの説明書きを原始魔法で書き換えるのだ。
<鑑定>で確認する。
『草原に描かれた地面の落書き。10km×5km』
この<鑑定>で出た概念を原始魔法で書き換えた。
『長道の樹海。10km×5km』
にする。
原始魔法というのは概念を操作する魔法。神の領域の魔法だ。
そして、この広い場所に広く薄く純化魔法をかけた。
純化魔法は純粋なエネルギーを扱う魔法。
純化魔法で地面が薄くエネルギーに変化させる。
するとエネルギー化したことで柔軟に土地が変化をはじめ、少しずつゴツゴツした岩場に変化を始めた。
ここの概念を『長道の森』と書き換えたので、この場所が自ら森になろうとしてるのだ。
だから、変化しやすいタダのエネルギーにした部分が勝手に変化する。
変化は急速に進みだし、岩場の隙間から植物が伸び始める。
森にするんだから植物は大事だ。
見る見るうちに、ダグラス団が地面に書いた長方形の中が、異質な土地に変化を始める。
2時間ほど行って、岩場の隙間から40センチくらいの植物が沢山はえた状態のところで、僕の方がダウンしてしまった。
「くはあ、集中力が限界だ。でも下準備が出来たから、明日にでも東の森から材料が運ばれて来れば森に出来るかもしれない。」
ダグラスさん達の方を見たら、四人とも呆然として森予定地を眺めていた。
あれ?この人達は2時間ずっと眺めていたのかな。
そういえば次の作業の指示を出すのを忘れてた。
「ダグラスさん、なんか待たせてしまってスイマセン。退屈だったでしょ。」
「え?退屈なんてする暇なかったぜ。なんだいこれは!土地があっという間に変化したぞ。これも長道坊っちゃんの力なのか?時間も忘れて見入っちまったぜ。」
「まあ、僕の力だけど、退屈しなかったならよかった。そうだ、街の西側で妹達が谷を作っているから食べ物とかもって行ってくれませんか。僕は今日はココでコツコツ森を作りますので。」
するとダグラスさんはギョッとした顔をした。
「谷?妹嬢ちゃん達は何をやってるんだ?」
「行けば分かりますよ。東の森の魔王も一緒にいるんで甘いものとお茶も持って行ってあげて。」
「東の森の魔王が一緒だって?なんでだよ。」
「妹達が友達になったからです。よろしくね。」
僕はそういうとダグラスさん達に背を向けて、再び魔法に集中した。
背後で「また非常識なこと言ってるぞ」「諦めろ、長道坊っちゃんだぞ」「だな、魔王くらい友達でも普通だろ」「俺たちもかなり染まったよな」などと言っていたが無視である。
そうやって、こつこつ森予定地を作っていたが、夜になるとさすがにへとへとになったのでテントを<空間収納>からだして設置。仮眠をしなくちゃ。
最近テントでばっかり寝ているな、はやくベッドで寝たい。
テントにもぐりこみ、体を横にした。
よーし、眠るために妹でも数えちゃうぞ。
デルリカが1人、デルリカが2人、デルリカが3人・・・・
ごそごそ誰かがテントを揺らすので目が覚めた。
うわ、いつの間にか爆睡していたみたい。デルリカを3~4人数えたところまでしか記憶にないんだけど。
デルリカ睡眠法は凄いぞ。
バンバン
今度は乱暴にテントが揺れた。やっぱり誰かが揺らしている。
テントの隙間からは日差しが差し込んでいるので朝なのだろう。
太陽の感じで行くと、朝の8時くらいかな?
「おーい、長道殿。ここで寝ているのか?森の物を沢山持ってきたよー。」
テントの外からカマキリメイドの声が聞こえてきた。
バンバン
そしてまた勢いよくテントが揺れる。
うわわ、早く返事しないとテントが壊されそうだ。
「あ、ありがとう。今テントから出るかちょっと待って。」
ごそごそテントから這い出てみると、四人の魔族が待っていた。
人で行くと13~4歳に見えるカマキリメイド2人。
その後ろには、軍人みたいな服装の20~23歳くらいに見える、美女が居た。
この二人がタリューシャとサチューシャか。
2人は明らかに戦闘が大好きそうな顔つきで、肩くらいまでで切りそろえられた髪の毛。肩にカニのようなハサミがついている。背中から黒い槍のような尻尾がでていた。
サソリか。
「あんたが長道殿か。食楽王の脅威を取り除いてくれたとか。お礼の意味で手伝ってやった。」
「長道です。手伝ってくれてありがとう。これから持ってきてもらったものを配置してもらうんだけど、いったんそのあたりに全部出しておいてくれるかな。そしたら朝御飯が終わるまで休憩してて。」
「わかった、ではまずは持ってきたものを全部出そう。」
四人は<空間収納>から持ってきたものを大量に出してくれた。
えっと・・・凄い量なんだけど。
草や石はもちろん、引っこ抜いた木とかも沢山ある。
その量は、東京ドーム2個分くらいの量があった。
うわあ、めちゃくちゃ凄い。
これ一晩でとってきたんだよね。
魔族すげー。
持ってきたものを全部出してくれた後、折角なんで四人の分も食事を用意してあげた。
食事しながら、今日の作業の説明をする。
「ここに森を作る予定なんだ。だから持ってきてもらったものを僕の指示で配置してほしんだ。大雑把に配置した後、僕の魔法で森や石垣にするから。」
カマキリメイド達は「うま!うま!」と言いながら食事に夢中で僕の話を聞いていない。
まいっか、二人にお替りをよそってあげる。
「おお、美味しいのをもっとくれるの?長道殿大好き」
「わーい、美味しいー。サビアン様の次に長道どの好き。」
君ら、ちょろすぎな。
気を取り直して真面目な話の続きをするか。
サソリ軍人美女のタリューシャとサチューシャは、僕の説明を聞きながら渋い表情をしている。
「大雑把に我らが持ってきたものを置けばいいのか?森を作るには木や草は足りないし、石垣を作るには石が足りないぞ?」
「それは大丈夫。魔法をかければ増えるから。ある程度配置する場所の近くに置いておいてもらえた方が楽なんだ。細かいことは魔法でやるから、森の材料を大雑把において貰えればいいから。」
サソリ軍人美女は納得いかな表情だが、渋々頷いてくれた。
まあ、そんな難しい顔しなさんな。
お替りあげるから。
さらにシチューを食器に足したら嬉しそうな顔になってくれた。
「私にも食事を増量してくれるのか。長道殿は素敵な男性だな・・・」
うん、魔族も食べ物で買収できる気がしてきた。
魔族女子、ちょろすぎ。
それでいいのか魔族女子。
まあいいや、これで気持ちよく働いてくれるだろう。
お読みくださりありがとうございます。
次回、長道のものはマリーの物。マリーの物はマリーの物。




