070 魔王と妹達
あらすじ
戦争を止めるため、長道たちは名案を思いつく。
敵国は街の西側から来るため、街の東にいる魔王を西側に移動させて妨害させようという作戦だ。
みな笑った。が、長道は、なぜか魔王は最初に会話をしようとすることに目を付けたので自信はある。
そして妹達を説得し、魔王・蜘貴王に会いに行くと、蜘貴王は里美や康子の前世の知り合いが死後に魔王になった存在だと知る。
話をしてみたところ、蜘貴王は街の西に縄張りを変えることはできないが、谷でも作れば足止めになるという話になり、地形を変えるために蜘貴王の力も借りれないか説得を試みるのであった。
― 070 魔王と妹達 ―
さて、早く街に帰りたんだけどな…
妹達が、魔王『蜘貴王』さんたちとお茶会を始めてしまった。
荒野を移動中に、いつでもお茶会ができるように<空間収納>にお茶会セットを一式入れておいたのが裏目に出たか。
はやく帰りたいんだけどなー。
カマキリメイドの二人も人化している。
当然変身直後の全裸は記録させてもらったけどね。役得だね。
メイド服型の自在戦闘服を渡したので、今もメイド服だ。
で、
僕もお茶会に強制参加させられちゃったけど、、、、辛い。
今気づいたけど、妹達ってマジで貴族ばっかりだ。
おほほほって上品なお茶会しているなかに、平民で男の僕が入るとどうなるか想像してほしい。
辛い。
お菓子の話とか面白くないし、最近のくつ下の素材の変化が速すぎるとか、そんな話つまらないんですよ。
タケシ君とヒーリアさんは、従者だという事を理由に一歩下がった所でカマキリメイドと意気投合している。僕も従者組の方に行きたいっす。
でも妹達も楽しそうなので、僕は仮面のような笑顔を張り付け必死に我慢しているのが今の状況です。
さてどうしよう。
黙っている僕に気を使ってくれたのか、サビアンさんがこちらを向いた。
「そういえば、長道さんは配下の魔族をどのくらい持っておりますの?」
「え?魔族ですか?魔族どころか配下の魔物も持っていないですよ。」
「え?一人もですか?魔王なのに?」
「ええ、一人もです。配下ってどこで見つけるんですか?」
驚いた顔で見つめられてしまった。
「もしかして配下の作り方を知らないのでしょうか?わたくしは配下の作り方は魔王になれば自然に身に着くとばかり思っておりました。違うのですね。わたくしの知っている範囲で宜しければお教えしましょうか?」
「それは助かります。ぜひ教えてください。」
おお、実は僕もこれは疑問だったんだよね。
魔王はみんな配下の魔物を持っているのに僕らにはいない。
実は不思議だったんだ。
サビアンさんの説明によると配下を手に入れる方法は3つ。
一番基本的なのは縄張りを持つこと。縄張りの中の魔物は本能的に魔王に従うそうだ。
あと、縄張りの外の魔物を配下にしたいときは、「配下になれ」と命じて力で屈服させれば良いらしい。
魔族をスカウトする時は、契約として何かを与えて配下にすることもできるとか。
なるほど、魔王が縄張りを持つ理由は配下を作るためか。
するとサビアンさんはカマキリメイドを呼び寄せる。
「縄張りを作っても、縄張りに元からいた魔族は配下にはなりません。魔族の配下が欲しい場合は、魔物から育てて魔族にするか、契約で配下にしますのよ。このボリーヌとダレージュは、わたくしが魔物から育てた魔族ですの。」
ふと疑問に思う。
「魔物と魔族って何が違うんですか?」
で、説明してくれた。
魔物が進化すると魔族になるそうだ。魔物と魔族の一番の違いは知能だとか。
このボレーヌとダレージュはサビアンさんの配下として戦う内に進化して魔族になったそうだ。
自分で魔物から育てた魔族の育てるのは経験値を積ませるのが大変だけど、無条件で従ってくれるので契約で配下にするよりもお勧めらしい。
「知らなかった…。じゃあこの森の魔物は狩れないですね。サビアンさんも配下の魔物を狩られると悲しいでしょうし。」
するとケロリとした顔でサビアンさんが小首をかしげる。
「わたくしが悲しむ?何故ですの?魔物なんていくらでも沸いてきますから適当に狩っていただいてもよろしくてよ。育てた魔族を殺されれば激怒するでしょうが、魔物はどうでもよいですわ。」
なるほど。
魔物には情が移っていないと。
たしかに見た事すらない相手に情は沸かないか。
「そういえば、サビアンさんの配下の魔族はボリーヌとダレージュだけですか?」
「いま、魔物を引き連れて食楽王に警戒しに行っている子が二人います。わたくしの配下の魔族は合計4人ですわ。」
なるほど。いろいろ分かった。
「とても参考になりました。ありがとうございます。」
配下つくりか、面白そうだな。
こんど魔物を配下にして魔族に育ててみたいかも。
メスの魔物ばっかり魔族に育てればハーレムになるかもしれないのか。魔王最高かも。
夢が膨らみんぐ。
フワフワ妄想していると康子が真面目な顔になる。
「ではサビアンさん、私たちはそろそろ谷を作りに向かおうと思います。手伝っていただけないでしょうか。」
あ、忘れてた。
するとサビアンさんは困りだした。
「もちろんお手伝いしたいとは思いますわ。ですが食楽王との縄張り問題を解決いたしませんといけませんので、今すぐという訳には…。」
康子は僕を見た。
「お兄様、サビアンさんもお困りのご様子。どうにかできないでしょうか?」
僕は康子とサビアンさんを交互に見た後、軽く肩をすくめる。
「僕に頼ってくれるのは嬉しいけど、さすがに魔王の縄張り争いとか出来るかなー。でも一応手を打ってみるけど、失敗しても失望しないでね。」
携帯念話機をそっと出す。
ぷるる ぷるる ぷるる
「あ、もしもし。お前は誰だ!」
『もしもーし。マリーさんですよー。お前こそ誰だ!名を名乗れ長道ー。』
「ふっふっふ、黒竜王とだけ名乗っておきましょう。それより相談があるんですけど今大丈夫ですか?」
『大丈夫ですよー。これから縄張りを作ろうとしていただけですからー。』
あぶない、ギリギリのタイミングだったようだ。
「そのことなんですけど、蜘貴王の縄張りに絶対被害を出さないでもらえませんか?蜘貴王は妹達と仲良しなんで。」
『えー、せっかく蜘貴王から縄張りを沢山分捕ろうと思っていたのにー。その相談は聞けませーん。』
「ハンバーグ沢山作りますよ。」
『うーん、ピザとパフェもつけてください。100個づつですよ。』
「OKです。じゃあ蜘貴王さんの縄張りに手を出さないでくださいね。」
『いいですよー。はやめに寄こすのですよー。』
「おっけー、まいふれんど。商談成立ですね。」
『もなみー、商談成立です。』
携帯念話機を切ってサビアンさんを見た。
不思議そうにこっちを見ている。
「サビアンさん、食楽王と話が付きました。サビアンさんの縄張りには絶対手を出さないようにしましたので安心してください。」
「え?もしかして今の話でケリが付きましたの?」
「はい、ケリつきました。」
本日何度目かの驚愕の表情をしてくれた。
「まあ。難問を難なく解決する姿は賢者大魔導士のナガミーチさんとそっくりですわね。」
そうなんだー。
パパン(仮)に似ているというなら、喜ぶべきなのかな。
そして僕らはグロガゾウの街の西側に移動することにした。
地形を変形させるために。
お読みくださりありがとうございます。




