007 デルリカの秘密
登場人物
長道:主人公。11歳。元日本人だが記憶を奪われている。チート能力を持つ。
デルリカ:9歳。ブロンドの美少女。しかし妄想癖があり、ヤンデレで、好戦的。
康子:8歳。170cmはある体に隆々の筋肉。しかし中身はイケメンであり乙女。
里美:7歳。日本の記憶を持って居る。チート能力は秘匿中。
マリア:28歳。長道と里美を買ってくれた女性。実は司教。
― 007 デルリカの秘密 ―
家に帰ってくると夕飯の準備ができていた。
でもその前に、ここのメイドのエプロン子が立ちふさがる。
「坊ちゃま、お嬢様がた、お食事の前にお風呂に入って頂きます!そんなドロドロな格好で食卓に近づくことは許しません!」
可愛らしい女子高生くらいの顔立ちのエプロン子は、僕らを浴室に追い立てた。
浴室の前まで行くと、先にデルリカと康子が風呂に連れていかれる。
廊下で待たされる僕と里美。
どのくらい待つんだろうか?
廊下に座ると、隣に里美が座った。
「お兄ちゃん、今日は楽しかったね。」
「いや、僕はびびっただけの一日だったよ。」
イタズラっぽく里美は僕を見上げる。
「ふふ、いつも余裕な顔だったお兄ちゃんが焦っているのは面白かったよ。」
「前の僕は凄いね。前の僕って、どんな人だったの?」
すると里美は微妙な表情をする。
「あれ?話そうとすると言葉にならない。そっか、タブン私もお兄ちゃんの記憶に関しては制限を受けているのかも。言葉にならないよ。」
「そっか。まあ神様の遊びだからそのくらいはするか。」
「でもお兄ちゃんは私の事が大好きだったよ。それは間違いないから。」
「はは、それは今もそうだから疑わないよ。」
そのあと少し、レベルアップをして手に入れたポイントの使い方について話し合う。
しばらく話し合っていたら、浴室からデルリカと康子が出てきた。
「お兄ちゃん、里美、お待たせいたしました。いまエプロン子がお湯を入れ替えていますのでもう少しお待ちくださいね。」
そういって食堂に向かって歩いて行ってしまった。
過去の記憶はないけど、いまデルリカが言った言葉が非常識なのは分かる。
ここの人たちは貴族並みの事をしているのだ。
イチイチお湯を入れ替えるなんて平民はしない。
いや、お風呂自体にそうそう入らない。
せいぜい体を拭くだけだ。
この家の生活レベルが貴族並みなのは間違いない。
でも、ここの家名に関して一度も聞いていないのが謎だ。
貴族なら、家名を名乗らないとかありえないと思う。
まあ、貴族が奴隷を家族にすることもないから貴族ってことはないか。
じゃあ大商人?
開拓村に大商人が住んでいるとは思えない。
謎すぎる。
謎と言えばこの開拓村。
レベルが高い。
もう街と言っていいくらい人の数がいる。
住民も5000人くらいは居るんじゃないかな。
不思議だ。
そんなことを考えていたらエプロン子が呼びに来た。
「坊っちゃん、里美お嬢様、湯あみの用意ができましたよ。しっかり体を洗ってくださいませね。お着替えは脱衣所に置いておきましたからね。」
そういうとエプロン子は忙しそうにパタパタと別の仕事をしに行った。
よっしゃ、お風呂は良いよね。日本人の必需品だ。
そそくさと服を脱いで浴室に入る。
浴室に入るとシャワーがある。どういう原理何だろか?
魔法の世界でシャワーがあることに驚いた。
昨日も思ったけど、ここのお風呂は贅沢なつくりだ。
お湯を出して体を洗い出すと、となりから里美が僕の肩をたたいてくる。
「お兄ちゃん、頭洗うからお湯掛けて。」
「わかった、ほら。」
シャアアー
お湯を頭にかけてあげながら何か違和感を感じる。
なんだろう?
そのあと里美がシャンプーを使った後「お兄ちゃん」と叫ぶので、シャワーでシャンプーを洗い流してあげた。
子供とはいえ、長い黒髪はお湯に濡れると幽霊みたいに見える。面白いな。
でもなんだろう、この違和感。
里美はなんか背中を洗いにくそうにしてたから洗ってあげる。
里美も背中を流してくれた。
ちょっとゆっくりお湯につかると、里美の顔がのぼせてきたので湯からあげて頭を拭いてあげる。
服を着て、浴室を出たとき、やっと違和感に気づいた。
『あれ、里美が自然に一緒にお風呂に入ってきたけど、これって普通なのかな?』
考えてみる。
11歳と7歳は普通だろうか?
微妙な気もするし、普通な気もする。
今食堂に向かって歩いているけど、横を歩く里美を見た。
なにも考えていない普通の表情だ。
考え過ぎかな?
里美が気にしていないなら良いか。
食堂に着くと、デルリカが康子の頭を撫でていた。
「今日は頑張りましたね康子。」
「お姉さまにくらべればまだまだです。」
小さくなってデルリカになでられている康子は、まるで少女に調教された猛獣のようだ。
僕も大概妹大好きだけど、デルリカも相当な妹大好きだよな。
デルリカはシスコンでブラコンってことか。業が深い子だ。
そして康子は小熊ちゃんみたいで可愛い。
顔と体はゴッツイけど。
僕らが食卓に現れたのでマリアお母様が祈りのポーズをとる。
僕らも手を組み黙とうをする。
「ではいただきましょう。」
ふう、お腹ペコペコだ。
なんか疲れていたのと空腹で、もうマナーの事は気にしないでバクバク食べてしまう。
いやー、ここのご飯は美味しい。
日本の食事よりも美味しいんじゃないだろうか。
食事がひと段落したころに、デルリカはコクリコクリと舟をこぎ出す。
マリアお母様がクスリと笑った。
「デルリカはそうとう頑張ったようですね。康子、デルリカを寝室へ運んでくれますか?貴方も疲れたでしょうから、今日は早めに休んでください。」
「はい、お母様。」
康子はデルリカをお姫様抱っこして寝室に向かう。
さまになる。
さすが康子、デルリカを抱く姿も男前だ。
僕も寝ようかなと思っていると、マリアお母様が僕の手を掴んだ。
「昨日は話し損ねましたが、あなたも聞きたいことがあるのではないですか?」
聞いてはいけないと思っていたけど、話してくれるなら聞くしかないな。
「はい、疑問がいっぱいです。ここは貴族のような生活なのに家名を出さない。ですからから貴族じゃないですよね。でも成金というには品位がありすぎます。あとこの村も変です。街のような賑わいなのに開拓村ですし。イロイロちぐはぐです。」
マリアお母様は頷いた。
「さすが長道ですね。さて何から話しましょうか…。ことの始まりはデルリカでした。」
「デルリカが?」
「ええ、デルリカはもっと小さい時から『私にはお兄ちゃんがいる』『妹もいる』と言い張っていました。最初は子供特有の妄想かと思っていましたが、そのことを否定されると、相手がだれであろうと殺そうとするのです。」
「…すこし先が読めちゃったかも。そしてとうとう殺しちゃったんですね。」
「ふふ、賢すぎると嫌われますよ。そう、殺してしまったのです、父親を。」
「あっおー。聞いてから後悔するヘビー展開ですね。」
「デルリカの父親は男爵でした。その男爵の死を誤魔化すために開拓村を作りました。その先は読めますか?」
「うーん、男爵に変装した人が開拓村に入り、帰ってこなかったことにしたんですか?」
「ほんとに賢いですね。そのため、この村に着いた名前がヘルウェイです。200人のならず者を従えて男爵が開拓に入ったのに、全滅した呪われた地です。」
「その割には人が多いですね。デルリカがやっちゃってからできた開拓村なら、できて数年でしょ。ちょっと人が多すぎる気が。」
マリアお母様は本当に嬉しそうに僕の頭を撫でた。
「ここに教会が立ったからです。来たのが司祭ではなく司教でしたので聖騎士が駐屯しましたので安心して大量の人が流れてきたのですよ。ちょうど飢饉の時期でしたので税金が払えない農民や、職にあぶれた冒険者が来たのも大きかったですね。幸い土地は森の傍だったこともあり上質でしたし、魔物も多いので討伐もし放題です。そのため商人も多く来るようになり、3年でこの状態です。」
「聖騎士?今は居ないんですか?」
イタズラっぽくマリアお母様は笑った。
「実は聖騎士は初めからおりませんもの。聖騎士の鎧を着たわたくしのゴーレムが200居るだけです。この地に遣わされた司教はわたくしです。」
驚いた。
「じゃあ、デルリカは司教様の娘?」
「法的にはわたくしが引き取りました。たった一人の肉親である父を殺した子を育てるのは、教会くらいしかありませんもの。男爵は世間的には開拓失敗で死んだことになっておりますが、近しい人や教会は、犯人がデルリカだと知っておりますので。」
そこまで聞いてハっとした。
「もしかして、ここには血がつながってる人は誰もいない?」
「その通りです。デルリカはなぜか康子を一目見て『妹』だと言い出したので、孤児院から引き取りました。わたくしは司教ですのでお金もありますし、この村での儲けもあります。子供が数人増えた程度のことは問題ありませんから。」
そこで里美が口を開く。
「それで奴隷の私たちを買う必要があったのね。デルリカお姉さまが今でも『お兄ちゃんがいる』と言い張っていたから。だれかがそれを否定して殺される前に。」
「ご名答です里美。そのおかげで、結果的に貴方達のような特殊な人材が万が一にも悪人の手に渡る危険も無くなりました。すべて良い方向に向かっておりますね。」
その後、少し話してこの日はお開きになった。
自分の寝室に行く前にデルリカの寝室をのぞいてみる。
普通に可愛らしい部屋だった。
壁に数本スコップと斧が掛けてある以外は。
なんでスコップを壁に掛けてるの?あと斧は怖いんでやめていただきたい。
だがベッドの中で眠るデルリカは天使にしか見えない。
そっと頭を撫でてみた。
寝ているのにくすぐったそうな表情をする。
可愛いな、デルリカ。
この子が僕と里美を奴隷屋から買ってくれたおかげで、今は良い生活ができている。
一応感謝はしているんだよね。
頭がおかしい子だけど、お兄ちゃんとして面倒みなくちゃ。
だからせめて僕も守ってあげようかな。
デルリカから一般人を。
お読みくださりありがとうございます。




