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069 ビレーヌ妹説

― 069 ビレーヌ妹説―


そして蜘貴王サビアンはゆっくりメンバーを見渡し、康子に手を伸ばす。

「もしやヤスコー様ですか?」

「はい、60年前にこの世界に生まれた時の名はヤスコー・ベルセックです。いまは康子と申します。サビアン様、再会できたこと、心よりうれしく思います。」

「まあ、なんて素敵なんでしょう!」


蜘貴王、康子を素敵って言ったか?

うん、この魔王ともすっごく仲良くできそう。


次に他のメンバーも見て目を見開く。

「よく見ましたら、このお子様はデルリカさんにそっくりですわ。それにそっちの赤毛の少女はビレーヌさんに瓜二つ。そしてよく見ると長道さんはナガミーチさんにそっくりですわね。もしかしてナガミーチさんのお子様ですか?」


なんか、このメンバーの事の前世を知っているのかな?

「実は僕は2年以上前の記憶がないんです。もしかしたらそのナガミーチさんという人の転生かもしれませんね。」


「いいえ、転生はありませんわ。わたくしの知っているナガミーチさんはまだご存命ですので。ナガミーチさんだけなく、わたくしの知っているデルリカさんもビレーヌさんもお元気のはずですわ。ですので血縁なのかもしれませんわね。とてもそっくりですもの。」


なんか僕のルーツに関係あるかも。

「その僕らにそっくりな人ってどこに居るんですか?僕は実の親の顔を知らないので。」


すると、蜘貴王サビアンは驚くことを言った。


「ナガミーチさんも、デルリカさんも、ビレーヌさんもマリユカ聖教の神殿にいらっしゃる筈ですわ。デルリカさんは『人類最強』と言われる神殿の教皇様でしてよ。その兄のナガミーチさんは『人類最高の天才』とうたわれた大司教様。ビレーヌさんはナガミーチさんの妻で準大司教ですわ。」


稲妻が落ちるような衝撃を受けた。

おいおい、それってつまり。


「あの、マリユカ聖教の大司教って、賢者大魔導士って呼ばれている人ですよね。」


「はい、ナガミーチさんは今はそちらの呼び名の方が有名ですわね。ナガミーチさんとビレーヌさんの間にはお子さんが二人いらっしゃたはずですが、数年前に神隠しにあってしまい行方不明になられたと聞いております。デルリカさんもお子さんが生まれたと言う噂はありましたが、神殿から正式にデマだったと発表がありました。たしかに90歳を過ぎて結婚して子供を産むとか、バカげた噂でしたのでデマだったという発表に疑問は持っておりませんでした。ですが…」


マジマジとデルリカを見る。

「あのデマは10年程前です。もしかしてこちらのお子様はそのくらいの年齢なのでは?」

「うん、11歳です。」


ヤベ、なんか僕の正体が推理できる話を聞いてしまった。


ってことは、ビレーヌは僕の実の妹かもしれないって事?

そしてデルリカは僕の従妹?。


そう考えるといくつか謎が解ける。

なぜデルリカは、小さいころから「兄がいる」とう妄想を言い張っていたか。

何らかの理由でデルリカが神殿から離れる前まで…

同じ場所に住んでいる僕が兄妹のように可愛がっていたのではないだろうか?


たとえばデルリカが当時1~2才だったなら、僕の事を従兄なのか兄なのか区別がついていなかったとしても不思議じゃない。


それに僕がビレーヌを面倒見ようとしたのも不自然だった。

街に貧しい子供は他にもたくさんいた。


なのに僕は何の疑問もいだかずにビレーヌの面倒を見てしまっている。

記憶を失っていても、ビレーヌが家族だったと認識していたからではないだろうか?


なにより僕の人生は神様の娯楽だ。このくらいの偶然があっても不思議じゃない。


あ、妹かもしれないと思ったら、なんか急にビレーヌが可愛く見えきた。

しかし、当のビレーヌは絶望の表情をしている。

「ありえませんわ。もしもわたくしと長道様が兄妹だったら、わたくしと長道様は結婚できないではないですか!」


うん、無視しておこう。


里美は蜘貴王サビアンに寄り添う。

「でもなんでサビアンさんが魔王に?最後はミラーズ第1皇子と結婚して王妃になったって聞いていたのに。」


すると蜘貴王サビアンは、下半身の蜘蛛の足はきゅっと体に密着させて縮こまる。

「はい…、5年前に英雄王と呼ばれたミラーズ陛下が天に召された事がきっかけでした…。」


そこから、蜘貴王サビアンはポツポツと語りだす。

なんでも、陛下が亡くなった時に、妃も殉死すべきという意見が多く出たため無理やり毒を飲まされたそうだ。

酷い話だ。

でも新王派の貴族が、先王の影響をすべて排除したいためによく行われる手口らしい。


サビアンさんは実の子である新王に無理やり毒を飲まされて、3日3晩苦しんだそうだ。

そして気が付くと蜘蛛女になっていたという。

蜘蛛女になって混乱していると、新王が部屋に入ってきて


「力足らずで母上を守れず申し訳ありませんでした。ですがどんな形であれ生きて居てほしく魔物化する毒を飲ませたのです。その姿では王宮に影響力をふるえませんから、貴族たちも無理に殺そうとはしないでしょう。」


そういうと、<空間収納>に生活に必要そうなものを大量に入れてくれたそうだ。


それからの生活は大変だったらしい。

城を抜け出し、魔物としてどうやって生きていいか分からず、全てが手探りだったという。

そうやって3年間必死に戦いながら生きて来たら、2年ほど前に急に進化して魔王になったそうだ。


里美は泣きながら蜘貴王の手を取る。

「サビアンさん、そんな苦労していたなんて。これからは私も味方だよ。お兄ちゃんだってきっと味方になってくれるよ。」


僕も言葉を失った。

里美の言葉に、静かに涙を流す蜘貴王サビアンはとても魔王には見えない。

康子も蜘貴王サビアンの横に座り、そっと手を握る。

「サビアン様、私たちで出来る事でしたらお力になります。」


蜘貴王サビアンはさらにボロボロ泣き出した。

「あ、ありがとうございます。もう人と友好的にお話しする事なんて一生ないと思っておりました。神に感謝いたします。」


え?神に感謝?

それ絶対違うよ。


僕は気が付いた。

こんな数奇な運命で魔王になるなんて、絶対神に遊ばれてるって。

感謝以前に恨んでいいって。


それを言おうとしたら。

「・・・・」

くちはパクパク動くけど、声が出ない。


おいおい、これってマリユカ様から「都合の悪いことはいうな」っていう例の攻撃じゃないの?

ちょっと、神様ギルティじゃん。


言葉に出来ないので、しょうがなく僕は空をにらんだ。

駄女神め!

すると頭に声が響く。


『長道氏、それは少し違うでござる』


あ、この声は大天使の大空姫さんだな。

空をにらんだから、大空姫さんに念話が届いちゃったのかな。


で、大空姫さん、何が違うんですか?


『マリユカ様はサビアンの魔物化には無関係でござる。毒を飲まされたサビアンは、あの時確かに死んでしまったのでござる。されど賢者大魔導士がサビアンを魔物として生き返らせて、生きるか死ぬかを選ぶチャンスを与えたのでござる。』


生き返らせた?新王が魔物にする毒を飲ませたのでなくて?


『サビアンの息子がサビアンに飲ませたのは普通に劇薬でござる。それを哀れに思った賢者大魔導士がサビアンを魔物として生き返らせたのでござるよ。しかも賢者大魔導士はサビアンの息子の新王に化けて、「殺す気はなかった」と騙したのでござる。息子に殺されるなんて可哀想すぎると言って。』


生き返らせるなら、普通に人間として生き返らせればいいじゃん。


『世界のルールで、死んだ人間は人間として生き返らせられないのござる。されど賢者大魔導士は世界のルールの隙間を利用して、「人として生き返らせられないなら魔物として生き返らせよう」といって、こうなったでござる。本当にギリギリの選択結果なのでござるよ。』


そっか。そういうことなら確かにギリギリの救済措置だったんだな。

っていうか賢者大魔導士は、死者さえも呼び戻せるのか。まじ反則級の魔導士だな。パパン(仮)まじ大魔導士。


そして大空姫さん、説明してくれてありがとうございます。

大体理解できました。


僕はサビアンさんの膝?っというか蜘蛛の頭部分にそっとビレーヌを置いた。

ビレーヌは、サビアンさんの友人だったママン(仮)にそっくりらしいから、気休めにね。


「サビアンさん、お話を聞いた限りでは相当ご高齢ですよね。なのに10代のような美しさになったのですから魔物として生きるのも悪い事ばかりではないかもしれませんよ。今は新しい人生をより良くすることだけ考えましょうよ。僕らも手伝いますので。」


「長道さん…、ありがとうございます。」


サビアンさんは膝?の上に乗ったビレーヌを抱きしめる。

「まるで昔に戻ったような気分ですわ。学園でサトミー様やビレーヌさんといつも一緒に過ごしていたあの頃に。あのころは本当に楽しい日々でした。今思いますと、サトミー様達と過ごしたあの頃が、わたくしにとって一番幸せな日々でしたわ。」


「里美とはどういうお知り合いだったのです?」


昔を懐かしむよう蜘貴王サビアンさんは空を見る。

「わたくしたちは公爵家の令嬢でしたの。学園で知り合っていつも一緒に過ごしましたわ。学園生活の後半ではナガミーチさんの勧めでアイドルという職業を始めましたのよ。そこでわたくし達は大陸で初めてのアイドルとして一世を風靡いたしましたわ。」


「最初のアイドルですか、なんか特別で凄いですね。」


「はい。ですが政治的に追い詰められたビグニー公爵家からの上位魔族を使った攻撃により、サトミー様は命を落としそうになったのです。その時、ナガミーチさんの機転により異世界に逃がすことでサトミー様はどうにか助かりましたわ。伝え聞く話ではサトミー様は異世界でもトップアイドルに君臨したと聞いております。」


「なるほど。そうして里美は日本で成功したんですね。」


「ですが、あの時、ビグニー公爵家が上位魔族を手に入れたのは、フレンツ公国の陰謀でした。そうやって公爵家同士を争わせてグルニエール王国の力を削ぐために。ですのでわたくしは、フレンツ公国が大嫌いですのよ。もっとも、サトミー様を失って激怒したナガミーチさんがフレンツ公国を1人で攻め落とし、国土を大幅に奪いましたのでわたくしも多少は溜飲を下げておりますわ。」


「賢者大魔導士1人でですか?」


「はい、ナガミーチさんは怒りに任せて1人でドラゴンゴーレムやメイドゴーレムを従えて攻め入りました。強大な魔法によりフレンツ公国では井戸が枯れあがり、そこらじゅうで火山が噴火し地獄絵図だったそうです。しかも最後はドラゴンゴーレムの一撃で王都は斬り裂かれ、あっという間に降伏させましたのよ。貴族たちはその時の恐怖で軒並み引退したとか。いい気味ですわ。おほほほほ。」


賢者大魔導士、僕の親かもしれない人だけど、、、、怖ええええええぇぇぇぇ。

なんだその非常識な逸話は。

魔王より怖いよ。


あ、でもフレンツ公国は里美の命を狙ったやつなんだよね。そのせいで里美を失ったら僕も似たようなことするかも。

うん、絶対やるな。

そう思ったら普通か。ビビってごめんねパパン(仮)。


なんか面白い話も聞けたし、お礼の意味も込めて変身アイテムを作ろうかな。


僕はその場で<変身>を込めた能力移植核を複数作った。

本当は報酬の前払いなんてする気はなかったけど、今の話を聞いてしまったら渡さない訳にはいかない。

ネックレスの形にして、5人分作って渡す。


受け取るとサビアンさんは目を輝かせてくれた。

「こ、これで人化できますのね!」


ネックレスを着けてアイテムを起動すると、サビアンさんの全身が光に包まれて人の形になった。

ただし全裸だ。

10代の若さでるところの、貴族令嬢の全裸である。

キツそうな顔に、ブロンドの縦ロールの十代貴族令嬢姿の全裸である。


美人の全裸!ここでエロい目で見てはいけないけど・・・

そっと記録用の魔法を作動させちゃった。てへ。


里美が興奮してサビアンさんの手を取る。


「サビアンさん!人の形になれたよ!これならサビアンさんも家に遊びに来れるね!」


「わ、わ、わたくしは人の形になっておりますのね。今日は本当に夢のような日ですわ。里美様、長道様。こころより感謝申し上げます。」


優雅に頭を下げて礼をするサビアンさん。

たわわな胸がすごい気になるポーズだ。


もっと眺めていたいけど、僕は心を鬼にして自在戦闘服の予備を数着渡した。

「サビアンさん。<変身>スキルは服も一緒に入れかわるみたいなので、よければこれをどうぞ。とっても目のやり場に困りますので。」


すると魅惑的に微笑んきた。

「まあ、こんなお婆ちゃんの裸に照れていただけて嬉しいですわ。こちらのお洋服、有り難く頂戴いたします。」


いやいや、10代の体ですから。

めっちゃヤバイですから。


僕のマグナムがまじビッグマグナムの予感ですから。


サビアンさんが服を着て落ち着いたところで、ほかに空間収納バッグや携帯念話機、浮遊バイクを数台渡しちゃう。

里美のお友達ならサービスサービス。


浮遊バイクを出したら、カマキリ腕メイドが目を輝かせて飛びついてきた。

「お客人、これはなんだ?どう使うんだ?」


このメイド、、、カマキリ腕が背中についているけど、近くで見ると、おかっぱ頭の可愛い少女だ。

オモチャに敏感なところとか、バカっぽくて可愛いな。


「これは乗り物だよ。こうやって座ってスロットルを回すと浮いて走りだすんだ。僕らもこれに乗ってここまで来たんだよ。」


使い方を説明したら、カマキリメイドの二人は浮遊バイクが気に入ったようで、おかっぱ頭を揺らしながら遊びだす。


「あはは、これ面白い。蜘貴王様ー、見てください、フワフワ進みますよー。」

「まあ本当に便利そうですわね。それはあなた達に与えましょう。折角いただいたのですから大事にしなさいね。」

「やったー!ありがとうございます、蜘貴王様!」


カマキリ少女たち、めっちゃ喜んでる。


それを眺めながら、サビアンさんも頬を緩めた。

あのカマキリメイド、背中から生えているカマキリ腕以外は普通におかっぱ少女だから、浮遊バイクも普通に使えるんだな。

バカ可愛い無邪気さに、僕の頬も緩んでしまう。


しかし、カマキリメイドを見つめるて微笑む蜘貴王サビアンさんを見ていると、なんとも胸が締め付けられるような気持になってしまう。

この人、めちゃくちゃ苦労したんだろうな。


すごい同情しちゃう。

よかった、有無を言わさず討伐とかしなくて。


しかし今回手に入れた情報はヤバイな。

ぼくが賢者大魔導士の子供かもしれなくて、ビレーヌは妹かもしれないとか。

デルリカが教皇の娘かもしれなくて、里美は前世で公爵令嬢とか。


だんだん、僕の正体が何か見えてきたな。

今回の事も含めて僕の出会いはご都合主義すぎる気もするけど、僕の人生は神様の遊びだってことを考えれば、このくらいのご都合主義な偶然は充分あり得るだろう。


この戦争を解決したら、すこし本気で僕らや神殿の関係を調べてみたくなった。

お読みくださりありがとうございます。

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