066 ぼくがかんがえた、スーパーさくせん
あらすじ
グロガゾウの街が、フレンツ公国との戦争の前線になりそうだ。
だから何か考えようとする長道であった。
― 066 ぼくがかんがえた、スーパーさくせん ―
僕らは早速教会に向かってみた。
教会があるのは商業地区のど真ん中。
そして、冒険者ギルド、商業ギルド、役場の目の前だった。
なるほど、防犯的にも悪くない立地だ。
教会に入ると、パラパラと祈りをささげる人が居るのでフィリアの街のようなことは無いっぽい。
ちょっと安心したかな。
「祈りに来たのですか?」
後ろから声を掛けられたので振り向くと、品のいいお婆さんだった。
司祭の格好をしてる。
「もしかしてジャンヌ司祭様ですか?僕らは今度ここに来るマリアお母様の家族です。」
「マリアお母様?もしかしてマリアリーゼ司教様のお子さんでしょうか?まあまあ、遠い所からよくいらして下さいました。マリアリーゼ司教様もご一緒ですか?」
そこで、王都からここに来るまでの出来事を説明し、マリアお母様は神殿の会議に行ってしまい、数日戻らないことを伝えた。
「…っというわけで、僕らだけヘルリユ達と一緒に来たんです。」
「そうでしたか。それは大変でしたね。まずは疲れていませんか?住居にご案内いたしますので、今日はゆっくりしてくださいね。」
ジャンヌ司祭は優しい微笑で僕らを案内してくれた。
品のあるお婆ちゃんだな。
ユカエルさんみたいにギラギラしたお婆ちゃん(今は若いけど)ばっかり見ていたから、なんか良いな。
部屋に入ると、まずはごろりと横になる。
ふう、ベッドで横になると癒さられるのは何でだろう。
本能かな。
僕の横でビレーヌが傍にある椅子に腰かけてこっちを見ている。
「ビレーヌも疲れているでしょ。部屋で適当に横になって休んだら?」
「…ではお言葉に甘えて。」
僕のベッドにごろりと横になる。
自分の部屋のベッドで横になってきたらって言ったつもりだったんだけど、言葉が足らなかったな。
まあいいけど。
横になりながら考えてみた。
あと5日くらいでここは戦場になる。
どうにか戦争を回避できないかな?
戦争をやめるとかの決定は国がすることだから、やってくる部隊だけをどうにかすればいいってもんではない。
国として『戦争はやらない』って結論を出させないといけない訳だから、僕個人でどうにかできる事でもないのかな。
ビレーヌが僕の腕を抱いて、肩に顔を押し付けてきた。
ビレーヌは子供だなー。
この子、遠慮がなくなって来たら甘えるようになってきた気がする。
我侭とか言わないけど、隙を見ては甘えてくる。
親も家族もいないから不安なんだろうか。
しっかりした子だから時々忘れるけど、まだ9歳なんだもんな。
もう少し優しくしてあげようかな。
頭を撫でてみた。
一瞬こわばったけど、こっちを見て微笑んでくる。
ビレーヌも可愛いかも。
僕と一緒で魔王だけど。
魔王…
あ、魔王!
そうだ!
魔王を利用できないだろうか?
ここの魔王を説得してフレンツ公国とデスシールの間に無理やり縄張りを変えさせる感じで?
元々険悪な国家間だから商路もないらしいし、通行止めにしても問題なくね?
これ良い案じゃね?
そうと決まれば急がなくちゃ。
あと5日しかないんだから。
「ビレーヌ、妹達を呼んできてくれる?緊急会議を始めたい。」
「は、はい。今すぐお呼びしてきます。」
ビレーヌは理由も聞かずに、走って部屋を飛び出していった。
あ、そこまで急いで呼びに行くほどは緊急でもないんだけど…
少しすると、妹達が部屋に走って飛び込んでくる。
うん、そこま慌てて来られちゃうと、もう急ぎではないって言いにくいかも。
よし、急いでいた事にして話を進めよう。僕は場の空気に流される男です。
「みんな、疲れているところを呼び出してごめんね。急ぎ目で話たいことがあるんだ。」
<空間収納>から椅子を出してみんなに座ってもらう。
「椅子かベッドに座って。」
僕はベッドに座っているんだけど、誰かが僕の隣に座った振動を感じた。
おや?一応目の前に妹は全員いるけど…
横を見ると、デルリカの従者のタケシ君だった。
あ…忘れてた。
あっぶねー。タケシ君の分の椅子を出してなかった。
一応ビレーヌあたりが僕の隣に座るかもと思って「椅子かベッドに座って」って言ったから、椅子が一つ足りなくても不自然じゃないよね。
あっぶねー。タケシ君が傷つかないで済んでよかった。
もう忘れないようにしなくちゃ。うん、もう忘れないぞ。
少し動揺したが、一呼吸おいて落ち着いてから話を切り出すことにした。
「では、今から緊急で第89回兄妹会議を始めたいとおもいます。」
全員が力なく拍手をした。
ぱちぽちぱち。
「じつは、フレンツ公国とデスシールの戦争に介入して、戦争を止めたいんだ。あと5日しかないから急いで動きたいと思う。」
康子が手を上げる。
「何かアイディアがおありですか?」
僕は<空間収納>から愛用のホワイトボードを出して、そこに簡単にこのあたりの地図を描く。
「フレンツ公国は西から来る。で、この街の東側には魔王の住む森があるでしょ。この魔王の縄張りをフレンツ公国が来る西側に移動できたら解決しないかなって思うんだ。」
どうよ、このスーパー作戦。
皆の反応を見ると…
生暖かい目で僕を見ていた。
あれ?不評?
康子が困った顔で苦笑いしている。
「お兄様…、魔王の説得ですか?私も頑張りますが、その、もしも失敗しても気になさる必要はないですよ。」
なんか、いつになく康子の歯切れが悪い。
デルリカが優しい目で僕の手を取る。
「お兄ちゃんが満足するならお手伝いいたしますわ。それでお兄ちゃんが納得するのでしたら。魔王が人に説得できるとは思えませんが、お兄ちゃんがその気でしたらお手伝いいたしますわ。」
里美も穏やかに優しい目で僕の肩にておく。
「無理だったとしても、一応やってみないと納得できないんでしょ。お兄ちゃんがそれで良いなら手伝うからね。」
あれ?なんか「どうせ失敗するだろうけど、折角考えたみたいだから手伝ってあげようかな」って空気なんですけど。
「いや、これ絶対良いアイディアだよ!」
「お兄様なら、普通の人よりも可能性はあると思います。いざという時のフォローはお任せください。」
「そうですわねお兄ちゃん。大丈夫、お手伝いいたしますわ。わたくしがお兄ちゃんをお守りいたしますわ。」
「そうだねお兄ちゃん。良いアイディアだよね。うん、私は100%お兄ちゃんの味方だよ。」
やべ、妹達が悟ったような目で優しく僕を見ている。
ビレーヌを見た。
「ビレーヌはどうお思う?」
「はい!長道様なら絶対です。」
だめだ、この子は自分の意見というモノを持っていない子だった。
僕が明かな嘘を言っても「はい、その通りだと思います!」って言い出す子だもんな。
参考にならん。
こうなると…
最後の良心は、やはりタケシ君か。
「タケシ君、ぶっちゃけ本当の意見を聞きたいんだけど、真実の感想を言ってくれる?」
すると困った顔をしながら口を開いてくれた。
「そうですね。魔王を説得っていうのは、敵国を説得するよりも難し気がします。魔王は人の敵ですから、人の説得が通用するとはお思えませんので。」
「もしかして、みんなもそう思ってるの?」
再度妹達をみたが、誰も否定しなかった。
ビレーヌだけは「長道様が正しいと思います!」と言ってるけど無視で良いな。
僕はため息をついた。
そうか…、みんな僕と同じ場所を見ていないんだ。
だったら説明しなくちゃな。こんな失敗前提で動かれても不安要素でしかない。
「みんなの言いたいことは分かった。そして僕の考えを理解していないことも分かった。いまから説明するから、それでも無理だと思ったら、そのときは遠慮なくそう言ってね。」
里美が急に立ち上がった。
「あれ?もしかして本当にちゃんと勝算があるの?」
「あたりまえだよ。」
僕は、ホワイトボードに僕の知る魔王の名前を書いた。
黒竜王
突猿王
紅竜王
食楽王
そして50年前に現れたというダンジョンの魔王
迷宮王フジキー
60年前に現れたフレンツ公国を苦しめた魔王
試練王
「今書いた魔王は僕が知ってる魔王6人ね。この魔王たちの中で戦闘前に会話をしなかった魔王は紅竜王だけだ。僕の考えでは、その紅竜王だって目の前まで行ければ会話をしたと思うんだ。だって紅竜王のスキルに<ドラゴニュート(竜人)化>というのがあったからね。つまり魔王は精鋭が目の前まで来たら話をする性質があるんじゃないだろうか?」
そこまで言うとタケシ君が目を見開く。
「確かに…。私が前世で試練王と戦った時も私たちが魔王の間に入ったら、魔王は楽しそうに語りだしました。そのあいだに全員の怪我を全回復できるくらい長い話を。」
「え?前世で試練王と戦った?もしかしてタケシ君てあの伝説の勇者タケシーなの?うわー、サインください。」
里美が僕とタケシ君の間に割ってくる。
「今はサインとかいいから!説明を続けて!」
「あ、はい。えっと、黒竜王は敗北と同時に僕に称号を贈るほど潔かったでしょ。突猿王はヘルリユの所有権を主張するという演説をした。食楽王にいったっては知っての通り、美味しい食べ物で買収出来た。つまり魔王は交渉ができる存在なんだと思うんだ。力で主導権を得るか、理屈で論破するか、欲しいものを与えるかすれば言うことを聞いてくれるんじゃないだろうか?」
ここまで聞いて妹達の顔つきが変わった。
魔王は人間の敵だから話し合いが通じない…その思い込みが間違いだと気づいたのだ。
「しかも!しかもだよ!僕らは魔王だ。魔王は魔王と話し合いがしやすいんじゃないかな?だって突猿王は食楽王と交渉してたし。だから作戦としては、まず理屈で説得し、ダメなら次に何か望みをかなえてあげる努力をし、それでもだめなら力で屈服させればいける気がするんだ。」
康子は考えるように頷く。
「まるほど。そうなりますと、いかに交渉をするかですね。」
「そう。そこで僕らの有利を使うんだ。1人の魔王を3人の魔王と4人の勇者で囲で脅しを効かせるんだ。魔王は知能が高い。だから行ける気がするんだよね。」
そこまで聞いて、康子が深く頭を下げてきた。
「お兄様の仰る通りだと思います。私の浅慮を恥ずかしく思いました。」
僕は康子の顔を上げさせる。
「気にしないで。それよりも康子も頼りにしているから威嚇が必要になったらよろしくね。」
「はい。全力でお手伝いいたします。」
僕の後ろで里美がトホホな声を出す。
「ここに居ないヒーリアさんも、本人の知らないところで強制参加が決定なんだね。まあヒーリアさんは、、、当然のようにこき使われると喜ぶドMだから良いのかもしれないけど…。」
あ、言われてみて気づいた。
まだヒーリアさんに参加確認してないや。
「じゃ、冒険者ギルドに行こうか?ヒーリアさんはギルドにいるだろうから。」
僕は、なんかトホホな顔つきな妹達をつれて、通りの向かいにある冒険者ギルドに向かった。
お読みくださりありがとうございます。
次回
ヒーリア、ユカエル、ダグラス団が長道信者として頑張る。




