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065 ダメ兄にだって意地はある

あらすじ

フレンツ公国の航空戦力を退けながら、最前線になる予定のグロガゾウの街に来た。

― 065 ダメ兄にだって意地はある ―


ヘルリユ皇女は一緒にグロガゾウに行こうと言ってくれたけど、僕は先に浮遊バイクで街に向かう事を伝えた。

本当は僕も一緒に行きたかったけど、妹達が浮遊バイクでスピードを出したがっていたから疾走する事にしちゃった。


ヘルリユごめん、妹が最優先な僕を許してね。


で、すっごい速度で走り抜けた。

さすがに時速180kmを超えた頃に、ダグラス団やヒーリアさん達も追いついてこれなくなった。


だから先に僕ら兄妹とビレーヌだけで街の門まで着く。

街の防壁は頑丈そうだ。

「そこそこ立派なもんだね」


門の前まで行くと、やっぱり入り口には列ができている。

ココも門の前は行列になるのか。


でも、王都ほど列があるわけではないので、待ち時間は一時間くらいかな。

妹達と列に並ぶ。

ここからは徒歩なので、目立つ浮遊バイクを<空間収納>に収納した。

すると、ブロンドのお人形みたいに可愛いデルリカが僕の隣に来て手をつなぐ。


デルリカ子供だなー

可愛いなーデルリカ。


「お兄ちゃん、この街がワタクシ達が住む街ですのね。」

「そうだよ。魔王が近くにいる街だからきっと荒んでいると思うけど、負けないで頑張ろうね。」

「大丈夫ですわ、お兄ちゃんの事はワタクシが守りますわ。」

「そっか、ありがとうデルリカ。」


優しいなデルリカー

可愛いなデルリカー。


頭を撫でてあげると、子猫のように目を細めて微笑む。

里美も僕と手をつないできた。


「お兄ちゃん、デルリカお姉ちゃんばっかり可愛がり過ぎ!私の事も可愛がってよ。」


あざとく頬を膨らませて、つないだ手をぶんぶん振る。


里美可愛いなー。

あざといのが良い。

あざと可愛いなー、里美。


里美を小脇に抱き寄せる。

「里美ももちろん可愛いさ。この街でもよろしくね。」

「もちろんだよ。私もお兄ちゃんの敵は全部やっつけるから頼ってね。」

「頼りにしてるよ、里美。」


里美も優しいなー


そうやって並んでいると、後ろから馬車が僕らの後ろ並ぶ。

当然僕らの後ろで止まると思ったら・・・


止まらずに馬で僕らにぶつかってきた。

うわ、あぶない。


「ちょっと、馬がぶつかってきたよ。危ないじゃないか!」


すると馬車から明らかに成金な姿のデブなおっさんが顔を出した。


「はあ?徒歩の貧乏ガキがワシの邪魔をするな。邪魔だ、どけどけ。おい御者、そのガキどもを馬で蹴散らせ。」


「はい、旦那様」


御者は本当に僕らに馬をけしかけてくる。

こいつら正気か?


「ヒヒーン」


馬が前足をあげて僕に向かってくる。

あう、危ないよ。


そのとき、僕の前に180cm以上の巨体が割って入ってきて馬をガシリと受け止めた。

驚きのパワーだ。

「お兄様、お怪我はありませんか?」


康子さーーーん!

さすがです康子さん。

さすヤス!


「ありがとう康子。助かったよ。」


康子は馬をなだめながら地面に降ろす。

すると、成金が馬車から降りてきた。


「なんだ、そのふざけたメスゴリラは!わしをバカにした罰を与えてやれ。デリス、ハサヤ。このゴリラを力づくでどけろ!」


「はい、ゴワスさん」

「おいおい、追加料金をもらいますよ。」


馬車から二人の屈強な男が現れた。


信じられない。この横暴はなんだ?

子供を暴力で排除するきか?


周りの連中も関わらないように少し距離を開け始める。


こんなバカがこの世にいるのか。

しかも

しかも


この糞野郎!康子をメスゴリラだと!

僕は頭に血が昇った。


僕は康子の前に立つ。

「おい成金!僕の可愛い妹をメスゴリラと言いやがったな!謝れ!謝らないと許さないぞ!」


成金ゴワスはいやらしく笑った。

「なんでワシがガキなんぞに謝らないといけないのだ。わしはこの街の商業ギルドのギルドマスターだぞ。謝るならば、わしの馬に乱暴を働いたそのメスゴリラだ。」


ぶっちーん

また康子をゴリラとか言いやがったな!

僕、キレちまったよ。

僕は悔しさで涙が出てきた。


「お前みたいな道理をわきまえないバカがギルマスだ?だったらここの商業ギルドはクソだな!おい糞ギルマス、その馬糞みたいな顔を地面にこすりつけて今すぐ康子に謝れ!」


「貴様、ガキの分際で無礼な!デリス、ハサヤ。このガキをぶち殺せ。」


その声で二人の屈強な男たちが僕に歩み寄ってくる。


妹達も反応した。


「お兄ちゃん!ワタクシが!」

「お兄ちゃん、わたしもやるよ」

「お兄様、私が自分でケリをつけます。お下がりください。」

「長道様への無礼、わたくしが許しませんわ。成敗いたします。」


妹達とビレーヌが飛び出そうとした。

でも僕は手を広げて4人を止める。


「ここは僕にわがままを言わせてほしい。兄として意地を張らせてくれよ。情けない姿を見せると思うけど、ここは僕にやらせて。」


「お兄様…、わかりました。お願いいたします。」

康子がさがってくれた。さすが中身が90歳オーバー。男の意地をわかっていらっしゃる。


すると里美とデルリカも下がらざる得ない。

ビレーヌだけは僕の後ろに立ったけど、手は出さないでくれるようだ。


デリスとハサヤと言われた男たちはニヤニヤ僕を見下ろす。

「カッコつけたところ悪いんだがな、今すぐ土下座しないと痛い思いをするぞ。」


僕は睨み返す。

「うるさい。クズに従う事を恥と思わない金魚のクソは黙ってろ。」

「ガキ!いきがるなよ!」


いきなりデリスの蹴りが飛んできた。

子供相手に容赦しないとか、こいつもクズだな。

素早く避けるとデリス顔に殴りかかった。


ボゴ!


クリーンヒット。

だが…

デリスは微動だにしなかった。

僕の非力な力ではダメージにならなかったようだ。


「やりやがったな!」


次は僕が殴られた。


「ぐああ」


勢いよく吹っ飛ばされた。

僕は魔王だ。

だけど、僕はいまだにレベルアップの恩恵で得た能力を強化していない。

だから非力だ。


だがそれで構わない。意地を通すのに魔王の力なんていらないから。

立ち上がり、もう一度殴りかかる。


でも横からハサヤと呼ばれた男が僕を殴ってきた。


また吹っ飛ばされた。

意識が一瞬飛んだ。

鼻血も出たし口も切った。


でも僕は立ち上がる。


口の中の血をペット吐く。


「康子を侮辱したことを謝れ!」


康子は大事な僕の妹だ!

僕の家族を貶すことは、誰であろうと許さない。


頭がガンガン痛いけど、僕はもう一度殴り掛かった。

ちくしょう!

あたれ!


デリスは僕の攻撃を軽々かわすと、僕の腕を羽交い絞めにする。

ハサヤは身動きのできない僕を殴りだした。


「ガキ!謝れ!許してくださいって言ってみろ!」


ボゴ

ボゴ

ボゴ

ボゴ


歯が折れた。

瞼の上が切れて腫れてきた。

くそ、痛いよ。


でも、

「おいハサヤ、お前のパンチは女の子以下だな。うちの妹達の方がよっぽどいいパンチを撃つよ。いいかよく聞け!謝るのはそこの成金デブだ!康子を侮辱したことを謝れ!」


力が入らない。痛くて立っていられない。

ヤバイ、死にそう。


また殴られて、朦朧として少し意識を失った。

でもさらにハサヤに殴られて意識が戻る。

目覚ましご苦労。


少し意識を失っていた間に、成金のゴワスが僕の目の前に来ていた。

あちゃあ、僕は何秒気絶していたんだろう。

そんな呑気なことを考えていたらゴワスが杖で僕を殴った。


ボゴ!


「ガキが、このまま殴り殺してやる!」


やっと出てきやがったな。

僕は腫れて動かない顔で、ちょっとだけニヤリとした。


「ゴワス、今殴ったの?悪いな、全然わからなかったよ。年寄りのくしゃみの方がよほど威力があるね。お前は男と呼べないほどの非力さだな。そんな貧弱おっさんが康子をバカにしていいはずがない。康子に謝れ。僕の愛する妹に謝れ!」


「おのれガキ!本当に殺してやる!」


また杖を振り上げた。

だがこいつ本当にバカだな。


お前の手が届くって事が、どういう意味か分かってないのか?


バシ!


僕はゴワスの顎を蹴りあげた。


「ぐふ!」


ゴワスはひっくりかえり顔をおさえて転げまわる。


へへ、どうだ。歯でも折れたか?

康子を侮辱した罰だ。


ひとしきり転げまわると、口から血を出したゴワスは懐から短剣を出した。

「ガキ!本当に死ね!」


やば、これはヤバイ。

ゴワスが短剣を振り上げる。

これは意地を張り続ける場合じゃないな。


流石に<時間魔法>を使おうとした時、


短剣を持ったゴワスの腕が宙に舞った。

うわ!斬り飛ばされた?


だれが助けてくれたんだ?


首を横に向けると、目を血走らせたダークエルフのヒーリアさんが剣を振りぬいた体勢で立っていた。

あっおー。追いついたんだ。


「貴様!長道坊っちゃんに何をしている!私の坊っちゃんにそこまでして生きて帰れると思うなよ!」


返す剣でデリルとハサヤの腕も切り飛ばす。

ヒーリアさんの電光石火の剣は、さらにゴワス、デリス、ハサヤの足も斬り裂いた。


さすが勇者。剣が見えなかった。見えたのは光る残像だけ。


「うぎゃああああ!」


手足を切り落とされて、三人は血を拭きだしながら地面に転がる。

うわー、怒ったヒーリアさん怖い。

美人だから余計怖い。


ヒーリアさんがさらにとどめを刺そうと剣をふりあげたので、解放されて地面に倒れた僕は慌てて手を突き出す。

ヒーリアさん、落ち着け。



「ヒーリアさん、そこまでです。ちょ、おま、待って。」


はっと我に返ったヒーリアさんが、ダメージで立ち上がれない僕を抱き上げた。

「長道坊っちゃん!どうしてこんな怪我を!」


ヒーリアさんの後ろにはダグラス団とユカエルさん。さらにヘルリユ皇女とデスケント皇子も居た。

うわー、オールキャストに情けない所を見られちゃったな。


僕は微笑んだ…つもりだけど、顔が腫れて動かない。

ならばせめて声だけでも冷静な雰囲気を出そう。


「こいつらは馬をけしかけて子供だけの僕らを脅して列に割り込もうとしたんだよ。しかも康子を侮辱した。だから僕は許さなかったの。それだけですよ。」


僕のボロボロの顔をさすりながら、ヒーリアさんがボロボロ涙を流す。

「だけど、、、だけど長道坊っちゃんなら魔法でもなんでも使って、この程度連中なんか瞬殺できるだろうに。なんでこんなになってんの。」


「僕がお兄ちゃんだからですよ。妹を侮辱されたんだから僕の拳で怒りをぶつけたかったってだけ。魔法やスキルは神様からもらった武器みたいなもんだから、普通の人相手の喧嘩に使いたくなかったの。僕の意地は僕の力で通したかったんだ。僕自身は弱いから全然駄目で情けない結果になったけど。あはは…」


するとデルリカが飛び出してきた。

「お兄ちゃんは情けなくありませんわ!ワタクシは尊敬いたします。ワタクシはより一層お兄ちゃんが大好きになりましたわ。」


里美も泣きながらすがりついてくる。

「お兄ちゃん!お兄ちゃんはバカだよ。なんでそんなバカなの!もういい加減にしてよ。我慢して見ているこっちの身にもなってよ!私だって本当はお兄ちゃんが殴られるなんて耐えられないんだからね!」


そっか、悪いことしたな。


僕の前に康子が膝まづいた。

「お兄様…、本当にありがとうございました。私なんかの為に、本当に、、、、本当にありがとうございました。私もお兄様を心から敬愛いたします。」


ビレーヌが仁王立ちで泣きながらこっちを見ている。

目力が怖い。

「長道様。わたくしも本当に尊敬いたします。決して屈せず康子様の為に、ご自分のお力だけで戦う姿はご立派でした。」


あれれ?

こんだけボロボロにやられたんだから失望されてもよさそうなんだけど。

やめて!過大評価はやめて!

ほんと怖いからやめて。


「こんなボロボロにやられたのに評価が高くて怖いな。みんな現実を見ようよ。僕ボロボロだよ。むっちゃ情けないお兄ちゃんだよ。」


するとユカエルさんも泣きながら僕にポーションを飲ませてくれた。

「何言ってるんだい。私も長道坊っちゃんほど誇らしい人は見たことがないよ。坊っちゃんのためにもっと働かないといけないって思ったよ。」


「なんで?」


「坊っちゃんがバカだからさ。」


ああー、それは否定できないや。

「すいません。てへ。」


ヘルリユ皇女も僕の前に来る。

「長道、私は長道に教えてもらってばっかりだ。その姿、決して忘れないぞ。」

「いや、忘れて!この情けない姿は忘れてほしいんだけど。」


ヘルリユは首を横に振る。

「私は感動したのだよ。だから忘れないでおきたいんだ。」


この皇女はバカか?

「この情けない姿の何に感動するのさ。」


すると横からデスケント皇子が話に入ってくる。


「長道!お前は私には想像もできないことをした。魔王を倒すほどの力がありながら、その力に溺れず、矜持をもって鋼の意思で敗北すら受け入れる。それを尊敬しない王族は居ないぞ。私もお前の姿を忘れず、権力に溺れぬよう心がけよう。」


おーい

みんな正気に戻ってー。

喧嘩に負けてボロボロの僕から、深読みして過大評価しないでー。


ポーションで回復した僕は、よこっらしょと立ち上がると地面に転がる四人の姿見えた。

え、四人?なんで?


成金ギルマスのゴワス。

ならず者Aのデリス。

ならず者Bのハサヤ。

あれ?いつの間にか御者も手足を引きちぎられて、血まみれで倒れている。


誰がやったんだろう?

周りを見渡したら、デルリカのスコップが血に染まっていた。

あー。御者はこの喧嘩に関係ないから手を出しても良いという判断か。

デルリカは賢いなー。


僕はユカエルさんを手招きした。

「そういえば、これは商業ギルドのギルマスらしいです。治療してギルドに届けてもらえませんか?。」


「こいつが商業ギルドのギルマス?このヒキガエルがかい?まあ捨てておいて良いんじゃないかい。責任は冒険者ギルドのギルマスである、あたしが持つよ。長道坊っちゃんに危害を加えたんだ、商業ギルドごと滅ぼしてやっても良いかもしれないねえ。」


「いやユカエルさん、商業ギルドは滅ぼしちゃ駄目でしょ。無茶しないでね。ね。」


誰も治療してあげたくないみたなので、何故か僕がポーションで四人の手足を応急手当てをしてあげた。

なんかおかしくない?


そして門の兵士に預ける。

流血沙汰を起こしたので取り調べを受けそうになったけど…


「私は領主のヘルリユだ!そしてこちらにおわすは、デスケント第一皇子である!門前にての非道を見かねて我が意のもとに無礼討ちにした!むしろ騒ぎを納めなかった門兵の責任者には追って相応の沙汰があると心得よ!」


その鶴の一声で事なきを得た。

権力マジ便利。


こうして僕らは、いきなり嫌な思いをしつつグロガゾウの街に入る。

先が思いやられるスタートだったなあ。

それでもここが僕らの新しい拠点だ。


上手くやっていけるといいな。

お読みくださりありがとうございます。

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