060 魔王様はウザめんどい
あらすじ
グロガゾウの街に向かっていたら魔王『食楽王』マリーはやって来た。
彼女の話では、フレンツ公国の軍が一週間後にグロガゾウを攻めるらしい。
― 060 魔王様はウザめんどい ―
さて、ヘルリユ皇女も行ってしまったのでマリアお母様を探すかな。
周りを見渡す。
右を見る。
『食楽王』マリーさんがテヘペロしてる姿が目に入った。
左を見る。
『食楽王』マリーさんが、ダイブするように僕の目の前に移動して来てお猿みたいなポーズをする。
後ろを見る。
『食楽王』マリーさんが、ブンと移動して来て両方の鼻の穴に指を突っ込んでお茶目な表情をした。
首を動かして周りを見回すと、僕が首を向けた方向を追いかけるように、『食楽王』マリーさんが変なポーズでアピールしてきやがってウザイです。
なんか邪魔臭いから、目をつぶって対抗した。
そしたら、無理やり指で瞼を引っ張られて目をこじ開けられた。
そこまでして視界に入りたいか。
「なんなんですか!僕はこれからマリアお母様に引っ付くので忙しくなるから、はやくグロガゾウに行ってくださいよ。」
「あーそーびーまーしょー。」
ちっ、厄介な相手にロックオンされてしまったようだ。
困った、さてどうしよう。
僕は手を組んで天に祈った。
どうか遊び相手になりそうな天使さん来てください。
僕の身代わりに遊んでくれる天使さんいないですか?
『お供えを要求していいですか?』
返事来た!
どんなお供えが良いですか?
『お夕飯をご一緒したいです。』
安っ!
そんな事で良いならぜひお願いします。
『今いきますね。』
地面を突き破って、急に目の前に木が生えた。
「うわ!なんだ?」
その木が数秒で大きな株のように成長し、割れる。
割れた所から大天使の大豊姫さんが現れた。
「長道さんからディナーのお誘いとか感激です!」
すっごく立派なおっぱいを揺らしながら、大豊姫さんは僕の肩を正面からガッシリ掴んできた。
おっぱいで視界がふさがれる。
当然服を着ているけど、それでも凝視せざる得ないおっぱいだ。
大豊姫さんは大地の恵みの大天使。
作物にかかわること以外でお呼びするのは初めてかもしれない。
ゆるふわな長いブラウンの髪に、呑気そうな顔立ちの美女だ。
でも何故か僕を見ると、目をテンパらせて肩を掴んでくる。
「あの、実は頼みがあるのですが。」
すると大豊姫さんはグイグイ近寄ってくる。
当然僕はジリジリ後退せざるえない。
「なんですか?もしかして、おっぱいに興味が出ました?いいですよ、さあ好きなだけ揉んでください。」
「いや、そんな事は言ってないですけど。いや、おっぱいに興味がないと言えば嘘になりますが、今はそれよりも優先する話がありまして…。」
そんな僕の言葉を聞かずに、大豊姫さんは僕の手を取って自分の胸に当てた。
「今興味があるって言いましたね!言いましたよね!じゃあ触るしかないでしょ!」
ぽよん
無理やりではあるが、胸を触ってしまった。
うわあ、なんか揉みたくなる。
これが本能という奴か。
でもチラリと記憶がよみがえる。
手に乗る重み。
丸い感触。
人肌の温かさ。
そうちょうど、人の頭のような大きさだな…
「うがあああああああ!」
マリアお母様の紫色の頭の記憶がよみがえった。
怖い!どうしよう、マリアお母様!どこ?マリアお母様!
「え?え?どうしたんですか長道さん!」
困惑する大豊姫さんに返事をする余裕はなかった。
恐怖がよみがえる。
「マリアお母様!マリアお母様!マリアお母様ーーーー!」
状況が分からなくなり、僕は絶叫してしまった。
涙が出てくる。
胃液がせりあがってきた。
う、我慢できない。
僕の胃液スプラッシュ!
ゲロゲロゲロ
おもいっきり大豊姫さんに掛かってしまった。
それでも大豊姫さんは僕の肩を離さない。
「大丈夫ですか長道さん!どうしたんですか!大丈夫ですか!」
ゲロかけられたのに心配して僕の事を離さないなんて、大豊姫さんマジ天使。
そう思っていたら
「長道をいじめるな!!!」
『食楽王』マリーさんが大豊姫さんのわき腹に、鋭いフックを撃ちこんだ。
ズゴオオオ
ものすごい衝撃波を感じる一撃だった。
「ぐああああああ!」
大豊姫さんは『くの字』に曲がり血を吐いて吹っ飛んだ。
うわああ、大豊姫さん!
地面にバウンドする大豊姫さん。
それを満足げにマリーさんは眺めていた。
「長道をいじめる悪い奴はやっつけましたよー!私を褒めるのです。」
「褒めるわけないでしょ!何しているんですか!」
慌てて大豊姫さんに駆け寄ると、血を吐いて白目をむいて気絶していた。
僕のゲロまみれで。
ううう、すいません。
急いでお姫様抱っこで抱き上げると、まずは僕らの馬車に運び込む。
妹達もついてきたので、急いでお願いをする。
「デルリカ!回復魔法を頼む!康子は湯あみの準備を。里美は代わりの服の用意を頼む。」
パニックを起こすことなく妹達は、ぱっと動いてくれた。
デルリカはともかく、里美と康子の中身は超高齢者。多少の事では動じず頼りになる。
デルリカもすぐに回復魔法をしてくれた。
お陰で、大豊姫さんはスグに目を覚ます。
「うううう、私は何か悪いことしましたか?」
本当に申し訳ないと思う。
「すいませんでした。昨日、マリアお母様の首が落ちまして、それを抱きしめた記憶がよみがえってパニックになってしまいました。すいません。」
すると納得した表情をしてくれる。
「それでですか・・・。そのことは私も聞いていますよ。相当怖かったのですね、私も気が利かずすいませんでした。」
「いえ、まさかおっぱいが頭を連想させるとは、僕自身ですら知りませんでしたから。ほんとスイマセン。」
そこに康子がやってくる。
「お湯の用意が出来ました。大豊姫様、よろしければこちらでお体を清めてくださいませ。」
「まあ、気を使っていただいて感謝します。ではお言葉に甘えてお風呂をいただいちゃおうかな。」
大豊姫さんは軽い足取りでお風呂に向かった。
あの様子だとダメージはないようだな。安心した。
大豊姫さんを見送ると、視界の隅でマリーさんが、こちらに背を向けて膝を抱えている。
どんよりオーラがモワモワ発せられているぞ。
うわー、面倒くさそう。
でもフォローしなくちゃな。一応僕のために怒ってくれたんだし。
「あのマリーさん、さっきは怒鳴ってすいませんでした。」
じめじめした雰囲気で顔を半分こちらに向ける。
「どうせマリーは嫌われ者の魔王ですよーだ。長道は親切な魔王だから魔王同士で友達になれるかとおもったのになー。嫌われちゃったなー。悲しいなー、マリー悲しいなー。」
『悲しい』アピールがイラっときたけど我慢我慢。
「嫌ってはないですから。僕のために何かしてくれたことは嬉しかったです。でも大豊姫さんには許してもらってくださいね。」
チラチラこっちを見る。
「マリーと長道は友達ですかねー。ヘルリユには優しいのに私にやさしくないのは納得いかないないのですよー。友達なのかなー。」
頭にチョップしそうになった。
けど直前に右手の手刀を左手で受け止めて耐えた僕は偉いと思う。
「僕も友達だと思っていますよ。」
すると無邪気に微笑んで振り返ってきた。
「じゃ遊びましょう!何して遊びます?」
殴りたい、この笑顔。
誘導尋問された気分。
誘導尋問されているのがわかっていながら、あえて誘導されるのってここまでイラつくものなのか。
大きく深呼吸して心を落ち着ける。
落ち着け僕。
相手は魔王だが美人のバカ可愛いお姉さんだ。
大きな子供の子守をしてあげようという、広い心を持つんだ。
深呼吸の息を吐くとき、一緒に心のモヤモヤも吐き出すようにした。
そして無理やりにっこり微笑む。
今ならわかる、いつも微笑むキャバクラ嬢ってすごい。
「遊ぶ前に大豊姫さんに謝ってくださいね。許してもらったら遊びましょう。」
「はーい。」
元気よく手を挙げて返事をするマリーさん。
ここまで無邪気な笑顔を見たら、段々イラついているのがバカらしくなってきちゃったな。
まあ、しょうがないね、マリーさんだし。
力の抜けた笑いが自然と出てきてしまった。
「さ、謝りに行きましょう。」
マリーさんの手を取って立ち上がらせた。
するとマリーさんは両手を広げる。
「長道、友達なら私にもハグです!」
照れるけど…ここまできたら迷っていられない。
「いくぞ!」
「来いなのです!」
まるで相撲の立ち合いのようにドスンと音がするほど激しくぶつかってハグをした。
ついでにうっちゃり。
「せいや!」
「うわあ、卑怯ですよ長道!」
「これが下手投げじゃい!」
マリーさんは立ち上がり、嬉しそうにまた手を広げる。
「さあ、もう一度ハグです!次は負けませんよ!」
「僕の立ち合いを見せてやりますよ!」
ドズン!
ぶつかった瞬間、すっと抵抗がなくなる。
うわわ
そのまま僕は支えを失い倒れてしまった。
バカな!肩透かしだと!
地に手をついたまま見上げると、マリーさんのドヤ顔が目に入る。
この魔王、意外に技巧派だぞ。
「あははー、こんどは私の勝ちですねー!」
「どうやら僕を本気にさせてしまったようですね。僕の本当の力を見せてあげますよ。」
マリーさんはまた両手を広げて待ち構える。
「何度でも来るのです。私のハグの実力を見せてやるのです。」
一気に僕は突進し、四つに組んだ。
速攻で吊り上げられて投げられながら思う。
これって、もうハグじゃなくて相撲だよな…と。
まあマリーさんが機嫌よさそうだからいいか。
お読みくださりありがとうございます。




