057 母よ大地に還れ
あらすじ
王都からグロガゾウの街に向かう途中、敵が襲ってくることを察知した。
急いで戦力を展開したら、マリアお母様が小林幸子さん級の派手なラスボスだった。
― 057 母よ大地に還れ ―
軍の展開が終わると、空のかなたに豆粒みたいなものが見える。
その豆粒達が一瞬光る。
スマ子が叫ぶ。
「敵からの砲撃だよ!30秒くらいで弾が届く系っぽい。全員衝撃に備えないと死ぬっしょ!」
マリアお母様の人形ゴーレムが50体ほど飛び出す。
次の瞬間、爆発が起きる。
人形が盾になり砲弾を受けて粉々になった。
うわ、人形ゴーレムを使い捨てなんだ。
命無きメイド軍か、マリアお母様は意外にワイルドな戦い方なんだな。
僕は新兵器のミサイルを準備する。
思念コントロールでホーミングするから絶対当たる。
大海姫さんから設計図をもらって作ってあったけど、前回の魔王戦で使わなかったから手元に残っていた。
まさか役に立つとはね。
でも5発しかないけど。
それでも確実に当たるなら有り難い。
敵のゴレーム軍団がかなり近づいてきた。
そしてその姿を見て僕は戦慄する。
みんな、女子高生みたいな恰好だったから。
これって…誰の趣味?賢者大魔導士、ロリコンだろ。
よし、今から敵のインテリジェンス・アーツのゴーレムを女子高生型ゴーレムと呼ぶことにしよう。
でもあんな姿されるとやりにくいな。
それにあれ、生きているんだよね…
殺すことになるのかな…
不安になって挙動不審になってしまった。
すると僕の人工精霊・デーク南郷の声が<空間収納>から響く。
『インテリジェンス・アーツは死なないから安心しろ。体が壊れたら人工精霊に戻るだけだ。』
「それってつまり、殺すことになるわけじゃないんだね。」
『そうだ、服を脱がす程度の話だ。心配せずに破壊してしまえ。』
「じゃあ敵を壊した後、そのボディーを拾ってくれば高麗やデーク南郷にも体が作れるね。」
『好きにしろ。』
そっか。
じゃあ安心だ。
女子高生型ゴーレム隊は、かなり接近してきた。
再度砲撃をしてくる。
その砲撃を、バケツヘッド子の人形ゴーレム騎士が盾で防いだ。
防いだ人形ゴレーム騎士は後方に勢いよく吹っ飛ぶけど、頑丈みたいですぐに立ち上がって盾を構える。
さすが騎士型は頑丈って事か。
そろそろ頃合いかな。
地上から親衛隊の魔法攻撃の弾幕で、空の視界が悪くなってきたのでミサイルを撃つぞー!。
発射!
地上に設置した5発ミサイルで敵をロックオンし撃ちだす。
ミサイルは一旦上空に飛びあがる。
この距離では加速が足りないで直に狙わない。
まずは成層圏まで飛ばす。
そこから垂直に落下することで、ミサイルはマッハ10を超える速度で女子高生型のゴーレムをとらえた。
ドゴゴゴゴン
さすがにマッハを超える速度で直上から狙われては避けきれなかったようだ。
五発とも女子高生型ゴーレムに命中。
やった!見事轟沈させた!
それを合図にしたように、マリアお母様のメイド人形ゴーレムが一斉に襲い掛かる。
だけど、やはり基本性能が違うのか、マリアお母様のパペットみたいなメイド型ゴーレムは、かなりの数があっという間に撃ち落とされた。
でも圧倒的な数の差は大きい。
徐々に女子高生型のゴーレムに届く人形が出てくる。
メイド人形ゴーレムは、女子高生型ゴーレムに届くと抱き着いて・・・自爆した。
「きゃあああ!」
敵ゴーレムが悲鳴を上げて落下する。
僕はその凄まじい戦い方に、ただ目を見張った。
物量で押し切り、敵に届いたら自爆する。
これが『命無きメイド軍』の戦い方か。
命がないからこそできる圧倒的な戦い方。
戦術も技術もない。ただ物量で押しつぶす消耗戦。
戦い方としては稚拙なのかもしれない。
だが、これを食らったらと思うと背筋が寒くなる。
他の司令官も同じ顔だ。
命が無い軍、本当に恐ろしい。
左右から挟むように襲い掛かる『命無きメイド軍』により、敵の動きは単調にならざるを得ない。
そのうち孤立した動きをする敵ゴーレムが現れだすと、的確にバケツヘッド子とエプロン子とスマ子が襲い掛かり、3対1で仕留めていく。
マリアお母様の自爆メイドは一撃で敵の女子高生型ゴーレムを倒すほどの威力は無い様だが、破損して地面に落ちた女子高生型ゴーレムには、康子やデルリカが浮遊バイクで勇猛に襲い掛かっていく。
康子の槍は、黒竜王の爪で作った槍。
敵のゴーレムを軽々貫いて、核を破壊している。
デルリカのスコップは上位魔物の素材で作たものだが、十分に敵ゴーレムを引き裂いているようだ。
「うぎゃああああ!」
とどめを刺されるたびに、敵のゴーレムが悲鳴を上げた。
まるで人を殺しているようで嫌だな。
楽しそうなデルリカも怖い。
でも、
僕は2メートルはあるライフルを構えて、心を鬼にする。
殺すわけじゃない。人工精霊にとっては服を破られる程度の話だ。
いうなれば、美少女格ゲーで負けると服が破れるようなイメージだ。
だから怖くない。
ドゴン!
ドゴン!
地上に落ちたゴーレム達にとどめを刺した。
家族を危険にさらす敵は許さない。
最強兵器であるはずのインテリジェンス・アーツのゴーレム達は次々に沈んでいく。
これもすべてラスボス・マリアお母様のお陰だな。
数十分の戦闘の後、まわりはゴーレムの残骸であふれかえった。
敵のゴーレムをすべて倒せたのだ。
こちらの軍は何人くらい死んだだろうか?
できたらだれも死んでいないといいのだけれど。
ヘルリユ皇女が僕の所に来た。
「はあ、はあ。まさか勝てるとは思わなかった。さすが魔王を倒すだけあるな。しかしマリアリーゼ司教は恐ろしいな。1人軍隊と言われるのも納得だ。」
「うん、僕らは魔王を倒していい気になっていたけど間違いだと気づいたよ。マリアお母様が最強だね。」
遠くでデスケント第1皇子が興奮して喜んでいるのが見える。
敵国の最強兵器を50体も潰したんだ。これは大功績だね。
その後は当然妹達とゴーレムの残骸を回収。
この残骸を使って、高麗達のボディーも作れないかな。
夢が膨らみんぐ。
ルンルン気分で回収していると、スマ子がいきなり叫んだ。
「うわああ!ヤバイっしょ。<探査>によると、さらに3体こっちに来るよ。これはヤバイ!最強のパンツ型3姉妹がくるよ。みんな急いで逃げて!私たちが時間を稼ぐから!」
パンツ型3姉妹?
なんだそりゃ?
僕は急いでマリアお母様の乗る大型メイドゴーレムによじ登る。
「マリアお母様、何が起こっているのでしょうか?」
マリアお母様の表情が硬い。やばい事態なのだと直感で来た。
「パンツ型というのはフレンツ公国が所有するインテリジェンス・アーツのゴーレムです。ゴーレム最強と言われています。マリユカ聖教の頂点である、教皇様の頬にかすり傷を与えたこともある化け物です。」
教皇のにかすり傷を付けただけ化け物扱いなんだ…。
じゃあ教皇はどれほどの化け物なんだろう。
そう考えていたら、空に豆粒のような影が見えた。
その影は、あっというまに僕らの前までくると、地面に突き刺さった。
「ぐわああああああ!」
衝撃波が地上を襲い、視界の隅でデスケント第1皇子が吹っ飛んでる。
親衛隊も、ほとんど吹っ飛ばされているようだ。
着地だけでこの衝撃とか、どれだけ化け物なんだ。
砂煙が風魔法で強制的に排除されると、そこには3人の『普通の』女子高生みたいな姿があった。
先頭のポニーテールの少女が、内股でこぶしを握り締めながら叫ぶ。
「私はパンツ型の一番機、パンツ子です。パンツ!パンツです!皇子と皇女が捕虜になればこれ以上の戦いはしません。おとなしく降伏してください!」
パンツが本体なんだろうか?
パンツ子の後ろの少女二人も名乗りを上げる。
まずは気弱そうな茶色神の長いポニーテルの子。
「パンツ型二番機、リボンパン子です。あの、、、その、、、殺しちゃったらごめんなさい。」
つぎに姫カットのストレートロングの少女。気が強そうだ。
「私はパンツ型三番機、シルクレースだ。わが100本のロケットアームは100万の敵も殲滅させるぞ、覚悟してかかってこい。」
これが最強のゴーレム?
小柄な女子高生にしか見えないけど、スマ子がびびってるんだからヤバイんだろう。
隣にいるマリアお母様にも意見を聞こうと思って横を見たら。
ゴロリ
サッカーボールのようなものが僕の手元に落ちてきた。
思わずキャッチする。
重い。
ずしりとした生暖かいそれをキャッチしてよく見ると…
目があった。
マリアお母様の顔だった。
え?
あわててマリアお母様を見ると。
マリアお母様の体に首は無かった。
マリアお母様の首の位置で、壊れた盾の破片が大型メイドゴーレムの体に刺さっている。
え?え?え?
もう一度抱きしめた頭を見る。
何かの間違いかもしれない。
見ると、紫に変色しつつあるマリアお母様の顔がある。
もういちどマリアお母様の体を見る。
首を失った体が、ゆっくり前に倒れて行った。
あわてて僕はマリアお母様の服を掴んで、倒れて落ちるのを防ぐ。
頭を失ったマリアお母様の首から、ものすごい血が流れていた。
「うわあああああああああ!」
自分でも驚くほど大きな絶叫が出た。
お読みくださりありがとうございます・
ネタバレ:次回、誰も死んでません。




