054 記憶のかけら
あらすじ
デスシール騎馬帝国に100億円分の納品をしたけど、支払いが2週間後になりそうなので、城の中をフラフラ遊んで待つことにした。
― 054 記憶のかけら ―
お城の中をフラフラしている。
妹達が面白がって見て回るので、僕はそのお目付け役だ。
まあ、僕も王城という場所が珍しくて少しはしゃいでいるけど。
こうやって散歩をしているけど、僕も妹達も四分身中だ。
1人はマリアお母様とお勉強中。
1人はヘブニア妃の部屋でアニメ鑑賞会。
ヘブニア王妃も分身の腕輪をヘルリユ皇女からもらったようで、公務をしつつも、同時に分身でダラダラ遊ぶ事を覚えたようだ。
もう1人はダグラス団、ヒーリアさん、ユカエルさんたちと街に出て買い物をしている。
分身て本当に便利。
確かにこれは究極魔法だと思うよ。
人の限界を超えることができるもの。
そんなわけで、僕らはお城を巡回中。
里美が僕の手を引く。
「お兄ちゃん、お城の地下に向かっていこうよ。きっと秘密の牢屋とかあるよ。」
デルリカも目を輝かせる。
「それは面白そうですわ。地下に向かいましょう。」
地下とか怖いから嫌だな…
でも康子も一緒にいるし大丈夫か。
僕らは地下に向かう階段を探した。
見つかりませんように。
見つかりませんように。
祈るように妹達の後ろを歩く。
「見つけましたわ。ここに隠し通路がありましてよ。地下に繋がっておりますわ。」
デルリカ!
少しはお兄ちゃんの気持ちも察して!
しかし楽しそうなデルリカの顔を見ると何も言えない。
デルリカは僕の手を引っ張る。
「さあお兄ちゃん。中に入りましょう。」
「う、うん…」
恐る恐る中に入った。
暗い階段は、どこかジメジメしている。
一歩一歩降りるたびに少しずつ気温が下がる。
怖いよー。
帰りたい。
でも妹の手を振り払うという選択肢はない。
くそー、妹が可愛くさえなければ!可愛くさえなければ!!!
階段は思ったよりも深く、康子が明かりの魔法を発動して先頭を歩く。
地下に着くと、目の前に重々しい扉。
里美は楽しそうにその扉に手をかけた。
「アンデットがいっぱいいたりしてね」
ギイイイ
扉がゆっくり開く。
里美さん、なんでそういう恐ろしいことをさらりと言ってから扉を開けるの?
怖いでしょ。
恐る恐る中に入ると、そこは…
食料保存庫だった。
所狭しと干し肉や、穀物が並んでいる。
デルリカは心底がっかりした顔になる。
「ただの食料保存庫ですわね。もっと恐ろしい所に出てほしかったのですが。」
「僕は安心したよ。さあ帰ろう。」
振り返って、今来た道を帰ろうとしたら…
いきなり光る物体が奇声をあげて飛びかかってきた。
「ウキョオオオオ!」
あ、
血の気が引くように、視界が真っ暗になる。
バタン
****
僕の前に美しい女性が拗ねた顔で座っている。
長く緩やかなウェーブのかかったブロンドの女性。
光り輝くような美人だ。
その女性は、とても見覚えがあった。
『お兄ちゃんはワタクシにだけ優しくありませんわ。』
『そんなこと言ったって、さすがに一週間も寝ないで愚痴に付き合うのは無理ですよ。』
女性は拗ねた表情で頬を膨らませる。
『ワタクシは30才にもなって独身ですのよ。もう家族以外に寄りどころはありませんわ。ですからお兄ちゃんがワタクシの面倒を見ないといけないのです。』
『もう、面倒だな。求婚してくる貴族はたくさんいるじゃないですか。適当に選んで結婚してくださいよ。王子だって求婚して来てるんだからそれで良いじゃないですか。』
すると、子供が甘えるような顔で僕の袖をつかんだ。
『お兄ちゃんよりバカとは結婚いたしません。ワタクシはバカが嫌いなのです。』
『困った人ですね。デルリカさんくらい美人なら相手はいくらでもいるのに、デルリカさん本人が選り好みが激しいんじゃ絶望ですよ。もうちょっと妥協してくださいよ。デルリカさんが傍に居たら僕に女性が寄ってこれないじゃないですか。僕はエロエロパラダイスをつくるという夢があるんですから。』
デルリカといったか?
たしかに大人になったデルリカって感じはする。
すっごい美人だなあ。
大人デルリカは、僕に楽しそうに微笑んだ。
『お兄ちゃんにはマリーやビレーヌさんが居るじゃないですか。お兄ちゃんこそそこで妥協するべきですよ。』
『いや、マリーちゃんには忠誠心しかないし。ビレーヌさんは友人で、そういう風には見れないんですよ。里美ちゃんだったら、どストライクでアリなんだけど…。あの人は日本に帰っちゃったからなあ。人生はままならないモノです。』
『ふふふ、ではわたくしもお兄ちゃんも生涯独身ですわね。家族で支えあいましょう。デルリカはお兄ちゃんと老後を過ごしたいですにゃん。』
ぐは!
この美人が「にゃん」ってにゃんだよ!
萌え殺す気か!
『まあ、最悪のシナリオとして覚悟はしておきますよ。』
苦笑いをする僕。
****
「・・・ちゃん!お兄ちゃん!目をさまして、お兄ちゃん!」
う、頭が痛い。
目を開けると、薄暗い食糧庫の中。
里美とデルリカが必死な顔で僕にしがみついていた。
「あれ?僕はどうしたんだ?」
デルリカが僕の首に抱き着いてきた。
「よかったですわ!お兄ちゃんが目を覚まさないので、心配でわたくしが気を失いそうでしたわ。」
頭を軽くなでてあげる。
「大丈夫だよ、分身中なんだから、この体が死んだって心配ないでしょ。でも心配してくれてありがとう。」
康子がたくましい腕で僕を起こしてくれた。
キャ、この腕に抱かれると安心しちゃう。
起こされて視界が広くなると、目の前で正座している人が見えた。
そっと覗き込む。
見たことない少女だった。
「あの、なんで正座しているんですか?」
黒髪の少女は半泣きで顔を上げる。
その顔を見たとき、なぜかドキっとした。
「食糧庫に忍び込んでいたら長道が来たので、脅かそうと思っただけなのです。まさか魔王と戦うような長道が、この程度で気絶してしまうとは思わなかったのです。怒ってますかー?」
10歳くらいの少女の姿だが、あの夢を見た直後だったのですぐに理解できた。
「マリーさん?まさか約束を破って勝手にお城に入ってきたんですか?」
慌てて手を振って否定してくる。
「勝手に入ったんじゃないですよ。ちゃんと門から見学ですていって入ってきたんです。子供はタダで見学に入れるのです。」
思わずジト目になってしまった。
「そのために子供に化けたんですか?」
「化けたとは人聞きが悪いですね。若返ったのですよー。」
しばらく見下ろしてから、なんかどうでもよくなった。
「まあ、お城に迷惑をかけないでくださいね。」
歩き出そうとした。
そしたらマリーさんが正座したままあ僕を掴んだ。
「待つのです!気絶させたことに対して許してくれていないのです。」
「あ、許しますよ。別に怒ってないし。」
いうとマリーさんは立ち上がりドヤ顔で無邪気に微笑んだ。
「デルリカも里美もこれで良いですよね。長道が許したんですから文句ないですよねー。」
「まあお兄ちゃんが良いなら…」
「お兄ちゃんが許すのでしたら、許しますわ…」
まさかこの子達、僕を驚かせた『食楽王』マリーさんに対して喧嘩売ったのか?
度胸あるなー。
しかし可愛いぞ二人とも。
二人の頭をグリグリ撫でる。
久しぶりに発火直前まで撫でた。
「じゃあ地上に戻ろう。もどったら、スマ子におやつを作ってもらおう。マリーさんもおやつ食べたら帰るんですよ。」
「やったー、さすが長道です。さすがは私の心の友でーす。」
長道の物はマリーの物とか言い出しそうなセリフだな。
ま、いいか。マリーさんだし。
なんとなく楽しい気分で地上への階段を上がる。
しかし、
さっきの夢は何だったんだろう。
未来の映像?
いや、懐かしい感じがしたから、もしかしたら僕の過去の出来事かもしれない。
気絶したおかげで、少し思い出したのだろうか?
それに、そこに出てきた名前。
マリー
偶然だろうか?
マリーという名前は、この世界では非常に沢山居る名前だ。
マリア、マリーは、日本で言えばヒロシやタケシ並みにメジャー名前だし。
だから偶然だと思うけど…。
だけど気になる。
もしかして、前世の僕は『食楽王』と知り合いだったんじゃないだろうか?
夢の中の僕は『忠誠心しかない』と言っていた。
あ、そう考えると一つだけ納得がいくことがある。
確かに初めて『食楽王』マリーの顔を見たとき、懐かしい感じがした。
今の子供に化けたマリーの顔を見た時なんて、意味もなくドキっとしたし。
先日なんて、僕は何の疑問も持たずに『食楽王』の口に食べ物を突っ込んであげてたけど、あれだって自分的には不自然な行動だった気がする。
偶然だろうか?
でも!それはあえて『食楽王』マリーには聞かないぞ。
その謎を見つけることも含めて、この人生を楽しもうと思うから。
全て思いだしたら、今の人生が終わりそうで怖いし。
まだまだ、マリアお母様や妹達と一緒に居たいから、あえてこのことは聞かないで行こうと思った。
お読みくださりありがとうございます。




