053 納品
モノづくり回
― 053 納品 ―
次の日から、僕とダグラス団は納品道具の生産に入る。
なんせ、ヘブニア王妃が、僕から備品を購入するために金貨1000000枚(100億円)の予算を組んでしまったから、さっさと生産して納品してしまわないと落ち着かないよ。
あのあと、皇帝や第1皇子、さらにヘルリユと宰相を交えて購入品を相談した。
最初は金貨1000000枚の予算に難色をしめした宰相だったが、僕が作れるものを聞いて態度が一変する。
まず、ヘルリユの親衛隊に売りつけた自在杖と自在戦闘装甲服。
一度魔物狩りで実用されたらしいのだが、兵士からの評判は上々だったらしい。
僕としては自在杖は予備用の武器として作ったつもりだったのだけれど、魔導士とかは自在杖だけ持って出撃する人もいたほどだとか。
自在戦闘服にいたっては、女性用にスカートタイプの追加注文の嘆願がでていた。今回お城に呼ばれた理由も、実は元々親衛隊からの発注目的もあったようだ。
自在戦闘装甲服は、移動中は鎧を着ないで済み、直前に装甲を1人で追加できるのは本当に楽らしい。
戦闘で装甲が壊れても、壊れた部分だけ付け替えればよく、怪我をしても鎧と違って簡単に治療ができる。
なによりトイレに気軽に行けるのが好評だったそうだ。
そのあたりの切迫度は、男性よりも女性騎士から悲鳴に近い嘆願だったとか。
そんな事は意図していなかったけど、思ったよりも好評でよかった。
自在杖と自在戦闘服で一セットにして、金貨200枚という値段設定にした。
これを2000セット。
話の中で魔王を倒した様子を説明するために、移動用浮遊バイクを出したときは、宰相ですら一台欲しいと言い出した。
草原は馬型ゴーレムでも楽だが、砂漠や火山地帯は馬型ゴーレムでは厳しい。
これも2000セット注文受けた。
浮遊バイクは、国境付近にある砂漠での戦力を大幅に引き上げる事だろう。
そして思ったよりも熱く要望されたのが携帯念話機。
魔導士でなくても念話が使え、しかも文章も送れるし時計もついてる。
金貨20枚と高めに吹っ掛けたのに、10000個注文されてしまった。やべ、吹っ掛けたつもりで格安だったみたい。
ここまでで予算、600000金貨。
あと400000金貨分をどうするかで、皇帝は難しい顔をする。
ちなにみ皇帝はお髭が似合うイケメンで、40代くらいだろうか。気さくで国民からも評判のいい皇帝だ。
「長道よ、お前が作れる中で、ほかではあまり見ない珍しいものはないか?」
「皇帝陛下…無茶振りですね。まあ、まだ実験中で商品化されていないものでよければ。」
興味深そうに乗り出す。
「ほお、で、どのようなものがあるのだ?金額は考えないで良いから言ってみてくれ。」
「一番のお勧めは空間収納バッグです。馬車2台分の量が入る4tタイプなら金貨100枚程度でお売りします。お屋敷が入るくらいの100tタイプになりますと、オリハルコンクラスの良い材料を使いますので金貨5000枚くらいです。」
「なんと!<空間収納>をアイテム化したのか!それは行軍に革命が起きるぞ!それはもう売り出せるのか?」
「デザインがいまいちなんで商品化していませんが、デザインを気にしないのでしたら実用できます。それと、今回は試作練習もかねてのお値段ですが、次回からは倍以上のお値段になると思ってくださいね。」
皇帝を遮るように宰相が身を乗り出す。
宰相は長い黒髪で色白の男性で、糸目だ。糸目は腹黒って誰かが言ってたけど宰相ならば腹黒でないといけないのだろう。
「長道殿!その空間収納バッグを独占契約できないでしょうか?」
あー、まあそうなるよね。
でも僕も便利過ぎる道具は広まりすぎたら怖いから、特別売りまくる予定もなかったから丁度いいけど。
「糸目宰相、馬車1台分まで入る2tタイプは個人的に一般にも販売しようと思います。それ以上の容量が入るタイプでしたら独占契約してもいいですよ。ただし契約の更新は2年毎。2年の間に1000000金貨(100億円)以上僕から何かを購入をしてくれなかったら、契約延長はしません。それでいいなら受けますが。」
ニヤリとされた。
「悪くないですね。どのみち長道殿からはこれからも購入したいものが沢山あります。私の購入予定の金額とも釣り合いますし、ぜひその契約でお願いします。」
その場で契約書を書いた。
契約書のチェックは当然マリアお母様。たよりになります。
そして契約成立です。
4t空間収納バッグが2000個。
20t空間収納バッグ200個
100t空間収納バッグが4個。
良い商談が出来たねえ。
あとはモノを納品するにあたり、服や装甲のデザインなどを細かく打ち合わせをしてその日の終わった。
次の日
ダグラス団を呼んできて、用意してもらった城の作業部屋に行く。
ヘルリユ皇女も、妹達と一緒にフラフラ見学に来た。
「長道、遊びに来たぞ。作業を見せてもらってもいいか?」
「いーよー。でも、ここで見たことは秘密にしてね。すっごく衝撃的な展開をするから。」
「ほー、それは楽しみだ。覚悟しておくよ。」
今回はマリアお母様も来てくれた。
だから、作業を始める前に少し相談をする、マリアお母様の腕に抱き着きながら。
ヘルリユ皇女が呆れた顔で見ているが気にしない。だって僕はマザコンですから。
「マリアお母様、空間収納バッグのデザインがイマイチ納得がいかないんですけど、なんか良いアイディアないですか?」
「そうですね…。そういえば大司教の賢者大魔導士はメイドゴーレムに空間収納を付与するとき、エプロンに付与していました。収納能力は普段身に着けやすいものにあった方が良いという理由で。」
「そっか、収納したものは亜空間に入るから鞄の形でなくてもいいのか。なるほどなるほど…」
マリアお母様から離れて簡単な図を描く。
タスキだ。
斜めに肩から掛ける帯。
これなら鎧の上からでもつけられるし、鎧の下に隠すように身に着ける事もできる。
肩から掛けるのが嫌なら、腰にぎゅっと巻くこともできる。
簡単に外れないように、横に縛る紐もつけておけば安全性も高まる。
ヘルリユ皇女は横から見て感心してくれた。
「なるほど、これならば鎧を着て使用するのにも悪くないし、着用したまま戦闘に入ることも可能だ。だが、物を入れた状態でこの空間収納バッグが壊れたらどうなるんだ?あと敵に奪われたときに物資を奪われにくいようにできないか?」
「それは考えていなかったな、現場の意見は参考になるよ。ふむふむ。ではこれが壊れたら収納している亜空間が、大天使の空間収納に落ちる仕組みにしておこうか。神殿に取りにいかないといけないけど、これで消えて無くなることはなくなるから。紛失したり敵に奪われたときへの備えは、12文字くらいのパスワードを掛けられるようにしようか。5回間違えると次の日までパスワード入力できないようにする感じで。」
「長道は凄いな、私の思い付きの言葉を簡単に解決するとは。」
「じゃあパパっと大天使様にお願いするんでちょっと待っててね。」
僕は両手を組み黙とうをする。
『大天使・大空姫さん。空間収納についてご相談があるのですが良いでしょうか?』
『空間収納を作るようだったので、聞いていたでござるよ。バッグが壊れたときにバッグの中身を別の亜空間で保存するための術式を伝えるゆえ、それを組み込むでござる。バッグを直したら元に戻るようにしておくでござるよ。バッグが修復不能な時は一年後に教会に寄付してしまうでござる。それでよいでござるかな?』
『はい、それでお願いします。ありがとうございます。』
『まかされたでござる。』
目を開くと、僕をガン見しているヘルリユ王女と目が合う。
「あ、交渉成立したよ。バッグが壊れても、中身を一年間は保管してくれるって。保管された荷物はバッグを修理すれば元に戻るから心配ないってさ。もしもバッグが壊れた後、一年預けっぱなしにしていると教会に寄付されてしまうけどね。」
「なあ長道、そんな簡単に大天使様とお話ができるのか?」
「うん、なんかできる。マリアお母様もこんな感じだよ。」
「そうか、まあ長道やマリアリーゼ司教だからな。」
呆れたような顔をされた。ちょっと心外だ。
まあいいや。
大空姫さんから教わった術式を込めて試作品を作る。
空間収納バッグは、じつはかなり初期からN魔法の教科書に出ていたから作り方は知っていた。
ただ、仲間は全員が<空間収納>を使える状態だったので、本腰を入れて作っていなかったのだ。
錬金錬成で丈夫な魔物の毛を繊維にしてタスキを作る。
そこに大空姫さんから教えてもらった術式を一緒にパッケージ化した<空間収納>を付与して、修復魔法も付与した。これで少しくらい壊れても直るだろう。
そばで静かに控えていたビレーヌにそれを渡した。
「ビレーヌ、使ってみて。」
「はい、長道様。」
それを肩から掛けたビレーヌは、傍に会った素材を空間収納に放り込む。
ドンドン入れると、だんだん入る速度が遅くなる。
そして、しばらく入れたら押し込んでも入らなくなった。
「長道様、容量の限界のようです。」
「おっけー。じゃあ、どのくらい入ったかこっちに出してみて。」
ビレーヌはポイポイと空間収納バッグから入れたものを出す。
あっというまに小さな山になった。
うん、4tトラック一台分くらいだ。
「ビレーヌ、ありがとう。これで問題無いみたいだから生産しよう。あ、その試作品はあげるよ。」
「はい!ありがとうございます!」
設計図をマリアお母様に渡した。
「ではお母様は空間収納バッグ係りになってください。」
「分かりました。この程度のモノでしたら2000個程度、1時間もあればできる思います。」
「さすがお母様です!よろしくお願いします。」
そこから僕らは分身した。
妹達も手伝ってくれるようで、みんなも分身する。
いきなりの分身にヘルリユ皇女は目を見開く。
「お前たち!分身なんてこともできるのか!しかもこれだけ分身しても動きが鈍らないとは凄まじいな。」
驚くヘルリユ皇女にマリアお母様は腕輪を4つ渡す。
「この腕輪は、神殿のお古ですが分身ができるアイテムです。元々は二人に分身するだけものでしたが、長道が改造して4人まで増えることができるようになっているのですよ。わたくし達にはもういらないものですので、ヘルリユ皇女に差し上げます。ですが他言無用でお願いいたしますね。」
「これはまた凄いものを…。いつも貰ってばかりで何も返せず心苦しい限りです。」
「ふふふ、お金をたくさんいただきましたわ。これはオマケみたいなものです。気にせず使ってください。」
マリアお母様…、新しく作った<一意多重分身>アイテムの指輪をあげたから、腕輪がいらなくなったのですね。
さすがマリアお母様、無駄がないです。
横を見ると、妹達が自在戦闘服をデザインしていた。
「デルリカ、デザインをしてくれているの?」
布をもって、花が咲くような笑顔を見せてくれた。
「はいお兄ちゃん、幾つかデザインを作りましたので、これを自在杖と同じように一瞬で変形できるように組み込めませんか?」
「おお、天才現る!天使で天才とかデルリカは完璧だな!」
「そんな、照れてしまいますお兄ちゃん。」
照れるデルリカも可愛い。
ふふふ、撮影魔法で速攻撮影だ。
そんなふうに和気あいあいと作業していたら、一週間で完成した。
納品の為に、作業場に皇帝とヘブニア王妃と糸目宰相を呼ぶ。
その大量の物資に、流石に驚いていた。
「一週間程度じゃ材料の調達程度しかできていないかと思っていたら、もう完成してたのかい。驚いたねえ。」
僕は揉み手をしてヘブニア王妃に近づく。
「それでお支払いですが、いつごろになりますでしょうか?」
我に返ったヘブニア王妃は、いつもの男前な笑顔を見せた。
「まずは検品をさせてもらうよ。とはいえこの量だ。2週間ほど待ってほしい。それで構わないかい?」
「はい分かりました、2週間後ですね。」
あとはお城でダラダラ待てばいいらしい。
こうして、ちょっとしたお小遣い稼ぎが終了した。
お読みくださりありがとうございます。




