052 魔王来襲
あらすじ
魔王討伐の褒章をもらうために、ヘルシード騎馬帝国の王城に来た長道。
皇帝陛下をボコってしまったが、ヘブニア皇妃と仲良くなり、なんか話がうまくまとまった。
― 052 魔王来襲 ―
「ヘブニア妃様、失礼いたします。」
ノックと共に入ってきたのは第4皇女のヘルリユだった。
装備は僕があげた戦闘服を来ている。
一応ドレス風にしてあるので、城内でもギリギリ大丈夫っぽいな。
「あ、ヘルリユ皇女。お先にくつろがせてもらってるよ。」
軽く手をあげて挨拶したら、苦笑いされた。
「長道、相変わらずだな。城で一番恐れられているヘブニア妃様を前に寛いでいるなんて信じられないよ。」
「だったら僕よりも妹達の方が凄いよ。」
里美はヘブニア皇妃の膝の上に座り、デルリカは腕に抱き着くように<日本ライブラリー>の入ったタブレットでアニメを無理やり見せている。
康子はその二人をフォローしながら、ヘブニア妃と歓談していた。
「ははは…、君たち一家はさすが大物だと思うよ。私ですらヘブニア妃様の傍では緊張するのに。」
ヘブニア皇妃はガハハと笑ってヘルリユを手招きした。
「緊張されるとは寂しいねえ。これでも母のつもりなんだぞ。」
「し、失礼いたしました。」
あ、恐縮している。
そのヘルリユ皇女を愛おしそうに眺めているヘブニア皇妃の目は、確かに母の目だと思う。
「まあ、うちの皇子や皇女とちがって、この子たちは魔王と戦った子たちだからな。魔王のプレッシャーに比べれば私なんてただのおばちゃんさ。」
そこで、なぜかヘルリユ皇女はギョッとした。
ん?変な反応だな。
「どうしたのヘルリユ?なんかデルリカが僕のおやつを食べてしまったのを隠している時みたいな顔しているよ?」
その言葉に一瞬目をむいた後、力が抜けるように微笑む。
「長道はさすがだな。妹をよく見ているから私の顔からも感情が読めるのだな。…じつは困っているのだ。力を貸してほしい。」
その言葉に、その場にいた全員が注目した。
ヘブニア皇妃は膝から妹達を降ろすとヘルリユ皇女に歩み寄った。
「どうした?私がどうにかしてやろうか?」
しかし困った顔で目をそらす。
「いえ、ヘブニア妃様よりも長道の方が上手く対応できる問題ですので。」
「ほー、それは興味深いな。いったいどんな問題なんだ?」
数秒言いよどむ。
そして意を決したように口を開いた。
「じつは城外で魔王『食楽王』に絡まれまして。隙を見て逃げてきたのですが、城の中まで追って来られてしまいました。今は魔王討伐パーティーで料理を食べております。食楽王に気づいたヒーリアが必死にフォローしてくれていますが、あの自由な魔王をヒーリアに任せておくのはこれ以上難しいかもしれませんので…。」
流石にヘブニア皇妃はゴクリと唾をのむ。
「つまり…今城に魔王が居て、陛下たちがいる大広間でフラフラしているという訳か?これはどうしたらよいのだ。」
ヘブニア皇妃とヘルリユ皇女が、すがるような目で僕を見た。
はー、やっぱ僕しかいないのかな。
「美味しいものを食べ終われば飽きて帰ると思いますので、刺激しないのが一番です。『食楽王』はバカで呑気で話のしやすい魔王ですけど、魔王の中では屈指の化け物ですから。<時間魔法>を使うだけでも厄介な相手なのに、さらに分離魔法(一意多重存在)、エネルギー化操作魔法(純化魔法)も使いますので無敵だとおもいます。ですからいかに戦わないで言いくるめて追い出すかがポイントです。」
ヘルリユ皇女は顔が青ざめた。
「では『突猿王』や『紅竜王』は、『食楽王』とくらべるとどのくらいの存在だったのだろうか?」
「そうだね、『食楽王』を100とするなら、『突猿王』は1。『紅竜王』は3くらいかな。」
「そ、そんなにか…」
「戦った僕が言うんだから間違いないですね。『食楽王』だけは僕と妹達が全力て戦っても勝てないと思う。だからいかにギャグ路線で誤魔化すかが重要かな。」
ヘブニア皇妃が不思議そうに話に入ってくる。
「ギャグ路線で誤魔化すっていうのはどうやるんだい?」
「殺し合いという土俵にのらず、ギャグみたいな安全な土俵に相手を引き込むんです。どんな戦場でも誘い込まれれば負けるし、誘い込めれば勝てます。『食楽王』との戦いは、友達のような呑気な空間に誘いこむしか手がないと思います。」
感心した顔で僕の肩を叩く。
「ほんとに長道は賢いな。城でも十分にのし上がれそうだ。」
僕は何とも言えない微笑を返すことしかできなかった。
「いえ、妹達が居ればこそです。現に僕の話を半分聞いたところでデルリカが部屋を飛び出していきました。もうすぐ『食楽王』を連れてくると思います。友人のように普通に接してくださいね。基本的に馬鹿で気の良い魔王なんで、こっちから攻撃しなければ安全ですから。」
そこでヘブニア皇妃とヘルリユ皇女は、デルリカが居なくなっていることに気が付いた。
デルリカは、びっくりするほど僕の行動を見ている。
いうなれば、ストーカーレベルで僕を見てる。
だから、僕の行動に対する反応は早い。
ガチャリと入り口が開いた。
「お兄ちゃん、会場からマリーさんをお連れいたしましたわ。」
さすがデルリカ、できる妹だ。
デルリカの後ろには、食べ物を大量に抱えた『食楽王』マリーがいた。
「やっほー長道、また会いましたねー。向こうでダークエルフの勇者にも会いましたよ。ここはおいしいものが沢山あっていいところですねー。」
言いながら、ニコニコと抱えた食べ物をどさりとテーブルに置いた。
今日は鎧を着ていないので、長い黒髪の美人さんでしかない。
身長は170センチくらいだろうか。
「なんで城に居るんですか?迷惑だから帰って欲しいんですけど?」
「うわー、長道はいきなりひどいですねー。皇女を街で見つけたから声を掛けたらー、皇女が逃げたせいで、面白くて追いかけたらここに来ただけですよ。いうなれば私は被害者なのです。」
「理屈になってない…。それヘルリユが被害者で、マリーさんが加害者でしょ。」
『食楽王』マリーの隣に行くと、ドッサリ置かれた食べ物をその口に突っ込んだ。
これ食べ終われば帰るだろうから、早く食べさせないと。
「モグモグ、長道ー、そっちのお魚の料理も食べさせるのです!」
「この魚も抱えてきたんですか?服が臭くなるのもお構いなしですね。」
「大丈夫ですよ。汚くなっても<純化魔法>でぽぽーいです。」
「へー、純化魔法って便利なんですね」
会話もそこそこに食べ物を口に突っ込んでやる。
なんかペットに食事を与えているみたいで楽しくなってきた。
『食楽王』マリーも、食べさせてもらって楽しいらしく、上機嫌にモグモグ食べる。
ほんと、この姿だけ見ればバカ可愛いお姉さんでしかないんだよな。
料理はかなりの量があったのだが、口に突っ込むとドンドン食べるのですぐにすべて食べさせ終わる。
さすが魔王、どう見ても体に入る量ではなかった料理を食べきりやがった。
胃袋異次元だな。魔法で異次元作ってるだろ。
恐ろしい魔王だ。
食事が終わると、デルリカがお茶を持ってきて『食楽王』マリーに飲ませている。
アレだな。僕がえさを与えるのを見て、自分も与えたくなったんだな。
デルリカは子供だなー。
デルリカ可愛いなー。
よこで、ヘルリユが呆れた顔で僕を見ていた。
「うわー、こんな危機的状況なのにデルリカを可愛いと思う心が顔からダダもれしているぞ。シスコンもろ出しだぞ、長道。」
「シスコンとかマザコンという言葉は、僕にとっては勲章だね。子供に好かれたくない母親はいないし、可愛がられて嫌がる妹もいない。だから愛情ダダ漏れ上等さ!」
ヘブニア皇妃がそっとマリアお母さんの横に行く。
「長道は本当に可愛い奴だな。うちの息子と交換しないかい?」
「申し訳ありません、長道はわたくしにベタ甘えですのでそれは無理かと。」
「まったく、羨ましい事だよ。」
ママン、そういう事は本人に聞こえないように言ってください。
愛情ダダ漏れは恥ずかしくないけど、ベタ甘えなのは恥ずかしいので。
しかし、母親トークが聞こえてきていたことで異常に気づいた。
あれ?『食楽王』マリーが静かだぞ?帰ったのか?
見ると、部屋の隅っこにデルリカと里美とならんで静かに座っていた。
何しているんだろう?
覗き込んだら、デルリカに与えた<日本ライブラリー>タブレットで魔法少女のアニメを見ていた。
しかもそれ…、3話あたりでリーダーの魔法少女が『もう何も怖くない』とか叫んだあとに、首が引きちぎれて見ている人にトラウマ植え付けるアニメじゃん。
まあ静かにしているならいいか。
僕は3人を放っておいて、お母様の方に行く。
「『食楽王』はお楽しみのようですから、しばらく放置しましょう。ヘルリユも一緒に見てきたら?アレ結構面白いよ。」
じつはソワソワしていたヘルリユは「長道が勧めるなら見ようかな」といって、アニメ視聴組に加わった。
コッチの世界でアニメは、神殿に修行しに行った時以外は滅多に見られない。だから神殿以外では貴重なチャンスなのだ。
そして、なぜか殆どの女の子は魔法少女が大好きだ。
それを見てヘブニア皇妃も頬を緩める。
「懐かしいね、私も30年前に神殿で花嫁修業をしていた時にあれを見たよ。3話目でトラウマを植え付けられたけどな。」
「ですよねー。僕もあれみてから『もう何も怖いくない』ってことばが怖くて使えなくなりましたから。」
「がははは、私もだよ。アニメを見られる魔道具まで持ってるのか。うらやましいねえ。」
僕は、予備で作った試作タブレットを二人に渡した。
「携帯念話機の高級版です。これで僕のライブラリーからアニメや音楽をダウンロードできます。さしあげます。」
「おいおい、こんな高価なものをもらっていいのかい?」
「高価なんですか?僕が作ったものですから気にしないでください。材料費は金貨5枚程度ですから。」
康子とマリアお母様が、ヘブニア皇妃に使い方を説明し始めてくれた。
しばらくのどかな時間が流れる。
お茶を飲んでくつろいでいたら、急に『食楽王』が悲鳴を上げた。
「うわあああ!マミさあああああああん!」
今見ているのは三話目か。
分かりやすい人(魔王)だ。
しばらくして『食楽王』マリーは、へぐへぐ泣きながら僕の所に来た。
「あのアニメはエキセントリックです。私にもあのアニメが見れる魔道具をよこすのです!」
よし。頃合いだと思った。
「あげますけど、今日はこれで帰ってくださいね。あと人間の城に魔王が来ると大変なんで、もう勝手に入って来ないようにしてほしいのですがいいですか?」
するとヘルリユを指さした。
「もう勝手に入らないのは約束してもいいですが、だったらアレも私によこすのです。」
指さされてヘルリユが硬直する。
僕はそっと、その間に立ちふさがった。
「ヘルリユは渡せませんよ。」
すると軽々と僕をどけると、『食楽王』マリーはヘルリユの服をつまむ。
「皇女はいりませんよー。この服が欲しいのです。武器や鎧がくっついてて使いやすそうなのです。」
そういう事か。
僕は<空間収納>から試作タブレットと戦闘服と装甲一式。さらに自在杖を出した。
「これで良いですか。一応戦闘服は女性向けデザインになってるやつですのでスカートタイプです。」
「おお、これこれ。前に見たときから気になっていたのですよー。」
その場で『食楽王』は一瞬で戦闘服を着た。
え?一瞬?
袖を通すとか、そういう動作は一切なかった。
あ、そうか<純化魔法>ですり抜けて着たのか。
こんな技もあるのか。参考になるな。
服の上から、ポンポンと装甲を追加して楽しそうにこちらを見る。
「やっぱり手軽でいいですねー。今まで着ていた鎧は丁度飽きていたので助かりました。もっとごつごつした装甲も作ってください。魔王っぽい奴ー。」
「わかりました、じゃあマリーさん用に新しい装甲を作っておきますよ。高麗にでも届けさせますね。」
「わーい、鎧の新調は面倒なんで助かりましたー。そうだ、みんなにも早く見せてあげましょう。」
いうなり空間がゆがみ、『食楽王』マリーは消えていった。
流石魔王、消える時は転移魔法だ。
完全に消えたのを確認してヘルリユが膝から崩れ落ちる。
「よかった、何も起きずにお城から追い出せた。長道のお陰だな。」
そっと支えて立ち上がらせる。
「なんか食楽王とも因縁があるので、他人事じゃないしね。それにあの魔王はバカだけど技は勉強になるから、僕としても仲良くしたかったんだ。いい機会を与えてもらって僕の方こそ助かったよ。」
バシ!
ヘブニア皇妃が男前な笑顔で僕の背中をたたく。
うぐ、呼吸が止まった。
「はっはっは、長道はホントいい男だね。ヘルリユに貸しを作らないように気を使ってくれて感謝するよ。魔王も欲しがる魔道具の作り手から装備を買えるなんて、うちの帝国も運が向いてきたかもな。わはっはっはっは」
いやいや。
きっと運は貴女が呼び込んでいるんですよ。
ヘブニア皇妃は、こういう人に運が流れるのだと思わせる人物だもの。
お読みくださりありがとうございます。
余談。食楽王マリーは、美味しければなんでも食べると思われているけど、ブロッコリーとカリフラワーは苦手。大福は大嫌い。




