047 次の住処へ
あらすじ
魔王を倒し、魔物の森をまとめて浄化してしまった長道たち。
― 047 次の住処へ ―
実は僕には趣味があるのです。
狩りや魔物討伐をしている時、可能な限り<原始魔法>で、見つけた魔物の能力や能力値を奪い取ること。
奪い取っても使わないけど。つまりコレクションでしかない。
誰だって、能力を奪えるようになったら同じことをすると思うんだ。
奪えるなら、そりゃあ奪うでしょ!
でも奪っても使い道はない。
自分に追加するのは苦しいし。
なのでほんとコレクションでしかない。
時々仲良くなった人にあげるくらいかな。
沢山奪って、<空間収納>にしまってある。
そして暇なときに整理しながらニヤニヤするのである。
ただし『能力移植核』という新しい武器を手に入れた僕は、これから大きく羽ばたく可能性があるのだ。
ふふふ、夢が膨らみんぐ。
まあ、そんなこんなで奪いまくった中に、アンデットの能力も結構たくさんある。
っというか、今回の山にはたくさんアンデットがいたので、大量に奪った。
死んだ冒険者とかが、魔物の源の泉の力によってアンデット化やすかったのでしょう。
だからかな。
教会に帰ってきて、まだ安置されている司祭のご遺体と、その傍にたたずむ司祭の幽霊を見て、なにか閃いた。
電球がピカって光るイメージを幻視するくらい閃いた。
っていうか、山で見たアンデット見たときに、すでに連想はしていたんだけど。
霊がまだ消えていないという事は、アーデル司祭の幽霊はよほど無念だったのだろう。
「あの、アーデル司祭。もしも外道に落ちる覚悟があればアンデット化しますけど、どうします?」
すると、かすれた声で男性の声が耳に届く。
『報復の・・・チャンスを・・・我に・・・』
これは正しい事ではないかもしれない。
でも、そういう理屈を超えた感情が動く。
「誰も殺さないでください。それが条件です。」
『死より…苦しめる…』
僕は<空間収納>からアンデットの能力を出す。
それをアーデル司祭の幽体にたたきつけた。
えい!
「ぐああああああああ」
叫びをあげて黒い影は遺体に吸い込まれる。
そして遺体は動き出す。
「はあ、はあ。私は再び体を得たのか。なんとも驚いた。長道殿、感謝いたします。できたら残りの二人もアンデット化していただけませんか?」
「わかりました。」
えいさ!
てや!
二人の影にもアンデットの能力を叩きつける。
二人も悲鳴を上げて体にすいこまれた。
『ぴろぴろりーん。長道のネクロマンサーのレベルが10になった。
長道は<死者の軍団:1>を覚えた。』
唐突にレベルがあがったけど嬉しくないレベルアップだな。
無視しておこう。
マリアお母様は深々と一礼する。
「アーデル司祭、このたびはこのような事になってしまい、神殿を代表してお詫びもうしあげます。」
「マリアリーゼ司教様、頭をお上げください。これは私の不徳の致すところ。神殿に恨みはございません。」
頭を上げたマリアお母様は、悲しそうな目でアーデル司祭を見る。
「ありがとうございます。ですがアンデットになられてしまい、このあとはどうなさるおつもりでしょうか?」
「まずはこの街の恐怖となろうと思います。この街に悪意の結果を思い知らせて歩きたいのです。いずれ教会の方か冒険者に浄化されるでしょうが、それまでは領主がゆっくり眠れない街にしてやります。」
マリアお母様は再び礼をした。
「アーデル司祭にマリユカ様のご加護がございますように。」
マリアお母様は事の顛末を通信魔法で神殿に報告して、今後の動きの指示を受けるというので、僕らはギルドに向かう。
魔物山での獲物の分け前のために。
ギルドに行くと、相変わらずユカエルさんは男性冒険者に囲まれている。
もうギルドのアイドルって感じ。
ユカエルさん、見た目がエロいもんなー。
そして僕を見つけると、やっぱり男たちを押しのけて僕の所に走ってきた。
「長道坊っちゃん、いらっしゃい。何か用があったら何でも言っておくれよ。」
一瞬ユカエルさんに、ぶんぶん振られる犬の尻尾を幻視してしまった。
だから言いにくいな。
「あのね、早速僕らはこの地を離れることになるっぽい。」
ユカエルさんの表情が凍った。
「え、うそだよね。だって、一週間前に来たばっかりじゃないか。」
「すいません、この街から教会が撤退することになるっぽいです。領主の部下に司祭様が殺されて、神殿が怒ったみたい。向こう数十年は見捨てられることになるそうです。」
ギルド内が急に騒がしくなった。
本当なら大変な事だから。
ユカエルさんは腕を組んで少し考えて、ニコリとした。
「じゃあ次の地が決まったら教えておくれよ。私もそこに行くからさ。」
ギルドの男性職員が大慌てでユカエルさんにしがみつく。
「まてくださいギルドマスター!ギルドマスターに去られてはこのギルド支部はやっていけません。」
「大丈夫さ。魔王と魔物の源を消したんだ。暇になるくらいだろうさ。強い魔物も全滅させたし。これからはゴブリン程度しか敵がいなくなるよ。だから私は必要ないさ。」
「ですが・・・」
リリリリーン、リリリリーン
そこで僕の携帯念話機の着信音が鳴る。
相手を見ると、ヘルリユ皇女だった。
「あ、ヘルリユ皇女から念話だ。」
出ると、元気な声が響いてくる。
『長道!また魔王を倒したのか?ダグラス団とヒーリア達がやったことになているけど、これ長道の仕業であろう。』
「あ、うん。ついでに魔素の源も消しちゃった。デスシール的には損害でしょ。ごめんね。」
『おいおい、魔物の源は消すのは不可能なはずだが…、いや長道なら可能か。まあいいさ、長道だからな。しかしなんでそこまでしたんだ。お前ならそこの魔物が街の経済源だとわかってるだろうに。』
「ああ、領主がクズで、住民も寄ってたかって酷かったんだ。司祭様が領主の部下に殺されたし。それを知った住民たちは、教会や司祭の屋敷の財産や備品が奪ったんだよね。久しぶりにキレちまったよ。」
『な、なんだその蛮行は。そこまでひどい街だったのか。教会との関係を壊すとは!そのバカ領主はこちらで処罰してやる。』
「あ、それには及ばないよ。経済がガタガタになるから苦労するはず。しかも領主は四肢が腐る呪いを大海姫さんから受けたし、殺した司祭様たちのリッチがこれから街を徘徊するから、生きて責任を取らせる方が良いと思うんだ。」
『長道、、、お前は本当に怖い奴だな。わかった、フェリスの領主には死を許さずに無理やりにでも責任をもって街の為に働いてもらおう。ところで長道たちは次にどこに行くんだ?』
「わからない。いまマリアお母様が神殿と通信相談中。」
『もしも決まっていなかったら、グロガゾウの街に来ないか?魔物が強くて魔王もいる。私の支配地だ。』
「グロ画像?怖そうな町だな。」
『長道が怖がる必要があるような大物は居ないから大丈夫だ。』
「いや、魔王がいるんでしょ」
『おとなしい魔王だ、長道の敵じゃないさ。』
「褒められたのだろうか・・・。わかった、あとでマリアお母様に相談してみる。」
『そうしてくれ。じゃあ、グロガゾウで待っているぞ。』
ブチ。
念話がきれた。
横を見ると、デルリカが携帯念話機で話している。
「はいお母様、お兄ちゃんがヘルリユ皇女にグロガゾウに来ないか誘われておりましたわ。はい、はい、わかりました。そのようにお兄ちゃんに伝えておきますね。」
念話機を切って僕を見た。
「お兄ちゃん、次にお母様に行ってほしい候補地の中にグロガゾウがあったのでその方向で返事をするそうです。」
話早い!
なんだ、その優秀な秘書のような素早さは。
ユカエルさんは「よし、ギルドに異動届をだすかね。グロガゾウも人手不足のハズだからスグに申請も通るだろうさ。」といって奥の部屋に行ってしまった。
しかし、もう次の街に移動か。
はやく腰を落ち着けて暮らしたいよ。
お読みくださりありがとうございます。




