041 バカ皇女め
あらすじ
友達となったヘルリユ皇女のために、武器を量産する長道。
すると皇女は魔王への攻撃を決意する。
魔王がどれほど恐ろしい存在か知っている長道は皇女を止める。
友情故に。
― 041 バカ皇女め ―
次の日、目を覚ましてからポーションを大量精製した。
ポーションが沢山あれば、それだけでヘルリユ皇女軍は生き残れる可能性は高まる。
高麗に頼んで大量作成してもらう。
そうだ鎧も作ろう。
僕は座禅を組んでアイディアを固める。
たとえば、自在杖で作る繊維を利用して服にするのはどうだろう。
それだけでも防御力は高いはず。
そこに魔法を付与して。
そうだ、その上からアタッチメントで装甲をつければ素早く鎧に出来る。
その方向で1時間で設計図を作る。
そして試作品を作り、ビレーヌを呼んできて、また実験台になってもらう。
デザインは中国の服というか、ベトナムのアオザイをイメージした。
股間に布が垂れ下がるので、男のあそこも守りやすという事で。
ビレーヌに試着してもらう。
「まあ素敵ですわ。可愛らしいですし動きやすいです。」
つぎにその服にアタッチメントの装甲を付けた。
自在杖の繊維を使っているので、しっかり変形してアタッチメントの装甲を固定してくれる。
それもビレーヌに好評だった。
「鎧は着るのが面倒ですが、これでしたら服の状態から手軽に装甲が増えて楽です。しかも壊れた装甲の一部だけを手早く取り換えられるのも素晴らしいです。服に装甲が密着して居ますので重さもさほど感じません。」
よし時間が無いからもうこれで良いや。
「ありがとうビレーヌ。じゃあこれを量産しよう。デーク南郷、関係者とヘルリユ皇女分を量産してくれ。あと予備を20着ほど。」
『まかせろ。8分で作る。予備装甲こみでな。』
さすがデーク、クールだ。
よし、では皇女の所に行こう。
僕は本陣に向かって歩く。
自在杖服鎧を付けたビレーヌもついてくる。
うーん、こんどメイド服型もつくろう。
本陣までつくと何か騒がしい。
覗き込むと、皇女の腹心の騎士が僕を見つけてはしてきた。
「長道殿!ヘルリユ皇女殿下をお見掛けしませんでしたか?」
「見てませんが、探した方が良いですか?ヒーリアさんなら<広域探査>で探せますよ。」
「おお、それは朗報です。ぜひお願いいたします。」
腹心の騎士さん、顎髭がカッコいいな。
いやそれはどうでもいいか。
僕らは急いでヒーリアの所に行く。
僕を見つけると、向こうから駆け寄ってきてくれた。
「長道坊っちゃん、慌ててどうしたんだい?お、ビレーヌは良いもの着てるな。坊っちゃんの新作だろ、見せておくれよ。」
すると腹心騎士さん(名前知らない)が、凄い勢いでヒーリアさんに掴みかかる。
「急なお願いで申しわけないが、ヘルリユ皇女殿下を探してくだされ!本陣からヘリリユ皇女殿下の鎧と武器がなくなっているのだ。急いで頼みます。」
驚いて僕を見るヒーリアさんに僕は頷く。
「そういう事らしい。<広域探査>で探してもらえるかな。」
「わかりました。少々お待ちを。」
目を瞑り<広域探査>に集中してくれた。
数秒だが沈黙が流れた。
ヒーリアさんは目を開いて叫ぶ。
「皇女様は1人で魔王の方に向かっているよ!西に2キロほどの場所に居る。」
それで僕は気づいた。
ヘルリユ皇女は親衛隊を巻き込むことを気にしていた。
あのバカ皇女め、何考えているんだ!
腹心騎士のおじさんが走り出そうとしたので僕は止めた。
「まってください。皇女は僕が助けに行きます。軍で動けば魔物を刺激してかえって危ない。ぼくなら10分で追いつけます。ようは皇女を止めればいいんでしょ、なら軍より僕一人の方が良い。」
腹心騎士さんは驚いた顔で僕を見つめ、微笑んだ。
「では私が走っていこう。万が一という事もある。長道殿は子供なのに賢いな。」
いうなり凄い速度で走り出した。
鎧を着ているのに自転車並みに速い。
その背中を少し眺めて僕はビレーヌを振り返る。
「僕も行くから、妹達には心配ないと伝えてくれるかな。」
ビレーヌは僕を掴む。
「わたくしも行きます!」
だがそっと引き離した。
「すぐ戻るから、もしも妹達が僕を探したら、スグに帰って来ると伝えておいて。」
ビレーヌはさらに何か言おうとしたが僕は走り出した。
だってさ、ヘルリユ皇女は友達なんだもの。止めなくちゃ。
だれかが後ろからついてきた。
ま、振り返らなくてもわかるけどね。
<空間収納>から自在杖の繊維で作った服と、それ用の装甲をセットで一式だす。
足を止めて振り返った。
「ヒーリアさん、これを渡しておきます。着替えてから追いかけましょう。」
「長道坊っちゃん、これは?」
「新しい戦闘服。装甲部分は上位魔物の部位を使っているから高級品ですよ。ついてくるなら着替えてから!これ絶対!」
僕も急いで着替える。
ここで焦りすぎて死にたくないから。
鎧は不意打ちを防ぐ。
不意打ちさえ防げれば助かる可能性が高い。
だから先に着ることにした。
となりで事態を理解したヒーリアさんがパッパと服を脱いで着替え始める。
わお、エロい。
くそお、こんな事態でなければじっくり見るのに。
服を着替え終わったら、ヒーリアさんに装甲の付け方を説明した。
「こんな素早く鎧が脱着できるなんて画期的だよ。これは良いねえ。」
「試作品だけど無いよりマシでしょ。よし、行こう。」
また走り出す。
僕もヒーリアさんも魔法で走るのでめっちゃ速い。
すぐに腹心騎士に追いついた。
「一人で行くとか無茶ですよ。」
僕の姿を見て驚かれてしまった。
「なんと、この短時間で鎧を着用したのですか。驚きですね。」
「自慢の試作品です。皇女の分もありますから早く連れ帰って渡してあげましょう。」
「ほっほっほ、それは喜ばれるでしょうな。ヘルリユ皇女殿下は長道殿の武具がお気に入りのようですので。では早くお連れ帰りいたしましょう。」
腹心騎士はこの状況でも走りながら笑った。
歴戦の勇士とはこういう人のことを言いうんだろうな。カッコいいおじさまだ。
「長道坊っちゃん、このあたりで止まって。なんだか様子が変だよ。」
僕と腹心騎士さんは足を止めて、叫んだヒーリアさんを見る。
「どうしたの?」
ヒーリアさんは困惑していた。
「とにかく変なんだよ。皇女殿下は健在なんだけど。妙なことになっているようなんだ。」
ヒーリアさんを先頭に静かに身を隠して歩き出す。
少し歩くと、凄い光景が広がっていた。
なんと二つの魔物の軍勢が睨み合っていたので。
あわてて僕らは身を伏せる。
同時に僕らを結界が包んだ。
あれ?誰が結界を発動したんだ?
ヒーリアさんかな?
振り返ると、妹達だった。
胸を張るようにデルリカが自慢げに歩み寄ってきた。
「お兄ちゃん、ワタクシ達を置いていくとはひどいですわ。ですがワタクシ達が来たからにはご安心ください。」
みると、僕が作った戦闘服をすでに来ている。
「あれ、いつのまにその服を?」
半透明の高麗が現れた。
『前に気が利かないと長道様に叱られましたので、今回は気を効かせて試作服を妹様たちにお渡ししておきました。』
前に叱った?
そういえば僕が熱射病になった時にそんなことを言った気がする。
僕自身忘れていたのに…。
気にしていたんだね。
「そ、そうなんだ。ありがとう。」
するとホっとしたような顔をして高麗は消えていった。
すぐに頭の中にデーク南郷の声がした。
『あのとき高麗は号泣して悔いていたんだ。気が利かないのはわざとじゃない。』
号泣?マジでか。
すると<空間収納>の中から高麗の声も聞こえてくる。
『デークだって頭をガンガン壁に打ち付けて泣いておりました』
『いうな!』
「そうなんだ…。いろいろゴメン。」
そこまで反省しなくていいのに。忠義な人たちだな。
あ、今はそれどころではないや。
「デルリカ、この結界は?」
「はい、タケシ君の力をお借りいたしました。『石ころモブ結界』というものらしく、結界の外からは石ころ並みに気にされなくなる結界だそうです。」
モブ結界か。
タケシ君、さすが勇者。
「じゃあ近づこう。タケシ君、頼む。」
「わかりました。長道さんに着いていきますのでゆっくり移動してください。みなさんも長道さんの傍に。」
密集して僕らは進み始める。
近づくと圧巻だった。
背後に大量の魔物を従えた、10メートルくらいの猿。<鑑定探査>によると魔王だ。
称号:突猿王
パンクの若者みたいなトゲを纏っている。
その猿の50メートルほど前に、やはり大量の魔物を従えた、禍々しい鎧の人が立っている。
顔も兜ですべて隠れているので容姿は分からない。だが一目で強大な力を持つ存在だとわかる気配だった。
その禍々しい鎧の人も魔王。
称号: 食楽王
そのにらみ合う二人の魔王の中央に、正座して半泣きのヘルリユ皇女が居た。
何が起きた?
お読みいただきありがとうございます。
次回 魔王瞬殺




