040 ちょ、おま、無理するな
あらすじ
デスシール騎馬帝国のフィリアに向かい途中、軍により足止めを食らう長道たち。
かれらいわく、この先で魔王が縄張り争いしているらしい。
そしてイロイロあって長道は第4皇女ヘルリユと友達になる。
― 040 ちょ、おま、無理するな ―
ヘルリユ皇女は、僕が作った伸びる棒をメチャクチャ気に入ったらしく、いまある100本だけでももって兵士たちの元に向かった。
本当はデーク南郷と高麗が<空間ファクトリー>で頑張れば1000本量産程度余裕だし、資材も実は潤沢にある。
この2年、手当たり次第に<空間収納>に資源になりそうなものを放り込んでいたから、たぶん軍艦だって手持ちで10隻は作れると思う。
そうしないのは、それが凄すぎるから。
流石に不自然に思われたくないんだよね。
それに資源の補給もしておいて損はないので、ヘルリユ皇女に協力をお願いした。
さてでは、伸びる棒の量産機を作るか。
助手用の簡易ゴーレムを取り出す。
40センチくらいの箱に手足が付いた程度のゴーレムだけど、結構便利。
それを4台ほど駆使してみかん箱くらいの装置を4つ作った。
1つは材料を分別するための装置。
1つは、分別された資材からグラスファイバー用の繊維を作り出す装置。
1つは、その繊維をくみ上げる装置。
最後の1つは、魔法と基本設定を組み込む装置。
魔法の組み込みと基本設定は、半分僕の手作業だけど、これでずいぶん楽になったはず。
ココまで作るのに午前中を費やした。
ここで、ダグラス団を呼んでくる。
クロードさんが「錬金錬成士」で、なおかつ最近は「技師」も覚えたから何かと助けてもらうのだ。
ちなみに錬金錬成士であるクロードさんの戦い方は、銃と簡易ゴーレムによる無双。
盾職としてパーティーを守っている。ゴーレム使い。
そんなクロードさんは僕の傍に来ると目を輝かせる。
「長道坊っちゃん、また変なもの作ったんだね。なにこれ?」
「伸びたり変形したりする棒だよ。良くしなるから折れないし、刃こぼれしても変形しなおせば切れ味が戻るし、複数の武器にも変形できるんだよ。しかも基本形状はコンパクトだから持ち運びが苦にならない。」
「また。。。えげつないものを作るな。」
「親衛隊に1000本発注されたから、材料の錬金錬成を手伝ってほしんだ。大雑把にやってくれれば後はこの装置で量産できるから。」
クロードさんは面白がって量産装置を見る。
「錬金錬成士と魔法技術士っていうのは恐ろしい組み合わせだよな。数日で新しい武器を開発して、一日で1000個量産とか、どんだけ便利なんだよ。」
「クロードさんももうすぐ魔法技術士でしょ。そしたら新しい銃の開発と弾丸の量産が簡単にできるんじゃないかな。」
試作品の伸びる棒をいじりながら、クロードさんは良い笑顔を見せた。
「ありがたいねえ。ほんと長道坊っちゃんに魂売ってよかったよ。」
「こき使われる分の元手をとってくれたなら良かったです。あ、ダグラスさんたちは訓練所に居るヘルリユ皇女から資源をもらってきて。かなりの量だから頑張って!」
そしてダグラス団の皆と量産を始めた。
ダグラスさん達はヒーヒー言いながらも、重たい石の塊や鉄の塊を運んでくれた後、量産機での作成も手伝ってくれたので次の日の午後には500本完成できた。
うーん、流れ作業とはいえ疲れた。
一本の魔法設定に1分くらいかかったけど、途中から熟練して来て20秒くらいで設定できる自分に笑える。
でも完全に飽きた。
もう気持ちが限界。残りの量産は人工精霊のお二人に頼もう。
だって飽きちゃったんだもん
「高麗、デーク南郷。伸びる棒の残り500本の量産をお願い。」
『まかされた。10分だ。』
さすがうちの人工精霊は優秀だなあ。
惚れちゃいそう。
お昼過ぎに尋ねてきたヘルリユ皇女は絶句した。
「本当に1000本作ったのか。。。凄いな。」
僕らが作ったのは500本だけどね。
でも、<空間ファクトリー>や人工精霊については秘密にしているから余計な説明はしないでおこう。
過ぎた力は隠さないと、どんな危険に巻き込まれるか分からないから。
とはいえ、伸びる棒の横には、疲れ果てたダグラス団が伸びている。
あの人たちの疲れ果てた姿は、説得力を増してくれるから有り難いな。
あとでおやつを用意してあげよう。
この人たち、顔は怖いのに甘いものが大好きだから。
ヘルリユ皇女は満足げに1000本の伸びる棒を眺めた。
「しかし長道は無茶苦茶だな。うちのお城の練成士や技師たちでもここまでのことはできないよ。どう、うちのお城に来ない?」
「申し訳ないけど、神様に忠誠を誓ってるので。」
すると少し悲しそうな顔をされた。
「そうだったよね。今の言葉は忘れてくれ。」
「そんな悲しい顔しないでよ。それに僕がお城に仕えたらヘルリユ皇女と友達でいられないじゃん。僕がデスシールの人間じゃないから友達でいられるんだからさ。」
皇女は微笑んで頷く。
「そうだった。家臣は友達になれないから私は友達がいなかったんだものな。あぶないあぶない。」
そこに、おやつのプリンパフェを大量に持ったエプロン子がやってきた。
「まあまあ坊ちゃま、皇女様と遊んで妹様達を放っておいてよろしいのでございますか?バレたら縛り上げられて監禁されてしまうかもしれませんよ。それよりもこのパフェを小汚いおっさんたちにお与えになるのでしょ。さあさあ受け取ってくださいませ。なぜか余分もありますので皇女様もよろしければお召し上がりくださいませね。」
エプロン子はおやつのトレイを僕に渡すと、「ああ忙しい忙しい。」と言いながらぱたぱた去っていった。
ヘルリユ皇女呆然。
「なんか、凄いメイドだね。見事な仕事をするくせに、主人格に有無を言わせぬ働きぶり。まるで城の宰相のようだ。」
「我が家の宰相だよ。逆らうとご飯のおかずが減らされるから僕も頭ががらないんだ。」
「あははは、まさに宰相だ。」
笑いあうと全員にプリンパフェを配る。
全員に与えても4っつ余った。あとでヒーリアさんやビレーヌにも上げる分もつくってくれていたのかな。エプロン子らしい気の利かせ方だ。
あまったプリンパフェは<空間収納>に格納した。
あとで、妹達とでも食べよう。
さてさて、余ったプリンパフェの事を考えるのはココまで。
みんなにスプーンを渡して食べだすと、ダグラス団の皆は目を輝かせて表情を崩す。
「うめー。これだけでも長道坊っちゃんについてきた価値があるぜ。一流店にも負けないパフェが旅先で食べられるなんて夢いみたいだぜ。」
ダグラスさん、お髭にクリームがついて可愛いおっさんになってる。
ヘルリユ皇女も一口食べて目を丸くする。
「冷たい!アイスが入っているのか。しかもこんな場所でプリンをつくったの?こんな手の込んだ甘味がこのような場所で食べられるなんて、本当に夢みたいだ。あのメイド凄すぎるぞ。スカウトしたいな。」
「スカウトするのは自由だけど、絶対マリアお母様から離れないと思うよ。あの人の忠誠心は凄いから。」
「うむむ、レベルの高い人材に囲まれてマリアリーゼ司教が羨ましい。人材を手に入れるコツとかあるのかな?」
「自分がそれ以上に優秀だからじゃないかな。ここの誰より魔法が上手いし、錬成や技師の腕も僕の師匠だし、優しくてみんなに慕われているし、それでいてしっかりしていて完璧だし。」
ヘルリユ皇女が、パフェを食べる手を止めてジト目をしてきた。
「長道、君はマザコンだよね。」
「マザコンですよ。そしてスシコンです。家族を愛することに恥じた気持ちはありません。」
堂々と言い放ちサムズアップで決めてみた。
一瞬ぽかんとしたあと皇女は爆笑。
「あはははははは、さすが教会の子は言う事がちがうな。私たちがマザコンと言われたら必死に反論するところを、そこまで誇らしく言うとは。いやはや見識が広がったよ。ありがとう長道。」
「どういたしまして」
笑いながらパフェを食べ終わると、丁度良いタイミングでエプロン子が容器を回収に来た。
ほんと悪戯好きで口が悪いけど、最上級のメイドだと思う。
甘いものを食べて上機嫌になった皇女と共に、兵たちの所に行く。
伸びる棒は大量に有りすぎて運ぶのが大変だったので、ダグラスさん達の<空間収納>に入れてついてきてもらった。
大容量の<空間収納>を見せつけるだけでも、兵士はダグラスさん達を舐めなくなると思うから。
皇女の号令により、各小隊長が集まってきたので伸びる棒を配布する。
そのとき、ヘルリユ皇女の腹心的な騎士が棒を手に僕に聞いてきた。
「ところで長道殿、この武器はなんという名ですかな?」
「えっと、、、名前は考えてなかったので伸びる棒と呼んでました。」
さすがにその場の全員に白い目で見られた。
コホンと咳払いをしてヘルリユ皇女は棒を掲げる。
「では私が命名しよう。自在杖でどうであろうか。持ち運ぶときは小さいが、剣、槍、斧、弓、鞭となり、なおかつ魔力砲にもなる。まさに自由自在な武器だ。ゆえに自在杖だ。どうだろう長道?」
皆が僕の意注目する。
伸びる棒っていう呼び名が気にいってたんだけど、これ断れないな。
「良いですね。それでいきましょう。」
はあ、流される僕。
まあ気を取り直すか。武器の説明をしなくちゃ。
魔力を使って変形させるけど、変形後は魔力を消費しないこと。
一度魔力を流すと、魔力が抜けてから10分くらいはほかの人が、自在杖の変形に干渉できないという事。
プリセットとして変形パターンは5つこっちで勝手に設定したけど、申し出があれば形状設定の変形が可能な事。そのために金貨10枚で僕かダグラス団のクロードさんが請け負う事など。
戦士からは便利な武器であると大絶賛され、
魔導士からは、効率よく魔法を魔法砲として撃ちだせると、やはり大絶賛された。
そして兵士のみなさんはすでに使いこなしているようで、すぐにカスタムの依頼が来たのは驚いた。
戦士の人は、こだわりの形状にカスタマイズを依頼してくる人はもちろん、盾の形状を追加する人も多かったかも。
魔導士は、銃タイプや大きい盾に設定するのが流行ってた。盾銃みたいな変てこな形状にする人もいて、その工夫にこちらが感心してしまったほどだ。
そうだ、あしたは専用ケースを作って売ろうかな。
腰につけるタイプや、腕や足につけるタイプとか作ったら売れそうだ。
ふふふ、お金儲けの夢が膨らみんぐ。
兵士たちが嬉しそうに自在杖を訓練しているの眺めながら、ヘルリユ皇女は満足げにつぶやく。
「予想外に戦力補給で来たな。よし、魔王討伐は一週間後にしよう。」
耳に入ったその言葉にギョッとした。
僕は黒竜王という魔王と戦ったことがある。だからとっさに言ってしまった。
「ちょ、おま、無理するな。魔王は10000くらいの配下を連れていることもあるんだよ。こういっちゃなんだけど、この戦力じゃそもそも魔王まで届かない可能性だって高いよ。」
すると、何とも言えない悲しい表情を向けてきた。
「そうかもしれない。だけど私は行くしかないのだ。きっと陛下はここで第4皇女という半端な立場の私を殺したいのだろう。親衛隊をまきこんでしまい申し訳なく思うけど、これはやめられないんだよね。だから長道、最期に友達ができてうれしかった。奇跡が起きて生きて帰ってこれたら、またパフェを食べさせてくれ。」
「ヘルリユ皇女…、そんな…。」
「安心してほしい、金は出発までに払う。感謝しているよ。」
王族の王位継承は殺しあいだと聞いたことがある。
聞いたときは大変だなーと思っただけだけど、目の前でそれを見てしまうと胸が締め付けられる。
僕は、何か怒りにも似た感情が沸いてきた。
「バカなこと言わないで!金は戦いの後に受け取る。だから必ず帰ってくるんだ!僕を破産させたくなかったら必ず生きて!」
ヘルリユ皇女は僕の言葉に目を瞑って上を向いた。
そして顔をそらしながら僕の胸を軽く殴る。
「バカ野郎。未練を残させないでくれ。」
「悪いね、僕はそんなに優しくないんだ。」
そして小声で皇女はつぶやく。
「ありがとう友よ。」
泣いているのか?
僕は武士の情けで背を向ける。
そしたら静かにこっちを見ていた妹達と目があった。
あ…
デルリカが微笑んだ。
口元だけで声を出さずに言う。
『お兄ちゃん、いまのはカッコよかったですわ。』
恥ずかしいセリフを言った気がするけど、妹に好評なようだ。
よかった、笑われなくて。
お読みくださりありがとうございます。




