039 おっけーまいふれんど
あらすじ
デスシール騎馬帝国に来た。
そしたらオカマの宿屋に泊まる。
そのあと道を走っていたら、デスシールの第4皇女親衛隊に出くわす。
そこで第4皇女のヘルリユ皇女と友達になった。
― 039 おっけーまいふれんど ―
ヘルリユ皇女か。
紫色の髪の毛が印象的なポニーテール美少女さんだったな。
暇なのでテントの外で錬成して遊んでいたけど、休憩したらふとそんなことを思い出した。
隣でビレーヌが<威圧>スキルをガンガンかけて睨んでくるけど気にしない。
慣れって凄いと思う。
っていうか、美人のことを考えると的確に、<威圧>で睨んでくるんだけど、ビレーヌって<読心>スキルでも持っているんだろうか。
さてと、作業の続きをしようかな。
今作っているのは伸び縮みする棒。
試作品はただ伸びたり縮んだりしただけだったので、今設計しているのは尖ったり曲がったりできるように工夫している。
そうだ、魔力を込めると硬くなるように、魔物の神経を繊維にして混ぜよう。
となると、グラスファイバーみたいに繊維をより合わせて、その断面に大量の魔法陣が組み込めるようにしようかな。いやいや、金太郎あめみたいに魔法陣を入れようかな。
この試行錯誤が楽しいんだよね。
よし、試作2号を作ろう。
魔物の死体から素材を人工精霊の高麗に取り出してもらい、それを錬金で欲しい状態に素材化する。
それを錬成で丁寧に組み上げる。
これはなかなか高度な加工になったぞ。
しかし僕にかかれば…よしできた。
丁寧に編み込むように繊維を重ねて魔力で錬成していく。
作業を始めて2時間ほどで試作品2号ができた。
「ビレーヌ、実験をお願い。これと魔力接続して使ってみて。こんどは尖ったり、曲がったり、硬くなったりするから。」
「はい、では試しますね。」
自分で実験しないのは客観的な検証をするため。
ビレーヌに扱えることが、僕の中の基準になっているから。
「まずは伸ばして」
「はい、伸ばします。」
30センチくらいだった棒が、にゅーっと1.5メートルほどに伸びる。
よし、最低限の機能はOKか。
「次は尖らせて」
「はい、尖らせます。」
目を瞑って集中するビレーヌ。
すると先端がゆっくり尖り始めた。
20秒程で鉛筆のように尖る。
「よし、次は硬度をあげて、岩をついて。」
「はい岩を穿ちます!」
30秒ほど集中して棒の硬度を上げると、全力で岩を突く。
バーン!
突いた岩が砕けた。
棒の先端が少し潰れているけど、また尖らせれば良いだけだから問題ない。
「よし!ビレーヌ、試作品二号も成功だよ!」
「やりましたね、長道様。」
よしハグしておこう。
抱きしめると、ビレーヌが顔を真っ赤にして挙動不審になる。
この反応が面白いんだよね。
可愛いけど解放して、試作品二号を返してもらった。
「ふむふむ、次は反応速度の高速化と、個人認証の装置を付けるか。敵にも使われたら面倒だからね。」
「はい、それでしたら試作品3号はわたくし専用ですわね。」
「そうなるね、そしたらそのままビレーヌにあげるよ。物干し竿とかにするのに便利だよ。」
すると後ろからパチパチと拍手する音が聞こえた。
振り返ると、物陰からヘルリユ皇女が顔を出す。
「長道は面白いものを作るね。私にも試させてほしいけど良い?」
「いーよー。」
渡してあげると楽しそうに棒に魔力を流して伸び縮みさせだす。
「ほー、これは便利だね。しかも、しなって折れにくいのに硬い。魔力を流すとさらに硬さも増すのか。」
「意識を集中すれば尖ったり曲がったりもするよ。こうパン!って感じで集中力をぶつけてみて。」
ヘルリユ皇女は深呼吸して、フン!と魔力を通してイメージを送る。
すると、
パン!
弾けるように一瞬で棒の先端が尖った。
「おお、ヘルリユ皇女は才能あるよー。やっぱり武道の稽古もしている人は武器の扱いの勘が良いね。」
「そうか?しかしこれはなかなか優れものだよ。武器は硬くて変化しないように作るものだと思っていたから、武器自体を変形しやすくするという発想はなかったな。」
尖った棒で、近くの岩を突く。
ずきゅん。
岩が砕けた。
ただしビレーヌのように砕いたのではなく、刺さっている。
もちろん棒の先端はあまり潰れていなかった。
「ヘルリユ皇女は凄いな、思った以上に性能を引き出している。」
「そうか?私はこの武器が気に入ったよ。剣の形にはならないのか?」
「どうだろう?イメージで変形させてみてよ。使い慣れた剣を握っているようなイメージで。一回で変形しきらなくても何度も頑張れば出来るかも。」
「面白い、試してみよう。」
いうとヘルリユ皇女は素振りを始めた。
ブン
ブン
ブン
ヒュン
ヒュン
シュッ
ピュ!
ピュ!
段々空気を切る音が鋭くなる。
「ヘルリユ皇女、ちょっと形状を見せて。」
「うん、見てくれ、どうだろう?」
みると見事に剣の形になっていた。
「凄い!この短時間で僕が想定した以上の性能を引き出すなんて。感激だな。」
「わたしはこの武器に感激したよ。素晴らしいねこれは。これなら刃がつぶれても変形しなおせば殺傷力がすぐ回復する。理想的な武器ね。」
本当に目を輝かせて僕の棒を見てくれている。
気にいってもらえたみたいだな。
「じゃあそれあげるよ。試作品で処分するものだし。」
「いいの?うわあ、それは嬉しいな。」
「納得のいくものが作れたら、また改めて見せるね。その時は購入してもらえると嬉しいな。」
「もちろん買うよ。これの完成品であろ。絶対買う。」
「あははは、まいどー。」
そこに親衛隊の隊長が来た。
隊長は厳ついけど真面目そうなお髭のおじさんだ。
皇女の腹心騎士といったところかな。
「ヘルリユ皇女殿下、そろそろ会議の時間です。」
「もうそんな時間か。では会議に顔を出すか。長道、また遊びに来るよ。」
「いーよー。」
手を振って別れた。
さて試作三号の設計を考えるか。
そう思ってっ振り返るとビレーヌがしょんぼりしていた。
「どうしたのビレーヌ。僕のハグが嫌だった?」
すると手をぶんぶん振って顔を横に振る。
「違います!そんなことは有りえません!」
「じゃあなんで元気が消えているの?」
表情が暗くなる。
「わたくしは長道様の武器をヘルリユ皇女ほどうまく扱えませんでした。わたくしでは試験要員として力不足ですので…。」
僕はそっとビレーヌの手を握った。
「そんなこと気にしないで。武道の腕の差で武器の扱いに差が出るのは当然でしょ。テスト要員で一番大事なのは信頼できることだよ。僕の研究を見せても良いと思える人でないと意味がないんだ。だからビレーヌが良いの。だから小さいことは気にしないでね。」
ビレーヌは顔を少し絡めて微笑んだ。
「はい、長道様の事を裏切らず秘密を守ります。絶対絶対守ります。」
「ありがとう。」
信頼できれば良いという理屈で行くと、妹達やヒーリアさんでもいいことになるけど、それは言わなかった。
また落ち込んだら可哀想だからさ。
その日は試作四号まで作って終了した。
なんか試作四号で完成と言っていい気がしたなあ。
変形を素早く簡単に行うために、基本形状を5個記憶できるようにしたのは、我ながら天才的発想だと思う。
しかも追加オプションで、魔力砲を撃てるようになるパーツも作った。
万能すぎて我ながら感激だ。
夕飯のあとマリアお母様に見せて褒めてもらった。
うひひ、これが一番嬉しいかも。
なので夕飯後に<空間ファクトリー>に突っ込んで、100本ほど量産した。
予備の武器としては理想的だと思うから、親衛隊に売ろうっと。
一個金貨80枚で売るか。
で、追加オプションとして5個の武器の形状記憶カスタマイズさせる値段で金貨10枚もらおうっと。
さらに魔力砲を撃てるオプションを金貨30枚で追加してと。
よし、良い儲けになりそうだ。
その夜は次の日のもうけを楽しみにしながら、里美を抱き枕にして寝た。
荒野の夜は寒いから、里美の体温がいい感じに睡魔を誘うのだ。
次の日。
昼食を済ませて、あたらしいおもちゃを作ろうと錬成用のスペースに行くとヘルリユ皇女が来る。
「長道、昨日の武器はどのくらい完成した?」
「おはようヘルリユ皇女。昨日のは完成して100個量産したよ。フルセットで金貨120枚。」
「金貨120枚?うん、たしかに妥当かもね。」
僕は完成品を出した。
「ほら、変形の反応速度をあげてみた。それに一度魔力を通すと魔力が切れて10分くらいするまでは他の人の命令を受け付けなくしてあるよ。さらにお気に入りの形状を5個まで記憶させることができるんだ。そしてこの筒をセットすることで魔力銃にもなるの。良いでしょ。」
「おお!それで金貨120枚だと!格安じゃないか!」
「これ、明日までにもう100セット作れるよ。買う?100個買ったら、特別金貨10000枚でいいよ。」
「高いな!だけど…これは魔王戦前に訓練しておきたい。1000セットで金貨80000枚にならない?」
「ううう…。うん、おっけー。友達価格でそれでいいよ。明日中に1000個作っておくね。」
ヘルリユ皇女は目を丸くして驚いた。
「そんなに早くできるの?!」
「僕は錬金錬成士で魔法技工士だからね。明日の午前中までにこの武器の量産用道具を作って、そのあと一気に量産すれば明後日の朝には1000セットくらいどうにかなるよ。あ、素材が足りないかも。料金を負けるんだから足りない素材は提供してくれるよね。」
「おお、魔法技工士も持っているのか。錬金錬成士と魔法技工士のセットがここまで強力だとは驚いた。素材はできるだけ提供するから言ってほしい。」
僕はスグにメモを渡す。
そのメモを見た皇女は微笑んで頷いた。
「わかった。明日の朝までに用意できそうな素材だからまかせて。だけど鎧になってたり、本当の素材状態だったりだから、使用出来るように錬成するのに時間がかかるんじゃないかな。」
「それは大丈夫、護衛の中にも錬金錬成士がいるから。」
「なんか長道の仲間たちは凄いんだね。」
「僕の友達はみんなすごいよ。ヘルリユ皇女も含めてね。」
その言葉に彼女は目をぱちくりさせると、子供のように微笑んだ。
「私の友達も凄いのしかいないよ。長道だけだけど。」
その言葉に2人で大笑いした。
なんか友達になれた気がする。
お読みくださりありがとうございます。
次回、ダグラス団はプリンパフェがお好き。




