003 妹を越えた妹
― 003 妹を越えた妹 ―
馬車で揺られていると夜になったので、開けた場所で一泊することになった。
馬車の旅って、ずいぶん時間がかかるんだな。
付いた場所は道沿いの空き地。野営ポイントなのか、すでに6台ほどの馬車が野営の準備にはいっている。
幌のかかった馬車ばかりなので商人なのだろう。
僕は馬車が止まると同時に飛び降りる。お尻が痛かったから。
ふう、馬車ってこんなにお尻が痛いのか。日本の車の偉大さを実感するよ
里美の手を取り馬車から降ろしてあげると、デルリカも手を差し出してくる。
まあエスコートは必要か。
手を取り降ろしてあげると、めっちゃニコニコされてしまった。
頭おかしいけど可愛い子だ。
反対のドアから降りたマリアお母様は、御者に何か指示をしている。
野営の指示でも出しているのだろう。
僕は二人の妹の手を握り商人の馬車を覗きにいった。
とくに興味なかったけど、デルリカが見たがっていたからなんとなくね。
子供が3人手をつないで覗きに行ったので、みなさん優しく対応してれた。
いや、デルリカと里美が可愛いからだけかも。
だって商人のおっさん達はほとんど僕を見ないし。
まあ、いいけど。おっさに見られてもうれしく無いし。
適当にフラフラしていたら、弓を持った褐色のお姉さんと目があった。
戦士風の軽い防具をつけているから、護衛の人かもしれない。エルフ耳でスレンダーだ。
カッコいい系美人だね。
「坊や、両手に花で羨ましいねえ。」
いきなり僕に話しかけれて驚いたけど、そういう事もあるか。
「2人は妹達ですから両手に花でも微妙です。できたらお姉さんのような美人さんと手をつないで歩きたいです。」
「おやおや、小さいのにお世辞がうまいのね。でもいいの?妹達が射殺しそうな目で見ているよ。」
いわれて里美を見る。
ゴスッ
足を蹴られた。
今度はデルリカをみる。
手にスコップをもって、影のある顔で微笑んでいた。
うん、今僕は命の危機の中に居る。
あわてて自己フォロー開始。
「でもやっぱり妹最高です!もう毎日10回以上ハグしないと吐血して死んでしまうくらい妹が大好きなんですよ。あはははははは。」
デルリカは可愛く僕の腕に抱き着いてくる。
「お兄ちゃんはほかの女性と仲良くしてはダメです。じゃないとワタクシ、きっと殺」
「はいはいはい、デルちゃんそこまでにしょうか。目が怖いよ。」
全部言う前に無理やり割り込んだ。
だって、これ以上は怖かったから。
そして急いでスコップを取り上げ、ケースに仕舞う。
里美も腕に抱き着いてくる。
「お兄ちゃん、里美に恋人ができるまで彼女作るのは禁止だよ。」
じゃあ早く彼氏を作ってよ。
その様子を、さっきの弓の女性は目を細めて微笑んでみていた。
「兄妹で仲が良くていいじゃないか。私も坊やみたいな優しいお兄ちゃんが欲しかったね。」
そういうと僕ら三人の頭を撫でてから、別の馬車に向かって歩いて行ってしまった。
ああ、もっとお話ししたかったな。
でも、妹が怖いからここまでで良いや。
命あってのものだねだ。
うーん、よく考えたらフラフラしているから危険に会うのかな?
そうだ、もう帰ればいいじゃん。
僕は二人の手を引いて、自分たちの馬車に向かって歩いた。
馬車に着くと、マリアお母様が数人の商人のおっさんと揉めている。
何を話しているんだろう。
商人のおっさんは強欲そうな笑顔でマリアお母様に詰め寄る。
「ここを使うなら、うちの護衛の庇護下に入るんですから、少し料金を払ってもらわないと困ります。うちが雇った護衛のお陰で盗賊に狙われる心配がないのですから。」
「あなた方のお力は借りません。我らの事は無視していただければよいので、言いがかりは止めていただけまして。」
「ですが護衛がいるから襲ってこないというのもあるんですよ。ここは頭割りで払ってもらわないと。」
うざい商人だな。
子供が口を出すことではないとは思いつつ、僕は近寄って行った。
「お母様、タブンここは襲われます。馬には少し無理をさせてしまいますが先に出発しましょう。」
その言葉に、商人はギョッとした。
「おやおや、子供が大人の話に口を出すとは感心しませんな。」
イラッ
「商人の世界には『商品を持てばすべて商人。子供でも老人でも儲けることができれば商人である』という言葉があるそうですね。お金と命の話です。子どもの話かどうかはどうでもいいと思いますが。」
そこにさっきの弓の護衛女性がヒョコリと顔を出す。
「ガーレイさん、その子供の話を聞いてみていいですか?私の勘が危険だって言ってるんだけど。」
そう言いながらペンダントを差し出した。
真っ赤な宝石がついている。
「このペンダントは本来は青なんだ。だけど危険が近づくと赤っぽくみえるんだよ。なあ坊や、なんでココが襲われると思うんだい?」
<探査>スキルだ。
30人の塊がこっちに近づいてきてるのがわかる。
そこで<鑑定>をつかうとその人たちが『盗賊』だと出た。
だから悩む必要もない。
それを説明しようとしたら、ガーレイと言われた商人が話に割って入ってくる。
「子供のたわごとはどうでもいいです。それにその勘も信用できるのですか?この間もその勘で急遽移動したのに何もなかったじゃないですか。」
弓の女性は顔を険しくした。
「移動したから何も起きなかったんでしょ。」
「屁理屈ですね。とにかくここで野営します。そちらのご婦人はどっかに行くそうだから、気に入らないならそっちの護衛についても良いですよ。もっともここまでの料金も払わないですが。」
そういうとガーレイと言われた男はスタスタと立ち去った。
里美が舌打ちして石を蹴っている。
女の子が舌打ちしちゃいけませんよ。
言おうと思ったら、弓の女性が舌打ちした。
「チッ、だったら私はおさらばさせてもらうよ。勝手に死にな。」
叫んで護衛達の場所に合流しに行ってしまった。
なんだかな。
なんか僕が口を出したせいで勝手に話がまとまったっぽい。
けど、マリアお母様は怒ってないかな。
びくびくしながら見ると、眉を下げてこっちを見ていた。
「長道、あなたも<探査>が使えるのですか?」
「はい、<探査>も<鑑定>も使えます。今こっちに30人以上の盗賊が来ていますが、信じてもらえますか?」
「もちろんです。私は<高等探査>が使えますから。盗賊の姿も見えます。こちらは助けてあげるつもりでここに居ましたのに、ああいう言われ方をされてしまいますと、不愉快極まりないですわね。あの商人を見捨てたい気持ちになりました。」
そこでふと気になった。
「ウチの馬車には護衛はいませんが大丈夫なのですか?」
するとマリアお母様は優しく微笑んだ。
「はい、わたくしが居れば護衛などいりません。わたくしは人形遣いの魔法使いですので。」
「おお、なんか凄そう。」
美人にして強いのか。ママン素敵。
自信満々のマリアお母様に促されて僕らは馬車に乗り込む。
すぐに出発しようとすると、後ろから誰かが走ってくる。
さっきの弓使いの女性だ。
「おーい、ちょっと待ってくれ。あたしも便乗させてくおくれー。」
「あ、さっきのお姉さん。どうしたんですか?」
「いや、あそこはヤバイと思うから離れようと思ってさ。馬がないから乗せてくれないかな。護衛料はタダでいいからさ。」
四人乗りの馬車に女性1人と子供3人で乗っている。
もう一人女性が入るのは問題ない。
マリアお母様の横に弓使いの女性が乗り込み、妹2人は僕の隣に座った。
うん、全然余裕だ。
そして馬車が出発する。
弓使いの女性は、申し訳なさそうにきょろきょろしだす。
「ありがとうございます奥様。わたしはヒーリアと言います。見ての通りダークエルフだ。私は警戒のために馬車の上か馬の方に居た方が良いと思うのだけれど…。」
無理やり馬車の座席に座らされて落ち着かないようだ。
だがマリアお母様は気にしていなかった。
「ワタクシはマリアと言います。ブロンドの子がワタクシの娘でデルリカ。黒髪の二人は今日引き取った長道と里美です。」
その言葉にヒーリアさんは本当に驚いた顔をする。
「え、今日引き取ったばっかりなんですか?すごく仲が良いのでてっきり本当の兄妹かと思いました。」
「この長道が思ったよりも賢くて、デルリカに合わせてくれているんですよ。ですから早くもデルリカはお兄ちゃんが大好きなようです。」
言われてデルリカはニコニコ僕の腕を抱く。
ヒーリアさんはマジマジと僕らを見る。
僕は思わず目をそらしてしまった。
だって照れました。美人だと思ったらダークエルフだったのか。エルフ美人説は本当かもしれない。
話をそらせよう。
「お母様、御者さんと馬は大丈夫でしょうか?休みなしでは可哀想なので、適度に離れたら休ませてあげませんか?」
するとマリアお母様は微笑む。
「優しいのですね。ですが大丈夫ですよ。馬も御者もゴーレムですから。」
その言葉に一番驚いたのヒーリアさんだった。
「ええ!馬も御者も!そんな高度な命令魔法を積んだゴーレムは相当高価ではないのですか?」
「あのゴーレムは特に命令魔法は入っておりませんのよ。ワタクシが作ったゴーレムを、わたくしの人形遣い魔法で動かしておりますの。ですので壊れてもあまり惜しくありませんので酷使できます。」
「自分で作ったのですか!しかも命令魔法の入っていないゴーレムをあんなに自然に動かしているですって!凄すぎる。」
目を丸くしていた。
どうやら凄いことが起きているらしいけど、ちょと僕には凄さのレベルがわからない。
後で聞いてみよっと。
休憩なしで走り続けた馬車は、夜のうちに目的の村に着いた。
今日から僕らが住む場所
開拓村ヘルウェイ。
近くの街の人からは「地獄への片道切符」と呼ばれている、いわくつきの開拓村らしい。
村に入ると、馬車は真っすぐ家に向かう。
馬車の中の話し合いで、ヒーリアさんは次の目的地もないので、ここで狩りの手伝いをしてくれる事になった。
もっともヒーリアさんの一番の目的は、マリアお母様から魔法の技術を習いたいかららしいけど。
その話にマリアお母様も、肉を持ってきてくれるなら大歓迎だと快諾していた。
実際、開拓村では肉が足りないらしく狩人の参入はありがたいらしい。
家に着くなり、デルリカは元気よく僕の手を引っ張って馬車を降りる。
「お兄ちゃん、家には可愛い妹の康子がいますわ。小熊みたいですごくかわいい妹ですのよ。」
小熊?コロコロした子なのかな。
「康子は何歳なの?」
「8歳ですわ。とっても可愛らしいのですよ。ワタクシの可愛い康子。きっとお兄ちゃんも仲良くなれますわ。」
小熊みたいに可愛い子か。ぽっちゃり系なのかな?
デルリカに手を引かれて家の敷地前まで来た。
結構大きな家だな。
庭付きで、しっかりしたつくりの二階建ての家。
部屋もかなりの数がある。
メイドの2~3人はいても不思議ではない家だ。
庭を抜け、ドアを開ける。
デルリカは大声で叫んだ。
「やすこー、お兄ちゃんを見つけてきましたわ。やすこー。」
すると奥の部屋から、ヌーっと筋肉質の人が出てきた。
身長は170cmくらいはあるだろうか。
プロレスラーか、ボディービルダーのような立ち姿だ。
まさか、あの人が妹じゃないよな…
いやいや無いわー。百歩譲って女性だったとしても妹は無いわー。
デルリカは嬉しそうに目の前の筋肉さんに抱き着いた。
「康子ー。4日も会えなくて寂しかったのですよ。ワタクシの可愛い康子、あなたは寂しくありませんでしたか?」
「お姉さまに会えなくて康子も寂しく思っておりました。無事のお帰り、嬉しく思います。」
筋肉さんの声は思ったよりも女性の声だった。
女子プロレスラーみたいな感じではあるけど。
もう一度よく見る。
小熊のように可愛らしい?
いやいや、ヒグマのように大雄々しいの間違いでは?
しかし、その考えはすぐに間違いだと気づいた。
康子は僕を見つけると、チョコチョコとした歩幅で前に来ると、ハニカミながら腰をおとしつつ左足を軽さげる。
「はじめまして。今日から妹になります康子と申します。至らぬところもあるかと思いますが、これからよろしくお願いいたします。」
そして柔らかく微笑んだ。
ちょ、8歳の挨拶じゃないでしょ。どこのお貴族の教育を受けたのかと言いたくなる優雅さだ。
柔らかい口調に、可愛らしい動き。
そして、優しそうな笑顔。
なるほど。小熊のように可愛いか。
うん、僕の妹は可愛い。
女子プロレスラーみたいな顔だけど、可愛く見えてきた。
「初めまして。僕は長道。で、こっちの小さいのが里美。僕は11歳で里美は7歳ね。こちらこそよろしくお願いします。」
すると康子は片膝をついて里美に手を伸ばす。
「初めまして里美ちゃん。わたしは8歳だから里美ちゃんのお姉ちゃんだね。分からないことがあったら何でも聞いて。これからお姉ちゃんとして里美ちゃんのことを守るから、今日から遠慮なく甘えてね。」
イケメンだ!この妹イケメンだぞ!
「可愛いのにイケメンか!なにこのパーフェクト妹!」
叫ぶとデルリカが凄い勢いで僕の腕をガッシリ掴んだ。
「わかりますかお兄ちゃん!さすがお兄ちゃんです。康子の良さをわかってもらえて嬉しいですわ。」
康子はプロレスラーのような顔を赤くする。
「や、やめてください、私のようなゴリラ女に可愛いとか、恥ずかしいです。」
「「「可愛い」」」
ゴツイけど可愛いとか、属性詰め込みすぎだろ。
反則だよ。
そのあと、家の中を案内してもらい。
二階の部屋を割り当ててもらう。
その日は早々に寝た。
次の日、目を覚ますと思いっきり伸びをして身を起こす。
うーん、すごく気持ちよく眠れた。
でも朝というには遅い時間か。寝るのが遅かったからなあ。
太陽の感じを見ると、今はお昼ちょっと前くらいかな。
ラノベの定石だと、ここで妹がベッドにもぐりこんでいて『なんで一緒に寝ているんだよ』とか叫ぶところだけど、ベッドには僕1人。
やっぱり睡眠は1人でとらないとね。
手足が伸ばせて、充分寝返りが打てる環境じゃないと寝た気がしないもの。
ベッドの脇の窓を開ける。
すると庭では康子が花の手入れをしていた。
乙女だ。女子プロレスラーみたいな顔だけど乙女だ。
康子は窓から顔を出す僕を見つけた。
「お兄様、よく眠れましたか?」
お兄様と来たか。
うーん、悪くない。
「うん、すごく寝心地が良かったよ。久しぶりにぐっすり眠れた」
「それは良うございました。」
そこで後ろからデルリカの声がした。
「お兄ちゃん、おはようですわ!」
ドン!
凄い勢いで飛びつかれた。
いやほんと凄い勢いで。
どのくらい凄い勢いだったかというと…
僕が二階の窓から飛び出してしまったくらい。
え?
浮遊感を感じながら、僕は窓から部屋の外に転がり出ていた。
見るとあせって窓から手を出しているデルリカが見える。
そっか、僕の人生は早くもここで終わりか。
いや!あきらめてはいけない!
確か僕にはチートがあるはず!
自分のステータスを思い出す。
そうだ時間魔法が使える!
『時間魔法発動!』
空中で僕は止まった。
1秒
2秒
3秒
そして落下再開。
うおおおお!究極魔法意味ねえええ!
落ちてる最中に時間が止まっても意味ないっす。
僕のチート、ほんと役に立たないっす。
もうだめ!
目をつぶって身を固くする。
里美ーーー!お兄ちゃんが死んでもげんk
ぽふっ。
背中に感触があった。
あれ?衝撃が来ない?
不思議に思い目を開く。
すると康子と目があった。
「お兄様、大丈夫ですか?どこか痛くないですか?」
見ると僕は康子にお姫様抱っこされていた。
「もしかして、、、受け止めてくれたの?」
「はい、窓から飛び出したときは驚きました。お姉さまにはあとで沢山お説教しないといけませんね。」
魅力的な力強い笑顔を見せてくれた。
キャ、素敵。
ゆっくり降ろしてくれる康子を見ながら思った。
僕のチートより、康子の方が凄いと。
お読みくださりありがとうございます。
次回:明かされる秘密。