028 僕に配下ができた日
あらすじ
長道たちが魔王との戦いを報告するためにギルドに行った。
そこで奴隷から回付された日に出会った商業キャラバンの生き残りにである。
友達になったので携帯電話を作って与えた。これでメル友。
― 027 僕に配下ができた日 ―
剣聖が僕に絡んできたところで、ヒーリアさんが荒々しく剣聖を掴んで突き飛ばした。
「長道坊っちゃんに何をする気だ!」
うわあ、怒るヒーリアさんもカッコいいな。
ダークエルフで美人だから、立ち姿がカッコよすぎる。
剣聖は怒って剣を抜こうとする。
だが、それと同じくらいの速度でヒーリアさんが<空間収納>からライフルを出して引き金を引いた。
ドゴン!
ライフルは腰だめで引き金を引かれて、剣聖アキリスの抜きかけの剣をへし折る。
アキリスは刀身を失った剣を見て目を白黒させた。
「な、バカな。その魔法杖はなんだ!」
ヒーリアさんはライフルを剣聖アキリスの胸に向けた。
「高速な小石を撃ちだす道具だ。威力は今見たとおりだよ。次はお前の体で試してやろうか?」
ユカエルさんが割って入る。
「そこまでだよ。剣聖殿、冒険者は気が荒いものですが許してやってください。減らされては困りますので。」
引き攣ったままの剣聖は裏返った声で答えた。
「い、良いだろう。ギルド内で人を斬ると面倒なので今日は見逃してやる。運がよかったな。」
そのあと、速足で出て行った。
動揺しすぎだろ。
僕は呆れてしまった。
「あの程度の腕前で、どこからあの自信が出てくるんだろう?」
ヒーリアさんもライフルを<空間収納>に仕舞いながらうなずく。
「本当だよ、あの程度ならゴロゴロいるだろうに。なんで剣聖なんて呼ばれているのやら。」
するとユカエルさんは呆れた顔になる。
「剣聖殿を『あの程度』呼ばわりできるなんて、あんた達くらいだよ。あの人は純潔騎士団で行われる御前試合で優勝した人なんだから。凄くつよいんだよ。まあその話は今はいいわね。
この前の魔王に関する詳しい話を聞かせておくれ。そのために来たんだろ。ヒーリアは『アキリスの前では言えない』の一点張りでさ困ってたんだよ。」
僕は一気にオレンジジュースを飲み干すと頷く。
「いいですけど、人が来ない大きな場所はないですか?できたら50メートル以上の場所で。」
なんとなく言いたいことを理解してくれたようで、ユカエルさんの顔が緊張する。
「そうか、ならば中央集会場を借り切ろう。あそこならそのくらいの広さがあったはずだ。」
「人が来ないように警備もしてほしいんですが…。」
するとダグラスさん達が立ち上がる。
「だったらそれは俺たちにやらせてくれ。なんかあったらこの魔道具で知らせればいいんだしさ。」
たしかに丁度いいかもしれない。
「お願いします。でもタダ働きになりますよ?」
「この魔道具をもらったんだ、この程度の働きじゃ代金の利子にもならないさ。」
うん、いい相手を仲間にできたかもしれない。
中央集会所に向かう道すがら、ヒーリアさんにも携帯念話機を渡し、使い方を説明する。
<スマホ念話>の簡易版だと理解したのか、スグに使い方をマスターしてくれた。
中央集会所につくと、集会所の前に聖騎士がいた。
でもあれは実は全部ゴーレムなんだよね。
僕はゴーレムに近づき話しかける。
「えっとバケツヘッド子、聞こえる?いまから中央集会所で秘密会議をしたいから、使う手続きと警護をお願いできるかな。誰も入れたくないんだ。」
ダグラスさん達やユカエルさんには意味不明な行動にうつっただろうな。
でもすぐに、細身の聖騎士の鎧が走ってきた。
ちなみに聖騎士は十字の隙間が空いてるバケツみたいな兜を被っている。
通称バケツヘッド。
細身の鎧騎士は、僕の前に着くと兜を脱いだ。
白く長い髪の毛がヘルメットからこぼれる。
顔をすべて隠すバケツヘッドは、騎士の素顔を隠すので威圧感が凄い。
だからその下から美人が出て来たら、周りの人達が足を止めて見つめてしまうのもしょうがないね。
「長道坊っちゃん、大事な話をするという事でしたら私も同行しましょう。またバカな剣聖がきたら私が斬りすてるために。」
「よろしく、バケツヘッド子」
そうだ紹介しなきゃ。
「あ、この人はこの村の聖騎士団の団長でバケツヘッド子。今朝うちの庭で剣聖をボロ雑巾みたいにしたんだよ。バケツヘッド子がいれば剣聖なんて雑魚だから。」
だまってバケツヘッド子が礼をすると、みなも慌ててお辞儀し返す。
そして集会所の中に入った。
中央集会所はドームのような作りなので、なかは広い。タブン野球できると思う。
ダグラスさんが申し訳なさそうについてくる。
「警備をするって言ったのに、結局役に立たなくてすまなかったな。さすがに聖騎士が警戒してくれているなら邪魔なだけだからさ。」
「気にしないでください。それにこれから出すモノは一見の価値がありますよ。」
そして集会所の中央まで来たらバケツヘッド子を見た。
「これから始めるけど、警備は大丈夫?」
「はっ!ご安心を。」
そこで僕はいきなり魔王の死体を<空間収納>からだした。
ズシン
地響きがする。
「ユカエルさん、僕らが倒した魔王です。見聞してください。」
動揺してユカエルさんはフラフラ死体に近づく。
「ちょっと、これは驚いたよ…。本当に凄い竜だね。10メートルくらいの竜でも危険なのに、このクラスの地竜なんて軍で戦ってもかてるかどうか。」
僕もそう思う。
「とんでもないスキル持ちでした。死ぬ直前に<鑑定>をしたら、あまりの危険さに身がすくみましたよ。運よく不意打ちが極まって初撃で気絶させられたので勝てましたが。そうでなければこっちが即死でした。剣聖なんて頼って戦ったらこの村も瞬殺でしたね。配下が一万もいましたし。」
凄い勢いでこっちを振り帰ってきた。
ユカエルさん、お顔怖いですよ。
「配下一万だって?!それはどうしたんだい?」
僕は空いたスペースに1000体ほど魔物の死体を出す。
それを見てユカエルさんとダグラスさん達は呼吸も止まった。
だから僕は静かに説明する。
「もちろん全部倒しました。」
「…どうやってだい?」
うーん、どう説明しよう。
「それ以上は教会を通して聴いてください。ちょっと機密事項に係るので。あとこの魔王を誰が討伐したかも内緒でお願いします。」
ユカエルさんは難しい顔をする。
「それは難しいね。教会から正式に魔王討伐の話が来たんだ。事がことだけに上に報告しないわけにはいかないよ。」
そこでバケツヘッド子が口を開いた。
「それでしたら教会から魔王討伐終了の知らせを出しましょう。教会関係者が討ったとすればそれ以上追及もないでしょう。」
その言葉にユカエルさんは息をのむ。
「なるほど、それほどの話かい。わかった、三日ほど報告しないでおこう。その間に教会が辻褄を合わせてくれたら、それに合わせるよ。それでいいかい?」
「ご理解ご協力に感謝いたします。」
よし話は済んだ。
僕は魔王・槍の死体と魔物の死体を<空間収納>に仕舞いなおした。
「まったく、とんでもない事になったねえ。」
ユカエルさんは頭が痛そうだ。
無茶苦茶でスイマセン。
見るとダグラスさん達が青くなっている。
どうしたんだろう?
「ダグラスさん、どうしたんですか?」
「…え?いやあ、とんでもない場所に居合わせちまったと思ってさ。それにあれが襲って来たなら、剣聖程度じゃなにもできなかっただろうし。いろいろ考えたら怖くなっちまったよ。」
ヒーリアさんが笑いながらダグラスさんの肩をたたく。
「びびったでしょ。私はこれと戦ったんだぞ。これに比べたら剣聖なんてオモチャみたいなものさ。」
「なるほどな。これと戦ったあとなら剣聖をザコと呼ぶ気持ちもわかるよ。」
仲がよさそうだな。
ピコリーン
僕ちゃん閃いた。
「ところでダグラスさんたちはA級の冒険者とか目指しています?」
ダグラスさん達は不思議そうな顔をする。
「いや目指していないぞ。A級と言ったら化け物だからな。なれるなら魔王に魂を売ってもいいくらいさ。はっはっはっは。」
思わずニヤリとしてしまった。
「じゃあ売ってもらえますか?僕のお願いを聞いてくれる時以外は好きにしてくれていいので。」
全員がギョッとした顔になる。
特に康子は慌てた。
「お兄様、何をする気ですか?」
慌てる康子の頭を撫でて落ち着かせる。
「タブン僕らはまた何かやらかすと思う。その時に備えて僕らがやったことを肩代わりしてくれる人が必要だと思わない?」
「…もしかしてダグラスさん達にその役目を?」
頷いてみた。
「そう。僕のいう事を何でも聞かないといけないけど、お代はA級の能力。悪くない取引だと思うんだ。」
そう言ってダグラスさんを見た。
ダグラスさんは冷や汗をかいている。
「それは今決めないといけないのか?何をやらせる気だ?」
「今決めてほしいです。明日にも剣聖を倒してほしいので、今答えてもらえなければ別の人を探します。ちなみにやることは、僕らの手伝いですね。あと10分で決めてください。」
10分で締め切る必要もないけど、焦らせた方が判断力が鈍ってイエスと言うんじゃないかと思ったので追い詰めてみた。
するとダグラスさんの後ろにい居た男が一歩前にでる。
「一生従うのは怖い。何年でも良いから期限を設けてくれ。そしたらその話は受ける。」
期限か、たしかにそうだな。
「そうですね。じゃあ絶対に僕に従わないといけない時期は20年。その後はただの友達になりましょう。」
「乗った!俺はその話に乗る!」
その男は即答した。
普通ならアホらしい話だけど、あの魔王の死体を見た後では信じるしかないのだろう。
「お名前聞いても良いですか?」
「クロードだ。E級の俺がA級になれるなら無茶は当然だ。」
残りの人たちも前に出る。
「俺はホーガン、その話乗るぜ。20年は修業期間だと思えば悪くない。」
「俺も乗るぜ。俺の名はボルビン。A級になれれば冒険者ギルド史に名が残る。だったらぜひ頼む。」
ダグラスさんはギリギリまで悩んで重く口を開いた。
「俺も頼む…」
やった、良い手駒ゲットだぜ。
僕は早速ステータス書き換えを開始した。
ユカエルさんが見ているけど、まあ良いでしょう。
「我が人工精霊よ、彼らにお勧めの職種をつけてくれ。」
『イエス・マイロード』
メイド姿の高麗が空中に半透明で現れると、彼らの上を飛び回った。
そして僕の前に膝まづく。
『彼らに上位職業を与えました。「魔法剣豪」「錬金錬成師」「聖君主」「万能狩人」ほかに何か与えますか?』
「僕らと行動するのに遊び心が無いな。「楽団士」と「役人」を全員につけてくれ。」
『承知いたしました』
高麗は再度飛び回り、彼らに魔法をかけた。
今度はユカエルさんを見る。
「ユカエルさん、見てしまった以上選択肢は二つに一つです。仲間になって何かを得るか、今の記憶を消されて今まで通りの生活をするかです。」
諦めた顔をされてしまった。
「なるほど、ギルド側の協力者になれってことだね。まあ十分なものを手に入れたなら、やばいことをやらさせられてギルドを追放されても元は取れそうだ。良いよ、どうやら人生の分岐点に立っているようだ。だったら坊っちゃんに乗るよ。」
ギルドの協力者とか考えていなかったんだけど…。考えてもない事を深読みされてしまった。
良いものあげるから黙っててねって頼んだつもりだったのに。
まあいいや。
「ユカエルさんは何を望みますか?」
「あはは、まるで魔王みたいな物言いだね。そうだね若く美しくギルド職員として有能で、いざとなったらソコソコ強いっていうのになれるかい。ふふふ。」
目が『どうせ無理だろうけど、言うだけ言った』という投げやりさを感じた。
でも出来るんだな、僕には。
「良いですよ。じゃあ職業として「高等役人」と「アイドルダンサー」と「魔道拳法家」を与えましょう。元々美しい人みたいですので若さだけどうにかすればよさそうですね。<状態異常耐性:10>をつけると老いという病が改善されるので若返ります、たぶん(知らんけど)。それでいいですか?」
「あ、ああ、それで頼むよ。本当にできるのかい…驚いたね。」
高麗がステータスを作っている間に、僕は<原始魔法>で切り分けておいた<超防御力>をちぎり、さらにポイント足して<超防御力:10>にしてユカエルさんに叩きつけた。
この<超防御力>は魔王・槍から奪った
<自動回復:10><魔力回復:10>
<毒耐性:10><腐食耐性:10><温度耐性:10><魔法耐性:10><状態異常耐性:10>
をまとめたスキル。
前にステータスを色々まとめすぎて、今手元に単品の<状態異常耐性>がなかったからこれをあげた。
まあ沢山スキルが付く分には文句ないでしょう。
イメージとしては、槍を投げて突き刺す感じでユカエルさんに与える。
えい!
「ぐはああ・・・、今ので何かが追加されたのか?凄いものだね。」
胸をおさえて苦しそうにするユカエルさん。
康子に魔法を与えたときも苦しそうにしていたっけ。前説明ないしにやっちゃって悪いことしたな。
でもその価値はあると思うから許してね。
さらに人工精霊をその場で作成。
あんまり高機能でなくていいので、安い素材でパパッと作った。
それを5人に与えた。
ユカエルさんは人工精霊の価値を知っているので腰を抜かす。
「ちょっと、これもくれるの?凄いじゃない。あははは、わたしが人工精霊使いか。こりゃすごいや。」
でも喜ぶことではないんだよな。
「その人工精霊は監視役でもあります。もしも秘密をばらしたり僕を裏切りそうになったら能力をすべて没収するためにつけました。でもそれ以外なら普通に使ってください。」
笑いながらユカエルさんは頷いた。
「当然だね、これだけの事が出来るのを知ってしまったんだ。首輪が無いとむしろ怖いくらいさ。首輪をつけるってことは殺す気が無いって事だからね。安心したよ。」
いやいや殺すとか初めからないから。
この人の中で、僕はどれだけ怖い人になっているんだろうか。
まあいいや、
明日はパワーレベリングだ!
そうだ、
忘れてた、、、お屋敷の分身が、急いで高級素材を使用し人工精霊を作成して、デルリカに与えた。
約束通り、僕が最初に作った人工精霊ではないけど黙ってれば分かるまい。
よし、僕の記憶も改ざんせねば。
、、、最初に作った人工精霊をデルリカに上げました、、、、はい、記憶改ざん完了。
分身がいると同時進行でいろいろできてお得だなあ。
お読みくださりありがとうございます。




